ラインケア研修で知識は学んだのに、部下の様子がいつもと違うとき、誰が何をするのかが決まっていない。ラグビーの脳振とう対応にある「その場で診断せず、専門職につなぐ」という形だけを参考に、管理職の初動を声かけ・相談先・記録のルールに落とし込みます。脳振とうとメンタル不調は別物で、同じ扱いにはしません。
対象となるお客さま
- 管理職向けのラインケア研修を見直したい人事・健康経営の担当者
- 産業医・保健師と管理職の連携を整えたい衛生管理者・総務の担当者
- 産業医を選任していない事業所で、相談先を決めておきたい経営者
よくあるお悩み
- 研修の後も、部下の変化に気づいた管理職がどう動くかが決まっていない
- 管理職が一人で抱え込み、専門職に相談するのが遅くなる
- 聞いた話をどこまで人事に伝えてよいか、管理職が判断できない
課題|ストレスの相談は上司に集まり、産業医に届くのは1.7%
メンタル不調の初動で最初に動くことになりやすいのは、部下の日常を見ている上司です。厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査」で、仕事や職業生活のストレスを実際に相談した相手を見ると、職場では上司が58.9%、同僚が57.0%でした。一方で産業医は1.7%、保健師または看護師は1.5%です。
この数字はストレスの相談全般についてのもので、メンタル不調に限った調査ではありません。それでも、話を最初に受ける人と、専門的に判断できる人が離れていることは読み取れます。だから、上司から専門職へのつなぎ方が決まっているかどうかが問われます。
受け手である管理職への備えは十分とは言えません。メンタルヘルス対策に取り組む事業所は63.2%で、そのうち管理監督者(管理職)への教育研修・情報提供をしている事業所は29.0%でした。全事業所に換算すると約18.3%です(63.2%×29.0%の計算値)。また、過去1年間にメンタル不調で連続1か月以上休業した労働者がいた事業所は10.2%でした。
原因|役割・つなぎ先・情報の扱いが決まっていない
管理職の熱意や、知識の量だけの問題ではありません。研修で学んだことを現場で使うには、次の3つを会社として決めておく必要があります。
- 役割の線引き:心の健康は客観的な測定方法が十分に確立していないと、指針は述べています。病気かどうかの判断は産業医などの医師の仕事です。ここが共有されていないと、管理職が自分で見極めようとするか、判断できずに様子を見ることになります。
- つなぎ先:指針は、必要に応じて産業医や事業場外の医療機関につなぐネットワークの整備を事業者の努力として挙げています。相談先と連絡する人が決まっていなければ、気づいても動けません。
- 情報の扱い:健康情報は特に慎重に扱う情報です。誰に何を伝えてよいかが決まっていなければ、抱え込むか、必要以上に広げるかを管理職が一人で判断することになります。
同じ調査で、メンタルヘルス対策に取り組む事業所の取組内容を見ると、事業所内の相談体制の整備は46.1%、医療機関の活用は9.2%でした。地域産業保健センターの活用は2.9%、産業保健総合支援センターの活用は3.0%です。
(参考)労働者の心の健康の保持増進のための指針 – 厚生労働省
(参考)e-ラーニングで学ぶ 15分でわかるラインによるケア – 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
スポーツ知見|ラグビーの脳振とう対応は、疑いの段階で離し、診断は医療職に任せる
ラグビーの国際統括団体ワールドラグビーは、トップレベル以外の競技に関わる人に向けて「Concussion Guidance」(2024年8月版)を公表しています。脳振とうは脳の外傷で、指針の中心は「Recognise and Remove」(気づいて、離す)です。
決まりの要点は次のとおりです。医療スタッフだけでなく、指導者、選手、保護者も含めた関係者全員がサインを知っておきます。疑いがあれば、その時点で直ちにプレーや練習から離し、その日は復帰させません。そのうえで、症状が消えても医療職の診断と助言を受けるよう強く勧めています。首の強い痛みや意識の悪化など、すぐ病院へ運ぶ症状は別に一覧にしてあります。つまり、現場の人がすることは診断ではなく、気づいて離し、医療職につなぐことです。
スポーツでの脳振とうに関する国際会議(2022年、アムステルダム)の合意声明(Patricios ら、British Journal of Sports Medicine、2023年)も、疑いがあれば離すとしています。判断の材料は本人の症状だけでなく、他の選手や医療スタッフ、審判などが見たサインでもよいとしています。プレーから外すことの義務づけや復帰前の医療職の確認、指導者・保護者・選手への教育といった取り組みは、脳振とうの再発率の低下と関連するとも述べています。なお声明は、そのまま当てはめる規則ではなく、環境に合わせて調整して使うものと断っています。
職場で参考になるのは、診断しない人の役割と、医療職へつなぐ流れを、起きる前に書いている点です。
(参考)Concussion Guidance(2024年8月) – World Rugby
(参考)Recognise and Remove – World Rugby
ただし、試合と仕事は同じではありません。脳振とうは頭部などへの衝撃で起きる脳の外傷で、メンタル不調とは別の健康問題です。同じ扱いにはしませんし、この対応がメンタル不調の発見や回復に効くと確かめた研究でもありません。最も大きく違うのは「離す」です。職場で上司が本人の意思を聞かずに仕事から外すことはしません。業務の調整が要るときは、本人の同意を得て産業医等と人事を交え、会社として決めます。借りるのは「上司が診断しない」「気づいたら専門職につなぐ」「つなぎ先を先に決める」の形だけです。本人を責めないことは、心の健康問題への誤解や偏見を指摘する厚生労働省の指針に沿って、職場の決まりとして書きます。
解決策|上司の役割を「気づく・聴く・つなぐ」に絞り、診断は専門職に任せる
研修の内容を増やすのではなく、管理職が現場で取る行動を3つに絞って手順にします。厚生労働省の指針が管理職の役割とする話を聴くこと、情報を提供すること、相談や受診を促すことに沿った形です。
- 気づいて声をかける:基準は部下の「いつも」です。遅刻や欠勤の増加、報告や会話の減少、表情に活気がないなど、見えた事実だけを伝えます。例えば「最近、遅刻が続いていて気になっています。少し話せますか」と声をかけます。病名を推測して口にしたり、本人を責めたりはしません。
- 聴いて、つなぐ:批判せず、相手の立場に立って話を聴きます。そのうえで産業医や保健師、社外の窓口への相談を勧めます。嫌がる場合は無理強いせず、「あなたの代わりに私が相談してくるよ」と本人に伝えてから、上司が専門職に助言を求めます。
- 記録と共有を絞る:残すのは日時、見えた事実、つないだ先だけです。病名の推測や私生活の詳細は書きません。誰に何を伝えるかは本人と確認し、人事など必要な相手に絞ります。
声をかけたことや相談したことを、評価の材料にしないことも社内の決まりにします。指針は、心の健康問題を抱える労働者を健康問題以外の観点から評価する傾向があることを、問題として挙げているためです。管理職が扱う情報の範囲は、衛生委員会等で労使が関わって決めることが手引きで求められています。
(参考)労働者の心の健康の保持増進のための指針 – 厚生労働省
(参考)e-ラーニングで学ぶ 15分でわかるラインによるケア – 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
緊急時|命の危険が疑われるときは、話を聴きながら専門職へつなぐ
「死にたい」「消えてしまいたい」「ここに来るのもこれが最後だろう」といった言葉を聞いたときは、通常の初動とは分けて手順を決めます。厚生労働省の「職場における自殺の予防と対応」は、予兆が多く重なる人が自殺を口にする場合は危険が非常に高いとし、口にする人は本当は死なないという考えは大きな誤解だと述べています。愚痴として使われることもあるため、言葉だけで決めつけず、普段の様子と違うときに次の対応へ移ります。
同じ資料が示す対応は次のとおりです。真剣に話を聴き、話題をそらしたり、否定したり、表面的に励ましたりしません。時間をかけて聴いたうえで、専門家に助けを求めることを丁寧に勧めます。産業保健スタッフがいれば相談し、家族など本人が信頼する人とも連携します。自殺未遂があった場合は、ただちに専門家による治療が必要です。いざというときのために、相談できる専門医療機関を近くに確保しておくことも望ましいとされています。
情報の扱いは、指針に沿って決めます。第三者への提供には本人の同意が原則ですが、生命や健康の保護のために緊急かつ重要と判断される場合は、同意を得る努力をしたうえで、必要な範囲で積極的に利用すべき場合もあります。その判断は、産業医等がいれば相談します。個人情報保護法にも、人の生命や身体の保護に必要で、本人の同意を得ることが難しいときの例外があります(第20条第2項、第27条第1項)。
今まさに危険が差し迫っているときは、社内の手続きを待たず119番に連絡します。Human Soarは医療機関ではないため、個別の診断や危険度の判定はしません。緊急時の手順は、産業医や専門医の助言を受けて決めます。社外の相談窓口は「まもろうよ こころ」にまとまっています。
進め方|産業医・人事と線引きを決め、1部門の模擬対応で試す
手順は机の上で完成させず、管理職が実際に声に出して試してから直します。医療の判断に関わる部分は、御社の産業医や保健師と一緒に決めます。
診断では、いまの研修内容、相談先、健康情報の取扱規程を確かめ、産業医・人事・管理職に聞き取りをします。設計・試行では、声かけの手順と相談先の一覧を作り、1部門の管理職と架空の場面で模擬対応をして、迷う箇所を直します。実在の社員の事例は使いません。定着では、管理職研修に組み込み、衛生委員会等で扱ったうえで全社に広げ、連絡先を年に1回更新します。
期間は目安です。診断だけ、相談先の整理だけといった始め方もご提案します。Human Soarは様式の用意・聞き取り・手順の文書化・模擬対応の進行を担い、御社には産業医等の参加、規程の共有、衛生委員会等での審議をお願いします。法律の個別の判断は、弁護士や社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
成果物|声かけから記録までを社内で回せる4つの手順
成果物は、ひな形を配って終わりにはしません。どれも御社の体制と相談先に合わせて、一緒に作ります。
管理職が最初に手に取るのが「気づきの声かけ手順」です。見えた事実の伝え方、聴き方、言わないことを場面ごとに書き、研修の教材にも使います。部下の変化に気づいた日には「管理職の初動チェックシート」を見ながら、声をかけたか、つないだか、人事への共有を本人と確認したかを順に確かめます。
「相談先の一覧と連絡の流れ」には、産業医や保健師、人事に加えて、地域産業保健センターや働く人向けの電話相談など社外の窓口を載せ、誰が連絡するかまで決めます。総務が年に1回、番号と受付時間を確かめて更新します。「記録と情報共有のルール」には、残す項目、伝える相手、本人の同意の取り方、緊急時の連絡手順を書き、人事が健康情報の取扱規程とそろえて管理します。
期待できる効果|管理職が抱え込まず、早い段階で専門職に相談できる
経営にとっては、対応が管理職個人の経験に左右されにくくなり、緊急時の連絡の流れも説明できるようになります。管理職は、診断しなくてよいと分かることで、声をかけるときの迷いが減り、一人で抱え込まずに済みます。社員にとっては、相談した内容がどこまで伝わるのかが分かり、話しやすくなります。
見る数字は「部下の変化に気づいてから専門職へ相談するまでの日数」です。もう1つ「相談先と連絡の順番を言える管理職の割合」を見ると、手順が現場に届いているかが分かります。休職者の数は事情によって増減するため、この取り組みだけの成果としては扱いません。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、初動を見直す時期です。
Human Soarからのコメント
部下の不調に気づいた管理職が、最初に背負わなくてよいものを決めることが出発点です。診断は専門職の仕事で、管理職の仕事は気づいて、聴いて、つなぐことです。御社の産業医や人事の方と一緒に、管理職が迷わず動ける手順を作ります。
よくあるご質問
Q. 産業医がいない事業所でも初動の手順を作れますか?
作れます。常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任義務がありますが、それより小規模な事業場には地域産業保健センター(地域窓口)という相談先があります。どこに相談し、誰が連絡するかを先に決めて一覧にします。
Q. 本人が産業医への相談を嫌がったら、どうしますか?
無理強いはしません。こころの耳の教材は、本人に伝えたうえで上司自身が産業医や専門家に相談し、助言に沿って対応する方法を示しています。このとき、本人に無断で話を広げないよう、伝える範囲も手順に書いておきます。
Q. 部下から聞いた話を、人事に伝えてもよいですか?
本人の同意を得るのが原則です。誰に何を伝えるかを本人と確認し、必要な範囲に絞ります。命や健康の保護のために緊急で重要と判断される場合の扱いは指針に示されていますが、個別の判断は産業医や弁護士などの専門家に相談してください。
FREE DOCUMENT
関連する資料を無料でダウンロード












コメント