鳥海連志が語る障がいの捉え方という選択

鳥海連志が障がいの捉え方について語る姿を表すアイキャッチ画像 スポーツアスリート

左手の指3本、右手の指1本を欠損しているという上肢障がいを持ちながら、日本唯一のプロ車いすバスケットボール選手として世界を舞台に戦ってきた鳥海連志。ボールハンドリングが不利になりかねない身体的条件を抱えながら、彼はインタビューでこう言い切った。「自分の障がいをネガティブに捉えるのか、それとも肯定して自分なりの対策を立てていくのか」。この一言に、鳥海が競技を通じて磨いてきた思考の核がある。

身体的な不利をどう捉えるかという最初の分岐点

車いすバスケットボールの選手は障がいの程度に応じてクラス分けがなされ、鳥海は2.5点という障がいクラスに属する。体幹が効くという点では優位に立てる一方、上肢障がいによってボールハンドリングが不利になりうるという条件も抱えている。この事実を前に、鳥海は不利な条件を嘆くのではなく、まず現状を正確に把握することから思考を始めている。

「そこは、練習でカバーできることがたくさんあるというのもそうですし、ボールハンドリングは手だけの動作じゃないよね、というところもあります」。手が使いにくいなら手の代わりに何を使うかを考える。身体で補えるところや、ドリブルする位置によって相手にカットされない工夫があるという発言は、弱点を弱点のまま放置せず、別の要素で機能を代替する発想の転換を示している。

限界を決めないという信念の中身

鳥海は「自分で限界を決めない」という信念を持つと語る一方で、その中身は精神論だけではない。「いろんなところで限界というよりも、その条件で出せるカードはこれとこれとこれだよねっていう選択肢を持っていくというのが、僕の考えの中の1つですね」。限界を無視するのではなく、今の自分が持っているカードを冷静に把握し、その組み合わせで最善を尽くす。この考え方は、根性論的な精神論と一線を画す、具体的で実践的な思考モデルだ。

この発想が興味深いのは、弱点そのものを否定せず、条件として受け入れた上で話を進めている点だ。上肢障がいがあるという事実を消そうとするのではなく、その事実を前提に「では何ができるか」という問いに切り替えている。弱点を克服しようと無理を重ねるのではなく、弱点を含めた自分の条件全体を一つのセットとして扱い、その中で最適な組み合わせを探すという姿勢は、感情に流されず現状を分析する冷静さに支えられている。

フィジカル強化という地道な積み重ね

リオ大会でフィジカルの課題を感じた鳥海は、様々な部位の筋肥大と体幹トレーニングに取り組んだ。ベンチプレスは最初20キロのバーも挙げられなかったが、最大で90キロまで挙げられるようになったという。車いすを40分間操作し続ける筋力が必要な競技特性から、下半身のバランス強化や瞬発的なテクニックの向上にも重点を置いてきた。

下半身のメニューでは、単純なスクワットやチューブトレーニングに加え、上から吊り下げた紐に足をかけて胸の位置まで引きつけるなど、股関節周りに働きかける独自の工夫も取り入れている。「スクワットに関しては、単純に足を踏ん張るというところで、多分1番重要な部分です」という発言からは、地味なトレーニングの一つひとつがプレーの具体的などの場面に結びつくかを明確に言語化できている様子がうかがえる。

海外選手との対戦で選んだ戦い方

海外の大きい選手に対してフィジカルで真っ向勝負するのではなく、鳥海は違う土俵を選ぶという考え方を明かしている。「単純に漕ぐ力などを鍛えることもありますが、まあそういうところで海外の選手に勝るということは、多分僕自身はないです。いかにそういう場面にしないかを考えて、車いす操作を行っています」。同じステージに立たず負けを避ける、という選択は、自分の弱点で戦わないための戦略的な判断であり、無理に相手の土俵で勝負しない思考の実践例といえる。

技術習得における年月と忍耐の受け止め方

相手のブレーキをかわす「バウンドストップ」という高度な技術について、鳥海は「早ければ、3年ぐらい練習すれば身につく」と明かしている。競技開始から短期間で日本代表に選ばれた鳥海だが、技術によっては年月をかけてようやく習得できるものがあることを率直に認めている。「好きなものに対する忍耐力は、多分強かったんだと思います」という言葉は、才能や早熟さだけでなく、地道な積み重ねを受け入れる姿勢が根底にあることを示している。

障がいの捉え方を再定義する思考モデル

鳥海の発言を整理すると、障がいへの向き合い方には明確な順序がある。まず自分の身体的条件を客観的に把握する。次に、その条件下で使える手段は何かを具体的にリストアップする。そして、弱点を避ける戦略と強みを活かす戦略の両方を組み合わせて選択肢を作る。この一連のプロセスは、感情的な受容だけで終わらせず、常に「今出せるカードは何か」という実務的な問いに変換している点に特徴がある。身体能力について問われた際、鳥海は「自分の身体を思い通りに動かせる能力だと思います」と答えている。これは、他人と比較した絶対的な能力値ではなく、自分の条件を理解し使いこなす力として身体能力を捉える視点であり、思考モデル全体の土台になっている。

一般のキャリアや働き方にも通じる発想

鳥海の「出せるカードで戦う」という発想は、スポーツに限らず仕事やキャリアの場面でも応用できる。得意でない分野を無理に克服しようとするより、自分が今持っているスキルや強みの組み合わせで成果を出す方法を考える。苦手なことをゼロにする発想ではなく、今ある条件の中で最善の選択肢を作るという考え方は、限られたリソースの中で結果を求められる社会人の働き方にも重なる部分が大きい。同じステージで戦わないという選択も、無理な比較で消耗しないための実践的な知恵として参考にできる。

特に、苦手分野を持つ人ほど「弱点を克服しなければ」という発想に縛られがちだが、鳥海の思考モデルはその前提そのものを問い直す。弱点を消すのではなく、弱点があることを前提に周囲の条件や自分の別の強みで補うという発想に切り替えるだけで、選べる選択肢の幅は大きく変わる。得意な土俵を自分で選び、そこに相手を誘導するという視点は、比較されがちな環境で働く人にとって特に参考になる考え方だ。

思考の棚卸しにAIを活用する視点

鳥海が実践している「今出せるカードは何か」という考え方は、一人で頭の中だけで整理しようとすると見落としが生まれやすい。AIチャットツールに自分の得意なこと、苦手なこと、今置かれている状況を書き出し、組み合わせ可能な選択肢を一緒に洗い出してもらう使い方は、この思考モデルと相性がよい。感情的に「向いていない」と結論づける前に、条件を分解して整理する補助的な壁打ち相手としてAIを使うことで、鳥海のような戦略的な判断に近づける可能性がある。

よくある質問

鳥海連志が語る障がいへの向き合い方とはどのようなものですか

障がいをネガティブに捉えるかポジティブに捉えるかを自分で選び、その条件下で出せる選択肢を具体的に組み立てていくという考え方だ。感情的な受容だけでなく、実践的な戦略に落とし込む点が特徴といえる。

鳥海連志はどのようなフィジカルトレーニングをしていますか

ベンチプレスなど筋肥大トレーニングに加え、下半身のバランス強化や体幹トレーニングを重視している。車いすを長時間操作し続ける筋力の維持がプレーに直結するためだ。

「自分で限界を決めない」とはどういう意味ですか

限界を無視して無理をするという意味ではなく、その時の条件で使える手段を具体的に洗い出し、選択肢として持ち続けるという考え方だと本人は説明している。

まとめ

鳥海連志が語る言葉に共通するのは、身体的な条件を感情論だけで受け止めず、常に「今出せるカードは何か」という具体的な問いに変換する思考だ。障がいをネガティブに捉えるかポジティブに捉えるかという選択は、本人が繰り返し言葉にしてきたように、日々の練習と工夫の積み重ねによって支えられている。


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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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