取引先から人権の調査票が届いたのに、何から手を付けるかが決まらない。東京2020大会の調達コードが使った「基準・確認・通報」の流れを中堅・中小企業の規模に置き換え、確かめる取引先の絞り込みから相談窓口、毎年の見直しまでを整えます。
対象となるお客さま
- 取引先から人権に関する調査票や方針の提出を求められている中堅・中小企業の経営者
- 調査票の回答を任されている総務・調達・営業の担当者
- 海外に拠点や調達先がある事業の責任者
よくあるお悩み
- 調査票の設問に、何を根拠に答えればよいか分からない
- 取引先が多く、どこから確かめるかを決められない
- 相談窓口がなく、問題が起きても社内で把握できない
課題|調査票が届いても、答える根拠が社内にそろっていない
人権デューデリジェンスは、自社や取引先の事業で人権への悪影響が起きていないかを調べ、防ぎ、結果を確かめて説明する一連の取り組みです。政府が2022年9月に定めたガイドラインに法的拘束力はありません。ただし、規模や業種にかかわらず日本で事業を行うすべての企業に、取り組みに最大限努めるよう求めています。
同じガイドラインは、海外の法令の適用を受けない企業にも、適用を受ける企業からの要請を通じて取り組みの強化が求められつつあると述べています。中小企業にとっても、人権侵害を理由に取引を止められる可能性は重大な経営リスクだとしています。取引先から届く調査票は、こうした要請の1つの形です。
一方で、ジェトロの2025年度調査(2025年11〜12月に実施、3,369社が回答)を見ると、中小企業で「監査・アンケートに対応」していると答えたのは26.6%でした。これに対して「人権方針の策定」は17.8%、「苦情処理制度の設置」は12.1%、「人権デューデリジェンスの実施」は10.9%です。大企業・中堅企業の人権デューデリジェンスは42.3%でした。
これはジェトロのサービスを利用したことのある企業などへの調査で、中小企業全体の数字ではありません。「監査・アンケート」も人権以外の内容を含みます。
(参考)責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(2022年9月) – ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議
(参考)2025年度 第24回 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(2026年3月) – 日本貿易振興機構(ジェトロ)
原因|全部を調べようとして止まり、調査票だけで済ませようとする
担当者の意識の問題ではありません。原因は次の3つです。
- 範囲を絞る基準がない:ガイドラインも、すべての取り組みを直ちに行うのは多くの企業にとって難しいとし、深刻度の高いものから順に取り組むよう求めています。基準がないと、取引先の一覧を前に手が止まります。
- 調査票で終わる:経済産業省の実務参照資料は、質問票などの書面で確認できる内容は限られ、回答が客観的な事実と合わない可能性もあると注意しています。
- 問題を受け止める窓がない:ガイドラインは、苦情処理の仕組みで得た情報を、悪影響の特定や対応に役立てられるとしています。窓口がないと、現場の問題を知る手段が調査票だけになります。
進め方が分からないという声は調査にも表れています。ジェトロの2022年度調査で、人権デューデリジェンスを実施予定・検討中の1,270社が挙げた課題は「具体的な取り組み方法がわからない」が40.4%で最も多く、「十分な人員・予算を確保できない」が28.5%で続きました。これは海外で人権を尊重するサプライチェーンを築くうえでの課題を聞いたものです。
(参考)責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(2022年9月) – ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議
(参考)責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料(2023年4月) – 経済産業省
(参考)日本企業の人権デューディリジェンスのグッドプラクティス事例(2024年3月、2022年度アンケート調査の結果を掲載) – 日本貿易振興機構(ジェトロ)
スポーツ知見|東京2020大会は、基準・確認・通報を1つの調達コードにまとめた
東京2020大会の組織委員会は2017年3月に「持続可能性に配慮した調達コード」を定め、2019年1月に第3版へ改定しました。組織委員会が調達するすべての物品・サービスとライセンス商品について、サプライヤー、ライセンシーとそのサプライチェーンに求める基準を、全般・環境・人権・労働・経済の分野で示したものです。人権と労働の分野には、差別・ハラスメント、強制労働、児童労働、長時間労働、外国人・移住労働者などの項目があります。
調達先への求め方は、次のように段階を踏みます。
- 事前に確認する:入札に参加する事業者はチェックリストを出します。取り組みのない項目は今後の予定を書き、予定がなければ理由を書きます。特定の水準を強制するものではないとされ、チェックリストは公開も第三者への提供もしません。
- 誓約とモニタリング:契約時に誓約書を出します。組織委員会はリスクの高さに応じて遵守状況を確認し、指定する第三者による監査を求めることもあります。
- リスクの高いところに重点を置く:サプライヤーには、リスクの高いサプライチェーンや分野に重点を置き、コミュニケーションを重視して働きかけるよう求めました。
- 改善を求める:不遵守が分かれば改善計画を求めます。重大な不遵守を適切に改善しないときは契約を解除できます。一方、サプライチェーンでの不遵守は、サプライヤーが適切に働きかけている限り解除の対象にしません。
苦情を受ける通報受付窓口は2018年4月に受付を始め、2021年11月30日に終えました。処理を始めるかどうかは原則5営業日以内に通知します。そのあとは情報の収集、当事者の対話、詳細調査、対応方針の決定、改善措置、結果の公表と進みます。通報の受領から一次対話の完了までは1〜2か月を目安と示しました。処理を始めた案件ごとに、弁護士を含む助言委員会を組み、中立の立場から助言を受けます。
2021年12月31日時点の公表資料では、受け付けた18件はすべて対応を終えています。12件は組織委員会の調達に関するものでないなどの理由で対象外と判断し、その一部では別の窓口の紹介や事実の説明を行いました。4件は事実の確認や事業者への確認に進み、不遵守が確認されなかった案件や、ハラスメント防止策の実施を確かめた案件があります。残る2件は受付終了日に届き、検証に長い期間が要るとして手続きを実施していません。
結果については批判もあります。木材の通報をめぐり、NGOの共同声明(2020年3月)は東京都などの窓口の受理のあり方を批判しました。そのためこのプログラムでは、結果の良し悪しではなく、基準から通報までがつながった手順の形を参考にします。
(参考)持続可能性に配慮した調達コード(第3版) – 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
(参考)持続可能性に関する確認について – 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
(参考)「持続可能性に配慮した調達コード」に係る通報受付窓口 業務運用基準 – 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
(参考)「持続可能性に配慮した調達コード」に係る通報受付窓口の概要 – 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
(参考)調達コードに係る通報受付窓口における受付及び処理の状況について(2021年12月31日時点) – 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
ただし、大会と企業の取引は同じではありません。組織委員会は大会後に解散する組織で、窓口の対応も2021年末で終わりました。企業の取引は続くので、年に1回の見直しを手順に組み込みます。また組織委員会は発注者として、入札の段階で確認を求められる立場にありました。中堅・中小企業は取引先に同じ強さで求められるとは限らないので、要求ではなく対話と共同の改善を中心にします。18件の多くが対象外と判断された点も踏まえ、窓口の対象と別の案内先を最初に決めます。
解決策|重点の取引先を決め、基準・確認・相談を小さくつなぐ
全取引先に同じ調査票を送ることからは始めません。まず届いた調査票と自社の現状を整理して答える根拠をそろえ、次の3つを小さな規模でつなぎます。
- 取引先の優先順位を決める:調達している品目、産地、作業の内容ごとに、人権への影響の深刻さを見ます。深刻さは規模・範囲・回復の難しさで判断し、同じ程度なら起きやすいものから対応します。ガイドラインは経営への影響の大きさを基準にしないとしているので、売上の大きさでは順位を付けません。
- 取引先と基準をそろえる:経営陣の承認を得た方針を示し、現状と今後の予定を書ける質問で確かめます。問題が見つかってもすぐに取引を止めず、話し合って直す進め方を決めておきます。契約上の立場を使って一方的に過大な負担を負わせると、取適法(旧下請法)や独占禁止法に触れる可能性があります。
- 相談を受ける手順を決める:自社と取引先の従業員が使える窓口について、対象、受付の方法、所要日数の目安を先に示します。業界団体などの仕組みに参加する方法もあります。対象外の相談には別の案内先を伝えます。
確かめた結果と相談の内容は記録し、年に1回の見直しで次の優先順位に反映します。法令の適用や個別の案件については、弁護士などの専門家に確認しながら進めます。
(参考)責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(2022年9月) – ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議
進め方|届いた調査票から始め、重点の取引先で試してから広げる
最初の材料は、すでに届いている調査票と取引先の一覧です。新しい調査を全社で始める前に、いま聞かれていることと、答えられないことを分けます。
診断では、届いた調査票とこれまでの回答を集め、取引先の一覧に業種・品目・地域のリスク情報を重ねます。設計・試行では、方針案と取引先向けの基準を作り、重点の取引先と実際に話し合って、無理のない質問と手順に直します。定着では、残りの取引先に広げ、1回目の年次レビューを社内の担当者が進めます。
期間は目安です。調査票の回答の整理だけ、方針づくりだけといった始め方もご提案します。Human Soarは様式の用意・聞き取り・リスク情報の整理・文書の作成支援・対話の準備と同席を担い、御社には調査票と取引先一覧の共有、担当者と承認者の決定、取引先への連絡をお願いします。
成果物|支援が終わっても社内で回せる4つの文書
成果物は、ひな形を渡して終わりにはしません。どれも御社の取引先と届いた調査票をもとに、一緒に作ります。
最初にできるのが「取引先の優先順位マップ」です。品目・産地・作業の内容ごとの深刻さと起きやすさ、優先する理由を1枚にまとめ、調達や総務の担当者が確かめる順番を決めるときに使います。次に「調達方針と取引先向け基準」を作ります。自社の考え方、取引先に求める項目、確認の質問をそろえるので、調査票の回答にも取引先への説明にも使えます。
「相談窓口の手順」には、対象、受付の方法、確認と対話の流れ、日数の目安、記録の残し方を書き、受付の担当者が相談を受けたときに開きます。最後の「年次レビュー手順」は、優先順位と対話の結果、相談の内容を毎年1回見直して経営に報告する流れです。担当者が替わっても、同じ基準で続けられます。
期待できる効果|経営・調達と営業・担当者の3つが変わる
経営にとっては、取引先からの要請に、方針と記録をもとに説明できるようになります。調達と営業は、取引先と話す項目と順番が決まり、その場しのぎの対応を減らせます。担当者は、調査票が届くたびに一から調べる手間から離れられます。
見る数字は「重点の取引先のうち、確認と対話を終えた割合」です。もう1つ「相談を受けてから初回の回答までの日数」を見ると、窓口が動いているかが分かります。人権侵害が起きないことや取引の継続を保証するものではありません。問題を見つけて直す手順を社内に持つためのプログラムです。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、始めどきです。
Human Soarからのコメント
調査票に完璧に答えることが目的ではありません。何が分かっていて、何がまだ分かっていないかを正直に説明できることが出発点です。東京2020大会の調達コードにも、未着手の項目に今後の予定を書く形がありました。御社の取引先と届いた調査票を一緒に見ながら、続けられる大きさの仕組みを作ります。
よくあるご質問
Q. 人権デューデリジェンスは中小企業にも義務ですか?
政府のガイドラインに法的拘束力はありません。ただし規模にかかわらず、日本で事業を行うすべての企業に最大限の取り組みを求めています。海外の法令や取引先との契約で求められる場合もあるため、個別の判断は弁護士などの専門家に確認します。
Q. 調査票に「できていない」と答えると、取引を切られますか?
切られるとは限りません。判断は相手の方針によります。できていない項目は、現状と今後の予定をそのまま書くことをおすすめします。ガイドラインは取引停止を最後の手段とし、まず関係を保ちながら防止・軽減に努めるよう求めています。
Q. 相談窓口は自社だけで作らなければいけませんか?
自社だけで作る必要はありません。ガイドラインは、業界団体などが設ける苦情処理の仕組みに参加する方法も示しています。どの方法でも、誰が使えるか、何を受けるか、どのくらいの日数で答えるかを先に決めて知らせます。
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