岡崎慎司が語った引退という決断の真意

元日本代表FW岡崎慎司がドイツ6部で監督になった引退後の哲学を象徴するイメージ スポーツアスリート

ワールドカップに3大会出場し、プレミアリーグ優勝も経験した岡崎慎司は、2024年夏に現役を退いた後、Jリーグにも、母校の指導者にも戻らなかった。選んだのはドイツ6部のアマチュアクラブの監督だった。目先の実績とは真逆に見えるこの決断の裏には、40年先を見据えた計算があった。

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「ヨーロッパで監督をやろう」38歳のFWが下した引退の決断

清水エスパルスで6シーズン、ヨーロッパで13シーズンを戦った岡崎慎司は、多くの選手がそうするようにJリーグへ復帰することなく、ヨーロッパで現役生活を終えた。引退を決めた背景には膝の怪我があったが、それと同時に「自分のなかで、ヨーロッパで監督をやろうという覚悟が決まった」と本人は振り返っている。

もともとは母校・滝川第二高校の監督になりたいという思いを長く抱いていた。しかし現役引退が近づくにつれ、その考えは変化していった。「日本で活動しながら『ヨーロッパでは、こうだった』という話をするのって、結局過去の話をしているだけじゃないか」と感じるようになり、「ヨーロッパに居て『こっちへ来いよ』という立場のほうが良い」という結論に至ったという。

Q. 岡崎慎司はなぜ引退後、日本ではなくドイツで監督を始めたのですか?

日本で過去の経験を語るだけの立場になることに違和感を覚え、ヨーロッパに残って若い選手を「こっちへ来いよ」と呼び込める立場のほうが良いと考えたためです。母校の監督になる案もありましたが、この判断でドイツにとどまる道を選びました。

なぜ母校ではなくドイツ6部を選んだのか|偶然と必然が重なった監督就任

岡崎が指揮するFCバサラマインツは、日本人サッカー留学生を支えていた高校の先輩からの相談をきっかけに、岡崎自身が2014年に発足を提案したクラブだ。チームの約半数を日本人選手が占め、ワーキングホリデービザや就労ビザで働きながらサッカーを続ける選手たちで構成されている。

監督就任のきっかけも偶然が重なっている。当時のバサラマインツの監督が1.FSVマインツ05の女子チームの監督に就任することになり、後任を探すタイミングだったという。「サッカー選手を辞めて、自分が何者かわからない状態を過ごすのがイヤだった」と語る岡崎にとって、すぐに次の役割に就けたことは大きな意味を持っていた。

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岡崎慎司が積み上げてきたキャリアの3つの立場|選手・監督・会長

引退後の岡崎は、単なる指導者にとどまらず、複数の立場を同時に担っている。それぞれの立場で求められる視点は大きく異なり、選手時代には想像もできなかった気づきがあったという。

立場 本人が語る役割・気づき
選手(現役時代) 監督の采配に不満を抱くこともあったが、それは自分の目線でしかなかった
監督 個の力と組織のバランスなど、複眼的・複合的にチームを見る必要がある
クラブ会長 お金の計算は得意な人に任せ、人に会い縁を作ることに専念する

本人のインタビュー発言をもとにHuman Soarが整理

選手時代|自分の目線しか持てなかった気づき

現役時代は監督采配への不満を抱くこともあったが、後に監督になって「それってあくまでも僕の目線での意見でしかない」と振り返っている。この視点の転換が、指導者としての土台になっている。

監督としての立場|複眼的にチームを見る難しさ

監督になって直面したのは、個の力がある選手を起用する利点と、起用しすぎることで組織が崩れるリスクを同時に判断する難しさだ。能力はあっても練習参加が少ない選手を使えば、別の選手の不満につながることもある。岡崎は「本当にすべてが難しい」と率直に語っている。

クラブ会長としての立場|数字ではなく人に会う仕事

会長としての仕事について、岡崎は「お金の計算はしていません。それは得意な人間に任せています」と明かす。自身の役割は、たくさんの人に会い、話を聞いてもらい、縁を作っていくことだと位置づけている。

(参考)なぜ、岡崎慎司はドイツのアマチュアクラブの監督になったのか「ドイツでプロ選手を誕生させる」① – GOETHE

「今僕がやっていることは遠回りなのかもしれない」という言葉の意味

日本代表監督というゴールから逆算すると、6部リーグの監督という現在地は遠回りに見える。岡崎自身、「日本代表監督へ続く道を考えると、今僕がやっていることは遠回りなのかもしれない」と認めている。

最短ルートを目指す一般的なキャリア観と岡崎慎司の遠回りを選ぶキャリア観を比較した図解

それでも岡崎は焦っていない。恩師の黒田和生氏が台湾でA代表監督に就いたのは67歳、アルベルト・ザッケローニ氏がセリエC2(現4部相当)から指導を始め日本代表監督になったのは50代後半だったことを引き合いに出し、「僕は今度40歳になります。彼らのような先輩の存在を力強く感じています」と語る。遠回りに見える経路を、長期のキャリア形成における通過点として捉え直している点が、この判断の核心だ。

日本代表監督というW杯優勝を見据えた長期計画|遠回りが伏線になる理由

岡崎の最終目標は「日本代表監督としてワールドカップで優勝すること」であり、この軸は一貫してぶれていない。6部から3部昇格を目指す長期ビジョンも、5部への昇格すら数年かかるという前提のうえに立っている。目先の結果を急がず、10年、20年単位でキャリアを設計している点が特徴だ。

クラブ経営に携わることも、遠回りではなく伏線として位置づけられている。選手とのコミュニケーション、信頼関係の構築という「人間力」は、指導者だけの道を歩むよりも、経営という異なる現場を経験することで磨かれると岡崎は語る。

遠回りに見える選択をビジネスパーソンはどう捉えるべきか

最短ルートで結果を出すことが評価されやすい環境では、岡崎のような選択は非効率に映るかもしれない。しかし、最終ゴールを明確に持ったうえで、そこに至る経路をあえて遠回りに設計するという発想は、キャリア形成全般に応用できる。

金丸晃輔が続ける平日メンテナンスという習慣の力のように、地道な積み重ねを継続するアスリートは他にもいる。共通するのは、短期的な評価よりも、長期のゴールに対して今の行動がどう意味を持つかを自分の言葉で説明できる点だ。

AIは遠回りの判断を助けられるか

クラブ経営には、選手のスケジュール管理や対戦相手の分析など、情報整理が必要な業務が多く存在する。こうした業務はAIによる効率化と相性がよく、岡崎が「動く」ことに専念できる時間を増やす手助けになりうる。

一方で、「今の遠回りが将来の伏線になる」という長期的な意味づけは、本人の経験と価値観に基づく判断であり、AIが代わりに下せるものではない。ゴールを定め、そこに至る道筋の意味を自分自身で言語化する作業は、岡崎のキャリア設計そのものが示すとおり、人にしかできない部分だ。

Q. 岡崎慎司の最終目標は何ですか?

日本代表監督としてワールドカップで優勝することです。現在のドイツ6部での監督業やクラブ経営は、その目標に向けた長期的な経路の一部と本人は位置づけています。

岡崎は現役時代を振り返り「誰かのマネをするつもりはなく、僕だけの道を歩んできた自負がある」と語っている。描いた通りに人生が進むことはなく「こんなはずじゃなかった」と思うことの連続だったというが、それでも重ねてきた時間に後悔はないという。この姿勢は、指導者としての現在にもそのまま引き継がれている。

元代表選手で引退後もヨーロッパに拠点を置き続けているのは、長谷部誠と岡崎の2人だけだと言われる。「選手時代に味わった悔しさは、ヨーロッパで見返すしかない」という言葉には、遠回りに見える選択の裏にある反骨心がにじむ。ヨーロッパで戦い続けるという一貫した軸が、遠回りをただの回り道ではなく、次の挑戦への足場に変えている。

まとめ

  • 岡崎慎司は引退後、日本ではなくヨーロッパに残り、ドイツ6部の監督という道を選んだ
  • 「過去の話をするだけの立場になりたくない」という違和感が、母校の監督ではなくドイツを選ぶ決め手になった
  • 選手・監督・会長という3つの立場から、それぞれ異なる視点の気づきを得ている
  • 本人も「遠回りかもしれない」と認めつつ、先達の実例をもとに長期計画として捉え直している
  • 最終目標は日本代表監督としてのW杯優勝であり、現在の選択はその経路の一部と位置づけられている

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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