井戸アビゲイル風果とは|世界陸上准決勝進出、日本勢14年ぶりの快挙
研修の休憩時間、スマートフォンでスポーツニュースを眺めていた人事担当者が「200mでこんな記録が出ているのか」と手を止める。そんな場面を作ったのが、東邦銀行に所属する井戸アビゲイル風果選手だ。2025年9月の東京世界陸上で、女子200m準決勝に進出。この種目で日本人選手が準決勝の舞台に立ったのは、2011年テグ大会の福島千里以来、14年ぶりのことだった。
井戸選手は岐阜県美濃加茂市出身で、中学時代には全中100mで優勝、200mでは今も残る中学最高記録を樹立している。至学館高、甲南大を経て2024年に東邦銀行へ入社。2025年・2026年の日本選手権では100m・200mの2年連続二冠を達成し、200mでは自己記録を22秒79まで伸ばして日本記録を更新した。東京世界陸上の準決勝では23秒15をマークし、従来の世界陸上における日本人最高(23秒25)を上回った。
「楽しかったです。すごくハイレベルのレースに参加させてもらえてよかった」。レース後、井戸選手は充実した表情でそう振り返っている。予選では22秒98のセカンドベストで5着通過というプラス通過だったが、本人の実感としては「後半にちょっと落ちてしまいました」という課題も残った一戦だった。
Q. 井戸アビゲイル風果選手はどんな成績を持つ選手ですか?
200mの日本記録保持者(22秒79)で、2025年・2026年の日本選手権100m・200mで2年連続二冠を達成しています。2025年の東京世界陸上では女子200mで日本勢14年ぶりの準決勝進出も果たしました。
(参考)井戸アビゲイル風果が200mセミファイナル23秒15の力走「22秒台をコンスタントに出して前半へ」/東京世界陸上 – 月刊陸上競技
世界女王シェリカ・ジャクソンが伝えた「臀部」という助言
準決勝で井戸選手と同じレースを走ったのが、200mで3連覇を目指すシェリカ・ジャクソン選手(ジャマイカ)だ。世界トップクラスの選手と同じ組で走った経験について、井戸選手は「強い選手と走ることで、同じレースで分析できます」と語っている。
そのジャクソン選手から井戸選手が受けたアドバイスは、しっかりと食事を摂ること、やるべきことをきちんとやること、そしてトレーニングのポイントとして「臀部(お尻)」を挙げるというものだった。世界女王が自らの経験から絞り込んだ助言が、体幹の中でも特に臀部の筋力に集中していたことは、スプリント種目における臀部の重要性を裏付ける実例といえる。
井戸選手自身も「22秒台をコンスタントに出すことが、22秒前半につながる。まずはそこだけを集中して、やっていきたい」と、今後の課題を明確に言語化している。トップ選手ほど、鍛える部位を絞り込んで言語化できているという点は、企業のコンディション施策を考える上でも参考になる姿勢だ。
(参考)井戸アビゲイル風果が200mセミファイナル23秒15の力走「22秒台をコンスタントに出して前半へ」/東京世界陸上 – 月刊陸上競技
臀部の強さがスプリント力を左右する3つの理由
なぜ世界女王は数ある助言の中から「臀部」を選んだのか。臀部の筋肉(大臀筋・中臀筋)は股関節を強く後方に伸展させる力を生み出す部位で、スプリントのキック動作、上半身を支える骨盤の安定性、そして下肢のケガ予防という3つの役割を同時に担っている。

図:臀部の強さがスプリント動作を支える3つの役割
推進力を生み出すキックの効率
短距離走の接地時間はごく短く、その一瞬で地面を強く後方に押し出す力(キック)が走速度を決める。この後方への押し出しを主導するのが大臀筋であり、臀部の筋力が弱いと接地時に骨盤が落ち込み、力の伝達効率が落ちてしまう。井戸選手のように後半のスピード維持を課題とする選手にとって、疲労時にも押し出す力を保てるかどうかは、臀部の持久的な筋力に直結する。
骨盤の安定によるフォームの一貫性
中臀筋は、片脚で接地する瞬間に骨盤が横に傾くのを防ぐ役割を持つ。この安定性が乱れると、走るたびにフォームが微妙にブレて、力の一部が前方への推進以外に逃げてしまう。井戸選手の200mの伸びを支えているのは、こうした細かいブレを抑える基礎筋力の高さでもある。
ハムストリングへの負荷分散とケガ予防
臀部の筋力が不足すると、股関節伸展の役割をハムストリング(もも裏)が過剰に代償することになり、肉離れなどのリスクが高まる。日本臨床スポーツ医学会誌に掲載されたプロサッカーチームの4年間の傷害調査では、下肢の傷害が全傷害の85.8%を占め、大腿部が最も高い頻度(23.9%)で発生していたと報告されている。臀部を強化することは、こうした下肢の代償的な負荷を減らす予防策としても位置づけられる。企業のスポーツ現場でケガのリスクを事前に把握したい場合は、ウェアラブルGPSで傷害リスクをどこまで予測できるかで紹介しているデータ活用の視点も参考になる。
Q. 臀部の筋力が弱いとどんな影響がありますか?
股関節を伸ばす力(キック)が弱まり走速度が落ちるほか、骨盤が安定せずフォームが乱れやすくなります。ハムストリングへの負荷が過剰になり、肉離れなどのリスクが高まる点も指摘されています。
(参考)プロサッカーチームを対象とした4年間における傷害調査 – 日本臨床スポーツ医学会誌
企業のコンディション施策に活かせる体幹強化の考え方
井戸選手の事例が示すのは、トップ選手であっても鍛える部位を絞り込み、負荷の少ない基礎的な種目を継続していることだ。企業が健康経営やスポーツ研修の一環として体幹強化を導入する場合も、いきなり専門的な設備を揃える必要はない。導入しやすい方法を集めて比較すると、規模や予算に応じた選択肢が見えてくる。
| 導入方法 | 内容 | 導入コスト | 向いている規模 |
|---|---|---|---|
| 自重トレーニング | ヒップスラスト・グルートブリッジなど器具不要の種目 | ほぼ0円 | 中小企業・個人単位 |
| 専門トレーナー指導 | 外部講師を招いた研修・フォームチェック | 1回数万円〜 | 研修予算がある企業 |
| フィットネス機器・アプリ | 負荷測定器・動作記録アプリの導入 | 月額数千円〜 | 継続的にデータを残したい企業 |
表:体幹(臀部)強化を企業で導入する場合の3つの選択肢
自重トレーニングから始める低コストの体幹強化
ヒップスラストやグルートブリッジは、いずれも床とマットさえあれば実施できる種目で、導入コストはほぼかからない。フォームの崩れは効果を下げるだけでなく腰への負担にもつながるため、最初の数回は動画や資料で正しい姿勢を確認してから始めるのが安全だ。
専門トレーナーの指導を受ける中小企業向けの選択肢
研修予算を確保できる企業であれば、外部の専門トレーナーを招いて短時間の講習を行う方法も有効だ。フォームの個別チェックが入ることで、自己流での継続よりもケガのリスクを抑えやすくなる。
フィットネス機器・アプリを導入する場合のポイント
継続的にデータを蓄積したい企業では、負荷測定器やトレーニング記録アプリの導入も選択肢になる。スポーツテック企業の比較を踏まえて自社の目的(記録の可視化か、フォーム改善か)に合った製品を選ぶことが重要だ。
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体幹強化の考え方は、選手個人の取り組みに限らず、企業のコンディション管理全体の設計にもつながる。導入の全体像は、下記のガイドで詳しく解説している。
一流アスリートのコンディショニング完全ガイドでは、睡眠・栄養・トレーニングを含めたコンディション管理全体の考え方を解説している。
Q. 企業が体幹強化を導入する際、まず何から始めればよいですか?
まずは器具の要らない自重トレーニング(ヒップスラスト等)から始めるのが低コストで導入しやすい方法です。継続を重視するならフォーム確認を専門トレーナーに一度依頼すると安全性が高まります。
すぐ試せる臀部強化トレーニングの実践ステップ
臀部強化は特別な設備がなくても、正しい順序で取り組めば十分な効果が期待できる。ここでは初心者でも取り組みやすい4つのステップを紹介する。

図:臀部強化トレーニングを習慣化する4つのステップ
ステップ①グルートブリッジで基礎の可動を作る
仰向けに寝て膝を立て、お尻を持ち上げて数秒キープする種目。まずはこの動作で臀部を意識的に使う感覚をつかむことが、次の種目の効果を高める土台になる。10〜15回×2〜3セットを目安に行う。
ステップ②ヒップスラストで負荷を高める
ベンチに肩甲骨を乗せてお尻を持ち上げる種目で、グルートブリッジより高い負荷をかけられる。自重で15回×3セットが安定してこなせるようになったら、ダンベルやバーベルなど負荷を追加する段階に進める。
ステップ③シングルレッグデッドリフトでバランス力を養う
片脚立ちの状態で上体を前傾させる種目で、片脚ずつの臀部の強さとバランス能力を同時に鍛えられる。スプリントは片脚接地の連続であるため、両脚同時の種目だけでなく片脚での安定性も養うことが実際の走りに直結する。
ステップ④週2回のルーティンとして継続する
筋力トレーニングの効果は一度きりでは定着しない。上記3種目を週2回、1回あたり15〜20分のルーティンとして組み込み、3〜4週間続けて変化を確認するのが現実的な進め方だ。
あわせて読みたいハーランドの筋トレメニューと体づくりの科学›
下半身全体のスプリント強化という観点では、ヴィニシウスのドリブル速度を支えるスプリントトレーニング法で紹介している加速力の高め方も参考になる。
Q. 臀部強化トレーニングはどのくらいの頻度で行うべきですか?
週2回、1回15〜20分程度が目安です。筋力トレーニングは休息日を挟むことで筋肉が回復し、効果が定着しやすくなります。
まとめ|臀部強化が導くパフォーマンスと安全性
井戸アビゲイル風果選手が世界女王から受けた「臀部」という助言は、スプリントの推進力・フォームの安定性・ケガ予防という3つの効果を同時に支える基礎トレーニングの重要性を示している。
- 臀部の筋力はキックの推進力、骨盤の安定、ハムストリングの負荷分散という3つの役割を担う
- 下肢の傷害は全体の85.8%を占めるとの調査があり、臀部強化はケガ予防の観点でも意味を持つ
- 企業導入は自重トレーニング・専門トレーナー指導・機器導入の3段階で規模に応じて選べる
- 実践は「基礎の可動→負荷を高める→バランスを養う→週2回で継続」の4ステップが現実的
- トップ選手も鍛える部位を絞り込んで継続している点が、コンディション施策全体のヒントになる
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