バイオメカニクスで防ぐ傷害とコンディション

バイオメカニクスに基づく傷害予防とコンディショニングを示すイメージ スポーツ科学

体育館の隅で、生徒がひざを押さえてうずくまっている。周りの部員は「またか」という表情で見ている。実は、その選手は数か月前にも同じ場所を痛めていた。原因を突き止めないまま練習に復帰させてしまうと、同じ怪我を繰り返すことになる。

こうした負傷の多くは、偶然ではなく身体の使い方のクセに起因することが、バイオメカニクス(生体力学)の研究から明らかになってきた。「科学的な視点で傷害予防に取り組みたいが、何から始めればよいか分からない」という産業保健担当者は多い。本記事では、バイオメカニクスの基礎と傷害予防への応用、企業の健康管理への活用を解説する。

バイオメカニクスとは何か

バイオメカニクスとは、身体の動きを力学的に解析する学問分野で、関節の角度や地面からの反発力、筋肉にかかる負荷を数値化することで、動作のどこに無理があるかを客観的に示すことができる。

動作解析で負担の集中箇所を特定する

カメラやセンサーで取得した動作データを解析することで、ジャンプの着地時に片脚だけに負荷が偏っているといった、目視では気づきにくい負担の集中箇所を特定できる。

個人差を踏まえたフォーム評価が可能になる

身長や筋力、柔軟性は人によって異なるため、画一的な「正しいフォーム」を当てはめるのではなく、個人の身体的特徴を踏まえたフォーム評価がバイオメカニクスの強みだ。

学校管理下の負傷データが示す実態

独立行政法人日本スポーツ振興センターの「学校の管理下の災害」(令和4年版)によると、学校管理下における災害の合計件数のうち、中学校では45.3%、高等学校等では54.9%が部活動などの課外指導中に発生している。

学校種別 課外指導中の災害割合
中学校 45.3%
高等学校等 54.9%

表:学校管理下の災害に占める課外指導(部活動等)中の割合(日本スポーツ振興センター 学校の管理下の災害 令和4年版より作成)

半数近い、あるいは半数を超える災害が部活動中に発生しているという事実は、バイオメカニクスに基づく予防策が学校現場だけでなく、社会人になってからのスポーツ活動においても継続的に必要とされることを示している。子ども時代の負傷パターンは、大人になってからの慢性的な不調にもつながりやすい。

(参考)学校の管理下の災害 [令和4年版] – 独立行政法人日本スポーツ振興センター

企業の健康管理への応用

バイオメカニクスの考え方は、スポーツ現場だけでなく、オフィスワークや現場作業を含む企業の健康管理にも応用できる。

デスクワークの姿勢分析への転用

ジャンプ着地の負荷分析と同じ発想で、長時間のデスクワークによる姿勢の偏りを分析し、腰痛や肩こりの原因を特定する取り組みが企業の健康経営でも始まっている。

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睡眠・回復状態と合わせて総合的に評価する

身体への負荷は日中の動作だけでなく、夜間の回復状態にも左右される。睡眠の質を合わせて評価することで、傷害予防をより総合的な健康管理として設計できる。

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コンディショニングに取り入れる実践ステップ

バイオメカニクスの知見を無理なく取り入れるには、段階的なアプローチが有効だ。

まずは負担の大きい動作を絞って分析する

すべての動作を一度に分析しようとすると負担が大きい。負傷が多い動作や部位を絞り込み、そこから優先的に分析・改善に取り組むことが現実的だ。

改善後の再評価を定期的に行う

フォームを修正して終わりにせず、一定期間後に再度分析を行い、改善が定着しているかを確認するサイクルを組み込むことで、傷害予防の効果を持続させられる。

よくある質問

Q. バイオメカニクス分析には専用の機材が必要ですか

専門的な研究機関ではモーションキャプチャー設備を使うが、近年はスマートフォンのカメラでも簡易的な動作解析が可能なアプリが増えている。

Q. 企業の健康管理にどこまで応用できますか

姿勢分析や動作の負荷評価という考え方は、デスクワークや現場作業の負担軽減にも応用しやすい。専門家の監修のもとで導入することが望ましい。

Q. 子どもの傷害予防で特に注意すべき点はありますか

成長期は骨や筋肉の発達段階にあるため、大人と同じ基準でフォームを評価すると無理が生じる場合がある。年代に応じた専門家の助言を受けることが重要だ。

まとめ

  • バイオメカニクスは動作を力学的に数値化し、負担の集中箇所を客観的に示す学問だ
  • 学校管理下の災害の45.3〜54.9%が部活動などの課外指導中に発生している
  • デスクワークの姿勢分析や睡眠状態との組み合わせなど、企業への応用余地も大きい
  • 負担の大きい動作を絞って分析し、改善後の再評価を定期的に行うことが重要だ
  • 成長期の子どもには年代に応じた専門家の助言を踏まえた対応が求められる

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業にてメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。
現在は独立し、About The New株式会社を設立。教育コンテンツの研究・開発を行い、スポーツの知見を活かした人材育成プログラムを提供している。

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