計量のない競泳選手が体重より重視していること
リオ五輪代表で自由形スプリンターの塩浦慎理は、身長188センチという恵まれた体格を持つ競泳選手だ。ボクシングやレスリングのような計量がない競泳では、体重そのものよりも筋肉量と炭水化物摂取のタイミングを重視した体づくりが行われている。本人のインタビューから、短距離水泳選手ならではの体づくりの考え方を追う。
1日4000〜5000キロカロリー、大会中は炭水化物だけで3600キロカロリー
塩浦は「僕の場合、4,000〜5,000キロカロリーぐらいです。ただ、大きな大会になると強度の高いレースになりますので、筋肉内の糖質をスグに使い切ります。そうすると、炭水化物だけで3,600キロカロリー取ることもありますね」と明かす。グラムに換算するとおよそ900グラムの炭水化物にあたるという。
「時間が空いたらゼリーを食べたり。1時間のうちに吸収できる量やスピードはだいたい決まっているので、本当にこまめに食べ続けている感覚です」と語るように、大会期は補食のタイミングを細かく区切って栄養を摂取しているという。
(参考)塩浦慎理(イトマン東進)が語る、水泳選手のフィジカル。 – VICTORY
体脂肪は浮力のためではなく筋肉量を増やす副産物
「浮力のために脂肪が必要」という通説について、塩浦は「実は、そこまで必要でもないんですね」と否定する。「筋肉を大きくしてよりパワーを得ようと思うと、たくさん食べないとエネルギーが枯渇していくので。結果的に脂肪がつきやすくはなっています」との説明から、体脂肪は目的ではなく、高強度なトレーニングを支えるための食事量がもたらす副産物であることがわかる。
先天的な体格とドーピングを巡る厳しい視線
塩浦は188センチという体格に加え、足のサイズも31センチと恵まれている。「足も31センチありますしね。食べたらしっかり太れるし、内臓は丈夫だと思います」と、消化吸収能力の高さも競技適性の一部として捉えている。一方で、こうした先天的な資質や地道な食事管理を積み重ねてきた選手にとって、薬物によって同様の効果を得ようとするドーピングは看過できない問題だという。「こういうこと関係なく身体が絞れますし。まあドーピングしたからそれ以外何もしなくていいわけではないですが、頑張りやすくなるし、結果も出やすくなる。そうしたらやる気も出る。ズルいですよね」と率直に語っている。
大学時代から続けるウェイトトレーニングという選択
塩浦は大学(中央大学)の水泳部でウェイトトレーニングを本格的に開始し、7〜8年続けてきたという。「身体を大きくして遅くなることはないと思います」と述べ、日本の水泳界に根強い「筋肉をつけると泳ぎが重くなる」という懸念には否定的な立場を取る。「飛び込みの場面でもジャンプの切れが出ますし、泳いでいてチカラも入りやすいです」と、ウェイトトレーニングの効果を実感として語る。
短距離選手である塩浦は、週の練習距離がおよそ20キロメートルと長距離選手の70〜80キロメートルに比べて大幅に少ない一方、1回あたりの練習強度は高く設計されているという。距離を追う長距離種目と、強度を追う短距離種目とでは、体づくりの優先順位そのものが異なることがうかがえる。
また塩浦は、ウェイトトレーニングを始める時期についても持論を持つ。「僕がコーチだったら、高校生になったら絶対やらせるんですが」と述べつつ、日本では専門的な指導者が不足していることを課題として挙げる。「高校生がじゃあ今から始めようとなったときに、ちゃんとした知識で教われるかは難しいですね」との言葉から、若い年代でのウェイトトレーニング導入には効果と同時に正しい指導体制が欠かせないという視点がうかがえる。
一般的な陸上選手の筋力強化と競泳選手の違い
陸上選手のウェイトトレーニングは、地面を蹴る力を直接スピードに変換しやすいのに対し、水泳の場合は水の抵抗を介して力を伝える必要があるため、筋力の大きさがそのまま泳速につながるとは限らない。塩浦自身も「僕がラットプルダウンで100キロ行きましたといっても、それを水の中で伝えられないと意味がない」と語り、陸上での筋力を水中でのパフォーマンスに変換する技術が別途必要であることを指摘している。
この違いは、単純に「筋肉をつければ速くなる」という発想ではなく、筋力を種目特有の動作にどう転換するかという視点の重要性を示している。
体幹トレーニングよりウェイトを優先する理由
体幹トレーニングが注目される一方、塩浦は「体幹トレーニング自体よりも、ウェイトを持ったほうが効果は大きいと思います」と述べる。「スクワットで100キロ持つとして、それに見合った体幹がないと持ち上がらないですから。ということは、100キロ持てるようになる過程で、持ち上がるだけの体幹の強さが身についていると思うんです」との説明は、体幹強化を目的別に切り分けるのではなく、高負荷トレーニングの副次効果として捉える視点を示している。
筆者が分析する、体づくりと睡眠の関係についての実践のヒント
塩浦は睡眠についても「6〜7時間ぐらいです、もっと寝たいですけどね」と語り、アメリカの大学バスケットボールチームが睡眠時間を8〜9時間に延ばしたところ複数の運動能力指標が向上したという事例に触れながら、「睡眠時間と成長には間違いなく相関関係があって、特に中高生は大事だと思います」と述べている。自身も高校時代は帰宅が早く睡眠時間を確保できていたことが、体格形成にプラスに働いた可能性があるという。
体づくりにおける栄養管理の考え方については栄養に関する記事を、種目特有のトレーニング設計についてはトレーニング理論に関する記事もあわせて参考にしてほしい。
3人兄弟で自分だけ身長が伸びた理由への自己分析
塩浦は3人兄弟の真ん中で、弟が180センチ、兄が181センチに対し自身は188センチだという。「若い頃は僕もっと寝ていましたよ、だから他の兄弟より身長高いのかもしれません」と自己分析するように、学校から帰宅後すぐに睡眠時間を確保できていた生活リズムが、体格差の一因になった可能性があるとしている。
まとめ
- 塩浦慎理は1日4000〜5000キロカロリー、大会中は炭水化物だけで3600キロカロリーを摂取する
- 体脂肪は浮力のためでなく、高強度トレーニングを支える食事量の副産物と捉えている
- 大学時代からウェイトトレーニングを続け、身体を大きくすることへの懸念を否定する立場を取る
- 短距離種目は距離より強度を重視した練習設計になっている
- 睡眠時間と体格形成の相関を意識し、6〜7時間の睡眠を確保している
よくある質問
塩浦慎理は1日にどれくらいの食事を摂っているのか
通常時で4000〜5000キロカロリー、大会期は炭水化物だけで3600キロカロリーを摂取することもあるという。
水泳選手に体脂肪は必要なのか
浮力の確保という意味では必須ではなく、筋肉量を増やすための食事量がもたらす結果として体脂肪がつきやすくなるとしている。
ウェイトトレーニングはいつから始めるべきか
塩浦自身は大学から本格的に始めたが、「早ければ早いほどいい」という考えを示しており、世界的には15歳ごろから始める選手もいるという。
短距離選手と長距離選手の練習量の違いは
塩浦の場合、週の練習距離はおよそ20キロメートルで、長距離選手の70〜80キロメートルに比べて短いが、1回あたりの強度は高く設計されている。
ご質問・ご相談はお気軽にどうぞ
お問い合わせはこちら →


コメント