職場の腰痛対策を作業から見直す|スポーツバイオメカニクスの知見

職場の腰痛対策を作業から見直す|スポーツバイオメカニクスの知見 ソリューション
SOLUTION|健康経営 × バイオメカニクス

腰痛の注意喚起や姿勢の指導はしているのに、同じ作業で腰を痛める人が続く。厚生労働省の指針とバイオメカニクスの研究をもとに、作業ごとの重さ・回数・距離・姿勢を確かめ、負担の大きい作業から基準と設備を見直します。

腰痛対策安全衛生健康経営作業基準

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対象となるお客さま

  • 物流・製造・小売などの現場で腰痛の休業者が出ている、安全衛生の担当者
  • 健康経営や労災対策を任されている、総務・人事の担当者
  • 作業手順を決める立場にある、工場長・センター長などの拠点責任者

よくあるお悩み

  • 「腰を曲げないように」と伝えているのに、腰を痛める人が減らない
  • どの作業から手を付ければよいか決められない
  • 指針があるのは知っているが、自社の作業基準になっていない
ISSUE

課題|腰痛は業務上疾病の55.0%を占め、休業4日以上で6,664人に上る

腰痛予防の作業基準整備プログラム|業務上疾病に占める腰痛の割合と、業種別の災害性腰痛の人数

腰痛は、仕事が原因の病気で最も多いものです。厚生労働省の「業務上疾病発生状況等調査(令和7年)」では、新型コロナウイルス感染症を除く休業4日以上の業務上疾病は12,122人でした。このうち災害性腰痛(重い物を持ち上げた拍子などに起きる腰痛)が6,613人、負傷によらない業務上の腰痛が51人で、合わせて6,664人、全体の55.0%です(割合は Human Soar の計算値)。

災害性腰痛を業種で見ると、保健衛生業が2,320人、商業・金融・広告業が1,316人、製造業が889人、運輸交通業が783人で、この4業種で約8割を占めます。令和7年の労働災害統計でも、腰痛等の「動作の反動・無理な動作」による休業4日以上の死傷者は22,166人でした。

これらは休業4日以上の数字です。短い休みで済んだ腰痛や、痛みを抱えたまま働いている人は含まれません。

(参考)業務上疾病発生状況等調査(令和7年) – 厚生労働省

(参考)令和7年の労働災害発生状況を公表 – 厚生労働省

CAUSE

原因|姿勢の指導は55.9%が行うが、重さの上限を決めているのは15.0%

腰痛予防の作業基準整備プログラム|腰痛予防対策の内容別の実施割合と、対策が進まない3つの原因

取り組んでいないわけではありません。令和7年の労働安全衛生調査(実態調査)では、腰に負担のかかる業務(人の抱え上げを除く)の労働者がいる事業所の92.7%が、腰痛予防対策に取り組んでいます。問題は中身です。原因は次の3つです。

  • 指針の中身が伝わっていない:全事業所のうち、厚生労働省の指針の内容を知っているのは31.0%です。事業所規模10〜49人では26.8%、50人以上では54.3%でした。
  • 対策が人への注意に寄っている:「適切な姿勢・動作を理解させ徹底している」は55.9%です。一方で「重量物取扱い業務の自動化・省力化」は24.2%、「取扱い重量を作業者の体重の40%(男性)、24%(女性)までにしている」は15.0%でした。
  • 作業が変わっても見直しにつながりにくい:労働災害の事例を分析して再発防止につなげる体制があるのは32.7%です。腰に負担のかかる業務の労働者がいる事業所のうち、腰痛予防の教育を「作業内容・工程・手順・設備の変更の際」に行っているのも32.3%です。

姿勢の指導は指針にもある大切な対策です。ただし、荷物が重いまま、作業台が低いままでは、前かがみやひねりを避けにくくなります。指導だけでは、この負担が作業に残ります。

(参考)令和7年労働安全衛生調査(実態調査)事業所調査 第11表・第13表・第15表 – 厚生労働省(e-Stat)

SPORTS INSIGHT

スポーツ知見|バイオメカニクスでは、腰を曲げる角度だけで腰痛を見分けられなかった

腰痛予防の作業基準整備プログラム|持ち上げ動作と腰痛の関係を調べた4つのレビューの結果と、研究の限界

バイオメカニクスは、体の動きと体にかかる力を力学で調べる学問で、スポーツの動作分析にも使われています。「腰を曲げて持ち上げると腰痛になる」という説明も、この分野で検証されてきました。

Saraceni らの系統的レビュー(Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy、2020年)は、持ち上げるときの腰の曲げと腰痛の関係を調べた11本の研究をまとめました。腰の骨の間の角度で測った4本では、腰痛のある人とない人で曲げの最大角度に差がありませんでした。胸と骨盤の角度で測った7本では、腰痛のある人のほうが平均6.0度小さく曲げていました。11本中9本は統計的に意味のある差がなく、著者は、質の低い根拠ながら、腰の曲げが大きいことは腰痛の発生や持続の危険因子とは言えないと結論づけています。

ほかのレビューも、負担が無関係だとは言っていません。Swain らの総説(Journal of Biomechanics、2020年)は41本のレビューを調べ、姿勢や曲げ・ひねり、重労働の要素について、腰痛との関連を認めた結果と認めなかった結果の両方があり、関連は記録されているものの因果関係の合意はないとしました。Jahn らのメタ分析(Scandinavian Journal of Work, Environment & Health、2023年)は26本の論文から、慢性腰痛との関連を調べました。負担が最も大きい群と最も小さい群で腰痛の起こりやすさを比べた値(オッズ比)は、複数の負担の組み合わせで2.2、持ち上げ・運搬で1.7、不自然な姿勢で1.5でした。根拠の確かさは中程度です。

指導の効果については、Verbeek らのコクラン・レビュー(2011年)があります。9本のランダム化比較試験(20,101人)を中心に調べ、持ち上げ方の助言や訓練には、補助具の有無にかかわらず腰痛を防ぐ効果が示されませんでした。つまり研究が示しているのは「腰を曲げてよい」ということではなく、「姿勢の指導だけに頼っても足りない」ということです。

(参考)To Flex or Not to Flex?(2020年) – Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy(PubMed)

(参考)No consensus on causality of spine postures or physical exposure and low back pain(2020年) – Journal of Biomechanics(PubMed)

(参考)Occupational mechanical exposures as risk factor for chronic low-back pain(2023年) – Scandinavian Journal of Work, Environment & Health

(参考)Manual material handling advice and assistive devices for preventing and treating back pain in workers(2011年) – Cochrane Database of Systematic Reviews

ただし、研究の場面と御社の職場は同じではありません。Saraceni らのレビューは根拠の質が低く、11本中10本が同じ時点で比べた研究なので、原因と結果の順番までは分かりません。Verbeek らのレビューの対象も、海外の郵便局員などを含むもので、日本の職場で確かめたものではありません。また、補助具を組み合わせても予防効果は示されていないため、補助具を入れれば腰痛が減るとも言えません。そこで現場の姿勢の決まりは指針のとおり残し、作業の負担を減らせたか、腰痛の訴えがどう変わるかを毎月確かめます。

SOLUTION

解決策|作業ごとに負担を確かめ、作業そのものを先に変える

腰痛予防の作業基準整備プログラム|作業の道具・荷物・作業場所を変える3つの見直しと、それぞれの基準

指針は、重量の制限だけを守らせるのではなく、取扱い回数などの作業密度も考えて対策するよう求めています。そこで、まず現場で作業ごとに、重さ、回数、運ぶ距離、持ち上げる高さ、姿勢を記録します。そのうえで、負担の大きい作業から次の順に見直します。

  • 道具を変える:作業の自動化を検討し、難しければ台車や昇降装置などの補助機器を使います。
  • 荷物を変える:小分けにして軽くし、重量や重心の偏りを表示します。人力だけで扱う重さは、満18歳以上の男性で体重のおおむね40%以下、女性はさらにその60%くらいまでを目安にし、超えるときは2人以上で扱います。
  • 場所と時間を変える:作業台の高さや置き場所を調整し、腰をかがめる作業を減らします。他の作業と組み合わせて、続けて扱う時間も減らします。
  • 姿勢を決める:それでも残る作業は、指針のとおり荷物に近づき、膝を曲げて腰を十分に下ろし、ひねらない形を作業基準に書きます。

人の抱え上げがある介護・看護の作業は、原則として人力で抱え上げないとする指針の別の項目に沿って基準を作ります。痛みやしびれがある方の作業は現場で判断せず、産業医や医療機関に相談してもらいます。

(参考)職場における腰痛予防対策指針及び解説 – 厚生労働省

APPROACH

進め方|負担の大きい1工程で3か月試してから広げる

腰痛予防の作業基準整備プログラム|診断・設計と試行・定着の3つのフェーズで、やること・役割分担・期間の目安

全部の作業を一度に見直すと、現場の負担が大きくなり、どの変更が役に立ったのかも分かりません。指針も、初めてチェックリストを使うときは、腰痛の発生が心配な作業や過去に腰痛が起きた作業に絞る進め方を示しています。

診断では、休業の記録と現場の聞き取りから対象の工程を決め、作業ごとの負担を記録します。設計・試行では、改善案と作業基準を作り、1つの工程で3か月試して、月ごとに結果を確かめます。定着では、ほかの工程に広げ、作業や設備が変わるたびに基準を見直す流れを安全衛生委員会の予定に組み込みます。

期間は目安です。診断だけ、1工程だけといった始め方もご提案します。Human Soar は現場の確認、記録の様式、基準案の作成、レビューの進行を担います。御社には現場の立ち会いと休業記録の共有、改善を実施するかどうかの判断、産業医との連携をお願いします。

OUTPUT

成果物|支援が終わっても現場で見直せる4つの仕組み

腰痛予防の作業基準整備プログラム|作業別の負担確認表、作業基準書、改善提案シート、月次レビュー手順の中身と使う場面

どれも御社の実際の作業をもとに、現場の方と一緒に作ります。新しい作業が増えても、社内で同じように書き足せる形にします。

最初にできるのが「作業別の腰部負担確認表」です。診断のときに安全衛生の担当者と現場責任者が、作業ごとの重さ、回数、距離、高さ、姿勢を記入し、どの作業を先に見直すかを決めます。次に「重量物・姿勢の作業基準書」を作ります。扱ってよい重さ、2人で扱う条件、使う道具、持ち上げ方を作業ごとに書き、配置や雇入れのときの教育に使います。

現場からは「改善の提案シート」で意見を集めます。作業者が気づいた負担と改善案を1枚に書き、現場責任者が実施するかどうかを決めます。最後に「月次レビューの手順」を整えます。安全衛生委員会などで、基準を超える作業と改善の進み具合、腰痛の訴えを確かめ、基準を直すところまでを毎月同じ手順で進めます。

VALUE

期待できる効果|経営・現場責任者・安全衛生担当の3つが変わる

腰痛予防の作業基準整備プログラム|経営・現場責任者・安全衛生担当の3つの効果と、見直しの時期を確かめるセルフチェック

経営にとっては、腰痛が起きやすい作業が一覧になり、設備や人員の判断をその順番で考えられるようになります。現場責任者は、注意を繰り返すのではなく、作業を変える提案を受け取って決められるようになります。安全衛生の担当者は、作業が変わったときに何を見直すかが決まり、対応しやすくなります。

見る数字は「基準を超える作業の数」と「提案のうち実施した改善の件数」です。腰痛による休業は件数が少なく月ごとに揺れやすいため、半年から1年の単位で見ます。腰痛には作業以外の要因も関わるので、減少を約束するものではありません。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、作業基準を見直す時期です。

COMMENT

Human Soarからのコメント

腰痛対策は「気をつけましょう」で終わりやすいテーマです。けれども、重い荷物と低い作業台が残ったままでは、気をつける本人に負担が残ります。現場の方と作業を一つずつ見て、変えられるところから一緒に変えていきます。

FAQ

よくあるご質問

Q. 持ち上げるときに腰を曲げても問題ないのですか?

問題ないとは言えません。研究が示したのは、腰を曲げる角度だけでは腰痛の有無を見分けられなかったということで、根拠の質も低いものです。職場の作業基準は厚生労働省の指針に沿って、荷物に近づき、膝を曲げ、ひねらない形で定めます。

Q. 腰痛のある従業員の作業は、どう決めればよいですか?

診断や作業の可否を、現場や当社で判断することはしません。痛みやしびれがある方には産業医や医療機関への相談を勧め、医師の意見をもとに作業方法や作業時間を調整します。指針も、職場復帰の際は産業医等の意見を十分に尊重するよう求めています。

Q. 指針は法律ですか?守らないと違反になりますか?

指針そのものは、厚生労働省が示した対策の進め方で、法律ではありません。ただし女性労働基準規則のように、取り扱える重量を法令で定めたものもあります。自社の作業が法令に触れるかどうかは、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に確認してください。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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