スポーツと血糖値の関係|企業が知る運動の効果と注意点

スポーツと血糖値の関係と、企業が知る運動の効果と注意点を解説する記事のアイキャッチ スポーツウェルビーイング

健康診断の結果をまとめた一覧に、「血糖 要注意」の文字が何人も並んでいる。運動を勧めたいけれど、どのくらい動けばいいのか、持病のある人に勧めて大丈夫なのか、根拠を持って答えられない。健康施策の担当者なら、一度は手が止まる場面です。

スポーツと血糖値の関係は、仕組みとしてははっきりしています。体を動かすと筋肉が血液中の糖を取り込み、血糖値の上昇が抑えられます。厚生労働省は成人に、歩行と同じかそれ以上の強さの身体活動を1日60分以上、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上行うことを勧めています。

この記事では、運動で血糖値が動く仕組み、勧められる運動量、パフォーマンスや低血糖との関係、働く世代のデータ、そして企業ができることを、厚生労働省と学会の資料をもとに整理します。

スポーツと血糖値の関係は筋肉が糖を取り込む仕組みで説明できる

スポーツと血糖値の関係を示す流れ図(体を動かすと筋肉が収縮して糖を取り込み、血糖値の上昇が抑えられる)

運動で血糖値の上昇が抑えられるのは、動いた筋肉が血液中の糖を取り込むからです。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の情報シートは、身体活動に伴う筋肉の収縮が、糖を運ぶたんぱく質(GLUT4)の働きを通して「糖取り込みを促進する」と説明しています。あわせて、インスリンの効きやすさが改善し、「血糖値の上昇を抑えます」とも書かれています。

運動の種類による違いもあります。国立の糖尿病情報センターによると、有酸素運動では筋肉への血流が増えて糖が細胞に取り込まれ、筋力トレーニングでは筋肉が増えることでインスリンの効果が高まります。ウォーキングのような運動と筋トレは、別々の道筋で血糖値に働くわけです。

気をつけたい点が2つあります。1つは、効果が長くは続かないこと。同センターは、運動をやめるとその効果は「3日程度で失われていきます」と説明しています。もう1つは、強度の高い激しい運動では、血糖値を上げるホルモンの分泌が増え、一時的に血糖値が高くなることがある点です。週末にまとめて激しく動くより、間を空けずに続けるほうが理にかなっています。

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 情報シート「身体活動による疾患等の発症予防・改善のメカニズム」 – 厚生労働省

(参考)糖尿病の運動のはなし – 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)

Q. スポーツをすると血糖値は下がりますか?

体を動かすと筋肉が血液中の糖を取り込むため、血糖値の上昇は抑えられます。厚生労働省の資料は、筋肉の収縮が糖の取り込みを促し、インスリンの効きやすさを改善すると説明しています。ただし強度の高い激しい運動では、一時的に血糖値が高くなることがあります。

血糖値のために勧められる運動量は4つの数字で押さえる

どのくらい動けばよいかは、厚生労働省のガイドが成人向けに示している4つの数字が目安になります。社内で運動を呼びかけるときも、この4つを伝えれば足ります。

項目 成人への推奨 職場での置き換え
身体活動 歩行と同等以上の強さで1日60分以上(1日約8,000歩以上に相当) 通勤や移動で歩く時間を合計する
運動 息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上 週2回、30分ずつの運動の機会をつくる
筋力トレーニング 週2〜3日 始業前や昼休みに短い筋トレの時間を置く
座りっぱなし 長くなりすぎないように注意(例えば30分ごとに中断) 会議や作業の合間に立つ時間を入れる

出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」成人版。「職場での置き換え」はHuman Soar編集部による例示

身体活動|1日60分以上を歩く時間の合計で考える

1つ目は、1日60分以上の身体活動です。ガイドは1日約8,000歩以上に相当するとしています。まとまった運動の時間でなくても、通勤や社内の移動で歩く時間を足し合わせて考えられます。

食後の血糖値が気になる人については、糖尿病情報センターが「食後1~2時間頃に運動を行うとよい」と案内しています。昼食後に少し歩く習慣は、この考え方に沿ったものです。

運動|週60分以上を間を空けずに続ける

2つ目は、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上です。糖尿病のある人については、同じガイドの情報シートが週150分以上の中強度の身体活動を目安に挙げ、運動を行わない日が2日以上続かないようにする、と書いています。

効果の大きさを示す数字もあります。日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」は、2型糖尿病の人を対象に8週間以上の運動療法を行った研究をまとめた結果として、HbA1c(過去1〜2か月の血糖の状態を示す値)が0.66%改善したと紹介しています。週150分より少ない30〜100分でも、時間に応じた改善が示されているとのことです。ただし、これは2型糖尿病の人での数字です。健診で「やや高め」と言われた段階の人にそのまま当てはまるわけではありません。

筋力トレーニング|週2〜3日を目安にする

3つ目は、週2〜3日の筋力トレーニングです。先ほどの仕組みのとおり、筋トレは有酸素運動とは別の道筋で血糖値に働きます。糖尿病のある人向けの情報シートも、筋力トレーニングを週2〜3日、連続しない日に行うことを目安にしています。

座りっぱなし|30分ごとに立つ

4つ目は、座っている時間を区切ることです。ガイドは、長時間の座位行動を「(例えば、30分ごとに)中断」することが、食後血糖値などのリスクを下げるうえで重要だと報告されている、と紹介しています。

運動の時間を新しくつくるのが難しい職場でも、これならすぐに始められます。長い会議の途中で立つ時間を入れる、といった小さな工夫が当てはまります。

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 – 厚生労働省

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 情報シート「慢性疾患を有する人の身体活動のポイント」 – 厚生労働省

(参考)糖尿病診療ガイドライン2024 4章 運動療法 – 日本糖尿病学会

(参考)糖尿病の運動のはなし – 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)

血糖値とスポーツのパフォーマンスは糖質の補給でつながる

血糖値とスポーツのパフォーマンスの関係は、体を動かすエネルギー源である糖質を通じて説明できます。一方で、薬で治療中の人には低血糖という逆向きのリスクがあります。社内のスポーツイベントを企画する側は、両方を知っておく必要があります。

糖質はスポーツのエネルギー源になる

国立スポーツ科学センターは、炭水化物(糖質)を、瞬発的な運動でも持久的な運動でも「スポーツのエネルギー源として最も大切な栄養素」と説明しています。食事を抜いて運動会やマラソン大会に出ると力が出ない、というのは、このエネルギー源が足りていない状態です。

なお、運動中に糖質を何グラム補給すればパフォーマンスが上がるか、といった具体的な数値は、今回確かめた公的機関の日本語の資料では確認できませんでした。この記事では数値を挙げず、「食事を抜かずに参加する」という基本にとどめます。

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(参考)炭水化物(スポーツ栄養) – 国立スポーツ科学センター

治療中の人は低血糖への備えを先に決める

糖尿病を薬で治療している人は、運動で血糖値が下がりすぎることがあります。糖尿病情報センターは、運動の量や時間が多いときの運動中や運動後、空腹での運動を、低血糖の原因に挙げています。運動するときはブドウ糖や軽食を準備しておくこと、運動を始める前に主治医に相談することも勧めています。

そもそも運動を控えたほうがよい状態もあります。厚生労働省のガイドは、空腹時血糖が250mg/dL以上など血糖の管理が極端に悪い場合、運動は禁忌だとしています。

※この記事は一般的な情報の整理です。持病のある方や治療中の方が運動を始めるときは、必ず主治医に相談してください。社内イベントの案内にも、「治療中の方は主治医に相談のうえ参加を」「補食を用意します」の2行を入れておくと安心です。

(参考)低血糖 – 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)

(参考)糖尿病の運動のはなし – 糖尿病情報センター(国立健康危機管理研究機構)

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 – 厚生労働省

Q. 血糖値はスポーツのパフォーマンスに関係しますか?

関係します。国立スポーツ科学センターは、糖質をスポーツのエネルギー源として最も大切な栄養素と説明しています。一方、糖尿病を薬で治療している人は運動中や運動後に低血糖を起こすことがあるため、主治医への相談と補食の準備が必要です。

働く世代の血糖値は男性の50代で割合が大きく上がる

働く世代の血糖値の実態を示す棒グラフ(糖尿病が強く疑われる男性の割合は40代4.9%から50代15.2%に上がる)

血糖値の問題は、働いている年代のうちに表に出てきます。厚生労働省の令和6年「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる者」は約1,100万人と推計され、20歳以上の12.9%(男性17.7%、女性9.3%)にあたります。

年齢別の図を見ると、男性では40代の4.9%から50代で15.2%へと、およそ3倍になっています。60代は20.5%です。管理職として組織を支える年代で、割合が一気に上がっていることになります。

同じ調査で、運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上続けている人)の割合は、20〜64歳で男性27.2%、女性23.4%でした。年齢別では、男女とも30〜40代が低くなっています。

この2つを並べると、運動習慣がいちばん少ない30〜40代のすぐ後に、糖尿病が強く疑われる人の割合が上がる50代が来ています。同じ人を追いかけた調査ではないので、原因と結果の関係までは言えません。それでも、施策の対象を「数値が悪くなった50代」だけに絞らず、30〜40代から運動の機会をつくることには意味がある、と読めるデータです。予防の全体像はスポーツで生活習慣病を予防する企業施策でも扱っています。

(参考)令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要 – 厚生労働省

企業が血糖値に関われる場面は健診と職場の運動機会の2つ

会社が従業員の血糖値に関われるのは、健康診断の結果を使う場面と、職場で体を動かす機会をつくる場面です。どちらも、すでにある仕組みの上に乗せられます。

健診の判定値で声をかける対象を決める

血糖検査は、会社が年1回行う定期健康診断の項目に入っています。40〜74歳が対象の特定健診では、判定の基準が決まっています。空腹時血糖は100mg/dL以上が保健指導の判定値、126mg/dL以上が受診を勧める判定値。HbA1cは5.6%以上と6.5%以上です。

この2段階を知っていると、声のかけ方を分けられます。受診を勧める判定値を超えた人には医療機関の受診を、保健指導の判定値を超えた人には運動の機会を案内する、という分け方です。個人の結果は健康情報なので、産業医や保健師と相談し、決められた手順の中で扱います。

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(参考)労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう – 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

(参考)標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)別紙5 健診検査項目の保健指導判定値及び受診勧奨判定値 – 厚生労働省

職場での取り組みは4か月で変化が出た研究がある

職場で取り組んだ場合の結果も、厚生労働省のガイドに研究報告として載っています。高血糖などメタボリックシンドロームのリスクを持つ日本人の労働者101人を対象にした研究では、食事と身体活動の目標設定、月1回の助言、歩数の記録などを4か月続けた結果、体重や血糖などが、取り組んだグループで有意に改善しました。運動だけでなく食事も含めた取り組みで、下がった幅の数値は資料に書かれていません。

環境を変える方法もあります。同じ資料は、オフィスを改修したグループで、座っている時間が1日40分減ったという報告も紹介しています。運動を「個人の努力」にせず、仕組みと環境で後押しする。ここが会社にしかできない部分です。従業員の健康を支える考え方の全体は、ウェルビーイング施策の設計法にまとめています。

あわせて読みたい健康経営にスポーツを活用した企業事例10選|導入効果と実践ポイント›

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 情報シート「働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント」 – 厚生労働省

Q. 会社として従業員の血糖値対策に何ができますか?

健康診断の結果を使った声かけと、職場で体を動かす機会づくりの2つです。特定健診では、空腹時血糖100mg/dL以上、HbA1c5.6%以上が保健指導の判定値になっています。座っている時間を30分ごとに区切るなど、環境を変える方法もあります。

まとめ|スポーツと血糖値の関係を職場の習慣に生かす

スポーツと血糖値の関係について、要点を振り返ります。

  • 体を動かすと筋肉が糖を取り込み、血糖値の上昇が抑えられる。効果は続けないと数日で薄れる
  • 成人の目安は、身体活動1日60分以上、運動週60分以上、筋トレ週2〜3日、座りっぱなしは30分ごとに中断
  • パフォーマンスとは糖質を通じてつながる。治療中の人は低血糖に備え、主治医に相談する
  • 糖尿病が強く疑われる人は20歳以上の12.9%。男性は50代で割合が大きく上がる
  • 会社が関われるのは、健診の結果を使った声かけと、職場で体を動かす機会づくり

まずは、来週のいちばん長い会議に「30分たったら全員で立つ」を入れてみてください。準備も費用も要らず、4つの数字のうち1つをすぐに実行できます。運動を続ける仕組みを広げたいときは、自宅トレーニングアプリの比較も参考になります。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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