月曜の朝、部長宛に一通のメールが届く。「本日付で退職いたします」。差出人は本人ではなく、退職代行サービスの担当者からの受任通知だった。電話も面談もないまま、これまでの関係が一枚の通知で終わる。
実はこうした「突然退職」の多くは、退職の意思が固まる数週間前から観察可能なサインを見せている。アスリートが日々のコンディション記録から故障の兆候を読み取るのと同じ発想で、離職の予兆も仕組みとして拾うことができるというのが、本プランの結論です。
退職代行サービスの利用はすでに一部の特殊な事例ではありません。マイナビキャリアリサーチLabの調査によれば、直近1年間に転職した人のうち退職代行を利用した人は16.6%にのぼり、年代別では20代が18.6%、職種別では営業が25.9%ともっとも高い割合を示しています。企業側の調査でも、2024年上半期に退職代行を利用して退職した人がいた企業は23.2%と、約4社に1社に達し、この割合は2021年16.3%、2022年19.5%、2023年19.9%と年々増加傾向にあります。
一方、厚生労働省の令和4年雇用動向調査では、個人的理由による離職率は11.0%(男性8.9%、女性13.4%)と、離職理由の中でも突出して高い水準です。突然退職の背後にあるのは特殊な事情ではなく、多くの組織に共通する「予兆を見逃す構造」だと考えられます。
(参考)退職代行サービスに関する調査レポート(2024年) – マイナビキャリアリサーチLab
プランの概要|アスリートの故障予兆理論を応用した離職予兆管理へ
本プランは、アスリートが故障を未然に防ぐために用いる「コンディション記録による予兆検知」の発想を、企業の離職予兆管理に応用するものです。
- 対象:突然退職・退職代行経由の離職が増えている人事部門・現場マネージャー
- 課題:面談やアンケートだけでは拾えない離職の予兆を、日常のデータから早期に検知できていない
- 導入期間:目安3〜6ヶ月(予兆指標の設計〜初回運用まで)

課題解決の流れ|退職代行時代に効く予兆検知の設計
突然退職を防ぐには、現状の課題・その要因・解決策の3つを順番に整理する必要があります。

現状の課題|面談とアンケートだけでは予兆を拾えない
- 【関係性の空洞化】1on1が形式的な進捗確認に終始し、本音が出にくくなっている
- 【予兆の言語化不足】退職代行を選ぶ人ほど、不満や違和感を社内に伝えないまま辞める傾向がある
- 【データの散在】勤怠・評価・雑談量の変化がそれぞれ別の場所で管理され、組み合わせて見られていない
問題の要因|”辞めると決めた後”にしか気づけない仕組み
- 既存の定量指標(離職率など)は、離職が発生した後の振り返り分析にしか使われていない
- 現場マネージャーが感じた小さな違和感を、人事部門へ共有する導線が整っていない
解決策|アスリートのコンディション記録に学ぶ予兆指標の設計
- 勤怠・発言量・評価面談での反応など、日々の小さな変化を定点観測する指標を設計する
- あらかじめ決めたしきい値を超えた時点で、自動的にマネージャーへ通知する仕組みを作る
アスリート式コンディショニングの発想をオフィスワーカーの健康管理に応用したプランも、同じ「日常データの定点観測」という考え方を土台にしています。
退職代行時代でも価格競争にならない3つの理由
離職予兆管理は、一般的な研修や採用支援と違い、価格だけで比較されにくいサービスです。その理由は次の3つに整理できます。
①予兆データが蓄積するほど精度が上がる構造
離職予兆の指標は、運用を重ねるほど「その組織特有の予兆パターン」が見えてきます。導入初期はアスリートの故障予兆理論をベースにした汎用的な指標からスタートしますが、半年、1年と運用データが蓄積するにつれて、組織固有のしきい値へ調整され、精度が上がっていきます。この蓄積は他社が短期間で模倣できるものではありません。
②模倣されにくい理由|指標設計にはアスリートの故障予防理論の専門性が要る
単に勤怠データを集計するだけなら、既存の勤怠管理システムでも一定のことはできます。しかし「どの変化が実際に離職と相関するか」を見極めるには、アスリートの故障予兆管理で培われてきた、複数の小さな異変を組み合わせて読み解く専門的な視点が必要です。この視点の移植が、価格競争に巻き込まれない差別化の核になります。
③提供主体の強み|スポーツ現場のコンディション管理とデータ分析の両方に日常的に接している
本プランの提供主体は、スポーツ現場の一次情報(選手のコンディション変化の観察)と、それを裏づけるデータ分析の両方に日常的に接しています。理論だけでも実務だけでもなく、その橋渡しができる立場だからこそ、絵に描いた餅で終わらない予兆指標を設計できます。
プランの具体的な内容|3つの支援フェーズ
本プランは、診断・設計・運用伴走の3フェーズで構成されています。
| フェーズ | 支援内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| 診断フェーズ | 既存の勤怠・評価データの棚卸しと、過去の離職事例のヒアリング | 1ヶ月 |
| 設計フェーズ | 予兆指標としきい値の設計、マネージャーへの通知フローの構築 | 2ヶ月 |
| 運用伴走フェーズ | 月次モニタリングと指標の再調整、マネージャー向けフィードバック | 3ヶ月以降・継続 |
出典:Human Soar編集部が支援設計をもとに整理(2026年9月時点)
診断フェーズ|まず過去の離職事例を棚卸しする
いきなり新しい指標を作るのではなく、まず過去に突然退職・退職代行経由の離職が起きた事例を振り返り、当時の勤怠・評価データにどんな変化があったかを棚卸しします。この段階で、組織にとって意味のある予兆の仮説が見えてきます。
設計フェーズ|通知が届くところまでを一緒に作る
仮説をもとに、実際に追跡する指標としきい値を設計します。指標を作って終わりにせず、しきい値を超えた際に誰に・どんな形で通知が届くのかまでを設計する点が重要です。通知が現場マネージャーに届かなければ、指標は集計されるだけの死んだデータになってしまいます。
運用伴走フェーズ|精度を上げ続けるための月次レビュー
運用開始後は、月次で「通知が実際の離職リスクと合っていたか」を振り返り、しきい値を調整します。この継続的な調整こそが、他社との差別化につながる部分です。
導入ロードマップ|0〜12ヶ月で定着させる3フェーズ
離職予兆管理は、一度導入して終わりではなく、検証・標準化・拡張という順序で定着させていく必要があります。

0〜3ヶ月|予兆指標の設計・検証
この期間は、対象部署を1〜2部署に絞り、予兆指標としきい値の仮説を検証することに集中します。全社展開を急がず、まず「通知の精度」を確かめる期間と位置づけます。
3〜6ヶ月|運用の標準化
検証で得られた知見をもとに、通知フローとマネージャー向けの対応マニュアルを標準化します。対象部署を広げるのはこのタイミングからが現実的です。
6〜12ヶ月|定着支援への拡張
予兆管理の運用が安定してきたら、人的資本開示など社外への情報発信にもデータを活用できる段階に入ります。定着率・離職率の推移を、人事施策の効果測定にも役立てられるようになります。
効果が効いてくる理由とKPI・リスクの設計
離職予兆管理の効果は、導入した瞬間ではなく、通知を受けたマネージャーが実際に対応する体制が回り始めてから効いてきます。この時間差を理解しておかないと、「導入したのに辞める人が減らない」という誤解につながります。
効果が効いてくる理由|通知の精度が上がるほど早期対応率が上がる
効果が波及する経路は、予兆データの蓄積→通知精度の向上→マネージャーの早期対応率の向上→突然退職の減少、という順番です。データが少ない導入初期は通知の精度も粗いため、まずは「早期に気づけた件数」を追う指標から始めるのが現実的です。
KPIの設計(仮説としての目安)
| フェーズ | 見るべき指標 | 仮説としての目安 |
|---|---|---|
| 0〜3ヶ月 | 通知件数・通知後の面談実施率 | 通知後1週間以内の面談実施率8割以上 |
| 3〜6ヶ月 | 早期対応率(通知から退職代行経由の離職に至らなかった割合) | 早期対応率6割以上 |
| 6〜12ヶ月 | 対象部署の突然退職件数の前年比 | 前年比2〜3割減 |
自社のベースライン把握を前提とした集計方法(仮説値)。数値は組織規模・業種によって変動する。
特に重要なのは「通知後の面談実施率」です。通知が来ても現場が動かなければ、指標は精度が上がるだけで実際の離職防止にはつながりません。最初の3ヶ月は、通知の精度よりも「通知に対して必ず面談を行う」という運用の徹底を優先します。
リスクと対応策
| 想定されるリスク | 対応策 |
|---|---|
| 監視されていると感じ、従業員の心理的安全性が下がる | 指標の目的と運用範囲を従業員に事前に説明し、個人の評価には使わない方針を明文化する |
| 通知が多すぎてマネージャーが対応しきれなくなる | しきい値を段階的に厳しくし、初期は「明らかな異変」だけに絞って通知する |
| 通知後の面談が形式的になり、効果が出ない | 面談のトークスクリプトを用意し、マネージャーの面談スキルのばらつきを減らす |
Human Soar編集部が一般的な導入リスクを整理(参考情報)。
続行・撤退の判断基準|どの数値で見直すかを事前に決めておく
導入から6ヶ月経っても通知後の面談実施率が5割を下回る場合は、指標設計ではなく運用体制そのものを見直すタイミングと判断します。逆に面談実施率が高いのに突然退職が減らない場合は、しきい値や指標そのものの妥当性を再検証します。撤退基準をあらかじめ決めておくことは、弱さの表明ではなく、リスクを制御できる設計力の裏づけです。
料金モデルという選択肢|固定と成果を段階的に組み合わせる
離職予兆管理は、効果が発現するまでに時間差があるサービスです。だからこそ、料金モデルの設計自体が導入のしやすさを左右します。
買い切り型の限界|研修費の一括請求は効果発現のタイミングとズレる
従来型の買い切り研修費用は、契約時点で全額を請求する形が一般的です。しかし離職予兆管理は、指標の精度がデータの蓄積とともに上がっていく性質を持つため、導入直後に効果を測ることができません。買い切り型では、発注側が「効果が出るかわからないものに全額を払う」リスクを一方的に負うことになります。
新モデルの仕組み|指標設計は固定報酬、月次モニタリングは月額のサブスク型
本プランでは、初期の予兆指標設計・通知システムの構築費は固定報酬とし、月次のモニタリング運用支援は月額のサブスク型で提供します。運用を継続するほど指標の精度が上がるため、発注側にも「使い続けるメリット」が明確になり、提供側にも継続的な収益基盤が生まれます。
この段階的な料金設計は、事業承継後の組織崩壊を防ぐ監督交代メソッド活用プランなど、効果の発現に時間がかかる他のプランでも共通して採用している考え方です。
導入時の注意点|対象部署を絞った段階導入が現実的
全社一斉導入は、通知量が多くなりすぎて現場が対応しきれなくなるリスクがあります。まずは離職代行経由の離職が実際に発生した部署、あるいは中途採用比率の高い部署など、優先度の高い1〜2部署から始め、運用が安定してから対象を広げるのが現実的です。
対象となる組織・読者|3つのタイプ
離職予兆管理が特に効果を発揮しやすいのは、次の3タイプの組織です。
タイプ1|急成長中で1on1が形骸化している企業
採用ペースが速く、マネージャー1人あたりの部下人数が増えている企業では、1on1が進捗確認だけの場になりがちです。予兆指標があれば、面談の質に頼らずに異変を拾えるようになります。
タイプ2|退職代行経由の離職がすでに発生している企業
すでに退職代行経由の離職を経験している企業は、同じパターンが他の従業員にも起きている可能性があります。過去の事例を診断フェーズで棚卸しすることで、自社特有の予兆パターンを早期に見つけられます。
タイプ3|中途採用比率が高くオンボーディング途中の離脱が多い企業
中途入社者は、既存社員と比べて社内の人間関係が薄く、違和感を言い出しにくい傾向があります。新卒3年離職を防ぐ体育会式オンボーディング設計プランと組み合わせることで、入社後の早期離脱と、勤続年数が長い社員の突然退職の両方をカバーできます。
あわせて読みたい新卒3年離職を防ぐ体育会式オンボーディング設計プラン›
期待できる効果|3つの観点
離職予兆管理を導入した組織で期待できる効果は、次の3つの観点に整理できます。
早期対応率の向上
通知の仕組みがあることで、マネージャーが「気づいていたのに動けなかった」状態を防げます。管理職の意思決定力を鍛える元アスリート式プレッシャー耐性プランと組み合わせれば、通知を受けたマネージャーが実際に面談で成果を出す力も同時に強化できます。
引き止めコストの最適化
予兆の早い段階で対応できれば、退職の意思がすでに固まった後の引き止め交渉に比べて、条件面での譲歩や急な採用コストを抑えられます。早期対応は、コストの観点でも合理的です。
人的資本開示への波及
内閣官房・金融庁・経済産業省が2026年3月に公表した「人的資本可視化指針(改訂版)」では、離職率・定着率が投資家との対話に有用な開示項目として位置づけられています。予兆管理の運用データは、この種の情報開示の裏づけとしても活用できます。
あわせて読みたい人的資本開示を強化する人事部門向けスポーツ流可視化プラン›
(参考)「人的資本可視化指針(改訂版)」の公表について – 経済産業省
よくある質問
Q. 離職予兆管理はどんな企業に向いていますか?
すでに退職代行経由の離職を経験した企業や、1on1が形骸化しているほど組織規模が急拡大している企業に向いています。まずは診断フェーズで、過去の離職事例に共通するパターンがあるかを確認することから始められます。
Q. 退職代行を使われた場合でも予兆管理は意味がありますか?
意味があります。退職代行を使われたケース自体を分析対象にすることで、同じパターンが他の従業員にも起きていないかを点検できます。予兆管理は「防ぐ」だけでなく「同じことを繰り返さない」ための仕組みでもあります。
Q. 導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
診断・設計を合わせて3ヶ月程度、初回の運用開始まで含めると3〜6ヶ月が目安です。全社展開を急がず、1〜2部署から段階的に始めることをおすすめします。
まとめ|突然退職を「仕組み」で防ぐために
- 退職代行経由の離職は、直近1年間の転職者の16.6%が経験しており、特殊な事例ではなくなっている
- 突然退職の多くは、退職代行を使われる前の段階で観察可能な予兆を見せている
- アスリートのコンディション記録による予兆検知の発想は、離職予兆管理にそのまま応用できる
- 効果は導入直後ではなく、通知を受けたマネージャーが実際に対応し始めてから効いてくる
- 料金モデルも、固定報酬とサブスク型を組み合わせることで、効果発現までの時間差を埋められる
「うちの離職は突然で、予兆なんてなかった」——そう思った時点が、実は相談のタイミングです。
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