従業員エンゲージメント調査|設問4原則と人事のチーム分析

従業員エンゲージメント調査の設問4原則と人事のチーム分析を解説する記事のアイキャッチ スポーツウェルビーイング

従業員エンゲージメント調査とは、従業員が仕事にどれだけ熱量を向けているかを設問で測る調査です。測るのは会社への満足度ではなく、活力・熱意・没頭という本人の状態で、厚生労働省が公開している調査票を使えば費用をかけずに始められます。設問設計を外すと「意味がない」と言われて2回目が続かないため、先に4つの原則を押さえるのが近道です。

アンケートを配って集計まではできたものの、出てきたスコアをどう読めばいいのか分からない。あるいは、スコアの低い部署に説明を求めたら翌年から回答が急に無難になった。エンゲージメント調査でよくあるのはこの2つのつまずきで、どちらも設問と集計単位の設計段階で決まっています。

従業員エンゲージメント調査とは|測るのは満足度ではなく仕事への熱量

エンゲージメント調査が測るのは、仕事に向かうときの本人の状態です。厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票では「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「自分の仕事に誇りを感じる」といった設問がこれにあたります。会社の制度をどう評価するかではなく、自分がどう働いているかを聞く点が満足度調査との決定的な差です。

活力・熱意・没頭の3要素で測る

従業員満足度調査と従業員エンゲージメント調査の違いを比較した図。会社への評価を聞くか仕事への向かい方を聞くかの差

エンゲージメントは活力・熱意・没頭の3つで構成されます。活力は仕事にエネルギーが湧いている状態、熱意は自分の仕事に意味と誇りを感じている状態、没頭は仕事に集中して時間を忘れる状態を指します。3つのうちどれが低いかで、手を入れる先が変わります。

活力が低ければ業務量や休息の問題、熱意が低ければ仕事の意味づけや評価の問題、没頭が低ければ中断の多さや裁量の問題を疑います。スコアを1つの合計値にまとめてしまうと、この切り分けができなくなります。

満足度調査との違いは会社への評価か仕事への向かい方か

満足度調査は「給与に満足しているか」「制度に満足しているか」を聞きます。答えは会社への採点になるため、改善すると不満は減りますが、それだけで熱量が上がるとは限りません。待遇を改善しても離職が止まらない、という現象はここから起きます。

エンゲージメント調査は「自分はいま仕事にどう向かっているか」を聞きます。答えが自分の状態になるので、結果を本人に返したときに行動が変わる余地が生まれます。ウェルビーイング施策が失敗する理由の多くは、この2つを混ぜたまま設計している点にあります。

あわせて読みたいワークエンゲージメントを高めるスポーツ施策|3つの効果›

Q. 従業員エンゲージメント調査と従業員満足度調査は何が違いますか?

聞いている主語が違います。満足度調査は待遇や制度など会社への評価を尋ねるのに対し、エンゲージメント調査は活力・熱意・没頭という本人の仕事への向かい方を尋ねます。満足度が高くても熱量が低い状態はありえるため、2つを同じものとして扱うと打ち手を間違えます。

(参考)職業性ストレス簡易調査票(80項目版) – 厚生労働省 こころの耳

設問4原則|人事が自前で作るときに外さない基準

設問を自前で作るなら、主語・粒度・尺度・自由記述の4点を先に決めます。ここを決めずに設問だけ並べると、集計の段階で比較できないことに気づいて作り直しになります。以下の4原則は、厚生労働省の調査票が実際に採っている設計を分解したものです。

①主語を気持ちではなく仕事の資源に置く

「やりがいを感じますか」と聞くと、回答者は気分を答えます。気分は翌週には変わるので、施策の効果を見るには向きません。代わりに「自分で仕事の順番・やり方を決めることができる」のように、職場に実在する条件を聞きます。

条件を聞けば、低いスコアがそのまま改善対象になります。裁量が低いなら権限を移す、支援が低いなら相談経路を作る、という順に落とせます。

②1つの設問で1つのことだけを聞く

「上司は話を聞き、適切に評価してくれる」のように2つのことを1文に入れると、どちらに反応した回答か分からなくなります。厚生労働省の調査票が「上司はふさわしい評価を受けている」と「上司は誠実な態度で対応してくれる」を別々の設問にしているのはこのためです。

1設問1論点にすると設問数は増えますが、集計後に打ち手を特定できます。設問を減らしたいときは論点を束ねるのではなく、論点そのものを削ります。

③尺度を最初に決めて途中で変えない

4件法か5件法かを最初に決めます。4件法は「どちらでもない」を置かないので態度が出やすく、5件法は中間を許すので回答の抵抗が少なくなります。職業性ストレス簡易調査票は4件法を採用しています。

重要なのは、2回目以降も同じ尺度を使うことです。途中で件数を変えると前年との比較ができなくなり、時系列で見るという調査最大の利点を失います。

④自由記述は1問だけにする

自由記述は1問に絞ります。複数置くと記入率が下がり、集計工数だけが増えます。1問に絞るなら「この1年でいちばん働きやすくなった点」のように、書く範囲が限定される聞き方にします。

自由記述は個人が特定されやすい項目でもあります。原文をそのまま部署長に渡さず、要約して返す運用を決めておきます。

Q. 質問項目は何問くらいが適切ですか?

20問から30問が現実的な上限です。厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票も標準版で57項目、簡略版で23項目に収めています。設問が多いほど分析の幅は広がりますが、回答の後半ほど雑になり、翌年の回収率も落ちます。

無料で使える公的な設問セット|厚労省の調査票は誰でも使える

設問をゼロから作らなくても、厚生労働省が公開している調査票をそのまま使えます。受検から結果出力、集団分析までを行う実施プログラムも無料で配布されており、紙・Excel・アプリ・マークシートの4通りの回答方法に対応しています。次の表は公開されている3つの調査票をまとめたものです。

厚生労働省が無償で公開している調査票の種類
調査票 項目数 エンゲージメントの設問
標準版(職業性ストレス簡易調査票) 57項目 活気3項目と働きがい1項目を含む
簡略版 23項目 含まない
80項目版(新職業性ストレス簡易調査票の推奨尺度セット短縮版を追加) 80項目 活力と熱意を直接聞く設問を含む

出典:厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム配布サイトおよび「こころの耳」公開資料をもとにHuman Soarが整理

標準版57項目|すでに多くの企業が使っている

標準版は仕事の負担・裁量・周囲の支援・心身の反応を57項目で聞きます。ストレスチェック制度で最も広く使われている調査票で、Excel版が無償で配布されています。エンゲージメントに直接あたる設問は「働きがいのある仕事だ」と活気の3項目にとどまります。

すでに実施している企業なら、過去のデータがそのまま比較対象になります。新しい調査票に乗り換える前に、手元の回答で何が分かるかを確認する価値があります。

簡略版23項目|回収率を優先するとき

簡略版は23項目に絞った短縮版です。回答時間が短いので回収率は上がりますが、エンゲージメントを測る設問は含まれていません。短さを優先するなら、この23項目に活力と熱意の設問を数問だけ足す形が現実的です。

初回は簡略版で回収率を確保し、2回目から設問を増やす進め方も取れます。その場合も、共通して使う設問は初回から同じ文言にしておきます。

80項目版|エンゲージメントまで測れる

80項目版は、標準版57項目に新職業性ストレス簡易調査票の推奨尺度セット短縮版23項目を足したものです。「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「自分の仕事に誇りを感じる」という設問が入っており、エンゲージメント調査として使えます。

職場や会社の資源を聞く設問も増えます。経営層への信頼、人事評価の説明、多様な立場の人が尊重されているかといった項目は、そのまま人的資本の開示項目と重なります。

Q. 無料で使える質問項目はありますか?

厚生労働省が公開している職業性ストレス簡易調査票を誰でも無料で使えます。標準版57項目、簡略版23項目に加え、ワークエンゲイジメントの設問を含む80項目版も公開されています。実施プログラムや結果帳票のサンプルもあわせて配布されています。

(参考)厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム(実施手順) – 厚生労働省

80項目のうちエンゲージメントを直接聞くのは7問だけ

調査票を導入しても、エンゲージメントを直接聞いている設問は全体の1割に届きません。80項目版をA群からH群まで分けて数えると、活力と熱意にあたる設問は7問(約9%)でした。残りは負担・資源・心身の反応を測る設問で、原因側を押さえるための構成になっています。

80項目版を群ごとに分けて数えた内訳
測っている内容 該当する群 項目数
仕事の要求度と、仕事・職場・会社の資源 A群・E群・F群・G群 36項目
心身のストレス反応、周囲の支援、満足度 B群・C群・D群 40項目
職場の一体感とハラスメント、活力と熱意 H群 4項目

出典:厚生労働省「こころの耳」公開の職業性ストレス簡易調査票(80項目版)。Human Soarが設問番号を群ごとに数えて集計した

資源を測る36項目が原因側を押さえる

A群の17項目は仕事の量的負担と裁量、E群の4項目は作業レベル、F群の7項目は部署レベル、G群の8項目は会社レベルの資源を聞きます。合わせて36項目で、エンゲージメントが上下する原因の大半はここに入っています。

スコアを上げたいときに手を入れるのはこの36項目の側です。活力の設問そのものを見て「活力を上げよう」と号令をかけても、条件が変わらなければ数値は動きません。

反応を測る40項目は結果側を押さえる

B群の29項目は心身のストレス反応、C群の9項目は上司・同僚・家族からの支援、D群の2項目は仕事と家庭の満足度です。合わせて40項目あり、原因ではなく結果として出てくる状態を測っています。

このうちB群の18から20番(活気がわいてくる・元気がいっぱいだ・生き生きする)は、活力の指標として使えます。ストレスの有無だけを見て終わらせると、ここを取りこぼします。

H群の4項目に活力と熱意が入っている

H群はわずか4項目ですが、うち2項目が「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「自分の仕事に誇りを感じる」というエンゲージメントの中核です。残る2項目はハラスメントの有無と職場の相互理解を聞きます。

A群17番の「働きがいのある仕事だ」、B群18から20番、G群76番を合わせると7項目になります。この7問を毎回必ず拾う設計にしておけば、設問数を増やさずにエンゲージメントの推移を追えます。

Q. ストレスチェックとエンゲージメント調査は別々にやるべきですか?

同じ調査票にまとめるほうが負担が小さくなります。80項目版には活力と熱意を直接聞く設問が含まれているため、義務として実施するストレスチェックに乗せられます。2028年度から50人未満の事業場でも実施が義務になるので、いま設計を揃えておくと二度手間を避けられます。

(参考)健康経営 – 経済産業省

意味ないと言われる調査の共通点は結果を返す設計の欠落

「エンゲージメントサーベイは無駄」という声の多くは、回答した本人に何も戻ってこないことから来ています。匿名性の説明、低スコア部署の扱い、結果の返し方という3点を決めずに実施すると、2回目の回収率が落ちて時系列の比較ができなくなります。

匿名性は実施前に文書で示す

「回答が個人に紐づいてバレるのではないか」という不安は、実施前の説明でしか解けません。誰が結果を見るのか、個人の回答は誰も見られない仕組みなのか、集計単位は何人以上かを文書で示します。口頭の説明だけでは伝わりません。

厚生労働省が令和8年2月に公表した小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルは、労働者のプライバシーが保護される実施体制を前提に作られており、編集できる様式やモデル規程が収録されています。自社で一から文面を作る必要はありません。

スコアが低い部署を犯人扱いすると本音が消える

低いスコアが出た部署に説明を求めると、翌年の回答は一斉に中央に寄ります。低スコアは、その部署の管理職の評価ではなく、条件の問題として扱う前提を先に共有しておきます。

人事が見るのは点数の高低ではなく、原因側の36項目のどこが落ちているかです。裁量が低いのか、支援が薄いのか、会社への信頼なのかで打ち手が変わります。

結果を返さない調査は2回目の回収率が落ちる

集計した結果を返さないと、回答者にとっては「答えさせられただけ」の作業になります。全社平均と自部署の傾向、そこから決めた施策を1枚にまとめて、実施から2か月以内に返します。

返す内容は完璧でなくて構いません。「この項目が低かったので、来期はここに手を入れる」という1行があるだけで、翌年の回収率は変わります。組織開発コンサルティングを選ぶ基準でも、結果の返し方を設計できるかどうかは判断材料の1つになります。

Q. エンゲージメント調査で個人が特定されることはありますか?

集計単位を小さくしすぎると特定される可能性があります。部署単位で集計する場合は10人以上を目安にし、それを下回る部署は上位の組織に合算します。誰が結果を見るか、個人の回答を誰も見られないことを、実施前に文書で明示することが前提になります。

(参考)「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表します – 厚生労働省

チーム単位で読む|アスリートのコンディション管理と同じ使い方

エンゲージメント調査は、個人の点数ではなくチーム単位の変化幅で読みます。同じ設問を同じ時期に繰り返し、前回からどちらへ動いたかを見る。これはアスリートが毎朝同じ項目でコンディションを記録し、絶対値ではなく前日比で調整を決めるやり方とまったく同じ構造です。

集計は10人以上を目安に束ねる

部署単位で集計するときは10人以上を目安にします。それを下回る部署は上位の組織に合算し、単独では出しません。人数が少ないほど個人が推定されやすく、回答が守りに入ります。

チーム単位で見ると、全社平均では消えていた偏りが見えます。同じ会社でも、裁量が足りない部署と支援が足りない部署では打ち手が逆になります。

同じ時期に繰り返して変化幅で判断する

年1回なら毎年同じ月、四半期ごとなら毎回同じ週に実施します。繁忙期と閑散期をまたいで比較すると、施策の効果か季節要因かが分からなくなります。時期を固定するだけで、比較の精度は大きく上がります。

2028年度から労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務づけられます。改正労働安全衛生法の施行期日は公布後3年以内に政令で定める日とされており、いま調査票と実施時期を揃えておけば、義務化のタイミングで組み直す必要がなくなります。

あわせて読みたいスポーツで高める従業員エンゲージメント実践法›

(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省

まとめ

従業員エンゲージメント調査は、設問と集計単位を先に決めてしまえば費用をかけずに始められます。要点は次の5つです。

  • 測るのは会社への満足度ではなく、活力・熱意・没頭という本人の仕事への向かい方
  • 設問は主語を仕事の資源に置き、1設問1論点、尺度を固定し、自由記述は1問に絞る
  • 厚生労働省の職業性ストレス簡易調査票(57項目・23項目・80項目)を無料で使える
  • 80項目版でもエンゲージメントを直接聞くのは7問。手を入れるのは資源を測る36項目の側
  • 集計は10人以上のチーム単位で、同じ時期に繰り返して変化幅で判断する

ご質問・ご相談はお気軽にどうぞ

お問い合わせはこちら →
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました