社員にキャリア自律を求めても、相談する時期も相手も決まっていなければ本人任せになります。スポーツのデュアルキャリア支援の枠組みを使い、節目の面談、社内の相談先、社内公募や学びの案内を整えて、今の仕事と次の準備を同時に進められる形にします。
対象となるお客さま
- キャリア自律を掲げたものの、社員の動きが見えない人事・人材開発の担当者
- キャリア面談を任され、何を話せばよいか迷っている管理職
- 人的資本の取り組みを、制度の数ではなく利用で示したい経営者
よくあるお悩み
- 自律を求めるだけで、会社としての支援が伴っていない
- キャリア面談が形だけで、評価の話で終わってしまう
- 社内公募や学びの制度はあるのに、知られず使われない
課題|正社員の65.8%は自分で考えたいのに、キャリア相談を受けた人は14.8%
キャリア自律は、社員が自分の仕事人生を考え、必要な学びや異動を自分で選んでいくことです。社員の側に、その意向がないわけではありません。厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」では、正社員の32.0%が「自分で職業生活設計を考えていきたい」、33.8%が「どちらかといえば、自分で職業生活設計を考えていきたい」と答えています。合わせると65.8%です。
一方で、令和6年度にキャリアコンサルティング(仕事や能力開発についての相談と助言)を受けた正社員は14.8%でした。正社員に対してその仕組みがある事業所は48.4%です。仕組みがない事業所に理由を聞くと、最も多いのは「労働者からの希望がない」で、正社員について49.0%でした。
法律も、本人の努力だけを求めているわけではありません。職業能力開発促進法は、労働者に職業生活設計と自発的な能力開発に努めるよう定める一方で、事業主には必要に応じて情報の提供やキャリアコンサルティングの機会の確保などの援助を求めています。
原因|相談は申し出を待ち、話す相手は上司に集まっている
社員の意識が低いと片づけると、次に何をすればよいかが見えなくなります。同じ調査から読み取れる原因は次の3つです。
- 相談が申し出を待つ形になっている:仕組みがある事業所のうち、正社員への実施時期(複数回答)は「労働者から求めがあった時」が49.6%で、「昇進、異動、職場復帰の時など、人事管理の節目」は31.4%です。運用に問題があるとした事業所のうち41.6%は「相談件数が少ない」を挙げています。
- 相談の相手が上司に集まっている:正社員の主な相談先は「職場の上司・管理者」が69.5%で、企業の外の機関は13.1%です。実施時期も「人事評価のタイミングに合わせて」が47.4%あります。評価を決める相手に、異動や社外の希望まで話せるとは限りません。
- 時間と次の選択肢が用意されていない:自己啓発に問題があるとした正社員の58.5%が「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」と答えています。また、社内公募制など本人の意向を重視した配置に取り組んだ事業所は22.0%です。
面談は実施しているのに自律が進まないのは、このためです。主体的なキャリア形成に向けて実施した取り組みで最も多いのは上司による定期的な面談で69.8%でした。面談の回数を増やす前に、面談の役割と、その先の道筋を整える必要があります。
スポーツ知見|EUの指針は、選手の両立を本人の意欲だけに任せない
競技を続けながら、教育や仕事の準備も進める。スポーツでは、この両立をデュアルキャリアと呼びます。EU Guidelines on Dual Careers of Athletes(2012年11月)は、各国の政策担当者に向けた指針です。選手には高い意欲や責任感が求められるものの、それだけでは足りず、競技か教育・仕事かの二択に追い込まれないための取り決めが必要だと述べています。企業の課題と形が重なるのは、次の3点です。
- 同時に進める:デュアルキャリアは一般に15〜20年に及ぶとされ、長い期間をかけて並行して進めるものです。
- 節目を見越す:段階の移り変わりのように予想できるものに加え、けがやコーチの交代のように予想しにくいものも、学業や仕事、生活に大きく影響するとしています。
- 支える人を決める:相談員、コーチ、医師、教育機関の担当者などが話し合い、一人ひとりの行動計画に落とします。お金や心理、法律は専門家につなぎます。出発点は選手の利益で、組織と選手の利益相反を避けるとしています。支援は周知が必要で、知られていないことが多いとも指摘しています。
日本でも、スポーツ庁の委託事業のもとで、関係団体と企業が連携するスポーツキャリアサポートコンソーシアムが運営されています。クラブや競技団体、学校などで、現役選手に支援プログラムやキャリアの情報を届ける「アスリートキャリアコーディネーター」の育成も進み、認定者は令和5年度時点で累計793名です。
(参考)EU Guidelines on Dual Careers of Athletes(2012年11月16日) – European Commission
(参考)アスリートに対するキャリア形成支援の推進(令和4年度予算) – スポーツ庁
(参考)令和5年度スポーツキャリアサポート支援事業 事業実施報告書 – スポーツ庁委託事業(株式会社フューチャー・デザイン・ラボ)
ただし、試合と仕事は同じではありません。この指針は競技で高い水準をめざす選手のための政策文書で、会社員で効果を確かめたものではありません。また競技の引退は年齢とともに早い時期に来ますが、会社員は同じ会社で働き続ける道も十分にあります。そこで、社外に出ることを前提にせず、社内に残る道も同じ重さで扱います。さらに会社は雇用主なので、本人の選択を決めません。決めるのは本人で、会社が用意するのは時期と相手と情報です。
解決策|節目と相談先を先に決め、今の仕事と次の準備を同時に進める
研修を足す前に、社員がいつ、誰に相談し、何を選べるのかを決めます。整えるのは次の3つです。
- 節目を決める:入社から一定の年数、異動、昇進、育児や介護の休業からの復帰など、面談する時期を人事の予定に入れます。人事評価の面談とは別の日にします。
- 相談先を分ける:上司には今の仕事と次に積みたい経験を相談し、異動の希望や社外も含めた相談は人事や社外のキャリアコンサルタントが受けます。仕組みがある事業所のうち、相談を受けているのがキャリアコンサルタントだと答えたのは11.7%なので、必要なら社外の専門家を併用します。
- 選択肢を見せる:社内公募、兼務、学びの支援を1か所にまとめ、応募の条件と時期、相談先を書きます。今の仕事を深める道も同じ案内に載せます。
面談では、「今の仕事で伸ばすこと」と「次に向けて準備すること」を本人が1枚に書きます。上司は業務の調整を、人事は情報を担当します。
進め方|1部門で節目の面談を試し、次の年度の人事計画に組み込む
全社で一斉に面談を始めると、受ける側の準備が追いつきません。まず1部門で試し、相談の受け皿が足りるかを確かめてから広げます。
診断では、いまの面談の予定と社内の制度、その利用状況を書き出し、社員と管理職に聞き取りをします。設計・試行では、節目と相談先を決めて案内を作り、1部門で半年ほど面談を行います。定着では、ほかの部門に広げ、面談の予定を次の年度の人事計画に入れます。
期間は目安で、診断だけ、案内づくりだけといった始め方もご提案します。Human Soarは様式の用意、聞き取りと集計、手引きの文書化を担います。御社には制度の資料の共有、試す部門の決定、面談の時間の確保をお願いします。
成果物|節目の面談から社内の案内まで、自社で回せる4つの道具
どれも御社の制度と部門の実情に合わせて作るので、担当者が替わっても同じ手順で続けられます。
年度の初めに人事が使うのが「節目の面談設計表」です。対象者、時期、面談の相手、聞くことを一覧にします。社員がいつでも見られるようにするのが「社内の相談先一覧」で、内容ごとの相談先、相談方法、話した内容の扱いを書きます。
「社内公募・学びの案内」は、制度を探す手間を減らすためのものです。半年に1回、人事が更新し、面談のときにも使います。「管理職の面談の手引き」には、面談の前に準備すること、聞き方、評価の話と分ける方法、人事へつなぐ場面をまとめます。管理職が一人で抱えない線引きも、ここで決めます。
期待できる効果|管理職は抱え込まず、社員は次の一歩を選びやすくなる
社員は、いつ誰に相談できるのかが分かり、今の仕事を続けながら次の準備を始めやすくなります。管理職は、聞くことと人事につなぐことの線引きができ、面談の負担が偏りにくくなります。経営にとっては、人材の育成方針が面談や配置にどう届いているかを確かめられるようになります。
見る数字は「節目の面談の実施率」と「上司以外の相談先の利用件数」です。あわせて社内公募や学びの制度の応募数も見ると、案内が届いているかが分かります。離職率や昇進率は他の要因でも動くので、この取り組みだけの成果としては扱いません。
Human Soarからのコメント
キャリア自律という言葉は、使い方を誤ると「あとは自分で考えて」という突き放しに聞こえます。スポーツの両立支援が教えてくれるのは、本人が決めるからこそ、周囲が時期と相手と情報を用意するという順番です。御社の制度を一緒に見直し、社員が自分で選べる環境を整えます。
よくあるご質問
Q. セルフ・キャリアドックとはどう違いますか?
置き換えるものではなく、併用できます。セルフ・キャリアドックは、キャリアコンサルティング面談と研修を組み合わせて従業員を支える、厚生労働省が示す取り組みです。このプログラムでは、節目の決め方、相談先の分担、社内の選択肢の案内に重点を置きます。
Q. キャリア自律を支援すると、社員の転職が増えませんか?
増えるか減るかを言い切れる根拠はありません。そのため社外に出ることを勧めるのではなく、社内に残る道と社外の道を本人が比べられるようにします。試行する部門では、相談件数や社内公募の応募数に加えて、退職の理由も確かめながら進めます。
Q. 面談で聞いた内容は人事や上司に共有してよいですか?
本人の同意なく共有しないことを基本に、共有する範囲を先に決めて伝えます。キャリアコンサルタントには職業能力開発促進法第30条の27第2項で守秘義務が定められています。安全に関わる場合など個別の判断は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に確認してください。
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