中日ドラゴンズを経て2025年から北海道日本ハムファイターズに所属する投手・福谷浩司は、自身のnoteで登板の振り返りやトレーニングの過程を発信している。中でも詳しく綴られているのが、球団のバイオメカニクス計測を活用しながら球速アップと連投耐性の向上に取り組んだ12日間の記録だ。数値と感覚を「すり合わせる」というその過程を、本人の発信をもとに追っていく。
ファイターズが評価する6つのバイオメカニクス指標
福谷が受けたバイオメカニクス計測では、並進エネルギー、ブロッキング、骨盤から胸郭へのエネルギー効率、胸郭から肩へのエネルギー効率、肩から肘へのエネルギー効率、肘ストレスという6つの項目が評価対象になっている。速いボールを投げるには、体重移動で大きな並進エネルギーをつくり、踏み出した足で強くブレーキをかけ、骨盤に伝わったエネルギーを胸郭、肩、肘の順に効率よく伝えていく必要があるという。
| 評価項目 | 何を測るか |
|---|---|
| 並進エネルギー | 体重移動でつくる推進力の大きさ |
| ブロッキング | 踏み出した軸足でどれだけ強くブレーキをかけられるか |
| 骨盤から胸郭のエネルギー効率 | 下半身の力が体幹にどれだけロスなく伝わるか |
| 胸郭から肩のエネルギー効率 | 体幹の力が肩にどれだけロスなく伝わるか |
| 肩から肘のエネルギー効率 | 肩の力が肘にどれだけロスなく伝わるか |
| 肘ストレス | 投球時に肘にかかる負担の大きさ |
計測は室内でランニングシューズのまま、普段より10cmほど高い傾斜から投げるという特殊な環境で行われ、足をあげて4球、クイックで4球の計8球を投げて数値を記録した。チームのアナリストやトレーニングコーチ、投手コーチも交えたミーティングが組まれ、専門スタッフが一丸となって1人の投手のデータを読み解く体制がとられている。
1度目の計測で見つかった「骨盤から胸郭への伝達」という課題
1度目の計測結果は、2月のキャンプ時に比べて並進エネルギーは大きくなっている一方、セパレーション(体の捻転差)が小さいために骨盤から胸郭へうまく力が伝わっていない、というものだった。数値によって、感覚だけでは気づきにくかった課題が明確になった形だ。
この結果を受けて福谷は、胸椎回旋の可動域を広げるストレッチを増やすことと、体重移動の勢いを保ったまま腕の力を抜くことという2つの取り組みを、約2週間かけて試していくことになる。
(参考)バイオメカニクス計測で課題が見つかった話 – Koji Fukutani note
腕の脱力を試して球速が落ちた12日間の試行錯誤
腕の力を抜くこと自体はできたものの、実際に登板してみると平均球速がそれまでより1キロほど落ちてしまうという想定外の結果になった。福谷はここで「腕の力を抜くと勢いが落ちるのか」「球速を勢いに依存しすぎているのか」という2つの仮説を立て、検証を重ねていく。
上半身をオーバーに使わなくても強い体重移動ができることを目指したトレーニングを続けていたが、思うような成果につながらなかったことから、福谷は方針を転換し、「今できる体重移動で、どれだけ投げる動作にエネルギーを伝えられるか」という視点でのトレーニングに切り替えた。
やり投げトレーニングで気づいた「左足」の使い方
方針転換の中で福谷が取り入れたのが、やり投げトレーニングだった。野球のボールが球体であるのに対し、やりは棒状であるため、投げたい方向とやりに力を加える方向がずれるとまったく飛んでくれない。この違いが、投げる方向と力を加える方向を一致させる感覚を養うのに役立ったという。
トレーニング担当の小山田トレーナーから「左足が原因で体が伸び上がり、地面からの力を受けられていない」という指摘を受けたことも大きな転機になった。それまで右肩と右骨盤の位置関係に意識を向けていた福谷は、左足で地面をとらえる感覚を意識するようになり、立った姿勢で投げても力の伝わり方が変わる感覚をつかんでいった。
感覚とデータを「すり合わせ」ながら150キロを再現
左足の使い方を意識して臨んだ登板で、福谷は約2年ぶりとなる150キロ(トラックマン計測では149.5キロ)を記録した。「頑張って腕を振る」のではなく「左足を先行させ、上半身が勝手に返ってくるのを待つ」という、これまでとは違う感覚でスピードを出せたことが、本人にとっての大きな手応えになったという。
ただし、1度良い数値が出たからといって、それが体に合った投げ方だと断定はできない。だからこそ、感覚だけに頼らず客観的なデータで確認する必要があるとして、福谷は手応えを感じたタイミングで自ら2度目のバイオメカニクス計測を希望している。前日に登板したばかりでコンディションが万全ではない中でも、その日を逃せば計測の機会がしばらくないという事情から、あえて計測に踏み切った判断力も見逃せない。
(参考)バイオメカニクス計測で見つかった課題を12日間でどこまで克服できたのか – Koji Fukutani note
ウェアラブル端末でフォームの変化を数値化する
福谷のように専門チームによる計測環境がなくても、携帯型のトラッキング機器があれば「感覚とデータのすり合わせ」を自分で再現できる。
ブルペンにRapsodo Pitching 2.0を持ち込む
設置するだけで球速・回転数・リリースポイントが投球ごとに自動記録される。福谷が体験した「フォームを変えたら球速が落ちた」という変化も、感覚を待たずにその場の数値で把握できる。
フォームを変えた前後のログを並べて見る
専用アプリに蓄積された記録を、フォームを変更する前後で並べて比較する。平均球速が1km/h落ちているのか、リリースポイントが登板ごとにばらついているのか、変化の種類によって次に試すべきことが変わってくる。
やり投げのような大胆な変更ほど数値で答え合わせする
福谷がやり投げトレーニングを取り入れたように、フォームを大きく変える試みをするときほど、感覚だけで「良くなった」と判断せず、リリースポイントや回転効率の数値で答え合わせをしてから次の練習に進む。
よくある質問
バイオメカニクス計測ではどんな項目を評価するのか
福谷が受けた計測では、並進エネルギー、ブロッキング、骨盤から胸郭・胸郭から肩・肩から肘へのエネルギー効率、肘ストレスという6項目が中心に評価されている。特に体重移動に関わる最初の3項目が重視される傾向にある。
なぜ腕の力を抜くと球速が落ちてしまったのか
福谷自身、球速を体重移動の勢いに依存しすぎていた可能性を仮説として挙げている。上半身の力に頼らずに強い移動をつくるトレーニングを続けたことで、最終的には別のアプローチで球速を取り戻すことにつながった。
やり投げトレーニングは野球選手にも効果があるのか
やりは棒状で指先の操作がしづらいため、投げたい方向に力を加える感覚を体で学びやすいという特徴がある。福谷は、指先でコントロールしたがる選手ほどこのトレーニングが有効だと感じたと述べている。
1度良い数値が出れば改善は完了と言えるのか
福谷は1度150キロが出たことだけでは「必ずしも良いとは限らない」として、あらためて客観的なデータで確認する重要性を強調している。感覚の手応えとデータの両方を照らし合わせる姿勢が欠かせない。
まとめ
- ファイターズのバイオメカニクス計測は並進エネルギーなど6項目を軸に、専門スタッフが分析する体制で行われている
- 1度目の計測で「骨盤から胸郭への伝達」という課題が見つかり、ストレッチと脱力の試行錯誤が始まった
- 腕の脱力を試した結果、平均球速が1キロ落ちるという想定外の結果を経験した
- やり投げトレーニングを通じて「左足」の使い方に気づき、体の使い方を再構築した
- 約2年ぶりの150キロを記録した後も、感覚を過信せず2度目の計測で客観的に確認する姿勢を貫いた
投手の怪我予防に関するデータ活用は以下の記事でも紹介している。


モーションキャプチャによる分析事例はこちらも参考になる。

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