営業部長の会議室で、来期の中途採用計画を立てている場面を想像してみてください。「打たれ強く、数字への執着がある人がほしい」という要望は毎年出るのに、書類選考と面接だけではその資質を確かめる決め手がなく、結局は同業他社との経験者採用の奪い合いになってしまう。そんな悩みに心当たりはないでしょうか。
一方で、競技を引退したアスリートの多くは、次のキャリアが見つからないまま不安を抱えています。プロ・セミプロ・社会人スポーツ選手111名を対象にした調査では、90.1%が「競技引退後のキャリアについて悩んだことがある」と回答し、悩みの内容は「キャリアの方向性が見つからない不安」(59.0%)、「競技引退後の安定した収入源の確保」(50.0%)が上位を占めています。アスリート引退後のキャリア選択肢は指導者やコーチだけではありません。
この二つの悩みは、実は同じ構造の裏表です。企業は「メンタルの強さ」を面接で確かめられずに困り、元アスリートは「メンタルの強さ」をビジネスの言葉に翻訳できずに困っている。両者をつなぐ仕組みさえあれば、採用の課題とセカンドキャリアの課題を同時に解決できるはずだと思いませんか。
背景にはもう一つ、企業側の構造変化があります。2023年3月期決算から、上場企業や非上場の大会社は有価証券報告書に人材育成方針や社内環境整備の指標・実績を記載することが義務化されました。営業組織の”人材の質”を対外的に説明する責任が、これまで以上に重くなっているのです。
(参考)【スポーツ選手のセカンドキャリアに関する意識調査】9割以上が「競技引退後のキャリア」に悩みあり – ビズメイツ株式会社
プランの概要
元アスリートの「勝負強さ」を、営業組織の中途採用・配属プロセスに構造的に組み込むプランです。単なる話題性のある採用ではなく、配属前の適性診断から配属後の伴走までを一気通貫で設計します。
- 対象:法人営業組織を抱える企業(IT・金融・人材・不動産など、契約獲得までの粘り強さが成果を左右する業種)
- 課題:面接だけでは「逆境での踏ん張り」を測れず、経験者採用に頼るほど採用コストと競争が上がる
- 導入期間の目安:候補者選定から配属まで約2〜3ヶ月、定着支援は配属後6ヶ月間

課題解決の流れ
元アスリートの営業配属がうまくいかないのは、意欲や資質の問題ではなく、評価と橋渡しの仕組みが企業側に存在しないことが原因です。以下の3段階で構造を整理します。
現状の課題
- 【採用基準のブラックボックス化】面接で「打たれ強さ」を判定する明確な基準がなく、面接官の主観に依存している
- 【早期離脱の連鎖】期待した粘り強さと実際の行動が食い違い、配属後半年以内の離脱が続く
- 【アスリート側の情報不足】元アスリート自身も、自分の競技経験のどこが営業に転用できるか言語化できていない
問題の要因
- 競技実績という定量情報はあっても、それを営業行動(架電量・粘り強い商談・逆境での立て直し)に翻訳する評価軸が企業内に存在しない
- 元アスリートのキャリア支援は指導者・解説者など競技に近い進路に偏りやすく、一般企業への橋渡し役が不足している
- 人的資本の情報開示が求められる一方、営業組織の”人材の質”を測る具体的な指標を持つ企業はまだ少ない
解決策
- 競技経験を「目標設定」「逆境対応」「継続力」の3軸に分解し、営業行動と対応づけた適性診断を配属前に実施する
- 元アスリート向けにビジネス基礎とセールストークを橋渡しする短期研修を挟み、企業側の受け入れ負担を減らす
- 配属後も定期的な1on1で「競技で培った強み」が営業成果にどう表れているかを可視化し、定着率を数値で追う

Q. 元アスリートの営業適性は、どうやって見極めればいいですか?
競技実績そのものではなく、「目標設定」「逆境対応」「継続力」の3軸に分解した適性診断で見極めます。単に成績が良かった選手より、伸び悩んだ時期に立て直した経験がある選手の方が、営業の粘り強さに直結しやすい傾向があります。診断は配属前の面談で30分程度あれば実施できます。
面接では測れない「勝負強さ」だから、価格競争にならない理由
営業スキルの研修やCRMツールは、他社もすぐに導入できます。しかし「逆境で崩れず立て直した経験」そのものは、模倣もコピーもできません。それが本プランの差別化の核です。
想像してみてください。契約直前で失注が続き、チームの空気が重くなっている営業現場に、大会の土壇場で流れを引き戻した経験を持つ人がいたら、その存在そのものがチームの支えになります。研修で教えられるのは知識であって、修羅場での立て直し方までは教えられません。
これは異業種の知見をスポーツで橋渡しする発想とも共通しています。だからこそ、このプランは「誰でも真似できる仕組み」ではなく「その人にしかない経験」を営業組織に組み込む発想です。専門性は高いのに模倣されにくい、という位置づけがそのまま競合との差になります。

プランの具体的な内容
配属先の営業機能によって、元アスリートの競技経験を活かせるポイントは変わります。アスリート採用のメリットと注意点を踏まえたうえで、以下の3パターンから自社の営業組織に合う配属像を選びます。
| 配属パターン | 向いている競技経験 | 想定KPI |
|---|---|---|
| 新規開拓型 | 個人競技で結果が出ない時期を乗り越えた経験 | アポ獲得数・初回商談化率 |
| 既存深耕型 | 団体競技でのポジション調整・信頼構築経験 | 既存顧客の契約継続率・追加受注額 |
| 拠点責任者候補 | 主将・キャプテン等のチーム運営経験 | チーム目標達成率・メンバー定着率 |
配属パターンは一例。実際の設計では候補者本人の適性診断結果と企業側の営業機能を照らし合わせて決定する。
新規開拓型|逆境での粘りをアポ獲得に転用する
個人競技で伸び悩んだ時期を自力で立て直した経験がある人材は、断られ続けても架電・訪問を続ける粘り強さに直結しやすい傾向があります。最初の3ヶ月は成果が出にくいことを前提に、活動量そのものを評価指標に含めます。
既存深耕型|信頼構築の経験を継続率に活かす
団体競技でポジション調整や後輩指導を担った経験がある人材は、既存顧客との関係を長期的に育てる役割と相性が良い傾向があります。短期の受注額よりも、契約継続率や紹介の発生を評価軸に据えます。
拠点責任者候補|チーム運営経験をマネジメントに接続する
主将・キャプテンなどチーム運営を担った経験は、メンバーの状態把握や目標設定の技術としてマネジメント業務に転用しやすい領域です。ただし競技での「上下関係」がそのまま通用するわけではないため、権限委譲型のマネジメント研修を併走させます。
導入ロードマップ
いきなり全社展開すると、評価基準が固まらないまま配属人数だけが増え、早期離脱のリスクが拡大します。小さく検証してから標準化し、最後に収益化する順番が欠かせません。

0〜3ヶ月|検証フェーズ
1〜2名の小規模配属で適性診断とセールストーク研修を試験導入します。競技経験のどの要素が実際の営業行動に表れたかを、上長との週次面談で記録することが目的です。
3〜6ヶ月|標準化フェーズ
検証フェーズで見えた「効きやすい競技経験のパターン」をもとに、適性診断の質問項目と配属パターンの分類を標準化します。受け入れ部署向けの簡易研修もこの段階で整備します。
6〜12ヶ月|収益化フェーズ
標準化した仕組みを複数部署・複数拠点に展開し、配属実績と定着率のデータをもとに人材紹介料や成功報酬の設計を固めます。ここで初めて、採用支援サービスとしての収益構造が回り始めます。
Q. 未経験の元アスリートを営業に配属するまで、どのくらいの準備期間が必要ですか?
候補者選定から配属までは目安として2〜3ヶ月です。ビジネス基礎とセールストークの橋渡し研修を挟むため、いきなり現場に投入するより立ち上がりが早くなります。競技引退直後より、引退後半年〜1年ほど社会人経験を積んだタイミングの方が定着しやすい傾向があります。
営業成果に「勝負強さ」を組み込む仕組み
効果が効いてくる理由
効果は配属した瞬間ではなく、上長との1on1で「競技経験と営業行動の関連づけ」が積み重なった頃から表れ始めます。採用のミスマッチが減って早期離脱が下がると採用コストが下がり、同時に配属後の営業成果が上がることで受注率が改善する、という2つの経路が重なって効いてくる構造です。
導入初月から数字が動くわけではない、という時間軸への理解を関係者間であらかじめ共有しておくことが、途中で施策を止めてしまわないための鍵になります。
KPIの設計(仮説としての目安)
自社のベースライン把握が前提になりますが、フェーズごとに以下のような指標を仮説として置くと、効果測定がしやすくなります。
| フェーズ | 見るべき指標 | 目安 |
|---|---|---|
| 検証フェーズ | 活動量(架電・訪問件数) | 既存メンバー平均の8割を下回らない |
| 標準化フェーズ | 配属後6ヶ月時点の定着率 | 90%以上を目標水準に置く |
| 収益化フェーズ | 1名あたりの採用コスト・受注貢献額 | 通常の中途採用ルートと比較して算出 |
KPIはあくまで仮説の目安。自社の営業組織のベースライン数値と照らして再設定する。
特に重視したいのは「配属後6ヶ月時点の定着率」です。競技経験を活かした配属は初速が出にくい一方、定着さえすれば中長期の営業成果に転化しやすいため、短期の受注額よりもこの指標を先行管理する方が施策の継続判断がしやすくなります。
リスクと対応策
| 想定されるリスク | 対応策 |
|---|---|
| 競技実績と営業行動のギャップに気づかないまま配属する | 月1回の1on1で競技経験と営業成果の関連を言語化し続ける |
| 受け入れ部署の期待値が現場とズレる | 配属前に受け入れ部署の上長へ簡易研修を実施する |
リスクは配属前後のコミュニケーション不足から生じやすい。仕組みよりも運用の丁寧さが定着を左右する。
最も注意したいのは、競技での実績と営業行動のギャップを埋めないまま現場に出してしまうことです。早期離脱の兆候は多くの場合、配属から2〜3ヶ月で表れるため、その期間の1on1の頻度を減らさないことが最も効果的な予防策になります。
Q. 営業未経験者を採用するリスクをどう抑えればいいですか?
最大のリスクは、競技での実績と営業行動のギャップを埋めないまま現場に出してしまうことです。配属後も月1回の1on1で競技経験と営業成果の関連を言語化し続けることで、早期離脱の兆候を早い段階で拾えます。受け入れ部署の上長にも簡易研修を行い、期待値のズレを防ぎます。
料金モデルという選択肢
営業未経験者の採用は、固定の紹介手数料だけで契約すると、企業側は定着するかどうか分からない人材に先払いのリスクを負うことになります。買い切り型の紹介モデルは、この不確実性の高さと噛み合いません。
そこで有効なのが成果報酬型の設計です。配属後の営業成果・定着状況に応じて成功報酬が変動する仕組みにすれば、企業側は成果が出た分だけ支払えばよく、提供側も定着支援に力を入れるほど報酬が積み上がるため、双方の利害が一致します。
ただし成果報酬型は、何を「成果」と定義するかの設計コストがかかります。最初は固定の基本紹介料に少額の成果報酬を組み合わせ、運用が安定してから成果報酬の比重を高めていく段階的な移行が現実的です。
対象となる組織・読者
中途採用で「打たれ強さ」の証明に苦労している法人営業組織
面接だけでは候補者のメンタル面を判断しきれず、経験者採用に頼るほど採用コストが上がっている企業に向いています。適性診断という第三の判断材料が加わることで、採用基準の属人化を減らせます。
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人的資本経営の情報開示を強化したい上場企業の人事部門
有価証券報告書での人材育成方針の記載が求められる中、「多様な経験を持つ人材をどう活かしているか」を具体的な事例として示したい企業に向いています。元アスリート活用は、対外的な説明材料としても機能します。
アスリートの受け皿を広げたい実業団・競技団体・OB/OG会
選手のセカンドキャリア支援を担う立場からは、指導者・解説者以外の進路を具体的に提示できる点が価値になります。退任後の知見を経営に活かすOB/OGネットワーク活用と並ぶ、もう一つの受け皿にもなります。企業側の受け入れ実績が増えるほど、選手への説明もしやすくなります。
あわせて読みたいアスリートの独立・起業支援|企業担当者の伴走設計›
期待できる効果
採用のミスマッチと早期離脱の減少
面接の主観だけに頼らない適性診断を挟むことで、入社後に「思っていたのと違った」というミスマッチを減らせます。早期離脱が減れば、その分だけ採用コストの再発生も抑えられます。
営業組織の心理的な耐性の底上げ
逆境を経験してきた人材が組織にいることで、失注や目標未達が続く局面でもチーム全体の空気が崩れにくくなります。これは数値化しにくい効果ですが、既存メンバーの定着にも波及します。
人的資本開示における独自の説明材料の獲得
「多様な経験を持つ人材の活用」を具体的な取り組みとして示せることは、投資家や求職者に向けた説明力の強化につながります。他社が真似しにくい取り組みだからこそ、開示資料での差別化にもなります。
Q. このプランは中小企業でも導入できますか?
導入できます。ただし研修や適性診断を自社だけで内製するとコストが重くなるため、まずは1〜2名の小規模配属で効果を検証してから拡大する進め方が現実的です。成果報酬型のモデルであれば、初期費用を抑えて始められます。
まとめ
- 元アスリートの「勝負強さ」を、面接では測れない差別化要素として営業組織に組み込むプランである
- 採用側のミスマッチとアスリート側のセカンドキャリア不安を同時に解決できる構造になっている
- 適性診断・橋渡し研修・配属後の1on1という3つの仕組みが、定着率を左右する
- 導入は検証→標準化→収益化の順で進め、いきなり全社展開しない
- 料金モデルは成果報酬型を軸に、段階的に比重を高めていく設計が現実的である
「うちの営業組織にも、そういう人材がいたら」という疑問が浮かんだ時点が、相談のタイミングです。
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