BCPの計画書はある。でも、大きな地震や停電の直後に「この拠点を止める」と決めるのは誰でしょうか。サッカーが落雷事故を防ぐために先に決めている「止める人・優先順位・戻す条件」の決め方で、BCPを発災直後に使える形に変えます。
対象となるお客さま
- BCPを作った、または作りかけの中小企業の経営者
- BCPの運用を任されている総務・経営企画の担当者
- 拠点や店舗が複数あり、判断を本社だけで抱えている事業責任者
よくあるお悩み
- BCPのファイルはあるが、誰が拠点を止めるのか即答できない
- 計画書を作ったきり、一度も動かして確かめていない
- 納期や取引先を考えると、止める判断を先送りしてしまいそう
課題|BCPを策定している中小企業は18.3%にとどまる
早朝に大きな地震があり、取引先から「そちらの拠点は動けますか」と連絡が入ります。共有フォルダにはBCP(事業継続計画。災害などで事業が止まったときに、早く再開するための計画)があるのに、拠点を止めるのか、出社を止めるのかを決める人が書かれていません。確認の電話が続くうちに、判断が遅れていきます。
帝国データバンクが2026年5月に行った調査(有効回答10,521社)では、BCPを「策定している」企業は21.4%で、過去最高でした。それでも大企業の39.9%に対し、中小企業は18.3%です。「策定していない」企業も40.7%あります。
中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、BCPを策定していても、普段行っていないことを緊急時に行うのは難しいとし、日頃から継続的に訓練しておくことが必要だとしています。計画書を作ることと、発災直後に使えることは、別の課題です。
原因|スキル・人材・時間が足りず、判断の手順まで書き込めない
同じ調査で、BCPを策定していない企業に理由を聞くと、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が42.2%で最も多く、「策定する人材を確保できない」33.5%、「策定する時間を確保できない」28.1%と続きました(複数回答)。担当者が兼務で時間を割けないまま計画書を作ると、発災直後の判断に要る部分が空白のまま残ります。原因は次の3つです。
- 判断する人が役職だけで書かれている:「対策本部長は社長」とだけあり、不在のときに誰が決めるかが決まっていません。
- 止める基準が「状況を見て判断する」になっている:数値や情報の種類で書かれていないため、その場の空気で決まり、先送りされます。
- 一度も動かして確かめていない:書いた手順が現場で使えるかを、誰も確かめていません。迷う場面は、実際に動かしたときに初めて見つかります。
スポーツ知見|サッカーは落雷に備え、止める人と優先順位を先に決めている
日本サッカー協会(JFA)は2006年4月、「サッカー活動中の落雷事故の防止対策についての指針」を出しました。落雷の予兆があれば速やかに活動を中止し、危険がなくなると判断されるまで安全な場所に避難する。そのために、活動の前に次のことを決めておくよう求めています。
- 中止を決める人:活動の中止を決める権限を持つ人を特定し、中止を決めたときの連絡の流れを決めておく
- その人がいないとき:中止を決める人が近くにいないときは、その場にいる関係者がすぐに中止を決められるようにしておく
- 何を優先するか:大会の日程が詰まっていても、テレビ放送のある試合でも、この指針を優先する。放送局やスポンサーを含む関係者と、前もって確認しておく
この考え方はいまも続いています。スポーツ庁と文部科学省は2025年4月11日の事務連絡で、前日に部活動中の落雷事故で6名が病院に運ばれたことを挙げ、天候が急変したときはためらわずに計画の変更や中止をとるよう求めました。JFAも2026年7月の記事で、少しでもリスクを感じたら迷わず延期や中止を判断し、その判断を勘と経験だけに頼らないよう呼びかけています。
(参考)サッカー活動中の落雷事故の防止対策についての指針(2006年4月11日) – 財団法人日本サッカー協会
(参考)落雷事故の防止について(依頼)(令和7年4月11日) – スポーツ庁・文部科学省
(参考)【JFAの知っトク!】この夏も安全に! 雷事故予防対策を施そう(2026年7月30日) – 公益財団法人日本サッカー協会
ただし、試合と仕事は同じではありません。試合は1つの会場で起き、止めた影響は主に日程にとどまります。企業は拠点が複数あり、止めれば納期や取引先に響きます。そのため、止める基準は拠点ごとに決め、取引先には基準を前もって伝えておきます。止めた判断が結果的に空振りでも責めないことを、経営者の名前で決めておきます。
解決策|止める人・止める基準・戻す条件をA4の1枚にまとめる
計画書を一から書き直すのではありません。いまあるBCPに、発災直後の判断に要る4つの項目を足して、A4で1枚の「停止・再開の判断シート」にします。発災時に開くのは、分厚い計画書ではなくこの1枚です。
- 止める人:本部長と代行2名を、役職ではなく名前で指名する。全員とつながらないときは、現場の責任者が「一時停止」を宣言できるようにする
- 止める基準:震度、自治体の避難情報、停電やシステム停止が続いた時間など、拠点に合わせて3〜5つ決める
- 戻す条件:人の安全、設備と建物、取引先への連絡の3つの確認項目と、再開を決める人を書く
- 連絡の順と文面:夜間・休日に誰へどの順で連絡するかと、一斉連絡の文面と手段を決めておく
戻す条件も、止める基準と同じ重さで決めます。再開を急ぐと、確認が終わらないまま人を現場に戻すことになるためです。再開を決める人は、止める判断をした人と同じでも別でも構いませんが、必ず先に決めておきます。
進め方|1拠点で机上訓練をしてから、全拠点に広げる
最初から全拠点の基準を決めようとすると、点検だけで時間が尽きます。まず主要な1拠点で判断シートを作り、机上訓練(会議室で場面を想定し、判断を声に出して確かめる訓練)で動くかを確かめてから広げます。
診断では、いまのBCPを一緒に読み、止める人・止める基準・戻す条件・連絡の順の4点が書かれているかを点検します。設計・試行では判断シートを作り、本部長・代行・現場責任者で1回目の机上訓練を行います。「午前6時に震度5強の地震が起きた」のような場面を示し、誰が何分で一時停止を宣言するかを確かめます。定着では、年2回の訓練で場面を変えながら判断シートを直し、ほかの拠点と主要な取引先へ広げます。
期間は目安です。BCPをまだ作っていない場合も、判断シートから始められます。Human Soarは点検表の用意・聞き取り・訓練の場面づくりと進行・判断シートの文書化を担い、御社にはいまのBCPと拠点一覧の共有、指名する人の決定、訓練への参加をお願いします。
成果物|訓練のたびに社内で直せる4つの道具
成果物は、どれも御社の拠点・人・取引先の実名で作ります。ひな形を埋めるだけの書類にはしません。
最初にできるのが「BCP点検表」です。いまのBCPで4つの項目のどこが空いているかを一覧にしたもので、経営会議で何から手を付けるかを決めるのに使えます。次に、中心となる「停止・再開の判断シート」を作ります。発災直後に本部長か現場の責任者が開き、基準に照らして一時停止を宣言するための1枚です。
あわせて「連絡の順と一斉連絡の文面」を整えます。総務が異動や退職に合わせて名前を更新します。最後の「机上訓練の場面集と記録様式」は、年2回の訓練で迷った場面を書き留め、判断シートを直すために使います。支援が終わった後も、この4つで訓練と見直しを社内だけで回せます。
期待できる効果|発災直後に「誰が決めるか」を確かめる時間がいらなくなる
経営にとっては、自分が不在でも止める判断が下りる状態を、訓練で確かめておけます。現場の責任者は、一時停止を宣言してよい条件が決まっているので、迷ったときに止める側を選べます。総務は、計画書を作って終わりではなく、訓練のたびに判断シートを直す運用に変えられます。
災害が起きなければ、効果は数字に表れません。そのため見る数字は2つです。1つは、机上訓練で一時停止を宣言するまでにかかった時間。もう1つは、訓練で迷った場面を判断シートに反映した件数です。他社と比べる数字ではなく、前回より短くなったか、直した件数が積み上がっているかを見ます。
Human Soarからのコメント
サッカーの現場では、落雷の予兆があったときに誰が活動を止めるかを、活動の前に決めておくよう求められています。止める判断を、その場の勇気ではなく、事前の指名と基準に任せる考え方です。企業の災害対応も同じです。御社の拠点と取引先に合わせて、発災直後に開く1枚を一緒に作ります。
よくあるご質問
Q. BCPをまだ作っていなくても依頼できますか?
できます。計画書の完成を待たずに、止める人と止める基準を1枚に決めるところから始められます。まず発災直後の判断を整え、計画書はその後に広げていく順番をご提案します。
Q. 止める基準を決めると、止めすぎて業務に影響しませんか?
最初は、止めたものの何も起きなかったという空振りが出ることがあります。そのため空振りを失敗として扱わずに記録し、年2回の訓練に合わせて基準を見直します。取引先には基準を前もって伝え、基準に達したときは納期より安全を優先すると経営者の名前で示しておくと、止めた後の説明の負担も減らせます。
Q. 建物の耐震や保険、被害想定も相談できますか?
このプログラムで扱うのは、発災直後に止める判断と、再開を決める判断の運用です。建物や設備の耐震、保険、被害想定は、防災・建築・保険などの専門家の確認が前提になります。専門家の確認結果を、判断シートの基準に書き込める形で設計します。
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