乳酸閾値トレーニング|VO2max向上を測る指導者の指標

乳酸閾値トレーニングとVO2max向上の関係を示すイメージ スポーツ科学

持久系種目の練習後、コーチが選手に「今日の走りは楽に感じた?」と尋ねる。本人の感覚では楽だったはずが、心拍データを見ると閾値を超えていた——このズレを埋めるのが、乳酸閾値(LT)とVO2maxという2つの指標です。感覚だけに頼った強度設定から一歩進みたいコンディショニング担当者・指導者に向けて、両者の関係と現場での活用法を整理します。

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乳酸閾値とVO2maxは別々の指標である

まず押さえておきたいのは、乳酸閾値(LT)とVO2max(最大酸素摂取量)は、持久力を測る別々のものさしだという点です。VO2maxは体が取り込める酸素量の上限を示す指標であり、LTは血中乳酸濃度が急激に上昇し始める運動強度の境目を示す指標です。持久系パフォーマンスは、VO2max・LT・ランニングエコノミー(走りの効率)という3つの要素の組み合わせで決まるとされ、VO2maxが同程度の選手同士でも、LTの高さの違いでレース結果に差が出ることがあります。

つまり「VO2maxが高い=速い」と単純化せず、LTがどの強度に位置しているかを併せて見ることで、選手の持久力をより立体的に把握できます。

LTとVO2maxを測る現場の方法

両指標は、専門施設での漸増負荷試験によって測定するのが標準的な方法です。国内では自治体運営の施設や大学の研究チームが、この測定を実際に提供しています。

提供機関 測定方法 主な対象
横浜市スポーツ医科学センター ラン・バイクの漸増負荷試験(乳酸カーブテスト) 地域の競技者・愛好家
信州大学・奈良教育大学 共同研究 球技系選手向け血中乳酸カーブテスト法 球技系スポーツ選手
JISS(国立スポーツ科学センター) フィットネス・チェックの枠組みに包含 ハイパフォーマンス選手

Human Soarが各機関の公式情報をもとに集計した、国内のLT・VO2max測定提供機関の一覧(2026年8月時点)。

横浜市スポーツ医科学センターの測定メニュー

横浜市スポーツ医科学センターは、ランニングやバイクエルゴメーターを使った漸増負荷試験(乳酸カーブテスト)を実施しています。運動強度を段階的に上げながら血中乳酸濃度を測定し、LTがどの心拍数・速度帯に位置するかを可視化する仕組みです。自治体の公的施設がこうした測定を提供している事実は、LT測定が特別な選手だけのものではなく、地域のスポーツ現場でも利用可能な検査であることを示しています。

大学発の研究知見

信州大学と奈良教育大学の共同研究では、球技系スポーツ選手を対象にした血中乳酸カーブテスト法の開発と、持久的トレーニングへの応用が進められています。球技のように間欠的な運動が中心の競技でも、LTを基準にしたトレーニング強度の設計が研究されている点は、陸上・水泳のような典型的な持久系種目に限らず、応用範囲が広がっていることを示します。

(参考)ランニング測定・バイク測定(乳酸カーブテスト) – 横浜市スポーツ医科学センター

(参考)球技系スポーツ選手のための血中乳酸カーブテスト法の開発と持久的トレーニングへの応用 – 信州大学

Q. LT測定はトップ選手でなくても受けられますか?

横浜市スポーツ医科学センターのような自治体運営施設や大学の研究協力を通じて、一般のスポーツ愛好家やジュニア選手も測定を受けられる場合があります。まずは地域のスポーツ医科学センターに問い合わせるのが近道です。

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JISSが体系化する体力測定の枠組み

国立スポーツ科学センター(JISS、日本スポーツ振興センター傘下)は、「フィットネス・チェックマニュアル」として体力測定の枠組みを公開しており、書籍「フィットネスチェックハンドブック―体力測定に基づいたアスリートへの科学的支援―」としても体系化されています。ハイパフォーマンススポーツの現場では、LTやVO2maxを含む体力測定が、勘や経験だけに頼らない選手サポートの土台として位置づけられていることが分かります。

現場の指導者がここから学べるのは、測定を単発のイベントで終わらせず、定期的な体力測定の枠組みの一部としてLT・VO2maxを組み込む発想です。

(参考)フィットネス・チェックマニュアル – 国立スポーツ科学センター(JISS)

独自図解|LTの位置で変わる練習強度の考え方

LTとVO2maxの関係を現場で活かすには、「LTがVO2maxに対してどの位置にあるか」という視点が欠かせません。Human Soarでは、この関係を次の3パターンに整理しました。

1LTがVO2maxに近い選手:高強度を長く維持できるタイプ。閾値付近のペース走で持久力の底上げを狙う
2LTとVO2maxに開きがある選手:瞬発力はあるが閾値が低いタイプ。低強度の走り込みでLT自体を引き上げる期間を作る
3VO2max自体が伸び悩む選手:LTは高いが上限が頭打ちのタイプ。高強度インターバルでVO2max自体の引き上げを優先する

Human SoarがLTとVO2maxの相対関係をもとに整理した練習強度の考え方(一般的な運動生理学の知見に基づく独自分類)。

この3分類はあくまで考え方の整理であり、実際の強度設定は個々の測定データと専門家の判断に基づく必要があります。ただし「LTとVO2maxのどちらが伸びしろか」という視点を持つだけで、闇雲な走り込みから一歩進んだ練習計画が立てられます。

Q. VO2maxを上げればLTも自動的に上がりますか?

必ずしも連動しません。VO2maxとLTは別の指標であり、どちらか一方だけを鍛えるトレーニングでは、もう一方が伸び悩むケースがあります。両方を測定したうえで、どちらに伸びしろがあるかを見極めることが重要です。

データを選手・スタッフに共有するときの見せ方

測定して終わりでは、現場での納得感が生まれません。LTとVO2maxの数値は、選手本人が体感できる場面(呼吸のきつさ・会話ができる強度かどうか)と紐づけて共有すると、データへの理解が進みます。

例えば「LTのペースは会話が続けられるかどうかの境目付近にある」といった体感との対応関係を添えるだけで、数値だけを渡すよりも練習中の強度管理に選手自身が主体的に関わりやすくなります。スタッフ間の共有でも、グラフだけでなく「この選手は伸びしろがLT側にある」という一言を添えることで、練習メニューを組む際の合意形成がスムーズになります。

よくある質問

Q. 球技系の選手にもLT測定は意味がありますか?

意味があります。信州大学・奈良教育大学の研究のように、球技系選手向けの血中乳酸カーブテスト法の開発が進んでおり、間欠的な運動が中心の競技でも持久的トレーニングの設計に応用されています。

Q. LT・VO2maxの測定はどのくらいの頻度で行うべきですか?

JISSのフィットネス・チェックの枠組みのように、シーズンの節目ごとに定期的な体力測定の一部として組み込むのが基本的な考え方です。単発の測定で終わらせず、変化を追える頻度で実施します。

まとめ

  • LTとVO2maxは別の指標であり、両方を見て初めて持久力を立体的に把握できる
  • 横浜市スポーツ医科学センターや大学の研究チームが、LT測定を実際に提供している
  • JISSはLT・VO2maxを含む体力測定を、選手サポートの継続的な枠組みとして体系化している
  • LTとVO2maxの相対関係を見て、走り込みか高強度インターバルかの優先順位を判断する
  • 数値は選手の体感(会話ができる強度かどうか等)と紐づけて共有すると現場での納得感が高まる

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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