研修の直後は手応えがあったのに、1か月後の現場では使われていない。運動学習学(体の動きを身につける仕組みを調べるスポーツ科学の分野)の研究では、練習中のできばえは、時間をおいた後に身についているかの目安にならないことが示されています。評価する時点と演習の組み方を変え、研修で学んだことを現場の仕事で使える形に組み直します。
対象となるお客さま
- 研修を企画・運営している人事・人材開発の担当者
- 研修にかけた費用の効果を説明したい経営者・事業責任者
- 部下を研修に送り出している現場の管理職
よくあるお悩み
- 研修直後のアンケートは高評価なのに、現場の行動が変わらない
- 研修の効果を、満足度以外の数字で説明できない
- 1日に詰め込んだ研修の中身を、1か月後には覚えていない
課題|研修は7割超の事業所で実施、それでも約8割が人材育成に問題を抱える
研修そのものは、多くの会社で行われています。厚生労働省の「令和6年度 能力開発基本調査」では、正社員または正社員以外に職場を離れた研修(OFF-JT)を実施した事業所は73.8%でした。
一方で、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所は79.9%にのぼります。問題の中身は「指導する人材が不足している」が59.5%で最も多く、「人材育成を行う時間がない」が47.4%で続きます。また、社員の職業能力を評価していない事業所は46.0%あり、研修のあとに身についたかを確かめる仕組みを持たない会社も少なくありません。
原因|研修の評価を、終わった直後のできばえで済ませている
受講者のやる気や講師の腕前だけが原因ではありません。研修の組み方と評価のしかたに、使われなくなる理由があります。
- 終わった直後に測っている:満足度アンケートや確認テストを研修の最後に行い、その結果で研修の良し悪しを決めています。
- 同じ種類の演習を続けている:1つの型をまとめて繰り返すと、その場ではできるようになります。しかし現場では、種類の違う仕事が混ざって届きます。
- 研修の事例でしか確かめていない:研修で使った事例が解けても、自分の担当業務で使えるかは確かめていません。
背景には時間の足りなさもあります。同じ調査で、人材育成の問題として「人材育成を行う時間がない」を挙げた事業所は47.4%でした。時間が限られるほど、研修を1回で終わらせ、終わった日の手応えで評価したくなります。
スポーツ知見|運動学習学では、練習中のできばえと後日の定着を分けて測る
運動学習学は、スポーツの技術などの体の動きを、人がどう身につけるかを調べる分野です。南カリフォルニア大学のKantakとWinsteinは、2012年に学術誌「Behavioural Brain Research」に載せたレビュー(複数の研究を整理した論文)で、練習の終わりのできばえより、時間をおいた後の「保持テスト」や条件を変えた「転移テスト」のほうが、身についたかの目安として適していると整理しました。難しい条件での練習は、練習中のできばえを下げても、長く覚えていることを助ける場合があるとしています。
練習の並べ方についても、研究がまとめられています。Czyżらが2024年に学術誌「Frontiers in Psychology」に発表したメタ分析(複数の研究の結果を統計的にまとめる方法)は34本の研究を分析しました。同じ動作をまとめて繰り返す「ブロック練習」より、種類を混ぜる「ランダム練習」のほうが、練習と違う課題に応用する力が高いという結果です。効果の大きさは中程度(標準化平均差0.55、成人に限ると0.54)でした。
一方で、すべての通説が確かめられているわけではありません。McKayらが61本の論文をまとめたメタ分析では、「毎回すぐに助言するより、助言の回数を減らしたほうが身につく」という説について、はっきりした効果は確認されませんでした。そのため本プログラムでは、助言の回数ではなく、測る時点と演習の並べ方を変えることを軸にしています。
ただし、試合と仕事は同じではありません。これらの研究の対象者は、主に実験室で比較的単純な動作を学んだ健康な人(子どもから高齢者まで)で、会社員が仕事の知識や判断を学ぶ場面を調べたものではありません。同じメタ分析でも、競技の現場で行われた研究に限ると効果は小さく(標準化平均差0.34)、統計的にはっきりしませんでした。そのため、研究の結果をそのまま当てはめるのではなく、御社の研修で直後と1か月後の両方を測り、効果を自社のデータで確かめながら進めます。
解決策|研修を4つの決まりで組み直す
研修の中身を作り直す前に、評価の時点と演習の並べ方を変えます。講師や教材を替えなくても始められます。
- 評価を後日にずらす:研修の2〜4週間後に、もう一度同じ力を確かめる。研修直後の結果は運営の改善に使い、定着の判断には使わない
- 演習を混ぜる:型ごとにまとめて解くのをやめ、種類の違う事例を混ぜて出す。最初の1回だけ型ごとに練習し、慣れたら混ぜる
- 担当業務で確かめる:後日の確認には研修の事例を使わず、受講者が実際に抱えている業務の課題を使う
- 使う業務を先に決める:研修の前に、上司と受講者で「研修のあとに使う業務」を1つ決めておく
いちばん効くのに後回しにされやすいのが、評価を後日にずらすことです。研修直後の満足度が高いと、研修はうまくいったと判断してしまいます。直後と後日の結果を並べて見るだけで、どの研修が現場で使われているかが分かるようになります。
進め方|1つの研修で直後と1か月後を比べてから広げる
最初からすべての研修を組み直すと、形だけのルールになりがちです。まず1つの研修で、直後と1か月後の結果にどれだけ差があるかを確かめてから広げます。
診断では、年間の研修を一緒に棚卸しし、研修ごとの評価の時点・方法と、演習の組み方を一覧にします。設計・試行では1つの研修に4つの決まりを当てはめ、研修直後と1か月後の確認課題で結果を比べます。定着ではほかの研修に広げ、毎月のレビューで研修設計のルールを見直します。
期間は目安です。診断だけ、1つの研修だけといった始め方もご提案します。Human Soarは様式の用意・聞き取り・確認課題づくりの支援・結果の集計・月次レビューの進行を担い、御社には対象の研修と受講者の決定、上司の協力、確認課題に使う業務の提供をお願いします。
成果物|支援が終わっても社内で回せる4つの仕組み
成果物は、ひな形を渡して終わりにはしません。どれも御社の実際の研修をもとに、一緒に作ります。
最初にできるのが「研修の棚卸し表」です。研修ごとの目的・対象者・評価の時点と方法・演習の組み方を一覧にしたもので、どの研修から組み直すかを経営と話し合うときにそのまま使えます。次に、棚卸しをもとに「研修設計ルール」を作ります。評価の時点、演習の混ぜ方、研修前に使う業務を決める手順をまとめ、人事の担当者が新しい研修を企画するときに迷わないようにします。
運用に入ったら、研修ごとに「後日確認シート」を使います。研修の2〜4週間後に、受講者の担当業務から作った課題の結果と、上司が見た行動の変化を記録するものです。この記録をもとにルールを見直す「月次レビューの運用手順」まで整えるので、支援が終わった後も社内だけで回し続けられます。
期待できる効果|経営・人事・現場の管理職の3つが変わる
経営にとっては、研修にかけた費用が現場の行動につながっているかを、満足度ではなく後日の結果で確かめられるようになります。人事の担当者は、続ける研修と組み直す研修を、根拠を持って選べます。現場の管理職は、部下が研修のあとに何を使うかが分かっているので、仕事を任せるときの声かけがしやすくなります。
見る数字は、研修直後の満足度ではなく「1か月後の確認課題の達成率」です。もう1つ「研修直後と1か月後の差」を見ると、その場では解けても現場で使われていない研修が分かります。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、研修の設計を見直す時期です。
Human Soarからのコメント
運動学習学の研究では、練習の終わりに上手にできていても、日をおいて確かめると結果が違うことがあると分かっています。だからこそ研究では、練習の日ではなく後日のテストで、身についたかを判断します。研修も同じで、終わった日の手応えだけでは、現場で使われるかは分かりません。研修を増やす前に、測る時点と演習の並べ方を変えることを、御社の研修に合わせて一緒に進めます。
よくあるご質問
Q. 研修直後の満足度アンケートはやめたほうがよいですか?
やめる必要はありません。満足度は、会場や時間配分など研修の運営を直すのに役立ちます。ただし、身についたかの判断には使わず、2〜4週間後の確認課題と分けて見ます。2つを並べると、満足度は高いのに使われていない研修が見つかります。
Q. 演習を混ぜると、受講者が混乱しませんか?
研修の途中では、型ごとにまとめて解くより正答が減ることがあります。これは想定どおりで、研修の途中の正答だけで良し悪しを決めないのはそのためです。最初の1回は型ごとに練習し、慣れてから混ぜる順番にして、受講者がついていけなくなるのを防ぎます。
Q. 外部の研修会社に任せている研修でも使えますか?
使えます。評価の時点と後日の確認課題は、研修会社ではなく御社の側で決められるためです。演習の並べ方は、研修会社と相談して変えられる範囲で調整します。まずは後日確認シートだけを足す形からでも始められます。
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