運動と栄養の基本|企業の健康経営に使うスポーツ前後の食事量

運動と栄養の基本|企業の健康経営に使うスポーツ前後の食事量を整理したアイキャッチ スポーツ栄養学

昼食を抜いたまま夕方のランニングに出て、後半に脚が止まる。逆に、走る直前に食べすぎて横腹が痛くなる。どちらも「何を、どれだけ、いつ摂るか」が決まっていないときに起きる場面です。

運動の効果を栄養で支える順番は、①1日の量を満たす、②運動の前後で足す、③水分は体重の減りで確かめる、の3つです。国の指針では、成人の運動の目安は1日約8,000歩、たんぱく質の推奨量は18〜64歳で男性65g・女性50gです。運動中の炭水化物は、60分を超える高強度の運動なら1時間に30〜60gが国際学会の目安になっています。この記事では、これらの数字を体重別・エネルギー別に計算し直し、従業員に運動を勧める場面でも使える形に整理します。

運動の目安は1日約8,000歩|平均歩数との差は1,400〜2,300歩

運動と栄養の前提となる、令和5年の平均歩数と身体活動・運動ガイド2023の目安の差を示した図解

成人の運動の目安は、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上、歩数にして1日約8,000歩以上です。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が示しています。

あわせて、息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日行うことも推奨されています。一方、令和5年国民健康・栄養調査では、20歳以上の歩数の平均値は男性6,628歩、女性5,659歩でした。目安の約8,000歩との差を計算すると、男性で約1,400歩、女性で約2,300歩です(本記事の計算値)。

この差を埋めて運動量が増えると、使うエネルギーが増え、それを支える食事の量も変わります。次のセクションから、栄養の側の数字を見ていきます。

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要) – 厚生労働省

(参考)令和5年国民健康・栄養調査 結果公表 – 厚生労働省

Q. 運動不足を解消するには、1日に何歩を目安にすればよいですか?

成人は1日約8,000歩以上が国の目安です。歩数のかわりに、歩行と同等以上の身体活動を1日60分以上行う考え方もあります。高齢者は1日約6,000歩以上、こどもは中強度以上の身体活動を1日60分以上が目安です。

たんぱく質は男性65g・女性50g|運動する人は1日の量が先

運動する人のたんぱく質の目標量を、エネルギー必要量と13〜20パーセントから計算する式の図解

18〜64歳のたんぱく質の推奨量は、男性65g・女性50g(1日)です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」が示す値で、18〜29歳、30〜49歳、50〜64歳のどの区分でも同じです。

運動する人が注目したいのは、推奨量よりもエネルギー量との組み合わせです。たんぱく質の目標量は、摂取エネルギー全体の13〜20%(18〜49歳。50〜64歳は14〜20%)という幅で示されています。つまり、運動で食べる量が増える日は、同じ割合でもグラム数が増えます。

推定エネルギー必要量は、身体活動レベルが「低い」「ふつう」「高い」で変わります。30〜49歳の男性は2,350・2,750・3,150kcal、女性は1,750・2,050・2,350kcalです。男性の「ふつう」2,750kcalに13〜20%を当てはめると、たんぱく質は約89〜138gです。女性の「ふつう」2,050kcalなら約67〜103gです(本記事の計算値。1gあたり4kcalで換算)。

たんぱく質をはじめとする栄養素の全体像は、スポーツ栄養学の基礎(マクロ栄養素・水分補給・資格)でまとめています。

(参考)日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書のポイント – 厚生労働省

Q. 運動をする日は、たんぱく質を多めに摂るべきですか?

たんぱく質は、エネルギー量に対する割合(13〜20%エネルギー)で見るのが基本です。運動で食べる量が増える日は、同じ割合でもグラム数が増えます。たとえば30〜49歳の男性で身体活動レベルが「ふつう」から「高い」に上がると、必要エネルギーは2,750kcalから3,150kcalになり、13%でも約102gです。

運動中は1時間30〜60g|運動後は体重1kgあたり1.2gが国際学会の目安

運動中と運動後には、数字で言える目安があります。60分を超える高強度の運動中は炭水化物を1時間に30〜60g、次の運動まで4時間未満なら運動後に炭水化物を1時間あたり体重1kgにつき1.2gです。国際スポーツ栄養学会(ISSN)の2017年の見解で、対象は健康な成人、とくに鍛えている人です。

場面 ISSNの目安 体重50kg 体重60kg 体重70kg
運動前 数値の目安は示されていない(食事の大きさと時間が、運動後のたんぱく質の必要量に影響する) - - -
運動中(60分超・高強度) 炭水化物 30〜60g/時(6〜8%の飲料で10〜15分ごと) 30〜60g/時 30〜60g/時 30〜60g/時
運動後(次の運動まで4時間未満) 炭水化物 1.2g/kg/時 60g/時 72g/時 84g/時

出典:International Society of Sports Nutrition position stand: nutrient timing(2017年)をもとに Human Soar 作成。体重別の数字は本記事の計算値

運動前は食事の大きさと時間が運動後の補給量を左右する

運動前の食事について、ISSNは「運動前の食事の大きさとタイミングが、運動後にたんぱく質をとる必要の度合いに影響する」としています。本記事で確認した国の指針や学会の見解には、運動前に何gとるべきかという数値の目安は見つかりませんでした。

数値が無い場面では、食事の量を決めるより、運動の開始から逆算して時間を空けることが現実的です。直前に満腹になって苦しくなるのを避けるため、運動の予定が決まったら、その前の食事の量と時間を前後の予定に合わせて調整してください。個別の計画が必要なときは、管理栄養士への相談が確実です。

運動中は60分超の高強度で炭水化物を1時間30〜60g

ISSNは、70%VO2max(最大酸素摂取量の70%)を超える高強度の運動が60分を超えるとき、炭水化物を1時間に約30〜60g、6〜8%の炭水化物電解質飲料で10〜15分ごとにとるよう示しています。とくに70分を超える運動で重要になります。

飲料にすると、30gを8%の飲料でとれば約375mL、60gを6%の飲料でとれば約1,000mLです(本記事の計算値)。この数字が当てはまるのは長く強い運動で、30分のウォーキングのような運動には当てはまりません。

運動後は次の運動までの時間で炭水化物の量が変わる

次の運動まで4時間未満で、できるだけ早く回復したいときは、炭水化物を体重1kgあたり1時間に1.2gとるのがISSNの目安です。体重60kgなら1時間に72gで、4時間続けると合計288gです(本記事の計算値)。炭水化物0.8g/kg/時にたんぱく質0.2〜0.4g/kg/時を組み合わせる方法も示されていて、60kgなら炭水化物48gとたんぱく質12〜24gが1時間あたりの量です。

たんぱく質は、運動直後から2時間以内に良質なものをとると筋たんぱく質の合成が高まり、1回20〜40gを約3時間おきにとる形が示されています。運動後の栄養の組み立ては、1日の総量を満たしたうえで考えます。

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(参考)International society of sports nutrition position stand: nutrient timing – Kerksick ほか(J Int Soc Sports Nutr, 2017)

Q. 運動後は、どのくらいの時間内に食べればよいですか?

運動直後から2時間以内に良質なたんぱく質をとると、筋たんぱく質の合成が大きく高まるとISSNは示しています。次の運動まで4時間未満なら、炭水化物を体重1kgあたり1時間に1.2gとる方法も示されています。ただし、これらは主に鍛えている健康な成人を対象にした見解です。

運動中の水分補給は運動前後の体重減少を2%以内に収める

運動前後の体重減少が2%以内におさまるように水分を補給するのがよい、と日本スポーツ振興センターの熱中症予防の資料は示しています。体重の3%以上の水分が失われると体温調節に影響するとされています。

体重別に計算すると、2%は50kgで1.0kg、60kgで1.2kg、70kgで1.4kgです。3%は50kgで1.5kg、60kgで1.8kg、70kgで2.1kgになります(本記事の計算値)。運動の前後に同じ条件で体重を測れば、補給が足りたかを数字で確かめられます。

汗には塩分も含まれるため、水分補給は0.1〜0.2%程度の食塩水がよいとされています。激しい運動では休憩を30分に1回はとることが望ましく、WBGT(暑さ指数)が21℃以上では、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給するよう示されています。ウェアラブルで代謝や水分の状態を測る方法は、ウェアラブルで代謝・水分補給を管理する方法で整理しています。

(参考)熱中症予防運動指針(スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブックの内容を含む) – 日本スポーツ振興センター

Q. 運動中の水分補給は、どのくらいを目安にすればよいですか?

運動の前後で体重を測り、体重の減少が2%以内に収まるように補給します。体重60kgなら減少は1.2kgまでです。汗で塩分も出るため、0.1〜0.2%程度の食塩水が望ましいとされています。

目的別の栄養の考え方|体力づくり・減量・疲労回復の3場面

運動の目的によって、先に整える栄養の数字が変わります。体力づくりは1日の量、減量は食事量を減らしたときのたんぱく質、疲労回復は次の運動までの時間が軸になります。

体力づくりは週60分の運動と1日の量を先に整える

体力づくりの運動は、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日が国の目安です。栄養はまず1日のたんぱく質(男性65g・女性50g)とエネルギーを満たすことが先で、ISSNも、1日の総たんぱく質量を満たすことを最優先に挙げています。そのうえで、約3時間おきに1回20〜40gを分けてとる形が示されています。

減量は食事量を減らすとたんぱく質のグラムが足りなくなる

食事の量を減らすと、同じ割合でもたんぱく質のグラム数が減ります。1日1,800kcalで13%(目標量の下限)にすると、たんぱく質は約58gで、男性の推奨量65gを下回ります。65gを確保するには、1,800kcalで約14.4%が必要です(本記事の計算値)。

目標とするBMIは、食事摂取基準で18〜49歳が18.5〜24.9、50〜64歳が20.0〜24.9とされています。ただし、あくまで参考として使うものと注記されています。減量では、体重だけでなく、たんぱく質のグラム数を確かめながら食事量を決めます。

疲労回復は次の運動まで4時間未満かどうかで分ける

ISSNが急いで回復する方法として挙げているのは、次の運動まで4時間未満のケースです。このときは炭水化物を体重1kgあたり1時間に1.2gとり、たんぱく質も組み合わせます。翌日以降まで時間が空くなら、1日の食事で量を満たす考え方が基本です。腸内環境と回復の関係は、腸内環境とアスリートの回復も参考になります。

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(参考)日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書のポイント – 厚生労働省

従業員の運動と栄養を支える3つの取り組み

運動と栄養の数字は、個人が覚えるより、職場の仕組みに落とすほうが続きます。数字が示す場面ごとに、次の3つを置くと使いやすくなります。

歩数の目安と平均値の差を共有する

1日約8,000歩という成人の目安と、令和5年の平均値(男性6,628歩・女性5,659歩)との差を示すと、必要な運動量が具体的になります。差は男性で約1,400歩、女性で約2,300歩ですので、昼休みの10〜20分の歩行で埋まる量かどうかも見えてきます。

運動後に補給できる時間と場所を用意する

運動後の補給は、運動直後から2時間以内が目安です。更衣室や休憩スペースの近くに、水分と補食を取れる場所があれば、運動した従業員が帰宅まで待たずに補給できます。職場で食環境を整える進め方は、下のカードにまとめています。

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個別の計画は管理栄養士につなぐ

アメリカ栄養士会などの合同見解は、個別の栄養計画が必要なアスリートは登録栄養士に紹介すべきとしています。職場でも、持病や特別な目標がある従業員には、一般的な数字をそのまま当てはめず、管理栄養士への相談窓口につなぐ形が安全です。

(参考)Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance(2016年)

運動と栄養の基本のまとめ

運動と栄養の数字は、1日の量、運動の前後、水分の3段階に分けると整理できます。要点は次のとおりです。

  • 成人の運動の目安は1日約8,000歩。令和5年の平均との差は、男性で約1,400歩、女性で約2,300歩です。
  • たんぱく質の推奨量は18〜64歳で男性65g・女性50g。目標量は13〜20%エネルギーで、食べる量が増えればグラム数も増えます。
  • 運動中は60分超の高強度で炭水化物を1時間30〜60g、運動後は次の運動まで4時間未満なら体重1kgあたり1時間1.2gが目安です。
  • 水分は運動前後の体重減少を2%以内に収めます。体重60kgなら1.2kgまでです。
  • 個別の計画が必要な人は、管理栄養士に相談してください。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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