登山用品メーカー一覧12社|企業が読む業界4層構造

登山用品メーカー一覧12社と業界4層構造を示すアイキャッチ画像 スポーツビジネス

登山用品の会社を調べるときに効くのは、社名を覚えることではなく「その会社が業界のどの層にいるか」を先に見分けることです。登山用品業界は、自社でつくる専門メーカー、複数ブランドを束ねる総合スポーツ企業、海外ブランドを輸入する総代理店、売り場を持つ専門小売の4層に分かれていて、層が変われば問い合わせ先も価格の決まり方も変わります。

この記事では、公式サイトで会社概要を確認できた12社を一覧にし、それぞれが4層のどこに位置するかを整理しました。あわせて警察庁が2026年6月に公表した山岳遭難のデータから、そろえる装備の優先順位も示します。

  1. 登山用品の会社は「つくる→束ねる→売る」でたどれる
    1. 4層の全体像|メーカーから店頭までの流れ
    2. 専門メーカー|製品カテゴリーごとに6社が分かれる
    3. 総合スポーツ企業|2社が複数ブランドを束ねる
    4. 輸入総代理店|海外ブランドの窓口になる2社
    5. 専門小売|店頭で選定を支える2社
  2. 公式サイトで確認できた登山用品12社の一覧
    1. 株式会社シナノ|1919年創業のポール専業メーカー
    2. 株式会社エバニュー|体育器具とアウトドアの二本柱
    3. 株式会社好日山荘|年商90億円・45店舗の専門小売
    4. 株式会社ナンガ|従業員181名で羽毛製品を自社生産
    5. 株式会社ゴールドウイン|連結年商1,375億円の上場企業
    6. 株式会社キャラバン|1954年の1足から始まった登山靴
    7. 株式会社石井スポーツ|従業員574名・全国41店舗
    8. 株式会社アライテント|山岳テントを国内でハンドメイド
    9. 株式会社モチヅキ|ハーケンから始まった輸入総代理店
    10. 株式会社finetrack|神戸発の国産レイヤリング
    11. 株式会社ブルーシープ|2026年9月にロストアローの業務を承継
    12. 株式会社イスカ|寝袋に絞り込んだ専門メーカー
  3. 創業年をたどると業界に3つの世代がある
    1. 1919〜1924年に生まれた3社|大正期の会社が今も中核にいる
    2. 1941〜1965年に生まれた5社|戦後の登山ブームと重なる
    3. 1985年以降に生まれた3社|輸入と素材開発から入った世代
  4. 遭難の67.4%は道迷い・転倒・滑落|装備の優先順位が決まる
    1. 道迷い30.9%|地図とコンパスに予備バッテリーを足す
    2. 転倒19.2%|登山靴とトレッキングポール
    3. 滑落17.3%|ヘルメットは「持つ」ではなく「かぶる」
  5. 遭難者の75.6%が40歳以上|買い手の年齢層と重なる
    1. 総務省の調査では60代前後で行動者率が最も高い
    2. 警察庁の集計でも60〜79歳が遭難者の39.8%を占める
  6. 訪日外国人の遭難が統計開始以降で最多になった
  7. 社内のハイキングで用品をそろえる3つの手順
    1. 手順1|貸与にするか個人購入にするかを最初に決める
    2. 手順2|装備の最低ラインを1枚の紙に書き出す
    3. 手順3|数量と金額で発注先の層を切り分ける
  8. まとめ|層を見分けると発注先が決まる

登山用品の会社は「つくる→束ねる→売る」でたどれる

登山用品を扱う会社は、役割で見ると4つの層に分かれます。同じ「登山用品の会社」と呼ばれていても、テントを縫っている会社と、海外ブランドの窓口をしている会社と、店頭で足を測っている会社では、やっていることがまったく違います。スポーツ業界全体の構造については日本のスポーツ業界が抱える8つの課題でも整理しています。

4層の全体像|メーカーから店頭までの流れ

登山用品業界の4層構造を示す図解|専門メーカー6社・総合スポーツ企業2社・輸入総代理店2社・専門小売2社
公式サイトで会社概要を確認できた12社を、製造から店頭までの4層に分けた

左から右へ、製品が生まれて登山者の手に届くまでの流れです。日本の登山用品は、この4層のどこかに必ず当てはまります。

層を先に見分けておくと、問い合わせの空振りが減ります。たとえば「テントを30張まとめて借りたい・買いたい」という話は、専門小売に聞くより、テントを縫っている会社か、その卸に当たったほうが早く答えが返ってきます。

専門メーカー|製品カテゴリーごとに6社が分かれる

いちばん手前にいるのが、自社で企画・製造する専門メーカーです。特徴は、総合的に何でもつくる会社が少なく、ポール、寝袋、登山靴、テント、アンダーウェアというように製品カテゴリーごとに会社が分かれていることです。今回の12社では6社がここに入ります。

理由は、登山用品が「軽さ」と「壊れないこと」を同時に求められるためです。縫製や素材の作り込みが製品ごとにまったく違うので、1社で全カテゴリーを高い水準にそろえるのが難しく、結果として専業が残ります。

総合スポーツ企業|2社が複数ブランドを束ねる

2層目は、スポーツ用品全体を手がける企業のアウトドア部門です。自社ブランドに加えて海外ブランドのライセンス展開も持つため、扱う量が大きく、法人向けの窓口も整っています。

専門メーカーが「1カテゴリーを深く」なら、こちらは「複数ブランドを広く」です。同じ製品でも、どちらから買うかで価格の決まり方とロットの下限が変わります。

あわせて読みたいアウトドア用品11社比較|経営者が押さえる資本構造と市場動向›

輸入総代理店|海外ブランドの窓口になる2社

3層目は、海外ブランドの日本での窓口です。輸入・卸・修理受付・保証対応までを引き受けるため、海外ブランドを会社として調達する場合は、実質ここが取引相手になります。

この層は入れ替わりがあります。代理店契約が動くとブランドの窓口ごと変わるため、数年前の情報のまま問い合わせると担当会社が存在しないこともあります。卸の機能そのものについてはスポーツ用品卸売10社の選び方もあわせて読むと違いが見えます。

専門小売|店頭で選定を支える2社

4層目が、登山者と直接向き合う専門小売です。登山靴のフィッティングや修理、登山学校やクライミングジムの運営まで担っていて、売り場が同時に相談窓口になっているのがこの業界の特徴です。

小売の経営環境についてはスポーツ用品小売10社の比較で、専門店が生き残る条件を扱っています。

Q. 登山用品を法人でまとめて購入するときは、どの層に問い合わせればよいですか?

数量が数十点を超えるなら、専門メーカーか輸入総代理店の法人窓口が起点になります。点数が少なく、サイズ合わせや使い方の説明が必要な場合は、店頭で在庫と試着をその場で確認できる専門小売のほうが実務は早く進みます。

公式サイトで確認できた登山用品12社の一覧

ここから先は、会社概要ページで社名・創業年・事業内容を確認できた12社です。登山用品メーカー一覧や登山用品ブランド一覧という形でブランド名を並べた情報は多いのですが、会社としての規模や立ち位置まで分かるものは多くありません。選定条件は「公式サイトに会社概要ページがあり、登山・アウトドア用品を主要な事業として明記していること」で、この条件を満たさない会社は外しました。

出典:各社公式サイトの会社概要(2026年9月29日確認)。Human Soar が1社ずつ確認し、創業・設立年の古い順に並べた
社名 業界の層 創業・設立 主な領域
株式会社シナノ 専門メーカー 1919年創業 トレッキングポール・スキーポール・杖
株式会社エバニュー 総合スポーツ企業 1924年創業(1950年設立) 体育器具とアウトドア用品の製造・輸出入
株式会社好日山荘 専門小売 1924年創業 登山用品店45店舗・クライミングジム4店舗
株式会社ナンガ 専門メーカー 1941年創業 寝袋・ダウンウェア(自社縫製)
株式会社ゴールドウイン 総合スポーツ企業 1951年設立 アウトドアウェア(東証プライム上場)
株式会社キャラバン 専門メーカー 1954年創業 登山靴・トレッキングシューズ
株式会社石井スポーツ 専門小売 1964年設立 登山・スキー用品の専門店41店舗
株式会社アライテント 専門メーカー 1965年創業 山岳テント・ザック
株式会社モチヅキ 輸入総代理店 1985年設立 MSR・サーマレストなどの正規輸入
株式会社finetrack 専門メーカー 2004年設立 アンダーウェア・レイヤリング
株式会社ブルーシープ 輸入総代理店 2026年設立 ブラックダイヤモンド・オスプレーなどの正規輸入
株式会社イスカ 専門メーカー 公式サイトに記載なし 寝袋・シュラフ

出典:各社公式サイト(2026年9月29日時点)。層の区分は事業内容の記載にもとづく

株式会社シナノ|1919年創業のポール専業メーカー

長野県佐久市のポール専業メーカーです。トレッキングポール、スキーポール、ポールウォーキング用品、杖・ステッキまでを1社で手がけていて、公式サイトでは自社を「総合ポールメーカー」と名乗っています。2019年に創業100周年の記念ページを設けています。

杖・ステッキの直営店を有楽町・吉祥寺・名古屋栄・仙台・横浜で運営していて、登山用品でありながら高齢者の歩行支援という別の市場にも足をかけています。登山人口の年齢層を考えると、この二正面は理にかなっています。

(参考)株式会社シナノ 公式サイト

株式会社エバニュー|体育器具とアウトドアの二本柱

1924年(大正13年9月)創業、1950年設立。東京都江東区に本社を置き、資本金9,000万円、従業員81名の会社です。事業内容は「スポーツ用品製造および輸出入」で、学校の体育器具とアウトドア用品という性格の違う2つの柱を持っています。

公式サイトのトップメッセージには「スポーツを通じて健康的な社会創りに貢献する」という企業理念が掲げられていて、2024年に創業100周年を迎えたことが記されています。企業の福利厚生でアウトドアを使う場合、体育器具側の取引実績が窓口になることもあります。

(参考)株式会社エバニュー 会社概要

株式会社好日山荘|年商90億円・45店舗の専門小売

兵庫県神戸市の登山用品専門店で、創業は大正13年(1924年)。資本金5,000万円、年商90億円(令和7年5月期)、従業員385名(社員147名・アルバイト238名、令和7年5月現在)と、今回の12社のなかでは規模の大きい会社です。

店舗は登山用品店「好日山荘」45店舗、キャンプ用品店1店舗、フランチャイズ15店舗、クライミングジム「グラビティリサーチ」4店舗(令和8年9月現在)。用品を売るだけでなく、クライミングジムという体験の場まで自社で持っているのが特徴です。社員研修でクライミングを使う企業にとっては、用品と場所を同じ会社で相談できます。

(参考)株式会社好日山荘 会社概要

株式会社ナンガ|従業員181名で羽毛製品を自社生産

滋賀県米原市。創業1941年、資本金8,700万円、従業員181名(2026年2月現在)。羽毛製品を中心としたアウトドア製品・アパレル製品の企画、開発、製造、販売を行っています。

本社に縫製工場と生産管理部門、東京事業所に法人営業と商品企画、米原市内に物流センターという配置で、企画から縫製、出荷までを自社で一貫させているのが強みです。公式サイトでも「創業以来培ってきた縫製技術と品質管理」を軸に据えています。法人営業の窓口が明示されている点も、まとまった数量を扱う側には実務的です。

(参考)株式会社ナンガ 会社概要

株式会社ゴールドウイン|連結年商1,375億円の上場企業

1951年12月22日設立、資本金70億79百万円、連結ベースの年商1,375億16百万円(いずれも2026年3月31日現在)。東京証券取引所プライム市場に上場しています(証券コード8111)。

組織にザ・ノース・フェイス事業本部とグローバルブランド事業本部を置き、複数ブランドを束ねる体制をとっています。社外取締役には元陸上選手の為末大氏、元競泳選手の井本直歩子氏が名を連ねていて、スポーツの現場を知る人材を経営に入れている点も他の11社と違います。

(参考)株式会社ゴールドウイン 会社概要

株式会社キャラバン|1954年の1足から始まった登山靴

公式サイトによれば、キャラバンの歴史は1954年、1足のトレッキングシューズから始まりました。自社で企画・開発・製造する登山靴に加えて、独自の視点で選んだ海外ブランドも扱っていて、専門メーカーでありながら輸入の機能も併せ持っています。

一般社団法人 赤岳鉱泉山岳診療所の賛助会員として運営を支援している点も特徴です。同診療所は日本登山医学会認定の山岳医・山岳看護師の協力のもと八ヶ岳連峰に開設され、受診料は無料。用品メーカーが登山者の安全側にも資金を出している例です。

(参考)株式会社キャラバン キャラバンについて

株式会社石井スポーツ|従業員574名・全国41店舗

東京都新宿区。昭和39年(1964年)4月設立、資本金4,912万5,000円、従業員574名。石井スポーツ27店舗とアートスポーツ14店舗を合わせて全国41店舗を展開する、スキー・登山用品の専門店です。

自社製靴工場を持ち、客の登山靴を自社で修理しています。また「登山学校」を運営していて、講義とツアーを組み合わせた学びの場を提供しています。用品の販売に技能の教育がくっついている形で、初めて登る人を送り出す企業には使い道があります。

(参考)株式会社石井スポーツ 会社概要

株式会社アライテント|山岳テントを国内でハンドメイド

埼玉県所沢市。創業1965年1月1日、資本金1,000万円。事業内容は「登山用テントおよびリュックサック、その他縫製品の企画製造、卸販売」です。オリジナルブランド「RIPEN(ライペン)」で、エアライズ、トレックライズなどの軽量テントを出しています。

公式サイトの沿革によれば、1965年の創業以来、石井スポーツのオリジナルテント・ザックのOEM生産を続けています。メーカーと小売が製品づくりで直接つながっているという、この業界の距離の近さがよく分かる記載です。

(参考)株式会社アライテント 会社概要

株式会社モチヅキ|ハーケンから始まった輸入総代理店

新潟県三条市。昭和60年(1985年)1月1日設立、資本金1,000万円、業務内容はアウトドア用品輸入販売。MSR、サーマレスト、プラティパス、シールラインなど、カスケードデザイン社をはじめとする海外ブランドの日本正規総代理店です。

公式サイトでは、1950年代に登山家・望月力氏が国産ハーケンの開発から始めた「国内唯一のハーケンメーカー」に源流を持つと説明されています。つくる側から輸入側へ移った会社で、金物の産地である三条に拠点があるのも偶然ではありません。

(参考)株式会社モチヅキ 会社概要

株式会社finetrack|神戸発の国産レイヤリング

2004年1月16日設立、本社は兵庫県神戸市中央区、資本金990万円。東京オフィスを千代田区に置いています。汗冷えを抑えるドライレイヤーを軸に、5枚を重ねる「5レイヤリング」という着方そのものを製品設計の前提にしているのが特徴です。

公式サイトには「MADE IN JAPAN」「遊び手が創り手」というブランドページがあり、素材開発からものづくりを組み立てる姿勢を打ち出しています。設立2004年は12社のなかで2番目に新しく、素材から入った新しい世代の会社です。

(参考)株式会社finetrack 企業情報

株式会社ブルーシープ|2026年9月にロストアローの業務を承継

2026年6月5日設立、埼玉県鶴ヶ島市、資本金1,023万円。事業内容は登山、クライミング、バックカントリースキー、アウトドア用品の正規輸入・卸・販売で、ブラックダイヤモンド、オスプレー、スカルパ、スマートウール、シートゥサミットなど11ブランドを扱います。

公式サイトの告知によれば、株式会社ロストアローの輸入代理店業務は2026年8月末で終了し、2026年9月1日からロストアロー社員が立ち上げたブルーシープが承継しました。ロストアローの創業から44年での交代です。代理店契約の窓口は数年で変わりうるという、この層の性質がそのまま表れた事例です。

(参考)株式会社ブルーシープ 会社情報

株式会社イスカ|寝袋に絞り込んだ専門メーカー

公式サイトで自社を「寝袋・シュラフの専門メーカー」と位置づけている会社です。登山用の寝袋に加えて、キャンプ用、防災用寝袋、スパッツ、グローブまでを扱い、購入後のクリーニングサービスも自社で受け付けています。

創業年は公式サイトの公開ページで確認できなかったため、一覧では空欄にしています。防災用寝袋を製品ラインに持つ点は、企業の備蓄を考える担当者にとって接点になります。

(参考)株式会社イスカ 公式サイト

創業年をたどると業界に3つの世代がある

12社の創業・設立年を並べ直すと、登山用品の会社は3つの時期に固まって生まれていることが分かります。公式サイトで創業年を確認できた11社を、生まれた時期で3つに分けました(イスカは公開ページで創業年を確認できなかったため除いています)。

1919〜1924年に生まれた3社|大正期の会社が今も中核にいる

シナノ(1919年)、エバニュー(1924年)、好日山荘(1924年)の3社です。日本アルプスへの登山が一般に広がり始めた時期と重なります。この3社はいずれも登山専業では始まっておらず、ポール、体育器具、小売という別の入口から登山用品に入っています。

100年続いている理由を1つに絞ることはできませんが、3社とも登山以外の柱(杖、学校体育、クライミングジム)を持っている点は共通しています。

1941〜1965年に生まれた5社|戦後の登山ブームと重なる

ナンガ(1941年)、ゴールドウイン(1951年設立)、キャラバン(1954年)、石井スポーツ(1964年設立)、アライテント(1965年)の5社です。今回の12社のうち、いちばん多い世代がここに入ります。

寝袋、ウェア、登山靴、小売、テントと、製品カテゴリーがきれいに分かれているのが特徴です。日本の登山用品の主要カテゴリーは、この20年余りのあいだに担い手が決まったと言えます。

1985年以降に生まれた3社|輸入と素材開発から入った世代

モチヅキ(1985年設立)、finetrack(2004年設立)、ブルーシープ(2026年設立)の3社です。この世代は、既存カテゴリーの製造で後から参入するのではなく、海外ブランドの輸入か、素材そのものの開発から入っています。

後発が製造で真っ向勝負しにくい業界であることが、この並びから読み取れます。新規に参入するなら、窓口機能か素材のどちらかを持つのが現実的な選択になります。

Q. 登山用品メーカーは大手企業ばかりですか?

いいえ。公式サイトで資本金を公表している会社を見ると、アライテントとモチヅキは1,000万円、finetrackは990万円で、中小規模の会社が実際の作り手になっています。東証プライム市場に上場しているのは、今回の12社ではゴールドウイン1社だけです。

遭難の67.4%は道迷い・転倒・滑落|装備の優先順位が決まる

そろえる順番に迷ったら、実際に何が起きているかから決めるのが確実です。警察庁が2026年6月18日に公表した「令和7年における山岳遭難の概況等」によれば、令和7年の遭難者3,623人のうち、道迷い30.9%、転倒19.2%、滑落17.3%で、この3つで全体の67.4%を占めます。

裏を返せば、道具と事前準備で発生確率を下げられる態様が、遭難の3分の2だということです。同資料は遭難防止のために必要な装備として、登山靴、ヘルメット、雨具、ツェルト、地図とコンパス、行動食、連絡用の通信機器と予備バッテリーを挙げています。

遭難の態様 令和7年の構成比 警察庁が挙げる装備
道迷い 30.9%(1,119人) 地図・コンパス・登山地図アプリ・予備バッテリー
転倒 19.2%(694人) 登山靴・トレッキングポール
滑落 17.3%(626人) ヘルメット・アイゼン・ピッケル

出典:警察庁「令和7年における山岳遭難の概況等」(令和8年6月18日公表)。構成比は同資料の表5、装備は同資料「山岳遭難防止対策」より抜粋し、Human Soar が態様別に対応づけた

道迷い30.9%|地図とコンパスに予備バッテリーを足す

最も多い態様です。警察庁は登山地図アプリと紙の地図の併用を挙げていて、片方に寄せない使い方を推奨しています。あわせて、GPS機能付き携帯電話は現在地を伝える手段として有効な一方、多くの山岳で通話エリアが限られることとバッテリー残量に注意が必要だとしています。

実務に落とすと、地図アプリを入れたスマートフォンだけでは足りず、紙の地図・コンパス・モバイルバッテリーの3点が最低ラインになります。単価が低く、まとめて配りやすい装備でもあります。

転倒19.2%|登山靴とトレッキングポール

2番目に多く、構成比は令和2年の13.8%から令和7年の19.2%へ、6年で5.4ポイント上がりました。警察庁は滑落・転落防止の項で「日頃から手入れされた登山靴やピッケル、アイゼン、ストック等の装備を的確に使いこなす」ことを挙げています。

登山靴は足型に合わせる必要があるため、まとめ買いに最も向かない装備です。ここだけは専門小売のフィッティングを通したほうが、結果的にトラブルが減ります。

滑落17.3%|ヘルメットは「持つ」ではなく「かぶる」

滑落は死者・行方不明者に直結しやすい態様です。警察庁は、滑落・転落するおそれがある場所を通過するときは、上方からの落石に備えて必ずヘルメットを着用すると明記しています。

企業がハイキングを企画する場合、ヘルメットを用意するかどうかは行き先の難易度で決まります。装備そのものより、どのコースなら不要かを先に決めるほうが判断は早くなります。

(参考)令和7年における山岳遭難の概況等 – 警察庁生活安全局生活安全企画課

遭難者の75.6%が40歳以上|買い手の年齢層と重なる

登山用品の主な買い手は中高年層です。警察庁の令和7年データでは、遭難者3,623人のうち40歳以上が2,739人で75.6%、60歳以上が1,723人で47.6%を占めます。総務省統計局の調査でも、登山・ハイキングの行動者率は60代前後が最も高いという結果が出ていて、2つの公的データは同じ方向を指しています。

年齢層が高いことは、用品側の設計にも表れています。シナノが杖・ステッキの直営店を持ち、石井スポーツが登山学校を運営しているのは、この層に道具だけを売っても足りないという判断があるからです。

総務省の調査では60代前後で行動者率が最も高い

総務省統計局の統計トピックスNo.96「登山・ハイキングの状況」によれば、15歳以上の登山・ハイキングの行動者は972万7千人、行動者率は9.0%です。男女・年齢5歳階級別に見ると、男性は65〜69歳が13.2%、女性は60〜64歳が12.0%で最も高くなっています。平均行動日数も50歳代以降、歳を重ねるにつれて増えています。

なお、この数値は平成23年の社会生活基本調査にもとづくものです。年齢構成の傾向を読むための参考として扱ってください。

警察庁の集計でも60〜79歳が遭難者の39.8%を占める

令和7年の遭難者を年齢層別に見ると、60〜69歳が19.1%、70〜79歳が20.7%で、この2階級だけで39.8%になります。死者・行方不明者に絞ると70〜79歳が30.7%と最も高くなります。

行動者率の高い年齢層と、遭難者の多い年齢層が重なっている、という関係が見られます。参加者が中高年中心になる社内イベントでは、若い社員を想定した装備リストがそのままでは使えないことを意味します。

(参考)統計トピックスNo.96 登山・ハイキングの状況 – 総務省統計局

(参考)令和7年における山岳遭難の概況等 – 警察庁生活安全局生活安全企画課

Q. 社内でハイキングを企画するとき、装備は専門店でそろえたほうがよいですか?

足のサイズや体格に合わせる必要がある登山靴とザックは、試着できる専門小売が向いています。雨具やヘルメットのようにサイズ展開が粗く規格で選べるものは、メーカーや輸入総代理店の法人窓口でまとめて調達する選択肢もあります。

訪日外国人の遭難が統計開始以降で最多になった

いま登山用品業界で最も動いている数字は、訪日外国人です。警察庁の令和7年データでは、訪日外国人の山岳遭難は発生件数174件、遭難者数246人(うち死者・行方不明者6人)で、いずれも平成30年の統計開始以降で最多となりました。

前年の令和6年は発生99件・遭難者135人でしたから、遭難者数は1年で82.2%増えた計算になります。令和3年には遭難者1人まで落ち込んでいた数字が、4年で246人に戻り、それ以前の水準を超えました。

遭難者が増えたということは、装備を持たずに山に入る人がそれだけ増えたということでもあります。レンタルや現地調達の需要が生まれている一方で、多言語の説明や海外規格のサイズ対応という、これまでの国内市場では必要なかった手当てが要ります。スポーツ産業の課題と解決策で扱っている市場拡大の論点とも重なるところです。

(参考)令和7年における山岳遭難の概況等 – 警察庁生活安全局生活安全企画課

社内のハイキングで用品をそろえる3つの手順

ここまでの内容を、企業が実際に動くときの順番に並べ直します。決める順番を間違えると、買ったあとに使われない装備が倉庫に残ります。

手順1|貸与にするか個人購入にするかを最初に決める

最初の分岐はここです。会社が備品として持つなら、サイズ違いを何本も抱えることになり、保管と点検の手間が毎年かかります。個人購入の補助にするなら、会社の在庫はゼロで済みますが、装備の水準をそろえられません。

実務的には、サイズが関係しない装備(ヘルメット、ツェルト、地図、モバイルバッテリー)は会社の貸与、サイズが関係する装備(登山靴、ザック、レインウェア)は個人購入の補助、という分け方が扱いやすくなります。

手順2|装備の最低ラインを1枚の紙に書き出す

業務としてハイキングを行うなら、参加者の安全を確保する責任は会社側にあります。装備の最低ラインを口頭で伝えるのではなく、文書にして参加者に配る形にしておくと、当日の持ち物確認がそのまま記録になります。

書き出す項目は、警察庁が挙げている装備がそのまま使えます。登山靴、雨具、ヘルメット(コースによる)、地図とコンパス、行動食、携帯電話と予備バッテリー。加えて、登山計画書を家族と職場の双方に共有することも同資料が求めています。

手順3|数量と金額で発注先の層を切り分ける

最後に、前半で見た4層のどこに当たるかを決めます。数十点以上をまとめるなら専門メーカーか輸入総代理店の法人窓口、点数が少なく試着が要るなら専門小売、ブランドを横断してそろえたいなら総合スポーツ企業という切り分けになります。

スポーツ体験を研修に組み込む場合の設計は、次の記事で扱っています。

あわせて読みたいチームビルディングにスポーツ体験を|プログラムの選び方と導入効果ガイド›

Q. 登山用品ブランド一覧を見ても、どこが日本の会社か分かりません。見分け方はありますか?

公式サイトの会社概要を見れば分かります。事業内容に「正規輸入」「総代理店」とある会社は海外ブランドの窓口で、「企画」「製造」「縫製」とある会社は自社でつくっている会社です。ブランド名ではなく事業内容の一行を読むのが近道です。

まとめ|層を見分けると発注先が決まる

登山用品業界を4層で捉えると、社名を覚えなくても相談先にたどり着けます。この記事の要点を振り返ります。

  • 登山用品の会社は、専門メーカー6社・総合スポーツ企業2社・輸入総代理店2社・専門小売2社の4層に分かれる(公式サイトで確認できた12社)
  • 専門メーカーは製品カテゴリーごとに分かれていて、1社で全カテゴリーをそろえる会社はほとんどない
  • 創業年は1919〜1924年の3社、1941〜1965年の5社、1985年以降の3社に分かれ、後発は輸入か素材開発から入っている
  • 令和7年の遭難は道迷い30.9%・転倒19.2%・滑落17.3%で全体の67.4%。装備の優先順位はこの順で決めてよい
  • 訪日外国人の遭難者は246人で統計開始以降の最多。前年から82.2%増えており、多言語対応とサイズ対応が新しい課題になる

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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