原田海の身体づくり転機|企業が学ぶ専門家に頼る決断

原田海選手の身体づくりの転機と企業が学ぶ専門家活用の視点 スポーツアスリート

ワールドカップで結果が出ない日々が続くと、これまでのやり方を疑い始める選手は多いものです。東京五輪スポーツクライミング日本代表の原田海選手も、2021年に差しかかった時期、まさにその壁にぶつかっていました。

原田選手の転機から見えてくる結論は、伸び悩みを感じたときに「一人でやり切る」ことにこだわらず、専門家の視点を取り入れる決断をしたことがブレイクスルーの入り口になったという点です。本記事では、東京五輪直前のインタビューをもとに、自己流を手放した原田選手の考え方と、岸和田市が公表したインタビューから見える生い立ちを紹介し、企業の人材育成に活かせる視点を解説します。

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東京五輪代表・原田海が明かした「一人でやることの限界」

2021年5月に行われたワールドカップ・ソルトレイクシティ大会で、原田選手はスピード・ボルダリングの両種目で予選落ちという結果に終わりました。本人は「スピード、ボルダリングともにまったくいいところがなく、何もできなかった」と振り返っています。

不調の背景には、1月のボルダリングジャパンカップで痛めた左手薬指のケガがありました。4月には回復傾向にあったものの、大会の2〜3週間前に痛みがぶり返し、万全な調整ができないまま本番を迎えていたといいます。

(参考)東京五輪 直前インタビュー|原田海 その瞬間の最高のパフォーマンスを – CLIMBERS

Q. 原田海選手はどんなケガを抱えていましたか?

2021年1月のボルダリングジャパンカップで痛めた左手薬指のケガです。4月には回復していましたが、東京五輪直前の大会の2〜3週間前に痛みがぶり返し、万全な状態で調整できないまま本番を迎えていました。

専門家をつけて変わった、下半身と回復力を重視したトレーニング

原田選手はこの時期、新たにフィジカルトレーナーをつけ、2月・3月から基礎的なトレーニングを始めていました。4月・5月にはバイクやランニングなどの有酸素運動を取り入れ、下半身中心のメニューをこなしていたといいます。上半身のトレーニングはそれまで自分で組んでいたため、下半身に焦点を当てたのは大きな変化でした。

「有酸素系は苦手意識があり、まったくやってきませんでした。鍛えるトレーニングというよりは、回復力を早めたりする目的で行っています」と語る原田選手。狙いは筋力そのものの向上ではなく、疲労からの回復や動きの多様性を身につけることにありました。

原田海選手のトレーニングが自己流から専門家併走へ変化した比較図解

図:トレーナー導入前後でのトレーニング方針の変化

専門家をつけた理由を、原田選手は「一人でやることに限界を感じたんです」と説明しています。パフォーマンスが落ち、基礎から見直したときに「今までやってきたことを復習するような感覚」になり、新たな発見がなくなってしまったといいます。「僕にない知識を持っている専門家の方に話を聞き、より多くの引き出しを作っておいたほうがいい」という判断が、週1回のトレーナー面談につながりました。

結果として「自分の動きの癖を知ることができた」と原田選手。疲れやすい部位に頼って登ってきたクセに気づき、そこに負担をかけない動きを模索できるようになったといいます。組織のなかで一人のやり方が行き詰まったとき、外部の専門知見を取り入れる決断は、企業のマネジメント層にも通じる示唆です。

Q. なぜ原田海選手はフィジカルトレーナーをつけたのですか?

一人で基礎からトレーニングを見直しても新たな発見が得られなくなったためです。自分にない知識を持つ専門家から学び、引き出しを増やしておきたいという判断から、週1回のトレーナー面談を取り入れました。

東京五輪までの意識の変化を4つの観点で振り返る

取材時点までの原田選手の状況を振り返ると、フィジカル・ケガ・気持ち・五輪への実感という4つの観点で変化が見て取れます。下の表は、インタビューでの発言をもとにHuman Soarが時系列で整理したものです。

観点 2021年始め頃 2021年6月(取材時)
フィジカル 上半身中心の自己流トレーニング トレーナー併走で下半身・有酸素を追加
指のケガ 1月に負傷、4月には回復傾向 大会直前に痛みがぶり返し調整継続中
気持ちの面 「精神的に苦しい日々」と自身で表現 葛藤しながらも「出場する覚悟」を口にする
五輪への実感 昨年末時点では「まだ実感がない」 「徐々に湧いてきている」と変化を語る

表:CLIMBERSのインタビュー内容をもとにHuman Soarが時系列で整理

フィジカル|自己流から専門家併走への切り替え

上半身は自分で組み立てていたトレーニングを、下半身・有酸素運動を含む形へと広げました。専門家の視点を取り入れることで、これまで見えていなかった動きの癖に気づけたことが最大の変化です。

指のケガ|回復と再発を繰り返しながらの調整

1月の負傷から一時的に回復しても、大会直前に痛みがぶり返すという不安定な状態が続きました。ケガと本番のタイミングが重なりやすいコンディション管理の難しさが表れています。

気持ちの面|苦しさを抱えながらも前を向く変化

不調が続いた時期には「精神的に苦しい日々」と率直に語っていた原田選手ですが、取材時には葛藤を抱えつつも「出場する覚悟もあります」と、前向きな言葉に変わっていました。

五輪への実感|「まだ実感がない」から「徐々に湧いてきた」へ

2020年末のインタビューでは五輪出場について「まだ実感がない」と話していた原田選手ですが、取材時にはその実感が少しずつ湧いてきたと変化を語っています。気持ちの整理には時間がかかるという実例です。

岸和田の母が支えた原田海の生き方

原田選手のキャリアを語るうえで欠かせないのが、母親の存在です。出身地・岸和田市が市制施行100周年を記念して公表したインタビューによると、原田選手は小学5年生のときに母親が見つけたクライミングジムに通い始めたのが競技との出会いでした。

高校の頃から始めた海外遠征には多くの費用がかかり、母子家庭だった原田選手を母親が全面的に支えてきたといいます。スポンサー収入を得られるようになった今も、そのお金はすべて母親へ送金し、自身の生活はアルバイトでまかなっているという逸話からは、支えてくれた人への向き合い方が伝わってきます。

(参考)スペシャルインタビュー 原田海さん – 岸和田市市制施行100周年記念誌

Q. 原田海選手がクライミングを始めたきっかけは何ですか?

小学5年生のとき、母親が見つけた地元・岸和田市のクライミングジムに通い始めたことがきっかけです。目の前の課題を自分の身体でクリアする喜びを知ったと振り返っています。

個人競技でも他者との共有を大切にする原田海の考え方

スポーツクライミングは個人競技でありながら、選手同士が壁の攻略法(ベータ)を共有し合う文化があります。原田選手は「国籍、言語、世代の異なる選手がその攻略法を短時間で考え、共有する」ことを競技の面白さの一つとして挙げ、YouTubeなどで選手の技術が公開・共有される今、こうした情報発信は選手の義務だと考えていると語っています。

個人の記録を追い求めるだけでなく、競技全体の認知度向上のために自ら動画配信を行う姿勢は、成果を独占せず共有することで業界全体の底上げを図るという発想です。似た視点は、動作分析を通じて弱点克服に取り組む安楽宙斗選手の記事にも共通しています。安楽宙斗選手が実践する動作分析術の記事もあわせて参考にしてみてください。

専門家に頼る決断や、自分の記録よりも競技全体の価値を考える姿勢は、企業のトレーニング施策や人材育成の場面にも応用できます。食事を練習と同じ重要度で捉える松田丈志選手の記事や、減量に頼らない身体づくりを実践する田中恒成選手の記事も、体づくりの発想を広げるうえで参考になります。

Q. スポーツクライミングは個人競技なのに選手同士で情報共有するのですか?

はい。壁の攻略法(ベータ)を国籍や世代の異なる選手同士が短時間で共有し合う文化があります。原田選手はこれを競技の面白さの一つと捉え、動画配信による情報発信も選手の義務だと考えています。

まとめ|専門家に頼る決断から学ぶ4つのポイント

  • 一人でやり切ることにこだわらず、専門家の視点を取り入れる決断が停滞を破る糸口になること
  • フィジカル・ケガ・気持ち・実感という複数の観点で振り返ると、変化の過程が見えやすくなること
  • 支えてくれた人への向き合い方が、長期的なキャリアを続ける原動力になり得ること
  • 個人競技であっても情報を共有する姿勢が、業界全体の価値を高めることにつながること

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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