アスレティックトレーナーは、スポーツ活動中のケガの予防、コンディショニング、安全と健康の管理、医療資格者へ引き継ぐまでの救急対応を担う、日本スポーツ協会(JSPO)の公認資格です。2025年10月1日時点の認定者は6,116名で、養成講習会か、承認された大学・専門学校で学んだうえで検定試験に合格して取ります。企業にとっては、実業団の選手のケアだけでなく、社員の転倒や腰痛を防ぐ相談相手としても活かせる人材です。
実業団の主力選手が、大事な大会の前に足首をひねった。監督は「とりあえず冷やして様子を見よう」と言うけれど、本当にそれでいいのか、病院に行かせるべきなのか、誰も判断できない。こうした場面で、選手の体を見て次の一手を決める役割を担うのがアスレティックトレーナーです。ここでは資格の中身と取り方、合格率、年収の考え方、企業での活かし方と契約の手順を整理します。
アスレティックトレーナーとは|JSPOが定める4つの役割

アスレティックトレーナー(JSPO-AT)は、スポーツドクターやコーチと緊密に協力しながら、スポーツをする人の安全と安心を確保し、パフォーマンスの回復や向上を支える指導者です。日本スポーツ協会は1994年に養成を始め、2022年4月に役割を見直した新しいカリキュラムへ切り替えました。
仕事は、関係者の間で情報と役割をつなぐことにあります。選手からは体の状態を聞き取り、ケガの予防と回復の手助けを返します。コーチからは練習の計画を受け取り、ケガをした選手がいつ戻れるかの見通しを伝えます。スポーツドクターには現場で起きたことを伝え、診断と指示を受けて動きます。ケガが起きたときは医療機関へ引き継ぎ、治療の方針に沿って復帰までを支えます。
指導する相手は、日本代表やプロの選手だけではありません。地域のスポーツクラブ、学校や大学の運動部、民間のスポーツ施設など、スポーツをするすべての人が対象です。JSPOが定める役割は次の4つです。
(参考)ATインフォメーション(JSPO-ATの概要・カリキュラム) – 公益財団法人日本スポーツ協会
スポーツ活動中の外傷・障害の予防
外傷は捻挫や骨折のように一度の衝撃で起きるケガ、障害は同じ動きの繰り返しで起きる痛みのことです。アスレティックトレーナーは、練習の量や体の使い方、用具や環境を確かめ、ケガが起きにくい状態をつくります。ストレッチや筋力トレーニングの指導、テーピングもこの役割に含まれます。
コンディショニングとリコンディショニング
コンディショニングは、試合や練習で力を出せるよう体の状態を整えることです。リコンディショニングは、ケガの治療を終えた選手が元の動きを取り戻し、競技に戻るまでの段階的な練習を指します。医師の診断を受けたあと、どの順番で負荷を上げていくかを組み立てるのがアスレティックトレーナーの役目です。
選手の安全管理と健康管理
暑い日の練習で熱中症を防ぐ、体調の変化を記録して無理をさせない、救急用品や連絡の手順を整えておく、といった管理も担います。ケガが起きてから動くのではなく、起きたときに慌てないための準備をしておく仕事です。
医療資格者へ引き継ぐまでの救急対応
試合や練習中にケガ人が出たとき、状態を確かめて応急処置をし、医療資格者へ引き継ぐまでを受け持ちます。役割はあくまで「引き継ぐまで」で、診断や治療は医師が行います。また、アスレティックトレーナーは国家資格ではありません。あん摩やマッサージ、はり、きゅうを仕事として行うには、法律でそれぞれの免許が必要と定められています。
(参考)あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律 – e-Gov法令検索
Q. アスレティックトレーナーは国家資格ですか?
アスレティックトレーナーは国家資格ではなく、公益財団法人日本スポーツ協会が認定する公認スポーツ指導者資格の1つです。ケガの治療は医療機関が担い、マッサージやはり・きゅうを仕事として行うには、法律で定められた国家資格の免許が別に必要です。
アスレティックトレーナーの資格を取る2つのルート
アスレティックトレーナーの資格は、JSPOが開く養成講習会か、JSPOが承認した大学院・大学・専門学校のどちらかで学んで取ります。どちらのルートでも、共通科目と専門科目を修めて実技確認テストを終え、検定試験に合格する必要があります。学ぶ量は共通科目が150時間、専門科目が780時間で、専門科目のうち180時間はスポーツ現場での実習です。
| ルート | 受講の条件 | 学び方 | 費用の例 |
|---|---|---|---|
| 養成講習会(JSPOが実施) | 受講する年の4月1日時点で満20歳以上。都道府県スポーツ協会や中央競技団体などの推薦が必要 | 共通科目150時間、専門科目600時間を講習会と自宅学習で受ける | 共通科目22,000円、専門科目55,000円(税込)。テキスト代は別 |
| 免除適応コース(承認された大学院・大学・専門学校) | 承認校に在籍し、学校が定めるカリキュラムを履修して手続きをする | 養成講習会と同じカリキュラムを授業で受け、講習・試験の一部が免除される | 学費は学校ごとに異なる |
出典:日本スポーツ協会「養成講習会(アスレティックトレーナー)」「大学・専門学校での資格取得」「ATインフォメーション」をもとに Human Soar 作成
養成講習会は競技団体などの推薦が必要
養成講習会は個人では申し込めません。JSPOに加盟する都道府県スポーツ協会や中央競技団体などから推薦を受け、JSPOが活動の実績を審査して受講者を決めます。受け入れは年に100名程度で、推薦を希望する団体でトレーナーとして活動した実績が乏しいと、推薦を得られない場合があるとされています。
受講できる期間にも限りがあります。受講が決まった年度の4月1日から、共通科目は4年間、専門科目は5年間で、その間に検定試験の基礎と応用の両方に合格できなければ、それまでに取った単位をすべて失います。働きながら取る場合は、現場での活動と学習の時間を何年かけて確保するかを先に考えておく必要があります。
(参考)養成講習会 アスレティックトレーナー – 公益財団法人日本スポーツ協会
大学・専門学校の免除適応コースで学ぶ
もう1つのルートが、JSPOが承認した大学院・大学・専門学校の「免除適応コース」です。養成講習会と同じカリキュラムを授業で履修することで、講習や試験の一部が免除されます。承認校は都道府県ごとに一覧が公表されており、令和7年度版ではアスレティックトレーナー科を置く専門学校や、スポーツ系の学部を持つ大学が並んでいます。
学生の場合、在学中に学校ごとのカリキュラムを履修し、所定の手続きをしないとコースを修了できません。この手続きは卒業後には行えないため、入学前に学校の窓口で確かめておくことが大切です。なお、アスレティックトレーナーのコースは2013年度分の申請を最後に新規の受付を休止していましたが、2024年度の承認分から受付が再開されています。
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(参考)大学・専門学校での資格取得 – 公益財団法人日本スポーツ協会
(参考)令和7年度 講習・試験免除適応コース 承認校一覧 – 公益財団法人日本スポーツ協会
アスレティックトレーナーの合格率|新カリキュラムは2割前後
アスレティックトレーナーの検定試験は、新しいカリキュラムでは合格率が2割前後と低く、旧カリキュラムの理論試験は5〜7割です。JSPOは年度ごとの結果を公表しており、次の表は全体の合格率をまとめたものです。
| 試験 | 実施時期 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 新カリキュラム検定試験(全体) | 2025年度秋期(2025年11〜12月) | 180名 | 36名 | 20% |
| 新カリキュラム検定試験(全体) | 2025年度春期(2025年5〜6月) | 118名 | 21名 | 18% |
| 新カリキュラム検定試験(全体) | 2024年度秋期(2024年11〜12月) | 119名 | 27名 | 23% |
| 新カリキュラム検定試験(全体) | 2024年度春期(2024年5〜6月) | 68名 | 17名 | 25% |
| 旧カリキュラム理論試験(全体) | 2025年度(2025年10〜11月) | 1,375名 | 925名 | 67% |
| 旧カリキュラム理論試験(全体) | 2024年度(2024年11月) | 1,370名 | 731名 | 53% |
出典:日本スポーツ協会「アスレティックトレーナー専門科目検定試験 結果概要(2025年度)」「同 検定試験データ(2024年度)」をもとに Human Soar 作成
新カリキュラムの検定試験は、スポーツ医・科学の基礎知識を問う基礎科目と、それを使う応用科目に分かれています。2025年度秋期は、基礎科目の合格率が21%、応用科目が33%でした。コンピューターで受けるCBT方式で、期間中に自分で選んだ日に全国の会場で受験します。受験するには、新カリキュラムの専門科目を修了し、実技確認テストのすべての分野に合格している必要があります。
旧カリキュラムでは、理論試験とは別に実技試験もあります。2025年度後期(2026年1〜3月)の実技試験は925名が受け、680名が合格して合格率は74%でした。新旧どちらも、合格して登録したあとの資格の有効期間は4年間で、有効期限の6か月前までに更新研修を受けなければなりません。
(参考)アスレティックトレーナー専門科目検定試験 結果概要(2025年度) – 公益財団法人日本スポーツ協会
(参考)アスレティックトレーナー専門科目検定試験データ(2024年度) – 公益財団法人日本スポーツ協会
Q. アスレティックトレーナーの合格率はどのくらいですか?
2022年に始まった新しいカリキュラムの検定試験は、2025年度の全体の合格率が春期18%、秋期20%でした。旧カリキュラムの理論試験は2025年度に67%で、どちらも日本スポーツ協会が結果を公表しています。
アスレティックトレーナーの年収は働き方で決まる|人数と雇用の形から読む
アスレティックトレーナーの年収は、どこで、どんな契約で働くかによって大きく変わります。資格を持つ人だけを集計した公的な賃金統計は、本記事の調査では見つかりませんでした。そのため、ここでは確かめられる数字と、働き方の違いから考えます。
まず人数です。JSPOの公表では、2025年10月1日時点のアスレティックトレーナーの認定者は6,116名で、男性が75.4%、女性が24.6%でした。スポーツリーダーを除く公認スポーツ指導者は合計308,336名なので、アスレティックトレーナーはその約2%にあたります(本記事の計算値)。同じメディカル・コンディショニング資格のスポーツドクターは6,586名で、ほぼ同じ規模です。
働き方は大きく3つに分かれます。プロチームや実業団、企業、病院、学校に正社員や契約社員として勤める形、大会や合宿の日数ごとに業務委託で受ける形、理学療法士や柔道整復師などの国家資格と組み合わせて医療機関や治療院で働く形です。雇う側から見ると、同じ資格でも、常勤で毎日の練習に付くのか、必要な日だけ来てもらうのかで費用の組み方がまったく違います。
求人の給与を比べるときは、勤務日数と業務の範囲をそろえて見ることが大切です。副業や兼業の形で受け入れる場合の制度づくりは副業スポーツ人材の受け入れで解説しています。
(参考)スポーツ指導者に関するデータ(公認スポーツ指導者認定者数 令和7年10月1日現在) – 公益財団法人日本スポーツ協会
Q. アスレティックトレーナーの年収はどのくらいですか?
アスレティックトレーナーの資格を持つ人だけを集計した公的な賃金統計は、本記事の調査では見つかりませんでした。収入は、チームや企業の正社員か、日数ごとの業務委託か、医療系の国家資格と組み合わせて働くかで大きく変わります。
企業がアスレティックトレーナーを活かす3つの場面

企業がアスレティックトレーナーを活かせる場面は、実業団・企業チーム、社内の運動イベント、職場の転倒・腰痛対策の3つです。どの場面でも、ケガを防ぐ準備と、起きたときに慌てない段取りをつくることが仕事の中心になります。図は本記事の整理で、スポーツ人材を企業で活かす全体のパターンはスポーツ人材とは|企業の活用パターンと導入手順にまとめています。
実業団・企業チームで選手の離脱を防ぐ
実業団や企業チームでは、練習と試合のケアを任せることで、主力選手がケガで長く抜けるのを防ぎます。社員として働きながら競技を続ける選手なら、勤務と練習の両方の負担を見ながら体調を管理できる人がいると、無理を早めに止められます。試合会場での救急対応の準備も、アスレティックトレーナーに任せられる仕事です。
実業団の運営の形は実業団・企業スポーツとはで、4社の事例とともに紹介しています。
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社内の運動イベントを安全に開く
社内の運動会やマラソン大会、スポーツを使った研修では、ふだん運動しない社員が急に体を動かすため、ケガや体調不良が起きやすくなります。アスレティックトレーナーに入ってもらえば、準備運動の指導、暑さへの備え、救急用品の用意、具合が悪くなった人を医療機関へつなぐ手順までを事前に整えられます。
職場の転倒と腰痛を減らす相談相手にする
アスレティックトレーナーの「ケガの予防」の知識は、職場でも使えます。厚生労働省によると、令和7年の休業4日以上の労働災害は135,333人で、事故の型別では「転倒」が37,195人と最も多く、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」が22,166人で続きました。この2つを合わせると59,361人で、全体の約44%にあたります(本記事の計算値)。
体の使い方や筋力の落ち方を見るのは、アスレティックトレーナーが得意とする分野です。体操や動き方の指導を健康経営の施策として組み込めば、社員の運動の機会をつくりながら、転倒や腰痛の予防にもつなげられます。ただし痛みがある社員の診断や治療は医療機関の役目なので、受診をすすめる判断の線を決めておきます。
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(参考)令和7年の労働災害発生状況を公表(令和8年5月27日) – 厚生労働省
アスレティックトレーナーと契約する手順|雇用か業務委託かを先に決める
アスレティックトレーナーを迎えるときは、まず「どの仕事を、年に何日お願いするか」を決め、それに合わせて雇用か業務委託かを選びます。そのうえで資格を確かめ、医療とのつなぎ方を契約に書いておくと、現場で迷いません。
仕事の範囲と必要な日数を決める
毎日の練習に付いてほしい実業団なら常勤の雇用、大会や合宿、社内イベントのときだけなら日数ごとの業務委託が向いています。職場の健康づくりで月に数回の指導をお願いするなら、業務委託や、外部の事業者を通した契約も選べます。最初に仕事の範囲を書き出しておくと、見積もりと求人の条件を比べやすくなります。
資格と更新の状況を確かめる
JSPOのメディカル・コンディショニング資格認定者検索では、アスレティックトレーナーを都道府県やスポーツ種目から探せます。載っているのは掲載を承諾した人なので、候補者から直接、登録の証明を見せてもらう方法と組み合わせます。資格の有効期間は4年間なので、契約の時点で有効期限内かどうかも確かめておきます。
候補者が見つからないときは、都道府県スポーツ協会や、承認校の大学・専門学校の就職窓口に相談する方法もあります。引退した選手を社内で育てる選択肢は引退後のアスリート社員の活かし方で紹介しています。
(参考)メディカル・コンディショニング資格認定者検索 – 公益財団法人日本スポーツ協会
医療とのつなぎ方を契約に書く
アスレティックトレーナーは診断や治療を行う資格ではありません。契約では、ケガが起きたときの連絡先と受診の判断、相談できるスポーツドクターや近くの医療機関、事故が起きたときの保険と責任の分担を決めておきます。マッサージなどの施術を頼みたい場合は、その人が必要な国家資格を持っているかを別に確かめます。契約の書き方に迷うときは、社会保険労務士や弁護士などの専門家に確認してください。
Q. 企業がアスレティックトレーナーを探すにはどうすればよいですか?
日本スポーツ協会のメディカル・コンディショニング資格認定者検索で、都道府県やスポーツ種目から探せます。載っているのは掲載を承諾した人なので、見つからない場合は都道府県スポーツ協会や、資格を取れる大学・専門学校の就職窓口に相談する方法もあります。
アスレティックトレーナーのまとめ
アスレティックトレーナーは、ケガの予防から救急対応までを担い、選手と指導者、医療の間をつなぐスポーツ現場の専門職です。企業にとっては、実業団だけでなく社員の健康づくりにも活かせます。スポーツの専門職を企業で活かす例としては、スポーツ栄養士を企業が活用する方法もあわせて参考になります。
- JSPOの公認資格で、役割はケガの予防、コンディショニング、安全と健康の管理、医療資格者へ引き継ぐまでの救急対応の4つ
- 取り方は養成講習会(推薦が必要)か、承認された大学・専門学校の免除適応コースの2つ
- 新カリキュラムの検定試験の合格率は2割前後で、資格の有効期間は4年間
- 認定者は2025年10月1日時点で6,116名。年収は雇用の形と勤務日数で大きく変わる
- 企業では実業団のケア、社内イベントの安全、職場の転倒・腰痛対策に活かせる
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