入江聖奈(いりえ・せな)さんは、鳥取県米子市出身のボクサーです。2021年8月3日、東京2020オリンピックの女子フェザー級で金メダルを獲り、日本の女子ボクシングで初めての五輪金メダリストになりました。そして2022年11月27日の全日本選手権で3度目の優勝を飾ったのを最後に、22歳で競技を引退しています。
引退後は東京農工大学大学院に進み、好きだったカエルの研究を続けています。2026年9月には鳥取県の「ぼうさい変エル大使」にも任命されました。金メダルの翌日には「2023年春の卒業を機に」と引退の時期まで決めて公言し、そのとおりに次の道へ移った。この記事では、ボクシングの競技歴、引退の時期と理由、現在の活動、カエルとの関わりを公式発表と本人の発言で時系列に整理し、そこから企業がアスリートの転身をどう支えられるかまで考えます。
入江聖奈のボクシング歴|漫画から東京五輪の金メダルまで
入江聖奈さんのボクシング歴は、小学2年で読んだ漫画をきっかけに地元のジムへ通い始め、高校で全日本女子王者、大学3年で五輪金メダリストになるという約12年の道のりです。下の表は、公式発表と報道で確認できた主な出来事を4つの時期に分けて並べたものです。
| 時期 | 主な出来事 | 大会・結果 |
|---|---|---|
| 小学2年〜高校(〜2019年3月) | 漫画『がんばれ元気』を読んで地元のジムへ | 2013年 全日本幼年大会で優勝/高校3年で全日本女子王者 |
| 日本体育大学1〜2年(2019〜2020年) | 日体大へ進学し、世界の舞台へ | 2019年 世界選手権ベスト8/2020年3月 五輪出場を決める |
| 東京2020(2021年8月) | 女子フェザー級で5試合を戦う | 2021年8月3日 決勝で判定勝ち・金メダル |
| 大学最後の年(2022年) | 階級を上げた大会と最後の全日本 | 7月 関東大学女子で2階級上を制す/11月 全日本で3度目の優勝 |
出典:日本体育大学、日本オリンピック委員会(JOC)掲載の共同通信記事、web Sportiva(2021年8月3日・2023年1月17日)、デイリースポーツ、琉球新報の各記事をもとに Human Soar が作成。全日本女子選手権の初優勝年は記事により2017年と2018年に分かれるため、年は記載していません。
小学2年〜高校|漫画『がんばれ元気』から全日本女子王者へ
入江さんは2000年10月9日生まれ。ボクシングを始めたのは小学2年のときで、1970年代のボクシング漫画『がんばれ元気』を読んで興味を持ち、米子市のジムに通い始めました。2013年には全日本幼年アマチュアボクシング大会で優勝し、米子西高校3年のときには全日本選手権で優勝しています。
金メダル獲得後の会見では、自分を「逆上がりができないくらい運動オンチ」と話していました。運動が得意だったから始めたのではなく、漫画で惹かれた競技を小学生から10年以上続けた結果が五輪の頂点だった、という点がこの選手の競技歴の特徴です。
(参考)入江聖奈 金メダル獲得の記事(2ページ目)(2021年8月3日) – web Sportiva
(参考)金メダルの入江聖奈「強気のツノガエル作戦」で世界を制す(2021年8月3日) – デイリースポーツ
日本体育大学1〜2年|世界選手権8強と五輪出場決定
2019年に日本体育大学へ進学すると、同じ年の世界選手権でベスト8に入りました。2020年3月にはアジア・オセアニア予選で東京五輪の出場権を獲得し、日本の女子ボクサーとして初めて五輪の切符をつかんでいます。大会は新型コロナウイルスの影響で1年延期され、入江さんは大学3年の夏に本番を迎えました。
(参考)入江聖奈 金メダル獲得の記事(2ページ目)(2021年8月3日) – web Sportiva
東京2020|女子フェザー級で日本女子初の金メダル
2021年8月3日、両国国技館で行われた女子フェザー級決勝で、2019年世界選手権の覇者ネスティ・ペテシオ(フィリピン)に判定で勝ち、金メダルを獲得しました。日本体育大学は「ボクシング日本女子史上初となる金メダル」と発表し、鳥取県出身者として初の金メダリストでもあります。ボクシングでの日本の金メダルは、2012年ロンドン五輪の村田諒太さん以来で3人目でした。
本人は後のインタビューで、5試合のうち最も苦しかったのはメダルがかかった準々決勝だったと振り返り、「緊張で死ぬかと思いました」と話しています。
(参考)入江聖奈選手 ボクシング女子フェザー級で金メダル獲得(2021年8月3日) – 日本体育大学
(参考)入江聖奈「カエルはラブリーで尊い」(2023年1月17日) – web Sportiva
大学最後の年|2階級上での優勝と最後の全日本
大学4年の2022年7月17日、関東大学女子トーナメントでは本来のフェザー級から2階級上のライトウエルター級に出場し、5-0の判定で優勝して日体大の3大会連続の総合優勝に貢献しました。同年11月27日の全日本選手権では、女子フェザー級決勝で日体大の後輩・吉沢颯希選手に5-0で判定勝ちし、2年連続3度目の優勝を果たします。これが現役最後の大会になりました。
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(参考)入江聖奈 関東大学女子トーナメントで優勝(2022年7月17日) – デイリースポーツ
(参考)全日本ボクシング選手権 結果(2022年11月28日) – 琉球新報
入江聖奈はなぜ引退した?|金メダル当日に決めていた「大学まで」

入江さんが引退したのは2022年11月の全日本選手権のあとで、理由は「大学で区切りをつけ、次はカエルの研究をしたい」という本人の意思です。けがや成績の不振による引退ではなく、金メダルを獲った当日にすでに「大学限り」と口にし、翌日には時期まで示していました。上の図は、表明から大学院進学までの流れを時期ごとに並べたものです。
金メダル当日の会見で「大学限り」と表明
共同通信によると、入江さんは2021年8月3日の表彰式後の会見で「自分の中で有終の美で終わりたいのがあって、やっぱりボクシングは大学限りでやめるつもり」と話し、3年後のパリ五輪は目指さない考えを示しました。同じ会見では、将来について「ゲーム会社に就職したい」とも語っています。
翌8月4日には、引退の時期を「2023年春の卒業を機に」と具体的に示しました。2022年には杭州アジア大会が延期になったことで、競技生活は11月の全日本選手権が最後になる見込みと報じられ、実際にその大会で優勝して区切りをつけています。
(参考)入江、大学で引退の意向 ボクシング女子、初の金(2021年8月3日・共同通信) – 日本オリンピック委員会
(参考)入江聖奈 引退時期についての記事(2021年8月4日・共同通信) – 日本オリンピック委員会
「基本的に0%でした」|競技を続けなかった理由
2023年1月のインタビューで、パリ五輪で2連覇を狙う選択肢はなかったのかと聞かれた入江さんは「基本的に0%でした」と答えています。ここでやめる機会を逃すと「永遠にボクシングをしている」と思い、それが嫌だったと説明しました。続けてほしいという周囲の声に対しては、きつい練習をするのは自分だという趣旨で答えています。
大学院を受けるまでは「ほんの少しだけ気持ちが揺れ動いた」ものの、大学院で勉強してカエルのために頑張ると決めてからは揺れなかったとも話しています。迷いをなくしたのは、やめる理由ではなく、次にやりたいことがはっきりしたことでした。
(参考)入江聖奈「カエルはラブリーで尊い」(2ページ目)(2023年1月17日) – web Sportiva
Q. 入江聖奈はいつボクシングを引退しましたか?
2022年11月27日の全日本選手権が現役最後の大会です。女子フェザー級で2年連続3度目の優勝を果たし、2023年春の大学卒業を機に競技を退きました。引退の意向は、東京五輪で金メダルを獲った2021年8月3日の会見ですでに表明していました。
入江聖奈の現在|東京農工大学大学院でカエルを研究
入江さんは現在、東京農工大学大学院でカエルの研究に取り組みながら、国や地元・鳥取県の大使としても活動しています。2026年7月に姫路市が発表した講演会の案内でも、肩書は「東京農工大学大学院」でした。現在の課程(修士か博士か)や就職の有無は、公表された情報では確認できませんでした。
大学院への進学|2022年9月に合格し2023年4月から研究
入江さんは2022年9月2日に東京農工大学大学院の入試に合格し、2023年4月から修士課程でカエルの研究を始めました。研究室を訪ねたときには、金メダルは「関係ないからね」と言われたそうで、競技の実績ではなく研究の力で入学したことがうかがえます。2023年1月のインタビューでは、ヒキガエルの防御行動を研究したいと話し、修士のあとは博士課程に進みたいという希望も語っていました。
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(参考)学報 2022年度 新聞記事等一覧(9月分) – 東京農工大学
(参考)入江聖奈「カエルはラブリーで尊い」(3ページ目)(2023年1月17日) – web Sportiva
大使としての活動|内閣府と鳥取県から任命
2025年6月27日には、内閣府の「未来ウーマン応援大使」として男女共同参画週間の表彰式で挨拶しました。内閣府の報告では、金メダル獲得後に大学院へ進んでカエルの研究をしていること、スポーツから理系の道へ進むなかで困難が多かったことが紹介されています。
2026年9月17日には、鳥取県が「ぼうさいこくたい2026in鳥取」の1か月前記念セレモニーで、入江さんを「ぼうさい変エル大使」に任命しました。大使名は、防災意識を「変える」と「カエル」をかけたものです。姫路市立水族館が2026年8月23日に開いた講演会でも、カエルの話の講師として案内されました。
(参考)令和7年度 男女共同参画週間 表彰式 報告 – 内閣府男女共同参画局
(参考)ぼうさいこくたい2026in鳥取 1か月前記念セレモニー – 鳥取県
(参考)姫路市立水族館 講演会のお知らせ(2026年7月18日) – 姫路市(PR TIMES)
Q. 入江聖奈は現在何をしていますか?
東京農工大学大学院でカエルの研究をしています。2026年7月の姫路市の発表でも肩書は「東京農工大学大学院」で、2026年9月17日には鳥取県の「ぼうさい変エル大使」に任命されました。現在の課程や就職の有無は、公表された情報では確認できませんでした。
入江聖奈とカエル|ボクシングの作戦名から研究テーマまで
入江さんにとってカエルは、引退後に見つけた趣味ではなく、現役時代から競技と並んでいた「もう1つの柱」です。グローブにはカエルのイラストが入り、五輪決勝の作戦名にもカエルが使われ、引退後の研究テーマもカエルになりました。
好きになったのは高校生から|実家ではヒキガエルを飼育

入江さんがカエルを好きになったのは高校生のころで、両生類や爬虫類が好きな友人に教わったのがきっかけでした。いちばん好きなのはヒキガエルで、鳥取の実家では2匹を飼っており、世話はお父さんがしているそうです。オフには公園の池でカエルやオタマジャクシを探すのが趣味でした。図のように、競技とカエルは別々の世界に見えて、作戦名や大使名で重なってきました。
研究に向かう動機について、入江さんは「カエルが好きで、守りたい」と話しています。個体数が減っているので、多くの人に興味を持ってほしいという思いです。
(参考)入江聖奈「カエルはラブリーで尊い」(3ページ目)(2023年1月17日) – web Sportiva
決勝の「カエル作戦」と砂でかたどったカエルのメダル
五輪決勝の作戦にもカエルの名前が付いていました。ただし名前は記事によって違い、web Sportiva は伊田武志・女子強化委員長が考えた「トノサマガエル作戦」、デイリースポーツはシュガーナックルジムの伊田武志会長の教えとして「強気のツノガエル作戦」と書いています。
2021年8月18日には、鳥取県が新設のスポーツ最高栄冠賞と県民栄誉賞を、米子市が市民栄光賞を贈りました。県はその副賞として、鳥取砂丘の砂でカエルをかたどったメダルを贈っています。
(参考)入江聖奈 金メダル獲得の記事(2021年8月3日) – web Sportiva
(参考)入江聖奈に鳥取県スポーツ最高栄冠賞(2021年8月18日・共同通信) – 日本オリンピック委員会
Q. 入江聖奈はなぜカエルが好きなのですか?
高校生のころ、両生類や爬虫類が好きな友人に教わったのがきっかけです。いちばん好きなのはヒキガエルで、鳥取の実家では2匹を飼っています。本人は「カエルが好きで、守りたい」と話し、引退後は大学院でカエルを研究しています。
入江聖奈の引退から企業が学べる3つのこと

入江さんの転身から企業が学べるのは、キャリアの切り替えを「時期を決める」「次にやることを具体にする」「受け入れ先とつなぐ」の3段に分けて支えるという考え方です。図は、入江さんが実際にたどった順番を3段にまとめた本記事の整理です。
やめる時期を先に決めて周りに伝える
入江さんは、金メダルの当日に「大学限り」、翌日に「2023年春の卒業を機に」と、区切りの時期を自分の言葉で周りに伝えていました。時期が先に決まっていたことで、最後の1年は2階級上の大会に出るなど、区切りに向けた時間として使えています。異動や役割の変更でも、本人が区切りの時期を言葉にできていると、周囲も準備を始めやすくなります。
次にやりたいことを研究テーマの細かさまで具体にする
入江さんの迷いが消えたのは、「大学院でカエルを研究する」と次の目標がはっきりしてからでした。スポーツ庁の委託事業の報告書(平成30年度)では、引退後のアスリートが抱える主な不安として「日々の仕事にやりがいを持つことができるのか」が挙がり、準備をしない主な理由は「何をすべきかわからない」でした。この調査は回答者が数十名規模ですが、次の目標がはっきりしないことが不安と準備不足の両方につながっている点は、入江さんの例と重なります。
競技と仕事を並行して進める考え方は、デュアルキャリアの解説でも整理しています。
(参考)「スポーツキャリアサポート戦略」における「アスリートと企業等とのマッチング支援」事業報告書(平成30年度) – スポーツ庁委託事業
受け入れる側が次の挑戦の場を用意する
入江さんの場合は大学院がその場になりましたが、企業もアスリートの次の挑戦の場になれます。日本オリンピック委員会(JOC)の就職支援「アスナビ」では、2024年3月現在、約230社に400名近くのアスリートが採用されており、サービスは無料です。採用で得られることはアスリート採用で企業が得るメリットに、国の支援制度はアスリートのセカンドキャリア支援制度にまとめています。
体づくりや睡眠などアスリートの習慣を社員の健康づくりに生かす視点は、一流アスリートのコンディショニング完全ガイドで横断的に整理しています。
あわせて読みたいアスリートのセカンドキャリア採用|企業が得る強み›
(参考)アスナビ──現役アスリートの就職支援 – 日本オリンピック委員会
まとめ|入江聖奈のボクシングと引退後の歩み
入江聖奈さんは、ボクシングで頂点に立ったあと、自分で決めた時期に競技を離れ、好きだったカエルの研究へ移りました。要点を振り返ります。
- 小学2年に漫画をきっかけにボクシングを始め、2021年8月3日に東京2020女子フェザー級で日本女子初の金メダルを獲得
- 金メダル当日に「大学限り」と表明し、2022年11月27日の全日本選手権(3度目の優勝)を最後に引退
- 現在は東京農工大学大学院でカエルを研究し、2026年9月に鳥取県「ぼうさい変エル大使」に任命
- カエル好きは高校生からで、決勝の作戦名や県のメダル、大使名にもつながった
- 企業がアスリートの転身を支えるなら、時期・次の目標・受け入れ先の3段で考えられる
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