職場の腰痛対策|企業が進める3管理1教育とスポーツ習慣

職場の腰痛対策|企業が進める3管理1教育とスポーツ習慣 スポーツウェルビーイング

職場の腰痛対策は、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」に沿って、作業管理・作業環境管理・健康管理の3つの管理と労働衛生教育を組み合わせて進めるのが基本です。腰痛は休業4日以上の業務上疾病の約6割を占める最も多い病気で、重い物を扱う現場だけでなく、座りっぱなしの事務仕事でも起こります。椅子と机の高さを体に合わせる、同じ姿勢を続けない、ストレッチを中心にした腰痛予防体操を取り入れる、復帰時は産業医の意見で作業を調整する。この4点を押さえ、日ごろの運動やスポーツの習慣づくりまでつなげると、対策が続きやすくなります。

段ボールを持ち上げた瞬間、腰に電気が走ったように動けなくなる。デスクで一日を過ごした夕方、立ち上がろうとすると腰が固まって伸びない。どちらも珍しい場面ではありません。ここでは、国の統計で腰痛の実態を確かめたうえで、指針が示す対策の中身と、ストレッチ・椅子選び・職場復帰の考え方を順に整理します。

職場の腰痛は業務上疾病の約6割|令和6年の統計で見る実態

職場の腰痛は、仕事が原因の病気のなかで最も多い病気です。厚生労働省の「業務上疾病発生状況等調査(令和6年)」によると、休業4日以上の業務上疾病は新型コロナウイルス感染症によるものを除いて10,963人でした。このうち、重い物を持ち上げた拍子などに起きる「災害性腰痛」が6,291人、負傷によらない業務上の腰痛が50人で、合わせて6,341人です。全体に占める割合は約57.8%になります(本記事の計算値)。同じ年の熱中症は1,257人なので、腰痛の多さが分かります。

業種別に見ると、災害性腰痛が最も多いのは介護や医療を含む保健衛生業です。小売や物流を含む業種にも広がっており、特定の現場だけの問題ではありません。

業種 災害性腰痛(令和6年・休業4日以上)
保健衛生業 2,251人
商業・金融・広告業 1,170人
製造業 854人
運輸交通業 734人
その他の事業 379人
接客・娯楽業 301人
全業種の合計 6,291人

出典:厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査(令和6年)」第1表をもとに Human Soar 作成。件数の多い6業種と合計を掲載。令和7年4月7日までに把握された数値

保健衛生業の2,251人は、災害性腰痛全体の約35.8%にあたります(本記事の計算値)。介護・看護には人を抱え上げる作業があり、指針も腰痛の発生が比較的多い5つの作業の1つに介護・看護作業を挙げています。一方で、商業・金融・広告業も1,170人と2番目に多く、売り場の品出しや事務所での作業も無関係ではありません。

労働災害の統計でも同じ傾向が出ています。令和6年の休業4日以上の死傷者を事故の型で分けると、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」は22,218人で、「転倒」の36,378人に次いで2番目に多い型でした。転倒も腰を痛める原因になるので、転ばない職場づくりも腰痛対策の一部です。

転倒と腰痛の労災データを業種ごとに詳しく見たい場合は、転倒・腰痛と身体づくりの安全データにまとめています。

(参考)業務上疾病発生状況等調査(令和6年) – 厚生労働省

(参考)令和6年の労働災害発生状況を公表(2025年5月30日) – 厚生労働省

Q. 職場の腰痛はどのくらい多いのですか?

休業4日以上の業務上疾病のなかで、腰痛は最も多い病気です。厚生労働省の令和6年の調査では、新型コロナウイルス感染症を除く業務上疾病10,963人のうち、腰痛は6,341人で約57.8%を占めました(割合は本記事の計算値)。

職場における腰痛予防対策指針とは|3管理1教育で進める枠組み

職場の腰痛対策の枠組み。労働衛生管理体制を土台に、リスクアセスメント、作業管理・作業環境管理・健康管理と労働衛生教育を積み上げる図

職場における腰痛予防対策指針は、企業が腰痛を防ぐための進め方を厚生労働省がまとめたものです。平成6年9月に示され、平成25年6月18日に改訂されました。改訂では、高齢者介護などの社会福祉施設で腰痛が大きく増えていたことを受けて、対象を福祉・医療分野の介護・看護作業全般に広げています。

指針は、腰痛の原因を4つに分けて考えます。重い物の扱いや前かがみ・ひねりなどの「動作要因」、振動・寒さ・滑りやすい床・暗さなどの「環境要因」、年齢や体格・筋力・持病などの「個人的要因」、そして職場の人間関係や支援不足などの「心理・社会的要因」です。実際の腰痛は、このうち1つだけでなく、いくつかが重なって起きるとされています。

原因が複数あるので、対策も1つでは足りません。指針は、事業者がトップとして取り組む方針を示し、担当者の役割と権限を決めて体制をつくることを土台に置いています。そのうえで、作業ごとに腰痛の要因を洗い出して大きいものから手を打つ「リスクアセスメント」を行い、作業管理・作業環境管理・健康管理の3つの管理と労働衛生教育を組み合わせて続けるよう求めています。

指針の本文は一般的な対策に加えて、腰痛が多い5つの作業(重量物の取扱い、立ち作業、座り作業、介護・看護作業、車両の運転など)ごとの対策を別紙で示しています。自社に当てはまる作業の項目から読むと、手を付ける順番を決めやすくなります。

(参考)「職場における腰痛予防対策指針」の改訂について – 三重労働局

(参考)職場における腰痛予防対策指針及び解説 – 厚生労働省

Q. 職場における腰痛予防対策指針に法的な義務はありますか?

指針そのものは法律ではなく、厚生労働省が示した対策の進め方です。ただし労働安全衛生法は、事業者に労働者の健康の保持増進のための措置を講じるよう努めることを求めています。自社の作業でどこまで対応すべきかは、産業医や労働基準監督署に確認すると確実です。

腰痛を防ぐ職場の作業管理と環境づくり|椅子・机・休憩・床を整える

作業管理と作業環境管理は、腰に負担がかかる原因を職場の側から取り除く対策です。指針は、人が機器に合わせるのではなく、機器や設備を人に合わせる考え方をとっています。事務作業でも現場作業でも共通する4つの手を順に見ていきます。

椅子と机の高さを体に合わせる

指針は、立って作業するときも座って作業するときも、作業台の高さは肘をおよそ90度に曲げた高さにし、椅子の座面は足の裏全体が床に着く高さにするよう求めています。合わない場合は、足台を使って調整します。

座り作業については、座面の高さや奥行き、背もたれの寸法と角度、肘掛けの高さが体格に合う椅子か、それらを調節できる椅子を使うことを挙げています。解説では、背もたれが後ろに傾いて腰当て(腰パッド)があること、座面が太ももを圧迫しすぎないこと、キャスター付きで安定していることが、腰痛を防ぐうえで望ましい条件とされています。

座り方も大切です。椅子に深く腰掛けて背もたれで上体を支え、太ももの裏と座面の間に手の指が入る程度のゆとりを残します。前かがみの姿勢を避け、ときどき立ち上がって腰を伸ばすようにします。

同じ姿勢を続けない仕組みをつくる

同じ姿勢を長く続けると、腰への負担がたまっていきます。指針は、長時間の立ち作業では片足を乗せる足台や座面の高い椅子を使い、長時間の座り作業では適宜立つよう促しています。休憩時間には姿勢を変え、作業中にも小休止を取れるようにすることが求められます。

パソコン作業については、厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が目安を示しています。一連続の作業時間が1時間を超えないようにし、次の作業までに10分〜15分の作業休止時間を設け、1時間の中でも1回〜2回程度の小休止を入れる内容です。

あわせて読みたい座りすぎ防止アプリ11選|運動不足解消で健康経営›

(参考)情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて(令和元年7月12日、令和3年12月1日一部改正) – 厚生労働省

重い物は機械と人数で負担を減らす

重い物を扱う作業は、できるだけ自動化し、難しければ台車などの補助機器で人の負担を減らすのが原則です。指針は、満18歳以上の男性が人力だけで扱う重さを体重のおおむね40%以下に、女性はさらにその60%くらいまでにするよう示しています。超える場合は、身長の近い2人以上で持つようにします。

持ち上げるときは、膝を軽く曲げ、呼吸を整えて下腹部に力を入れながら行います。体をひねらず、正面を向いて物にできるだけ近づくことも、腰への負担を小さくするポイントです。

靴と床・照明・温度を整える

転んだり滑ったりすると、腰に一瞬で大きな力がかかります。指針は、作業床をできるだけ凹凸のない滑りにくいものにし、通路や階段では足もとが見える明るさを保つよう求めています。寒さも腰痛を悪化させるため、作業場の温度を適切に保ち、冬の屋外作業では防寒着や暖房に配慮します。

靴は足に合い、滑りにくいものを選びます。解説では、土踏まずを支え、底が薄すぎたり硬すぎたりしない靴を勧めています。なお、腰部保護ベルトは人によって効果が違うため、全員に一律に着けさせるのではなく、一人ひとり効果を確かめてから使うかどうかを決めるよう示されています。

あわせて読みたいスポーツインソール12製品を比較|企業の転倒・腰痛対策にも›

(参考)職場における腰痛予防対策指針及び解説 – 厚生労働省

Q. 腰痛対策に向く職場の椅子の条件は何ですか?

座面の高さや背もたれの角度などを体格に合わせて調節できる椅子が基本です。厚生労働省の指針の解説は、背もたれが後ろに傾いて腰当てがあること、座面が太ももを圧迫しすぎないこと、キャスター付きで安定していることを望ましい条件に挙げています。

腰痛予防の健康管理と労働衛生教育|健診・体操・ストレッチの進め方

健康管理と労働衛生教育は、一人ひとりの体の状態を把握し、腰を守る知識と習慣を身につけてもらう対策です。指針は、健康診断、腰痛予防体操、教育の3つを柱にしています。

負担の大きい作業には腰痛の健康診断を行う

重量物の取扱いや介護・看護など、腰に強い負担がかかる作業に常に就く人には、配置する前と、その後6か月以内ごとに1回、医師による腰痛の健康診断を行うよう指針は求めています。定期の健診では、腰痛に関する病歴と仕事の経歴、腰や脚の痛み・しびれなどの自覚症状を確かめます。

結果は、医師の意見を聴いて作業方法の改善や作業時間の短縮につなげます。個人の治療だけでなく、作業の種類ごとに結果を比べて、職場のどこに腰痛の原因があるかを見つけるために使うことも勧められています。

腰痛予防体操は静的なストレッチを中心にする

指針は、腰に負担の大きい作業に就く人に、疲れた筋肉の回復と柔らかさ、リラックスを目的とした腰痛予防体操を行わせるよう求めています。解説では、反動をつけずに筋肉を伸ばしたまま止める「静的なストレッチ」が、筋肉への負担が少なく安全だとして推奨されています。

やり方のポイントは、息を止めずにゆっくり吐きながら伸ばすこと、張りを感じても痛くない程度でとどめること、20秒〜30秒ほど伸ばし続けること、1回のストレッチで1回〜3回ほど繰り返すことです。行う時間は始業前・作業中・終業後などが考えられ、疲れのたまり具合に合わせて時間と場所を確保します。床に寝転ぶのに抵抗がある職場では、机や椅子を使ったストレッチで代えられます。急に痛めた直後や痛みが残っている時期は、行うかどうかを医師に相談します。

デスクワークの合間に取り入れやすい動きは集中力を高めるストレッチの習慣や胸椎の可動域を戻す3つの動きで紹介しています。社員が自分で続ける仕組みには、ストレッチアプリの比較も参考になります。

配置時の教育で腰痛の原因と防ぎ方を伝える

重量物の取扱い、同じ姿勢での長時間作業、介護・看護、車の運転などに就く人には、配置するときと、その後必要に応じて腰痛予防の教育を行います。内容は、腰痛の発生状況と原因、原因の特定とリスクの見積り方、原因を減らす方法、腰痛予防体操の4項目です。

解説は、雇い入れ時や配置換えのときだけでなく、腰痛が起きたときや作業・設備を変えたときにも教育するよう勧めています。講師は産業医や外部の専門家に頼み、グループワークや話し合いを取り入れると効果が上がるとしています。

(参考)職場における腰痛予防対策指針及び解説 – 厚生労働省

Q. 職場でできる腰痛予防のストレッチのコツは何ですか?

反動をつけず、筋肉を伸ばした状態で止める静的なストレッチを行うのが基本です。息を止めずに、張りを感じても痛くない程度まで伸ばし、20秒から30秒ほど保ちます。いま腰が痛む場合は、行うかどうかを医師に相談してください。

腰痛からの職場復帰|産業医の意見で作業方法と時間を調整する

腰痛で休んだ社員の職場復帰の流れ。休業中、復帰の前、復帰後に企業がすることを時期ごとに示した図

腰痛は再発しやすい病気です。そのため指針は、腰痛で休んだ人が職場に戻るとき、事業者が産業医などの意見を十分に尊重し、重い物の扱い方や作業時間について必要な措置をとるよう求めています。腰痛の原因を職場から取り除き、本人が復帰のときに抱える不安を解消することも目的に含まれています。

指針をもとに流れを整理すると、図のように3つの時期に分けられます(本記事の整理)。休業中は治療に専念してもらいながら、腰を痛めた作業や環境に何があったかを確かめます。復帰の前には産業医の意見を聴き、戻る作業の方法と時間を決めます。復帰した後は負担の大きい作業を減らした状態から始め、本人の不安を聞きながら作業の割り当てを見直していきます。

指針は心理・社会的な面にも触れています。解説では、上司や同僚の支え、腰痛で休むことを受け入れる職場の雰囲気、休業からの復帰支援、相談窓口づくりといった組織としての取り組みが役に立つとしています。復帰の段取りを本人任せにしないことが、再発を防ぐ近道です。

あわせて読みたい休職者の復職失敗を防ぐアスリート式段階的リハビリ復帰プラン›

(参考)職場における腰痛予防対策指針及び解説 – 厚生労働省

スポーツと運動習慣を職場の腰痛予防に生かす|安衛法の体育活動

職場の対策に加えて、日ごろの運動習慣も腰痛予防の大切な柱です。指針の解説は、日ごろからの運動習慣が腰痛の発生リスクを下げるとして、負担にならない程度の全身運動を勧めています。指針の本文も、睡眠・禁煙・運動習慣・食事・休日の過ごし方について産業医などが保健指導を行うことが望ましいとしています。

企業が社員の運動を後押しすることには、法律の裏付けもあります。労働安全衛生法第69条は、事業者に健康教育や健康相談など健康の保持増進のための措置を続けて計画的に講じるよう努めることを求めています。第70条は、そのほかに体育活動やレクリエーションなどについて便宜を図るよう努めることを定めています。いずれも努力義務です。

情報機器作業のガイドラインも、就業の前後や就業中に体操・ストレッチ・軽い運動などを行うことが望ましいとしています。たとえば、始業前の体操、昼休みのウォーキング、社内のスポーツイベントやクラブ活動の支援など、続けやすい形から始めるのが現実的です。筋力を鍛える運動は、指針の解説にもあるとおり、一人ひとりの腰の状態を考えて無理のない範囲で行います。いま腰痛がある人は、医師に相談してから始めてもらいます。

運動不足が仕事に与える影響と会社としての手の打ち方は社員の運動不足が招く生産性低下で、こうした取り組みを健康経営の認定にどうつなげるかは健康経営とは|認定要件とスポーツ施策の入れ方で解説しています。

(参考)労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号) – e-Gov法令検索

(参考)情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて(令和元年7月12日、令和3年12月1日一部改正) – 厚生労働省

職場の腰痛対策のまとめ

職場の腰痛は、業種を問わず起きる最も多い業務上疾病です。国の指針に沿って、職場の側の対策と一人ひとりの習慣づくりを組み合わせて進めます。

  • 腰痛は令和6年に6,341人で、新型コロナを除く業務上疾病の約57.8%を占める(本記事の計算値)
  • 腰痛予防対策指針は、体制づくりとリスクアセスメントの上に、作業管理・作業環境管理・健康管理と労働衛生教育を組み合わせる
  • 作業台は肘がおよそ90度になる高さ、椅子は足裏全体が床に着く高さにし、同じ姿勢を続けない
  • 腰痛予防体操は反動をつけない静的なストレッチを中心にし、痛みがあるときは医師に相談する
  • 復帰時は産業医の意見で作業方法と時間を調整し、運動やスポーツの習慣づくりで再発予防につなげる

元気な社員が、いちばんのマーケティングになる。

社員のウェルビーイングを高め、
その元気が自然と外に伝わる仕組みをつくります。

インナーマーケティングを知る →

About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました