カスハラ義務化|企業を守るスタジアム式退場基準プラン

カスハラ義務化に備え企業を守るスタジアム式退場基準プランのアイキャッチ|現場の我慢を組織の基準に変える ソリューション

「その件は、これ以上お応えできません」。この一言を、現場の担当者が自分の判断で言える会社は、それほど多くありません。

カスハラ対策が機能するのは、現場の対応力を鍛えた会社ではなく、どの時点で対応を打ち切るかを組織が先に決めた会社です。

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策は、労働者を1人でも雇用するすべての事業主の義務になります。厚生労働省が定めた「カスハラ防止指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)は、方針の明確化から抑止のための措置まで、企業が講じなければならない10の措置を列挙しました。

ここで言う「顧客等」には取引の相手方も含まれます。つまり一般消費者に接しないBtoB企業も、業種・業態を問わず対象です。対応が不十分な場合は、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象になり得ます。

ところが、義務化の前提になる「線引き」が、多くの会社に存在しません。厚生労働省の令和5年度の調査では、従業員がカスハラを受けていることを勤務先が認識していた割合は59.2%に達します。にもかかわらず、行為者に出入り禁止等の対応をとった企業は8.0%にとどまりました。気づいてはいる。けれど、退場を告げていないのです。

スポーツは、この問題を先に解いています。スタジアムでは「何が禁止で、どうなったら退場か」が規程として事前に公表され、最終判断はリーグとクラブが引き受けます。現場のスタッフが個人の胸の内で線を引くことはありません。本プランは、その構造をそのまま企業の顧客対応に移します。

(参考)カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版) – 厚生労働省

  1. プランの概要|退場基準を先に決めてカスハラ義務化に備える
  2. 課題解決の流れ|現場が退場を告げられないまま立ち尽くす
    1. 現状の課題|謝り続けるしかない現場が生まれている
    2. 問題の要因|線引きが個人の胸の内にしかない
    3. 解決策|判断の置き場所をスタジアムの規程と同じ構造にする
  3. 規律が顧客サービスに変わる3つの理由|スタジアムが先に証明した
    1. 理由①|グレーゾーンを組織が引き受けると対応が速くなる
    2. 理由②|相当性の線は現場の一次情報からしか引けない
    3. 理由③|スポーツの規程運用と労務データの両方に触れている強み
  4. プランの具体的な内容|3つのレイヤーで退場基準を組み立てる
    1. レイヤー1|現場が迷わない一次対応の型を作る
    2. レイヤー2|本社が引き取る判断のラインを決める
    3. レイヤー3|取引先とBtoBの窓口まで基準を届かせる
  5. 導入ロードマップ|記録・基準化・対外公表の3フェーズ
    1. 0〜3ヶ月|記録の様式を決めて事案を溜める
    2. 3〜6ヶ月|自社の業態の言葉で基準を書き切る
    3. 6〜12ヶ月|対外公表して抑止に回す
  6. 対応データが経営を動かす仕組み|指標とリスクと撤退基準
    1. 続行・撤退の判断基準|6ヶ月で一次対応時間が縮まなければ運用を組み直す
    2. 経営会議に上げる形|件数ではなく時間と離職で語る
  7. 料金モデルという選択肢|判断事例を持ち寄るデータ提供型
    1. 買い切り型の限界|納品した時点がいちばん精度が低い
    2. 新モデルの仕組み|匿名化した判断事例を業種別のベンチマークにする
    3. 導入時の注意点|事例を出せる体制がない会社には向かない
  8. 対象となる組織・読者|現場任せをやめる判断が要る3タイプ
    1. 現場任せと基準ありの分かれ目|同じ事案で結末がどう変わるか
    2. タイプ①|店舗やコールセンターの判断を現場に預けている企業
    3. タイプ②|BtoBの取引窓口で無理な要求を飲んでいる企業
    4. タイプ③|相談窓口はあるのに退場を告げた実績がない企業
  9. 期待できる効果|時間・離職・顧客の質の3方向に出る
    1. 現場の時間が戻る|最大の損害は通常業務への悪影響だった
    2. 顧客接点部門の離職が止まる|配置転換や休職の前で止める
    3. 善良な顧客が守られる|規律は顧客サービスの一部になる
  10. まとめ|2026年10月からの義務化に間に合わせる要点

プランの概要|退場基準を先に決めてカスハラ義務化に備える

本プランは、義務化された10の措置のうち、多くの企業が最も手をつけられていない「判断基準」と「抑止のための措置」を先に固め、そこから相談体制と記録の型を逆算して組み立てます。

  • 対象|顧客または取引先との接点があり、対応を打ち切る基準を文書化していない企業
  • 課題|正当な申入れとカスハラの線引きが個人任せで、現場が対応を終われない
  • 導入期間|基準の策定まで約3ヶ月、対外公表を含めた運用の定着まで約12ヶ月

核になる設計はJリーグの試合運営管理規程と同じです。禁止行為を先に列挙し、段階的な措置を規程に書き、最終判断は組織が引き受ける。この3点を顧客対応に置き換えるだけで、現場が背負っているものが減ります。

表1|指針が求める4つの柱と、本プランが埋める範囲
指針が求める措置の柱 多くの企業の現状 本プランで作るもの
方針の明確化と周知・啓発 宣言文はあるが、該当・非該当の基準がない 自社の業態の言葉で書いた判断基準表
相談対応体制の整備 窓口はあるが、相談が上司止まりで終わる 本社が引き取る報告ラインと共有様式
事後の迅速かつ適切な対応 経緯が担当者個人のメモに残る 第三者が検証できる記録フォーマット
抑止のための措置 出入り禁止等を実施した企業は8.0% 段階的措置の規程と、対外公表の文面

出典:厚生労働省「カスハラ防止指針」が示す措置の区分をもとに、本プランの担当範囲を整理

課題解決の流れ|現場が退場を告げられないまま立ち尽くす

何が現場を止めているのかを、現状の課題・問題の要因・解決策の3段に分けて見ていきます。順に読むと、足りていないのが対応スキルではないことがはっきりします。

現状の課題|謝り続けるしかない現場が生まれている

  • 【打ち切れない】カスハラを受けた従業員の32.1%が「謝り続けた」と回答し、35.2%は結局「何もしなかった」
  • 【相談が上司で止まる】最も多い行動は「社内の上司に相談した」で38.2%。その先の本社へ上がる経路が細い
  • 【あきらめが定着する】何もしなかった理由の56.1%が「何をしても解決にならないと思ったから」

問題の要因|線引きが個人の胸の内にしかない

  • カスハラの判定基準を策定していない企業が3割以上あり、取組を進める上での課題として25.9%が「正当なクレームと区別する明確な判断基準を設けることが難しい」と答えている
  • 受けた行為の57.3%は「継続的な、執拗な言動」、50.2%は「威圧的な言動」。どちらも一撃で白黒がつかず、どこまでが相当かの判断を必ず挟む
  • 判断が個人に委ねられている限り、担当者は「自分が我慢すべきなのではないか」と考えてしまい、打ち切りを選べない

解決策|判断の置き場所をスタジアムの規程と同じ構造にする

  • 禁止行為を事前に列挙して文書化する。判断の対象を「相手が悪質か」ではなく「行為がどの類型に当たるか」に移す
  • 段階的な措置(警告→対応の打ち切り→出入り禁止→法的手続)を規程に書き、どの段階を誰が決めるかを固定する
  • 最終判断は会社が引き受けると明記する。経営の意思決定を速めるための合議設計と同じで、決める人を先に決めておくことが最短の対策になります

3段を並べると、現場に足りないのは強い態度ではなく、判断の所在だと分かります。誰が決めるかが空欄のままでは、どれだけ研修を重ねても現場は打ち切りを選べません。

Q. カスハラ対策の義務化に罰則はありますか?

罰則規定はありませんが、対応が不十分な場合は都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象になり得ます。加えて労働契約法第5条の安全配慮義務違反として、被害を受けた従業員から損害賠償を請求される可能性があります。

(参考)令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版) – 厚生労働省

規律が顧客サービスに変わる3つの理由|スタジアムが先に証明した

基準づくりは顧客を切り捨てる作業に見えます。ところがスポーツの現場では、まったく逆の結論が出ています。理由は3つあります。

理由①|グレーゾーンを組織が引き受けると対応が速くなる

正当な申入れと社会通念を超えた言動の重なりに判断が割れるグレー領域が生まれる図|カスハラ義務化の判断基準

厚生労働省の指針は、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではないと明記しています。判断は、要求内容の相当性と、手段・態様の相当性の両面から行います。この2つが重なる領域が、現場をいちばん長く止めます。

スタジアムでは、この重なりを個人に判断させません。試合運営管理規程は第4条で禁止行為を18号まで列挙したうえで、「規程に抵触するか否かはJリーグまたは各クラブが最終的に判断する」と書いています。現場の担当者は該当しそうな事実を拾って上げるだけでよく、有罪か無罪かを一人で決めずに済みます。

理由②|相当性の線は現場の一次情報からしか引けない

ここが価格競争に巻き込まれない理由です。厚生労働省のマニュアルは「業種や業態などの違いから、カスハラの判断基準は企業ごとに違いが出てくる可能性がある」として、自社で基準を明確にすることを求めています。居座りへの対応時間として示された30分・1時間という目安も、あくまで一例だと明記されています。

汎用のマニュアルを配って終わりにできない領域だということです。自社で何件の事案が起き、どの要求が業界の商慣習として通っているのかは、現場の記録からしか出てきません。だからこの基準は、外から買ってきて差し替えることができません。

理由③|スポーツの規程運用と労務データの両方に触れている強み

Jリーグが観客規律について掲げているスローガンは「試合実施時におけるセキュリティは、究極の観客サービスである」です。規律を顧客サービスの敵ではなく一部として扱う発想は、実際に何万人を相手に運用してきた組織からしか出てきません。

私たちはその運用を日常的に見る立場と、企業の離職や労務のデータを扱う立場の両方にいます。片方だけでは「毅然と対応する」が精神論で止まってしまいます。規程の書き方と、その運用が離職率にどう跳ね返るかを同時に見られることが、このプランを提供する側としての裏付けです。

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Q. 正当なクレームまでカスハラと決めつけてしまう心配はありませんか?

厚生労働省のマニュアルは、事実確認の手順を踏まずに正当な申入れを即座にカスハラと決めつけることを絶対に避けるよう明記しています。本プランでも、対象を限定した謝罪と事実確認を先に置き、判断は記録がそろった後に行う順序を固定します。

(参考)Jリーグの観戦マナー&ルール、試合運営管理規程について – 公益社団法人日本プロサッカーリーグ

プランの具体的な内容|3つのレイヤーで退場基準を組み立てる

基準は一枚の文書では動きません。現場・本社・対外の3レイヤーに分け、それぞれ別の様式として作ります。どのレイヤーが欠けても、残りが空回りします。

レイヤー1|現場が迷わない一次対応の型を作る

カスハラ一次対応の4ステップ|限定的な謝罪から事実の記録・基準への照合・打ち切りの宣告まで

最初に置くのは限定的な謝罪です。「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」のように対象を限って謝り、事実関係が固まる前に会社の非を認める発言はしません。一度認めてしまうと、後から撤回するのが難しくなります。

次に、録音・対応記録・時間の計測といった第三者が検証できる形で事実を残し、社内の基準表に照合します。ここまでを1枚のカードに落として現場に配るところまでが、レイヤー1の成果物です。

レイヤー2|本社が引き取る判断のラインを決める

どの条件で本社に上げるかを、あいまいな「悪質だと感じたら」ではなく事実で書きます。訴訟手続きが必要になる、警察や自治体との連携が必要になる、損害賠償を要求されている。こうした条件に一つでも当たれば、現場の判断を待たずに引き取ります。

居座りや長電話への対応時間も、ここで自社の業態に合わせて決め直します。厚生労働省が例として挙げる30分・1時間は小売や窓口業務を念頭に置いた数字で、訪問看護や建設現場では別の設計が必要になります。

レイヤー3|取引先とBtoBの窓口まで基準を届かせる

見落とされやすいのがここです。指針の「顧客等」には取引の相手方や契約交渉の担当者も含まれるため、一般消費者と接しない部門も対象になります。自社の従業員が取引先から被害を受けた場合は、取引先に事実確認への協力を求める手順まで決めておきます。

逆方向の線引きも同時に引きます。優越的な立場を使って取引先に無理な要求をすれば、独占禁止法の優越的地位の濫用に触れる可能性があります。値上げ交渉の進め方を整える作業と一体で設計すると、守りと攻めの基準が矛盾しません。

導入ロードマップ|記録・基準化・対外公表の3フェーズ

順番を逆にすると失敗します。基準を書く前に記録の様式を決めるのが先です。判断材料がない状態で線を引くと、実務と噛み合わない基準ができて、現場が使わなくなります。

0〜3ヶ月|記録の様式を決めて事案を溜める

対応日時・場所・担当者・要求内容・現場監督者の指示・対応結果を時系列で書く様式を1つ決め、全部門で同じ形に揃えます。この段階では基準を作りません。記録が上がってくる状態を作ることだけに集中します。

3〜6ヶ月|自社の業態の言葉で基準を書き切る

溜まった事案を、要求内容の相当性と手段・態様の相当性の2軸で並べ直し、該当・非該当・保留の3区分に振ります。このとき非該当に振った事例を必ず残します。どこまでが正当な申入れなのかを示す例が、現場の安心材料になります。

6〜12ヶ月|対外公表して抑止に回す

基準が固まったら、経営トップの署名を添えた方針を自社サイトや店頭に掲出します。抑止はここから効き始めます。スタジアムの規程が入場前に公開されているのと同じで、事前に見えている基準だけが相手の行動を変えます。

Q. 中小企業や個人事業主も対象になりますか?

対象です。労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象で、中小企業や個人事業主への経過措置はありません。規模の小さい企業では経営者自身が相談窓口を兼ね、外部機関との連携も経営者が行う形が、厚生労働省のマニュアルでも想定されています。

(参考)カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル – 東京都産業労働局

対応データが経営を動かす仕組み|指標とリスクと撤退基準

効果は「クレーム件数が減る」ではなく、一次対応にかかる時間と、顧客接点部門の離職に現れます。カスハラを受けた従業員の63.8%が怒りや不満・不安を、46.1%が仕事への意欲の減退を報告しており、繰り返し経験した層では9.2%が通院や服薬に至っています。ここが縮むと、採用と教育をやり直すコストが先に軽くなります。

ただし効いてくるのは基準を作った瞬間ではありません。記録が溜まり、現場が「この段階なら打ち切ってよい」と体で分かってからです。だから最初の3ヶ月で数字が動かないことを失敗と読んではいけません。

表2|フェーズ別に見る指標(数値は自社のベースライン把握が前提の仮説)
時期 見る指標 読み方
0〜3ヶ月 記録された事案の件数 増えるのが正常。報告が上がる状態になったかを見る
3〜6ヶ月 1件あたりの一次対応時間 打ち切り基準が働くと短くなる
6〜12ヶ月 顧客接点部門の自己都合離職率 自社の前年同期との差で見る

出典:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」の被害実態をもとに、指標を仮説として設計

3つのうち実務にいちばん効くのは2段目の「一次対応時間」です。件数は報告が活発になるほど増えるため、減ったことを成果として読むと逆の判断をしてしまいます。時間は、基準が現場で実際に働いたかどうかを素直に映します。

表3|想定されるリスクと対応策
想定されるリスク 対応策
基準が厳しすぎて正当な申入れを弾く 判断は謝罪と事実確認の後に置き、四半期ごとに非該当事例を棚卸しして基準を緩める側にも動かす
現場が基準を「守らないと怒られる手順」と受け取る 従業員を守るための基準であることを、経営トップの署名つきで先に発信する
対外公表がブランド面の反発を招く 顧客向けの文面は禁止行為の列挙から始めず、善良な顧客を大切にするための措置として書く

参考:厚生労働省のマニュアルが挙げる「望ましい取組」および障害者差別解消法上の留意点を踏まえて整理

実際に起きやすいのは1段目です。基準を作った直後の現場は、判定に自信がないぶん安全側に振れます。障害を理由とする合理的配慮の求めや、業法でサービス提供が義務づけられている場面を弾かないよう、非該当の例を基準表に同じ分量で載せておくことが歯止めになります。

続行・撤退の判断基準|6ヶ月で一次対応時間が縮まなければ運用を組み直す

判断日をあらかじめ決めます。運用開始から6ヶ月の時点で、1件あたりの一次対応時間が前期と比べて改善していない場合は、基準そのものではなく運用(記録の様式・本社へ上げる条件・周知の方法)を組み直します。12ヶ月の時点でも動かなければ、レイヤー2の権限設計に戻ります。撤退基準を先に決めておく考え方と同じで、基準を決める前に見直しの条件を書いておくほど、判断が感情から離れます。

経営会議に上げる形|件数ではなく時間と離職で語る

報告のフォーマットも先に決めます。件数だけを出すと「増えた=悪化」と読まれ、報告が上がらない状態に逆戻りします。一次対応時間の中央値と、顧客接点部門の離職率、そして本社に上がった件数の3点セットにすると、対策が働いているかどうかが1枚で伝わります。

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料金モデルという選択肢|判断事例を持ち寄るデータ提供型

このテーマは、マニュアルを一度納品して終わる形と最も相性が悪い領域です。判断の難しさは知識の量ではなく、参照できる事例の量で決まるからです。だから本プランは、成果物の売り切りではなくデータ提供型で設計します。

買い切り型の限界|納品した時点がいちばん精度が低い

基準表は作った瞬間が最も粗い状態です。自社の事案が10件しかない段階で書いた線引きは、50件を見た後の線引きとは違います。ところが買い切り型では、いちばん粗い時点の文書に対価が払われ、精度が上がっていく過程には誰もお金を出しません。結果として、基準表は更新されずに引き出しへ入ります。

新モデルの仕組み|匿名化した判断事例を業種別のベンチマークにする

参加企業が匿名化した該当・非該当の判断事例を持ち寄り、業種別のベンチマークとして共有する形です。導入側は「同業他社はこの要求をどこで切っているか」という、社内だけでは絶対に手に入らない参照点を得られます。提供側は事例が増えるほど価値が上がるため、更新を続ける動機が働きます。課金は年間のアクセス料で、初年度の基準策定支援は固定費として分けます。

導入時の注意点|事例を出せる体制がない会社には向かない

向き不向きははっきりしています。記録の様式が決まっておらず、事案が担当者のメモにしか残っていない会社は、まずレイヤー1だけを固定報酬で導入したほうが早いです。データ提供型に移るのは、記録が3ヶ月分揃ってからで十分です。段階を飛ばすと、出せるデータがないまま年間費用を払う形になります。

対象となる組織・読者|現場任せをやめる判断が要る3タイプ

すべての企業に同じ優先度で必要な施策ではありません。基準づくりが先に効くのは、次の共通点を持つ組織です。

現場任せと基準ありの分かれ目|同じ事案で結末がどう変わるか

現場任せの対応と退場基準がある対応の比較表|カスハラ対策で一次対応時間と離職がどう変わるか

同じ「2時間の居座り」に対して、判断を現場に預けている会社では担当者が謝り続け、翌日も同じ相手が来ます。基準がある会社では、膠着から一定時間で打ち切りが宣告され、記録が本社に上がり、再来時の対応が事前に決まっています。違いは担当者の性格ではなく、参照できる文書があるかどうかだけです。

労働者側の調査では、勤務先のカスハラ対策として「特にない」と答えた割合が71.1%に達しています。多くの現場は、まだ前者の状態にあります。

タイプ①|店舗やコールセンターの判断を現場に預けている企業

顧客等からの著しい迷惑行為を経験した割合は、生活関連サービス業・娯楽業で16.6%、卸売業・小売業と宿泊業・飲食サービス業で16.0%と、接客頻度が高い業種ほど上がります。現場の人数が多いほど判断のばらつきも大きくなるため、基準を配るだけで対応の質が揃います。

タイプ②|BtoBの取引窓口で無理な要求を飲んでいる企業

製造業や建設業は、カスハラ対策の実施割合が他業種より低い層です。一般消費者と接しないから対象外だと考えているうちに、取引先の担当者からの継続的な要求が営業担当に集中している、という構図が起きます。指針の対象に入っていることを前提に、契約交渉の場面まで基準を伸ばす必要があります。

タイプ③|相談窓口はあるのに退場を告げた実績がない企業

いちばん多いのがこの層です。窓口も方針もある。けれど「ここから先はお応えできません」と会社として宣告した事例が1件もない。この状態は、指針が求める抑止のための措置が実質的に存在していないのと同じです。まず1件、基準に沿って打ち切った実績を作ることから始めます。

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Q. 相談窓口はすでにありますが、それでは足りませんか?

足りません。指針が求める措置は窓口の設置だけでなく、判断基準の周知と、特に悪質な行為への対処方針をあらかじめ定めて実行できる体制を整えることまで含みます。実際、勤務先が被害を認識していた事案でも、行為者に出入り禁止等の対応をとった割合は8.0%にとどまります。

期待できる効果|時間・離職・顧客の質の3方向に出る

基準が動き出すと、効果は順番に現れます。先に戻ってくるのは売上ではなく時間です。

現場の時間が戻る|最大の損害は通常業務への悪影響だった

企業が挙げたカスハラによる損害で最も多いのは「通常業務の遂行への悪影響」で63.4%でした。金銭的損失やブランド低下より先に、単純に時間が奪われています。打ち切りの基準が働けば、この時間がそのまま本来の業務に戻ります。効果として真っ先に測れるのもここです。

顧客接点部門の離職が止まる|配置転換や休職の前で止める

カスハラは配置転換・休職・退職に直結します。厚生労働省の調査では、勤務先の取組への評価が高い層ほど「社内の上司に相談した」割合が高く、「何もしなかった」割合が低いという関係が出ています。基準があることは、相談が上がる状態そのものを作ります。

善良な顧客が守られる|規律は顧客サービスの一部になる

1人の長時間の居座りは、その場にいた他の顧客のサービスを遅らせ、店舗の雰囲気を悪くします。厚生労働省のマニュアルも、カスハラ対策は適正なサービス提供を通じて多くの善良な顧客を大切にすることに資すると位置づけています。スタジアムのスローガンと同じ結論で、規律は顧客サービスの反対側にはありません。

まとめ|2026年10月からの義務化に間に合わせる要点

  • 2026年10月1日から、カスハラ対策は労働者を1人でも雇うすべての事業主の義務になる。BtoB企業も対象で、経過措置はない
  • 足りていないのは現場の対応力ではなく判断の所在。勤務先が被害を認識していても、出入り禁止等の対応をとった企業は8.0%にとどまる
  • スタジアムの試合運営管理規程と同じ構造で、禁止行為の列挙・段階的措置・最終判断の引き取りを先に決める
  • 基準より先に記録の様式を決める。順番を逆にすると実務と噛み合わない基準ができる
  • 成果はクレーム件数ではなく、一次対応時間と顧客接点部門の離職率で測る。6ヶ月で時間が縮まなければ運用を組み直す

「この要求はどこまで応じるべきか」と現場から聞かれて、その場で即答できないと気づいたなら、そこが基準づくりを始めるタイミングです。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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