社長が替わったあと、古くからの社員が新しい社長についてこない。そんな事態を防ぐには、株式や資産の手続きとは別に、経営の交代そのものの段取りが要ります。役員の交代を規程と育成計画で前もって決めるスポーツ団体の考え方で、交代の時期・後継者の役割・先代の関わり方を、社長が替わる前に書面で決めます。
対象となるお客さま
- 数年以内に、子どもや社員への事業承継を考えている中小企業の経営者
- 社長に就任して間もない、または就任を控えている後継者
- 社外から招かれて、これから社長に就く経営者
よくあるお悩み
- 社長が替わったあと、古くからの社員が新しい社長の指示に動かない
- 会長に退いた先代と新社長の、どちらに相談すればよいか社員が迷う
- 後継者を支える幹部がおらず、社長ひとりで判断を抱えている
課題|事業承継の課題の上位に、後継者の力と社員との関係が並ぶ
事業承継というと、株式の移し方や税金の話が先に立ちます。けれども、経営者自身が心配しているのは、交代したあとの会社の回り方です。2021年版中小企業白書が紹介する経営者向けのアンケート(回答5,588社・複数回答)では、事業承継の課題として「事業の将来性」52.6%に次いで、「後継者の経営力育成」44.0%、「後継者を補佐する人材の確保」36.4%、「従業員との関係維持」32.0%が挙がりました。白書はこれを、事業承継後の経営体制に関する課題が上位にあると整理しています。
社員との関係は、承継の方法を問わず課題になります。後継者が決まっている企業で承継の方法別に見ると、「従業員との関係維持」を挙げた割合は、親族への承継で32.1%、社内の役員・従業員への承継で30.1%、社外から招く承継で36.1%でした。白書では、近年社長に就いた人のうち親族への承継の割合は2020年に34.2%まで下がり、社内からの昇格と同じ水準になったとしています。先代の身内ではない社長が、古くからの社員を率いる場面は増えています。
原因|交代の段取りと、後継者・先代・幹部の役割が決まっていない
新しい社長の能力や、社員の気持ちだけの問題ではありません。原因は次の3つです。
- 交代の時期と段取りが決まっていない:いつ、何を、誰に渡すかが決まっていないため、社員は「いま誰が決めているのか」を確かめられません。
- 後継者が社員の前で責任を持つ機会がない:就任前に部門やプロジェクトを任されていないと、社員は後継者の判断を見たことがないまま新しい社長を迎えます。
- 方針と役割が言葉になっていない:何を変えず、何を変えるのか。先代は何に関わり、古くからの幹部は何を担うのか。これが書かれていないと、判断が先代と新社長に分かれます。
準備に使える期間は、承継の方法で大きく違います。同じ白書では、承継の意思を伝えられてから社長に就くまでの期間が、親族への承継では「5年超」が43.9%で最も多い一方、社外から招く場合などは「半年未満」が45.5%で最も多くなっていました。また、承継前の5年ほどの間に「先代経営者とともに経営に携わった」と答えた経営者は58.2%(複数回答)です。承継したときの経営方針を「どちらとも言えない」とした経営者は16.4%で、白書によると、その3分の1以上は承継後に意識して取り組んだことが「特になし」でした。
スポーツ知見|スポーツ団体は、役員の交代を規程と育成計画で先に決めている
スポーツ庁は2019年6月、各競技を国内で統括する中央競技団体に向けて「スポーツ団体ガバナンスコード」を策定し、2023年9月に改定しました。その原則2は、役員等の体制の整備を求めています。中心にあるのが「役員等の新陳代謝を図る仕組み」で、理事の就任時の年齢に制限を設けること、理事が原則として10年を超えて在任しないよう再任回数の上限を設けることを挙げています。
理由は、理事が長く在任すると人の構成が固まり、特定の理事の発言力が強くなりすぎて議論が止まるおそれがあるためです。ただし、コードは理事を入れ替えるだけでなく、理事候補者の確保・育成計画をつくり、団体の運営に支障を出さずに円滑に新陳代謝を進めることを求めています。補足説明では、理事の候補となりうる人を各種委員会に置き、運営に必要な知見を高める機会をつくることを例に挙げています。
選び方も決めています。理事会から独立した役員候補者選考委員会を置き、派閥や年功序列、順送りの人事にとらわれずに資質・能力を確かめること。理事に期待する知識・経験・能力と選任の観点を、ウェブサイトなどで公表することも望ましいとしています。交代の時期、候補者を育てる場、選ぶ理由を、交代の前に決めて外から見える形にしているのです。
(参考)スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>(2023年9月29日改定版) – スポーツ庁
ただし、スポーツ団体と会社は同じではありません。中央競技団体は理事を任期ごとに選び直しますが、中小企業では経営者自身が後継者を選びます。2021年版中小企業白書でも、後継者を選ぶときの第一候補を「親族」とする経営者が61.1%でした。そのため、任期の代わりに「交代の時期」を数年前に決めて社内に示し、選考委員会の代わりに「後継者を選んだ理由と期待する役割」を幹部に説明する場をつくります。
解決策|交代の時期・後継者の役割・先代の関わり方を、交代前に書面で決める
株式や資産の承継の手続きとは別に、経営の交代そのものの段取りを、社長が替わる前に決めて書面に残します。
- 交代の時期:代表権、決裁、主な取引先、人事を、いつ・どの順で新しい社長に移すかを決める
- 後継者の経験機会:就任前に、部門の責任者や社内プロジェクトの責任者など、社員の前で判断する役割を任せる
- 方針と理由の説明:後継者を選んだ理由と期待する役割、変えないことと変えることを、幹部と社員に説明する
- 先代と幹部の役割:先代が交代後に関わる範囲と期限、古くからの幹部が新しい社長を補佐する役割を決める
いちばん大事なのは4つ目です。先代が会長として残ること自体は悪くありません。困るのは、何を誰が決めるのかが決まっていないまま、社員が先代と新社長の両方に相談する状態です。決裁の範囲と期限を書面にしておけば、社員は迷わずに済み、先代も口を出してよい範囲がはっきりします。
進め方|聞き取りで段取りを決め、交代後1年まで幹部会議で確かめる
交代の段取りは、先代・後継者・幹部の三者の考えがそろって、はじめて動きます。まず全員の話を別々に聞いてから、書面にします。
診断では、先代、後継者、古くからの幹部に一人ずつ聞き取りを行い、いまの決裁が誰に集まっているか、主な取引先や人事の判断を誰が担っているかを一覧にします。設計・試行では、交代の時期表と役割の分担表をつくり、交代前の幹部会議で実際に使って、決裁の流れに無理がないかを確かめます。定着では交代後の1年ほど、月次の幹部会議で決裁の滞りや社員からの相談の流れを確かめ、半年ごとに分担表を見直します。
期間は目安です。診断だけ、交代後の定着だけといった始め方もご提案します。Human Soarは聞き取り、書面の作成、幹部会議の進行を担い、御社には先代と後継者の聞き取り時間の確保、決裁や取引の情報の共有、幹部の会議への参加をお願いします。
成果物|交代の段取りを社内で回すための4つの書面
成果物は、ひな形を渡して終わりにはしません。どれも御社の実際の決裁や取引をもとに、先代・後継者と一緒につくります。
最初にできるのが「経営交代の時期表」です。代表権、決裁、主な取引先、人事を、いつ・どの順で移すかを1枚にまとめたもので、先代と後継者が交代までの予定を確かめるときに使います。次に、交代後に誰が何を決めるかを書いた「決裁と役割の分担表」をつくります。先代の関わる範囲と期限、幹部の補佐役もここに書き、社員が誰に相談すればよいかの目安になります。
あわせて「後継者の経験機会の計画」で、就任前に任せる部門やプロジェクトと、その時期を決めます。最後に「社員への説明の手順」を整えます。後継者を選んだ理由、変えないことと変えること、相談先を、幹部と社員に誰がいつ伝えるかをまとめたもので、交代を発表するときと、交代後の月次の幹部会議で使います。
期待できる効果|誰が何を決めるかが見え、交代後も判断が止まらない
先代にとっては、交代後に口を出してよい範囲と期限が決まるため、安心して経営を任せられます。後継者は、就任前に社員の前で判断した経験を積んだうえで社長に就けます。古くからの幹部は、新しい社長を補佐する役割がはっきりし、自分の立場を心配せずに済みます。社員は、何をだれに相談すればよいかが分かります。
見る数字は2つです。1つは「交代後1年の中核社員の退職者数」で、交代前の同じ期間と比べます。もう1つは「幹部会議で決まらずに持ち越した案件の数」で、減っていれば決裁の流れが新しい社長のもとで回っています。
Human Soarからのコメント
スポーツ団体のガバナンスコードは、役員を入れ替えることだけでなく、運営を止めずに入れ替えるための育成と選び方まで求めています。会社の社長交代も同じで、だれを後継者にするかと同じくらい、いつ・何を・どう渡すかが大切です。先代・後継者・幹部のお話を一人ずつ伺い、交代の段取りを一緒に書面にします。
よくあるご質問
Q. まだ後継者や交代の時期が決まっていない段階でも相談できますか?
できます。その場合は診断の聞き取りから始め、決裁や取引先の判断が誰に集まっているかを一覧にします。一覧ができると、交代までに何年かかりそうか、後継者にどんな経験が必要かを考える材料になります。
Q. 社員や社外の人に会社を継いでもらう場合でも使えますか?
使えます。親族以外への承継では、社員が後継者を選んだ理由を知る機会が少ないため、理由と期待する役割の説明がより大切になります。社外から招く場合は準備の期間が短くなりやすいので、交代の時期表と分担表を優先してつくります。
Q. 先代が交代後も経営に関わりたいと考えている場合はどうしますか?
関わること自体はやめていただく必要はありません。関わる範囲と期限を、決裁と役割の分担表に書いて先代・後継者・幹部で合意します。聞き取りはHuman Soarが一人ずつ行うので、先代の考えも後継者の考えも、それぞれ率直に伺えます。
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