AI審判とは|スポーツ大会運営者が導入前に確かめる3点

AI審判とは|スポーツ大会運営者が導入前に確かめる3点のアイキャッチ スポーツAI

AI審判とは、カメラやセンサーで選手とボールの位置を測り、ルールに当てはめて判定の材料を出す仕組みの総称です。サッカー、テニス、野球、体操ですでに公式に使われていますが、今回確認した4競技では、サッカーと野球、体操で最終的な判定に人の審判が関わっています(スポーツAI全体の整理はこちら)。

終盤の接戦で際どい判定に抗議が出て、試合が数分止まる。映像を見直しても意見が割れ、選手も観客も納得しきれない。大会を運営する側なら、一度は経験する場面だと思います。この記事では、実際に導入されている4つの仕組み、精度の見方、人との役割分担を整理したうえで、導入前に確かめる3点をまとめます。

仕組みは計測・判定・確認の3段|最終決定は人の審判に残る

AI審判の仕組み|計測・判定・確認の3段の流れ

AI審判は、位置を測る「計測」、ルールに当てはめる「判定」、人が結果を見て決める「確認」の3段で動きます。判定そのものを機械が出す場合でも、前提となる計測の精度と運用ルールは人が決めています。

計測|カメラとセンサーが位置を取る

最初の段は、選手とボールの位置を高い頻度で記録することです。FIFAが公表したワールドカップ2022の半自動オフサイドテクノロジーでは、スタジアムの屋根下に12台の専用カメラを置き、選手1人あたり最大29か所の点を毎秒50回追跡しています。ボールには内蔵センサーを入れ、毎秒500回のデータを送ります。

(参考)Semi-Automated Offside Technology – FIFA

判定|取った位置をルールに当てはめる

次の段は、記録した位置をルールの条件に照らすことです。オフサイドなら「味方がボールを蹴った瞬間に、攻撃側の選手が最後から2人目の守備側選手より前にいたか」を、システムが自動で線として描きます。野球なら、打者の身長から決めた長方形の中をボールが通ったかを判定します。

確認|人の審判が結果を見て決める

最後の段は、人の審判が結果を確かめて決める工程です。FIFAの資料では、ビデオマッチオフィシャルが自動で選ばれた「蹴った瞬間」と引かれた線を確認し、通常は数秒以内に主審へ伝えるとされています。システムの結果に同意できなければ、人が手動で蹴った瞬間を選び直せます。

あわせて読みたい半自動オフサイドAI判定|スポーツDX担当者向け導入視点›

(参考)Semi-Automated Offside Technology – FIFA

Q. AI審判とは何ですか?

AI審判とは、カメラやセンサーで選手やボールの位置を測り、ルールに当てはめて判定の材料を出す仕組みの総称です。サッカー・野球・体操では人の審判が最終判断に関わり、テニスのライン判定では機械がコールを行います。

判定を自動化・支援している4競技|サッカー・テニス・野球・体操

AI審判は競技によって、人が最終判断する形と、機械がコールを行う形に分かれます。下の表は、公表資料で確認できた4競技の仕組みと導入状況を並べたものです。

競技 システムと判定の対象 人の関わり 導入の状況
サッカー 半自動オフサイドテクノロジー(オフサイドの位置) ビデオマッチオフィシャルが確認し主審へ伝える ワールドカップ2022で使用。AFCチャンピオンズリーグエリートは2025年に準々決勝以降で導入
テニス Hawk-Eyeの電子ライン判定(アウト・フォールトのコール) 機械がコールし、線審の役割を置き換える ウィンブルドンは2025年から。ATPツアーは2025年から全大会(2024年10月発表)
野球 MLBのABSチャレンジ(ボール・ストライク) 球審が全球をコールし、異議があれば機械が判定 2026年のスプリングトレーニングからポストシーズンまで全試合(2025年9月承認)
体操 富士通のJudging Support System(技の認定) 審判の採点を支援する 国際体操連盟が全10種目で利用開始(2023年10月発表)

出典:FIFA、CBS Sports、SVG Europe、ゲキサカ(AFC発表の報道)、富士通の公表資料をもとにHuman Soarが整理。導入状況は各資料の公表時点。

サッカー|半自動オフサイドは12台のカメラで選手を追う

サッカーでは、オフサイドの位置の判定が自動化に最も進んでいます。AFC(アジアサッカー連盟)は2025年4月、AFCチャンピオンズリーグエリートの準々決勝以降で半自動オフサイドテクノロジーを導入すると発表し、日本から横浜F・マリノスと川崎フロンターレが参戦しました。国内クラブの選手や運営スタッフにとっても、すでに身近な技術になっています。

(参考)ACLE最終決戦で半自動オフサイドテクノロジーを初導入へ!! 日本から横浜FM、川崎Fが参戦 – ゲキサカ

テニス|ライン判定は線審から機械へ移った

テニスは、機械がコールを担うところまで進んだ競技です。ウィンブルドンは2024年10月に、2025年からソニーのHawk-Eyeによる電子ライン判定を全チャンピオンシップコートと予選コートで使うと発表しました。同じ発表の時点で、ATPツアーは2025年から全大会で採用し、全豪オープンと全米オープンは2021年から全コートで使っています。

(参考)Wimbledon to adopt Sony Hawk-Eye’s Live Electronic Line Calling for 2025 – SVG Europe

野球|ボール・ストライクは人が判定し機械が異議を裁く

野球では、機械が全球を判定するのではなく、人の判定に異議を申し立てる形が選ばれました。MLBの競技委員会は2025年9月23日にABSチャレンジの導入を承認しています。球審が全球をコールし、各チームは1試合に2回まで異議を出せます。異議が通れば権利は残り、申し立てられるのは投手、捕手、打者だけです。

判定の基準は、本塁ベースの幅17インチの長方形で、上端が打者の身長の53.5%、下端が27%です。MLBが試合前に各選手の身長を公式に確認します。計測はStatcastを支えるHawk-Eyeの技術で行われます。

(参考)MLB robot umpires get the green light: What to know about ABS challenge system that starts in 2026 – CBS Sports

体操|技の認定を骨格の時系列から支援する

体操は、採点の中でも技の認定をAIが支援する競技です。富士通の公表によると、センサーや画像のデータから選手の骨格の時系列情報を解析して技の種類を判定するもので、基本特許群は関連特許200件以上にのぼります。2023年10月の発表では、国際体操連盟が全10種目で利用を開始したとされています。

開発の中身は、人の検出と追跡、学習データの生成、骨格の補正、技の認識の4つに整理されています(富士通の研究者による2024年の報告)。

(参考)富士通、身体の動きを公平かつ正確に判定するAI採点システムに関する発明が、全国発明表彰にて「発明賞」を受賞 – 富士通株式会社

(参考)体操競技におけるJudging Support Systemの開発と展開(2024年) – 情報処理学会

Q. AI審判はどの競技で導入されていますか?

本記事で確認できた導入例は、サッカー(半自動オフサイド)、テニス(ライン判定)、野球(MLBのボール・ストライク判定)、体操(技の認定の支援)の4競技です。導入の範囲は大会や競技団体ごとに異なります。

精度は1秒に何回測るかで決まる|50回と500回の差

AI審判の精度|毎秒50回の測定で選手が1回の間に進む距離の計算

位置を測る判定の精度は、測定の間隔で大枠が決まります。FIFAの資料では選手の追跡が毎秒50回で、1回の間隔は0.02秒です。秒速8メートル(時速約29km)で走る選手を想定すると、1回の間に進む距離は約16センチになります(本記事の計算値)。

人の目はキックの瞬間を132ミリ秒遅れて捉えた

人の目で映像を見る側にも、ずれはあります。バース大学の研究者による2022年の実験では、大学生10人がVARの映像でキックの瞬間を判断したところ、実際のオフサイドの瞬間より平均132ミリ秒遅れていました。同じ秒速8メートルの選手なら、132ミリ秒で進む距離は約1.06メートルです(本記事の計算値)。ただし被験者は10人の学生で、現場の審判の実力を示す数値ではありません。

(参考)Is perception of VAR outcome biomechanically accurate? – ISBS Proceedings Archive 2022(University of Bath)

機械側にも更新間隔という限界がある

機械の計測にも限界があります。選手は毎秒50回の更新なので、更新と更新の間の動きは推定になります。そこでボールに毎秒500回のデータを送るセンサーを入れ、蹴った瞬間を高い頻度で特定する設計になっています。なお、本記事の確認範囲では、判定誤差そのものを示す公表値は見つけられませんでした。導入を検討するときは、誤差の実測値を提供元に問い合わせる必要があります。

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(参考)Semi-Automated Offside Technology – FIFA

Q. AI審判は人間の審判より正確ですか?

位置を測る判定では、機械の計測に強みがあります。FIFAの仕組みは選手を毎秒50回、ボールのセンサーは毎秒500回記録します。ただし判定誤差そのものの公表値は確認できておらず、妨害の有無のような解釈の判断は人に残ります。

機械に任せやすい判定と人に残る判定|分かれ目は基準が物理的に決まるか

AI審判が任せやすい判定と人に残る判定の分かれ目

機械に任せやすいのは、ラインやゾーンのように基準が位置で決まる判定です。反対に、相手に干渉したかどうかのような状況の解釈は、人の審判に残っています。上の図は、4競技の判定を本記事の整理で配置したものです。画像認識で審判を支援する事例は、AIコンピュータビジョンによる審判支援の事例でも扱っています。

位置と線で決まる判定は機械に任せやすい

テニスのイン・アウトのように、線との位置関係だけで決まる判定は、機械がコールまで担っています。野球のボール・ストライクも、ゾーンという長方形との位置関係で決まる点は同じです。ただしMLBは、機械が全球を決める形にはせず、球審が全球をコールし、異議が出たときだけ機械が判定する形を選びました。

(参考)MLB robot umpires get the green light: What to know about ABS challenge system that starts in 2026 – CBS Sports

状況の解釈が要る判定は人に残る

サッカーでは、オフサイドの位置は自動で線になりますが、オフサイドの位置にいた選手が相手に干渉したかどうかという判断は主審に残ると、FIFAの資料に明記されています。位置は測れても、プレーへの関与をどう見るかはルールの解釈が要るためです。

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(参考)Semi-Automated Offside Technology – FIFA

Q. AI審判で人の審判はいらなくなりますか?

本記事で確認できた導入例では、人の審判は残っています。サッカーでは妨害の判断が主審に残り、野球では球審が全球をコールします。テニスのライン判定は、機械がコールを担う例外です。

大会運営者が導入前に確かめる3点|判定対象・確認の運用・データの持ち主

導入を判断する前に、判定対象、人の確認の運用、データの持ち主の3点を確かめてください。参考までに、スポーツ庁の委託事業報告書(令和5年3月公表)は国内外153件の事例を集めており、うち「競技の強化」が88件、約58%でした(本記事の計算値)。区分は競技の強化・普及・育成が中心で、運営側の判定技術の事例集としてはそのまま使えません。運営者が自分で確かめる観点が必要になります。確認の運用を考えるときは、VARの仕組みと応用や半自動オフサイドの導入視点も参考になります。

① 判定したいものがルール上「位置と線」で決まるか

最初に、判定したい対象が位置と線で決まるのか、状況の解釈が要るのかを分けます。位置で決まるものはカメラとセンサーで測りやすく、解釈が要るものは人の審判を残す設計が前提になります。大会の中でもめやすい判定を3つ書き出し、どちらに当たるかを仕分けるだけでも、導入の費用対効果は見えやすくなります。

② 人の最終確認を誰がどの手順で行うか

次に、システムの結果を誰が確認し、不一致のときはどうするかを決めます。FIFAの仕組みでは、確認役が結果に同意できなければ手動で選び直せる手順が用意されています。MLBも、人が全球をコールしたうえで異議の回数に上限を置いています。機械の結果を誰がどの時点で採用するのかを、ルールブックと運営マニュアルに書いておく必要があります。

③ 計測データの持ち主と見せ方を決めておく

最後に、計測データの権利と観客への見せ方を決めます。FIFAは追跡データとボールデータを自らが唯一の所有者としており、確定した判定は同じデータから作った3Dアニメーションとしてスタジアムの画面と放送局に提供されます。導入する大会でも、データを誰が持ち、どこまで公開するのかを契約前に決めておくと、判定後の説明責任を果たしやすくなります。

(参考)令和4年度 スポーツ産業の成長促進事業「スポーツ×テクノロジー活用推進事業」(するスポーツ)委託事業成果報告書 – スポーツ庁(委託事業報告書)

まとめ|AI審判は判定の根拠を増やす装置として選ぶ

AI審判の成果は、技術の性能だけでなく、人の確認の運用とデータの扱いを先に決められるかで分かれます。要点は次のとおりです。

  • AI審判は「計測・判定・確認」の3段で動き、サッカー・野球・体操では最終判断に人が関わります。
  • 導入が確認できた4競技は、サッカー(半自動オフサイド)、テニス(ライン判定)、野球(ABSチャレンジ)、体操(技の認定の支援)です。
  • 精度は更新間隔で決まり、FIFAの仕組みは選手を毎秒50回、ボールを毎秒500回記録します。判定誤差の公表値は確認できませんでした。
  • 位置と線で決まる判定は機械に任せやすく、妨害の判断のような解釈は人に残ります。
  • 導入前には、判定対象、人の確認の運用、データの持ち主の3点を決めてください。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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