引退後のアスリートを「採用する」だけでなく、その人がキャリアと心身の両面で長期的に活躍できるよう「支える」視点を持つ企業が増えています。単発の就職支援では見落とされがちな課題を、研究知見から見ていきましょう。
この記事では、総合的支援という考え方を整理し、ウェルビーイング研究が示す必要性、企業支援制度への反映方法を解説します。
総合的支援の考え方
引退アスリートへの支援というと、真っ先に「再就職先の紹介」が思い浮かびますが、それだけでは不十分だと指摘されています。競技という強いアイデンティティを失うことへの心理的な適応、収入構造の急激な変化、生活リズムの再構築など、複数の課題が同時に押し寄せるためです。
総合的支援とは、キャリア(仕事)・心理(アイデンティティの再構築)・生活(経済面や人間関係)という複数の側面を同時に支える発想です。どれか一つだけを手厚くしても、他の側面でつまずけば長期的な定着にはつながりません。
ウェルビーイング研究の知見
ウェルビーイングを構成する要素として、ポジティブ感情・エンゲージメント・良好な人間関係・人生の意味・達成の5つを挙げる理論的枠組みが、組織マネジメントの分野でも広く参照されています。
「達成」から「意味」への軸の移行
現役時代は「達成」(記録や勝敗)が生きがいの中心になりやすい一方、引退後はその軸だけでは充足感を得にくくなります。新しい仕事や役割の中に「意味」を見出せるよう支援することが、長期的なウェルビーイングにつながるとされています。
人間関係の再構築という課題
チームメイトやコーチとの濃密な人間関係が引退とともに希薄化することも、見落とされがちな課題です。新しい職場での良好な人間関係づくりを意識的にサポートする仕組みが求められます。
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企業支援制度への反映
研究知見を踏まえ、企業が実際に取り入れられる支援制度の要素を整理しました。
| 支援の側面 | 具体的な制度例 | 狙いとする効果 |
|---|---|---|
| キャリア面 | 段階的な業務移行プログラム、メンター制度 | 即戦力プレッシャーの緩和 |
| 心理面 | キャリアカウンセリングの提供 | アイデンティティ再構築の支援 |
| 生活・関係面 | 社内コミュニティへの導入支援 | 孤立の防止、人間関係の再構築 |
表1:総合的支援の側面別・企業制度例
段階的な業務移行の設計
入社初日から即戦力としての成果を求めるのではなく、数か月かけて役割を段階的に広げていく設計にすることで、本人が新しい環境に適応する時間的な余裕を持てます。
継続的なカウンセリング機会の提供
入社時の一度だけでなく、半年・1年といった節目でキャリアカウンセリングの機会を設けることで、本人が感じている違和感や不安を早期に把握し、支援内容を調整できます。
すぐ使えるアクションプラン:人材育成担当者向け3ステップ
引退アスリートの総合的支援制度を検討している担当者は、以下のステップから着手すると設計しやすくなります。
制度設計における注意点
総合的支援は理念としては理解されやすい一方、実際の制度に落とし込む段階でつまずくことがあります。
本人の意向を確認せずに支援を押し付けない
支援する側の善意が強すぎると、本人が望んでいない形でのサポートを一方的に提供してしまうことがあります。定期的な対話を通じて、本人が今どの側面に課題を感じているかを確認しながら支援内容を調整することが大切です。
一律の制度だけでなく個別対応の余地を残す
競技種目や引退の経緯によって、抱える課題の重さは大きく異なります。標準的な支援制度をベースにしつつ、個別の事情に応じて柔軟に調整できる余地を制度設計の段階から残しておくと、実効性が高まります。
(参考)アスリートのキャリアに関する実態調査 結果まとめ – スポーツ庁
まとめ
- 引退アスリートへの支援は、再就職先の紹介だけでは不十分で、複数の側面を同時に支える視点が必要
- ウェルビーイング研究では「達成」から「意味」への軸の移行や人間関係の再構築が課題として指摘される
- 企業支援制度は、キャリア・心理・生活の3側面に対応した仕組みを組み合わせることが効果的
- 段階的な業務移行と継続的なカウンセリング機会が、長期的な定着を支える柱になる
- まずは5つの側面での現状チェックから始め、抜けている支援を洗い出すことが第一歩
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