マラソン大会のコース脇で、黙々と給水カップを手渡し続けるスタッフ。早朝から会場設営に汗を流す案内係。大会が滞りなく終わっても、参加者の記憶に残るのは選手だけで、その日を実際に成立させている「支える人材」の存在は見過ごされがちです。この人材を担っているのは、公的な仲介ネットワークと、大会運営を丸ごと請け負う民間企業という、性質の異なる2系統です。本記事では実在する8つの担い手を2軸で整理し、企業がどう関われるかを解説します。
スポーツボランティアはなぜ「足りない」と言われるのか
結論から言うと、スポーツを支えるボランティアの担い手は、コロナ禍前の水準まで回復していません。大会が増え続ける一方で、支える人の数は横ばいか、むしろ減少傾向にあるのが実態です。
公益財団法人笹川スポーツ財団が実施した「スポーツライフに関する調査2024」によると、2024年のスポーツボランティア実施率は5.4%でした。2022年の4.2%からは1.2ポイント回復したものの、コロナ禍前の2018年(6.7%)にはまだ届いていません。「する」「みる」に比べて「ささえる」の回復が最も鈍い分野であることが、この調査からも読み取れます。
ボランティアが足りなければ、大会運営会社が有償スタッフで穴を埋めるほかありません。人件費は上がり、参加費の値上げや大会規模の縮小に跳ね返ります。この構造を理解するには、まず「誰が支えているのか」を具体的に把握する必要があります。
Q. スポーツボランティアの実施率はどれくらいですか?
2024年時点で5.4%です。2022年の4.2%からは増加しましたが、コロナ禍前の2018年(6.7%)の水準にはまだ回復していません。「する」「みる」スポーツに比べ、「ささえる」の回復が最も遅れています。
(参考)運動・スポーツ実施率、コロナ禍前の水準には戻らず。スポーツライフ・データ2024 – 公益財団法人笹川スポーツ財団
支援・周辺分野を担う8つの組織|大会運営を支える民間と公的の担い手
「大会運営を代行する会社」と「ボランティアを仲介する団体」は、似ているようで役割がまったく違います。ここでは公式サイトで活動実態を確認できた8つの担い手を、性質・機能を含めて一覧化します。
| 団体・企業名 | 性質 | 主な機能 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 日本財団ボランティアセンター(SVN) | 公益財団法人 | 人材仲介・団体連携 | 全国80団体超が参加する連絡協議会の事務局 |
| 東京都(スポーツTOKYOインフォメーション) | 行政 | 情報発信・人材バンク | 東京マラソン等の公式ボランティア募集を集約 |
| 福岡市スポーツ協会(スポーツボランティアバンク) | 公益財団法人 | 人材育成・登録 | 研修と登録制度で地域大会の担い手を確保 |
| 株式会社セレスポ | 上場企業 | 大会運営受託 | 1977年創業。全国47都道府県で年間多数のイベントを手掛ける |
| 一般財団法人アールビーズスポーツ財団 | 一般財団法人 | 人材仲介・調査 | RUNNETを運営する母体。ランナー基盤を生かした仲介 |
| 株式会社スポーツワン | 民間企業 | 大会運営受託 | 年間約3,000大会の運営実績を持つ最大手級 |
| 株式会社ブースト | 民間企業 | 大会運営受託 | マラソン・駅伝特化。記録計測から表彰状発行まで一貫対応 |
| 株式会社ラン | 民間企業 | 大会運営受託 | 企業スポーツイベントから自治体大会まで人材代行に対応 |
公式サイトで大会運営受託またはスポーツボランティア推進を主要事業として確認できた国内の8者を掲載(2026年9月時点)。
日本財団ボランティアセンター|全国80団体超をつなぐ連絡協議会の事務局
スポーツボランティアネットワーク(SVN)は、全国のスポーツボランティア推進団体をつなぐ連絡協議会で、日本財団ボランティアセンターが事務局を務めています。会員資格は「スポーツボランティアの推進、またはそれに準ずる活動を行う団体」で、会費は無料です。
参加団体には笹川スポーツ財団、東京マラソン財団、Jリーグクラブ、大学のボランティアセンターなど、性質の異なる80団体以上が名を連ねています。年2回のネットワーク会議や研修プログラムの共催を通じて、個々の団体だけでは埋めきれないノウハウ共有の場を作っている点が特徴です。かつて同種の役割を担っていたNPO法人日本スポーツボランティアネットワーク(JSVN)は2023年に解散し、事業の一部が日本財団ボランティアセンターへ引き継がれた経緯があります。
日本財団ボランティアセンター「スポーツボランティアネットワーク」公式サイトで参加団体一覧を確認できます。
株式会社セレスポ|東証上場・年間多数のイベントを手掛ける制作会社
株式会社セレスポは1977年、地鎮祭などの式典と運動会などのスポーツイベントの企画・制作を手がける会社として創業し、現在は東京証券取引所に上場しています。セレモニー・スポーツ・フェスティバル・プロモーションなど複数部門を持ち、全国47都道府県でイベントを手掛けている点が特徴です。
強みは、イベントの設計・制作・運営を行う「制作会社」と、美術・造作を担う「設営会社」の両機能を自社内に持ち、ワンストップで一気通貫の提案ができることです。大会運営を外部委託する側からすると、複数業者との調整が不要になる分、進行管理のリスクを減らせるという実務上のメリットがあります。
一般財団法人アールビーズスポーツ財団|ランナー基盤を生かした人材仲介
アールビーズスポーツ財団は、ランニング情報サイト「RUNNET」を展開する株式会社アールビーズが設立した財団です。市民スポーツに関する調査研究、大会運営に関わる人材育成・派遣、スポーツボランティアの募集など、複数の事業を並行して行っています。
「全国ランニング大会100撰」のようにランナー投票で大会の質を可視化する取り組みも行っており、大会主催者側の運営改善とボランティア確保の両輪を回している点が、他の運営受託企業と異なる特徴です。
株式会社スポーツワン|年間約3,000大会を支える運営実績
株式会社スポーツワンは、マラソン・駅伝・サッカー・フットサル・バスケットボール・運動会など幅広い種目を対象に、年間約3,000大会という開催実績を持つ運営受託企業です。エントリー受付システムの提供から当日の人員配置まで、大会運営の入口から出口までを一括で請け負っています。
株式会社ブースト|マラソン・駅伝特化の企画運営会社
株式会社ブーストは、企画書作成から運営マニュアル、会場手配、記録計測、完走証・表彰状の発行まで、マラソン・駅伝大会の運営を一気通貫でプロデュースする会社です。国立競技場を使った大規模大会から河川敷のリレーマラソンまで、規模の異なる大会運営実績を持っています。
株式会社ラン|企業・自治体のスポーツイベント運営を代行
株式会社ランは、社内スポーツイベントから自治体主催のスポーツ大会、駅伝・マラソン大会まで、運営に関わる業務全般をサポートする会社です。受付・案内・コース誘導・救護といった当日スタッフの人材サポートと、業務そのものの代行の両方に対応しています。
東京都(スポーツTOKYOインフォメーション)|大規模大会の公式ボランティア窓口
東京都は「スポーツTOKYOインフォメーション」内でスポーツボランティア情報を集約し、東京マラソン財団の公式ボランティアクラブ「ボランテイナー」や、東京都障害者スポーツ大会のボランティア募集などへの導線をまとめています。行政が民間・公益法人の取り組みをポータルとして束ねる役割を担っています。
福岡市スポーツ協会|研修と登録制度で地域大会の担い手を確保
公益財団法人福岡市スポーツ協会は「福岡市スポーツボランティアバンク」を設置し、ボランティアの募集・登録、講習会の開催を通じて、地域のスポーツ大会・イベント運営を支える人材を継続的に確保しています。プロ野球優勝パレードの沿道警備など、地域ならではの大規模イベントにも対応してきた実績があります。
福岡市スポーツ協会「福岡市スポーツボランティアバンク」公式サイト
Q. 大会運営を代行してくれる企業にはどんな種類がありますか?
セレスポやスポーツワンのように企画から当日運営まで一括で請け負う会社と、ブーストやランのように記録計測・人員配置など特定業務に強みを持つ会社があります。依頼したい業務範囲によって選ぶ相手が変わります。
担い手を2軸で見る|「主体の性質」×「機能」フレームワーク
8つの担い手は、性質も機能もばらばらに見えますが、整理すると2つの軸で分類できます。ひとつは「民間・営利」か「公的・非営利」かという主体の性質、もうひとつは「人材の仲介・育成」が中心か「大会運営そのものの受託」が中心かという機能です。この2軸で位置づけると、企業がどの担い手にどう関わるべきかが見えてきます。

アールビーズスポーツ財団のようにランナー基盤を生かして仲介する民間の財団型、日本財団ボランティアセンター(SVN)や自治体のように仲介・育成を担う公的な人材バンク型、セレスポやスポーツワンのように運営そのものを丸ごと請け負う民間受託型。この3タイプがすでに厚みを持って存在しています。
Q. 大会運営会社とボランティア仲介団体、企業はどちらと組むべきですか?
社員を大会当日に人材として送り出したいなら仲介型(日本財団ボランティアセンター等)、自社のイベントを丸ごと外部委託したいなら運営受託型(セレスポ等)と組むのが基本です。目的で使い分けます。
二軸分類が示す4つの象限|大会運営を「公的に受託する」動きはまだ薄い
2軸で整理すると、3タイプが埋まっている一方で、1つの象限だけがほとんど空白であることが分かります。ここでは4つの象限をそれぞれ具体的に見ていきます。
民間×人材仲介|ランナー基盤を生かした財団型の仲介
アールビーズスポーツ財団がこの象限の代表例です。株式会社アールビーズが運営するRUNNETという既存のランナー基盤を持っているため、大会主催者からの募集情報とボランティア希望者を効率よくマッチングできます。営利企業のグループでありながら、財団という非営利の器で人材仲介を担う、やや珍しい組み合わせです。
公的×人材仲介|行政・公益法人が担う人材バンク
日本財団ボランティアセンター(SVN事務局)、東京都のスポーツTOKYOインフォメーション、福岡市スポーツ協会のボランティアバンクが、この象限にあたります。共通しているのは、単発の大会だけでなく、地域や業界全体のボランティア文化そのものを育てる役割を持っている点です。会費無料・研修付きという運営形態が多く、企業にとっては社員を初めてボランティアに送り出す際の入り口として使いやすい担い手です。
民間×大会運営受託|企画から当日運営までを一括で請け負う企業群
セレスポ、スポーツワン、ブースト、ランの4社がこの象限に集中しています。いずれも大会主催者(自治体・企業・実行委員会)から業務を直接受託し、対価を得て運営を代行するビジネスモデルです。年間3,000大会規模の実績を持つ会社もあり、この象限はすでに競争が成立した成熟市場と言えます。
公的×大会運営受託は空白|実務は民間委託が主流という構造
今回調べた8者の中に、行政や公益法人が大会運営そのものを直接受託する例はありませんでした。自治体主催の大会であっても、実際の運営業務はセレスポやスポーツワンのような民間企業に委託されるのが一般的です。これは「公的機関は大会を主催・後援する側にとどまり、実務の受託は民間に任せる」という役割分担が、業界慣行として定着していることを示しています。企業が地域貢献としてボランティア派遣を検討する際も、窓口になるのは公的な仲介団体であり、運営業務そのものへの参入余地は民間受託企業側に残っていると整理できます。
Q. 地方自治体が大会運営を丸ごと担うことはありますか?
主催・後援としての関与が中心で、当日の運営実務そのものを自治体単独で担う例は多くありません。実務は民間の運営受託企業へ委託し、ボランティアの募集・育成は公益法人が窓口を担う分業が一般的です。
Q. 地方自治体が大会運営を丸ごと担うことはありますか?
主催・後援としての関与が中心で、当日の運営実務そのものを自治体単独で担う例は多くありません。実務は民間の運営受託企業へ委託し、ボランティアの募集・育成は公益法人が窓口を担う分業が一般的です。
企業がスポーツボランティア・大会運営人材を活用する3つの実践ステップ
担い手の全体像が分かったところで、企業側が実際にどう関わればよいのかを、3つのステップで整理します。いきなり自社イベントを開くのではなく、小さく始めて自社の目的に合わせて広げていくのが基本です。日本スポーツ業界の8つの課題|15兆円市場とDX動向で解説したとおり、スポーツ市場は企業の関与余地が広がっている分野であり、ボランティア参加はその入り口として費用負担が小さい選択肢です。
①公的な仲介団体を通じて社員参加型ボランティアを企画する
初めて取り組む場合は、日本財団ボランティアセンターや自治体のスポーツボランティアバンクを窓口にするのが安全です。研修プログラムが用意されているため、社員が未経験でも当日の役割を理解した状態で参加できます。まずは1大会・数名からの参加で十分で、いきなり大規模な団体登録をする必要はありません。
②地域の大会に協賛しながら人材を派遣する
資金協賛だけでなく、社員をボランティアとして派遣することで、地域住民や参加者との接点を作れます。福岡市のように地元企業が賛助会に名を連ね、大会運営を人材面からも支えている地域では、協賛と人材派遣がセットで評価される傾向があります。単なる寄付にとどまらない関与として、採用広報や地域内での認知向上にもつながります。
③健康経営・人的資本開示の取り組みとして位置づける
社員参加型ボランティアは、単発のCSR活動で終わらせず、健康経営や人的資本投資の文脈に接続すると、社内外への説明がしやすくなります。人的資本投資とは?スポーツを活かした事例と効果を出す戦略で紹介しているとおり、スポーツを介した社外活動は、社員のエンゲージメントや対話量を高める手段として人的資本の情報開示にも記載しやすいテーマです。年に1〜2回の参加実績でも、継続すれば社内報や統合報告書で語れる具体的な取り組みになります。
スポーツの中央競技団体(NF)や統括団体も、国際大会・全国大会の運営でボランティアを大量に必要とする担い手です。中央競技団体(NF)・統括団体一覧もあわせて確認すると、業界全体の構造がより立体的に見えてきます。また、大会運営やボランティアの動向を継続的にウォッチしたい場合は、調査・シンクタンク機関一覧で紹介した笹川スポーツ財団などの統計データが定点観測に役立ちます。
Q. 健康経営の観点からボランティア活動は評価されますか?
健康経営優良法人の認定項目そのものには含まれませんが、社員のエンゲージメント向上や地域貢献の実績として、人的資本の情報開示や統合報告書で紹介する企業が増えています。単発で終わらせず継続することが評価につながります。
まとめ
今回の記事の要点を振り返ります。
- 2024年のスポーツボランティア実施率は5.4%で、コロナ禍前の2018年(6.7%)にはまだ回復していません。
- 大会運営とボランティア人材を担う国内の主な組織は8者で、「公的な仲介ネットワーク」と「民間の大会運営受託企業」の2系統に分かれます。
- 「主体の性質」×「機能」の2軸で見ると、民間×大会運営受託の象限だけがすでに競争の激しい成熟市場になっています。
- 公的機関が大会運営そのものを直接受託する例は乏しく、実務は民間委託が主流という役割分担が定着しています。
- 企業は「公的な仲介団体を通じた社員参加」→「協賛と人材派遣」→「健康経営・人的資本開示への接続」という順で、無理なく関与を広げられます。
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