疲労回復の食事は、運動後と、ふだんの食事の2つに分けて考えると迷いません。運動後は、次の運動まで8時間以内なら、4時間のあいだ体重1kgあたり1時間に1〜1.2gの糖質をとり、2時間以内にたんぱく質を15〜25g足します。仕事の疲れは、食事より先に残業や睡眠の状況を確かめるのが先です。
練習の後半にフォームが崩れ、夜になっても脚が重い。夕方のジムの後に、何をいつ食べればよいか分からないまま帰宅してしまう。運動習慣のある会社員も、実業団やクラブの栄養管理を預かる担当者も、同じところで迷います。ここでは米国・カナダの栄養士団体と米国スポーツ医学会の共同声明、日本スポーツ振興センター、厚生労働省の資料、日本食品標準成分表の数値をもとに、運動後のタイミングと栄養素の選び方を整理します。
疲労回復の食事は運動後の疲れと仕事の疲れで見直す所が違う

運動後の筋肉痛やだるさは、使ったエネルギーと傷んだ筋肉を食事で補うと回復を助けられます。一方で、長時間労働や睡眠不足が積み重なった疲れは、食事を整えても取りきれません。
厚生労働省は2023年4月、中央労働災害防止協会がまとめた「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」を改訂し、食欲や睡眠、勤務間のインターバルの項目を加えたと通知しています。食欲の落ち込みも、疲れのサインとして数えられているわけです。
運動の疲れに食事で応える方法を、次の章から順に見ていきます。仕事の疲れが強いと感じる人は、先に後半の疲労蓄積度の確かめ方を読んでください。
(参考)「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」等の周知について(基安労発0404第1号・令和5年4月4日) – 厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 労働衛生課
運動後の食事は4時間以内に糖質と2時間以内にたんぱく質15〜25g
運動後の回復食は、時間で量が決まっています。米国栄養士会、カナダ栄養士会、米国スポーツ医学会の2016年の共同声明は、次の運動まで8時間未満なら、運動後の4時間は1時間あたり体重1kgに1〜1.2gの糖質をとるとしています。たんぱく質は運動後0〜2時間に、体重1kgあたり0.25〜0.3g、つまり15〜25gです。
| 体重 | 運動後1時間あたりの糖質(1〜1.2g/kg) | 運動後4時間の合計 | 運動後2時間以内のたんぱく質(0.25〜0.3g/kg) |
|---|---|---|---|
| 50kg | 50〜60g | 200〜240g | 12.5〜15g |
| 60kg | 60〜72g | 240〜288g | 15〜18g |
| 70kg | 70〜84g | 280〜336g | 17.5〜21g |
出典:Academy of Nutrition and Dietetics ほか「Nutrition and Athletic Performance」(2016年)の目安量に体重を掛けたHuman Soar が計算した値。次の運動まで8時間未満のときの量
この量は、午前と午後に練習がある日や、連戦の大会のように次の運動が近いときの話です。1日1回の運動で次の運動まで半日以上あくなら、運動後だけを特別に増やす必要はありません。共同声明の1日の目安は、1時間ほどの運動で糖質5〜7g/kg、1〜3時間の運動で6〜10g/kgです。
日本スポーツ振興センターのウェブサイトも、運動直後に炭水化物とたんぱく質を一緒にとることを勧めています。エネルギーを戻す糖質と、筋肉をつくるたんぱく質を一度にとれる食べ物が、回復の効率のよい選択です。
あわせて読みたいアスリートの食事メニュー|1日・1週間の献立例と社食への応用›
(参考)アスリートにとっての補食 – 日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター
Q. 運動後はいつまでに食べればよいですか?
運動後は、できるだけ早く糖質とたんぱく質を一緒にとります。共同声明は、糖質は運動後4時間の間に1時間ごとに、たんぱく質は2時間以内に15〜25gを目安としています。次の運動まで半日以上あくなら、次の通常の食事でも回復できます。
栄養素の選び方はたんぱく質20gに付いてくるビタミンB群と鉄で決める
疲労回復で気になるビタミンB群や鉄は、サプリメントを探す前に、たんぱく質20gを何から取るかで差がつきます。ビタミンB1とB2は、日本人の食事摂取基準でエネルギー摂取量に応じて必要量が決まる栄養素です。運動で食べる量が増える人ほど、必要な量も増えます。
| 食品 | たんぱく質20gをとる量 | そのときのエネルギー | ビタミンB1 | ビタミンB2 | 鉄 |
|---|---|---|---|---|---|
| 豚ロース(脂身つき・生) | 104g | 257kcal | 0.72mg | 0.16mg | 0.3mg |
| 鶏むね(皮つき・生) | 94g | 125kcal | 0.08mg | 0.09mg | 0.3mg |
| しろさけ(生) | 90g | 111kcal | 0.13mg | 0.19mg | 0.4mg |
| 鶏卵(全卵・生) | 164g | 233kcal | 0.10mg | 0.61mg | 2.5mg |
| 糸引き納豆 | 121g | 223kcal | 0.08mg | 0.68mg | 4.0mg |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」の可食部100gあたりの値から、たんぱく質20g分の量とそのときの成分を計算したHuman Soar の集計
ビタミンB1は豚ロースが群を抜いていて、たんぱく質20g分(約104g)で0.71mgです。同じたんぱく質量の鶏むねは0.08mgなので、およそ9倍の差があります。ただし豚ロースは脂身つきだとエネルギーが257kcalになるため、運動後に軽く済ませたいときは、しろさけや鶏むねの方が扱いやすくなります。
ビタミンB2と鉄は納豆と卵が目立ちます。納豆は約121gでB2が0.68mg、鉄が4.0mg。卵は約164g(3個前後)でB2が0.61mgですが、たんぱく質20gに届くまでに量が必要なので、肉や魚と組み合わせると無理がありません。
結局のところ、主食に豚肉やさけ、納豆や卵を日替わりで合わせるのが、運動する人の無理のない選び方です。サプリメントで補う前に、まず毎日の食事でこの組み合わせを回してみましょう。栄養の全体像はスポーツ栄養学の解説にまとめています。
あわせて読みたい腸内環境とアスリートの回復|企業の栄養サポート設計›
(参考)食品成分データベース 豚肉(大型種肉)ロース – 文部科学省(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)
(参考)日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 – 文部科学省
Q. 疲労回復のために、たんぱく質は1日に何gとればよいですか?
運動する人の1日の目安は、体重1kgあたり1.2〜2.0gです。体重60kgなら72〜120gで、1回に40gを超える量は、筋肉づくりの効果が上乗せされることは確認されていません。3〜5時間おきに分けて、毎回0.3g/kg前後をとる形が基本です。
運動後4時間の食べ方|糖質は毎時とたんぱく質は2時間以内に

運動後の4時間は、糖質を1時間ごとに、たんぱく質を2時間以内にとると回復が進みます。食事を1回で済ませず、おにぎりとバナナ、牛乳やヨーグルトなどを分けて食べると、量を稼ぎやすくなります。
運動の前は、2〜3時間前に糖質中心の補食をとり、運動後は炭水化物とたんぱく質を組み合わせる。日本スポーツ振興センターは補食をこう整理していて、どちらも次の食事の邪魔にならない量にとどめるよう求めています。
汗で失った水分も戻す必要があります。共同声明は、減った体重の125〜150%の水分をとるよう勧めていて、1kg減ったなら1.25〜1.5リットルです。大量に汗をかいた後は、塩分を控えすぎないことも大切だと書かれています。水分の量を詳しく知りたい人はアスリートの発汗科学を読んでください。
Q. 運動後に食欲がないときは、どうすればよいですか?
無理に普通の食事を食べず、バナナ、おにぎり、牛乳やヨーグルトなど少量で糖質とたんぱく質がとれるものを先にとります。食欲が戻ったらふだんの食事で補い、水分も体重が減った分の125〜150%を目安に戻してください。
職場の疲れは食事の前に疲労蓄積度の点数で確かめる
仕事の疲れは、食事で取れる範囲に限りがあります。残業が多い、睡眠が短い、休む時間がない状態が続くと、運動後の食事を整えても回復は追いつきません。まず、厚生労働省の疲労蓄積度の自己診断で、疲れの原因が仕事の側にないかを見ます。
このチェックは2部構成です。自覚症状の14項目は「ほとんどない」0点、「時々ある」1点、「よくある」3点で数え、合計でⅠ〜Ⅳに分けます。勤務の状況13項目は、残業、不規則な勤務、出張、夜勤、休息、睡眠、勤務間インターバルなどを問い、合計でA〜Dに分けます。
2つの区分を組み合わせた総合判定は0〜7点で、0〜1点が低い、2〜3点がやや高い、4〜5点が高い、6〜7点が非常に高い、という読み方です。
通知は、総合判定が2点以上なら仕事の負担を見直すこと、時間外労働が月45時間を超えるなら減らすことを検討するとしています。健康経営の担当者は、社員の食事支援を考える前に、このチェックを定期的に使って職場の状態を把握してください。
スポーツ施策と食事支援を一緒に進める企業は少なくありません。取り組み例は健康経営にスポーツを活用した企業事例に整理しています。
(参考)「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」等の周知について(基安労発0404第1号・令和5年4月4日) – 厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 労働衛生課
Q. 仕事の疲れは、食事で取ることができますか?
食事だけでは取りきれません。長時間労働や睡眠不足が続いているときは、食事を整えると同時に、疲労蓄積度の自己診断で原因が仕事の側にないかを確かめ、勤務時間や休息の見直しを相談してください。
疲労回復の食事を職場で続ける3つの工夫
運動する社員や実業団の選手の疲労回復を支えるには、1回の知識より、続けられる仕組みが大切です。昼食、間食、運動後の補食の3つの場面で工夫を考えます。疲労回復の科学的な背景は疲労回復への科学的アプローチも参考になります。
昼食|主食と主菜をそろえて午後の運動に備える
昼食に主食と主菜がそろっていると、夕方の運動の前に糖質とたんぱく質を確保できます。社員食堂や弁当では、ごはんの量を選べる、豚肉やさけ、納豆を選べる仕組みを用意すると、運動する人が自分で調整しやすくなります。
間食|運動の2〜3時間前に糖質の補食を置く
夕方に運動する社員なら、運動の2〜3時間前におにぎりやバナナを食べられると、運動中の力が出やすくなります。職場に補食用の棚を用意する、持ち込みを認めるなど、小さな工夫で足ります。
運動後|炭水化物とたんぱく質を一緒にとれるものを用意する
運動後にすぐ食べられるものが手元にあると、帰宅後の夕食まで空腹を引っ張らずに済みます。牛乳やヨーグルトとおにぎり、バナナの組み合わせなら、糖質とたんぱく質が一度にとれます。実業団やクラブの栄養管理担当者は、練習場にこの補食セットを置いておく方法もあります。
(参考)アスリートにとっての補食 – 日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター
まとめ|疲労回復の食事は運動後4時間とふだんの主食・主菜で組み立てる
- 運動後の糖質は、次の運動まで8時間未満なら4時間のあいだ体重1kgあたり1時間に1〜1.2gが目安です。
- たんぱく質は運動後2時間以内に15〜25g(体重1kgあたり0.25〜0.3g)をとります。
- たんぱく質20gを何から取るかで、豚ロースならビタミンB1、納豆ならB2と鉄のように、付いてくる栄養素が変わります。
- 運動後は減った体重の125〜150%の水分を戻し、塩分も控えすぎません。
- 仕事の疲れは食事だけで取れないので、疲労蓄積度の自己診断で勤務の側を先に確かめます。
次に取る行動は、自分の体重に0.25〜0.3gを掛けて運動後のたんぱく質量を出し、手元の食品で20g前後に届く組み合わせを決めておくことです。食欲がないときの補食も、カバンに入れておく食品を一つ決めておきましょう。同じ栄養の考え方は、大会前の食事を扱ったカーボローディングのやり方にもつながります。
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