運動生理学とは|スポーツ科学で健康経営に活かす方法

運動生理学の知見を健康経営施策に活かすイメージ スポーツ科学

「うちの健康経営は、施策数だけ揃えて中身が伴っていない」——2026年度から健康経営優良法人の認定基準が量から質へと変わり、こうした悩みを持つ担当者が増えています。結論から言うと、施策の効果を裏付ける根拠として、スポーツ科学が積み上げてきた「運動生理学」の視点が今、健康経営の現場で有効です。本記事では、運動生理学の基礎と、健康経営担当者・研修担当者が施策に落とし込む方法を解説します。

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運動生理学とは何か|身体活動が心身に与える変化を科学する

運動生理学とは、身体を動かしたときに心臓・血管・筋肉・神経系がどのように反応し、どのような効果が積み重なっていくのかを研究する学問です。スポーツ科学の中核分野のひとつであり、アスリートのパフォーマンス向上だけでなく、一般の人の健康づくりの土台としても活用されています。

厚生労働省が公表している「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、個人差を踏まえたうえで、強度や量を調整しながら「今よりも少しでも身体を動かす」ことが健康づくりの基本方針として示されています。これは運動生理学の知見をもとに、無理のない範囲で継続的な効果を得るための考え方です。

運動生理学の全体像や6つの研究領域についてはスポーツ科学とは|定義・6領域・最新テクノロジーを解説でも整理しています。

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 – 厚生労働省

Q. 運動生理学とスポーツ科学は同じものですか?

運動生理学はスポーツ科学を構成する一分野です。スポーツ科学がバイオメカニクスや心理学なども含む広い概念であるのに対し、運動生理学は身体の生理的な反応や適応に絞って研究する領域を指します。

なぜ健康経営の現場で運動生理学が注目されるのか

経済産業省が公開している健康経営の推進資料では、健康経営を「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と位置づけ、生産性の向上や組織の活力向上につながる投資であると説明しています。

一方で、施策の多くは「とりあえず運動イベントを開く」といった単発の取り組みにとどまりがちです。運動生理学の視点を持つことで、なぜその運動が効果的なのか、どのくらいの強度・頻度が必要なのかを根拠を持って説明できるようになります。これは2026年度以降の認定基準が「施策の数」より「質」を重視する流れとも整合します。

(参考)健康経営の推進について – 経済産業省 ヘルスケア産業課

Q. 運動生理学の知識がなくても健康経営施策は作れますか?

作ることは可能ですが、効果の根拠が曖昧になりやすい点が課題です。運動生理学の基礎指標を押さえておくと、施策の狙いを数値で説明でき、社内外への説明責任も果たしやすくなります。

運動生理学の4つの主要指標|健康経営指標への応用マップ

運動生理学では、身体の状態を数値で捉えるためのさまざまな指標が使われます。Human Soarが健康経営の実務担当者向けに、代表的な4指標と施策への応用方法を対応させて整理しました。

指標 何を測るか 健康経営施策への応用
最大酸素摂取量(VO2max) 有酸素運動能力・心肺機能の高さ 全社的な体力測定イベントの指標として、経年変化を追う
乳酸性作業閾値(LT) 疲労が急激にたまり始める運動強度の境目 ウォーキング施策で「息が弾む手前」の強度を推奨値として案内する
心拍変動(HRV) 自律神経のバランス・回復度合い 高ストレス部署の休養設計や、リカバリー施策の効果測定に使う
基礎代謝量 安静時に消費するエネルギー量 デスクワーク中心の職場で、座りっぱなし対策の必要性を説明する根拠にする

出典:厚生労働省・経済産業省の公表資料をもとに、Human Soarが健康経営施策向けの応用例を独自に整理。

最大酸素摂取量(VO2max)

VO2maxは、全身持久力の代表的な指標です。数値そのものを社員に開示する必要はありませんが、施策の前後で測定することで、運動習慣づくりの効果を客観的に示せます。

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乳酸性作業閾値(LT)

LTを超える強度の運動は疲労が急激にたまりやすく、続けるのが難しくなります。健康経営施策では「息が弾む一歩手前」を目安にすることで、無理なく継続できる強度を案内できます。

心拍変動(HRV)

HRVは自律神経のバランスを反映する指標で、ストレスや疲労の蓄積を数値として捉えられます。高ストレスが想定される部署では、HRVの傾向を見ながら休養やリカバリー施策の設計を検討する材料になります。

基礎代謝量

基礎代謝量は年齢や筋肉量によって変化します。デスクワーク中心の職場では基礎代謝が落ちやすいため、座りっぱなし対策の必要性を説明する根拠として活用できます。

Q. 体力測定は全社員に義務付けるべきですか?

義務化は推奨しません。参加率を重視するなら任意参加とし、測定そのものより「自分の体の状態を知る機会」として位置づけると、継続的な参加につながりやすくなります。

自社の健康課題から選ぶ運動生理学アプローチ|3つの判断パターン

すべての職場に同じ施策が合うわけではありません。ここでは、Human Soarが職場の課題タイプ別に整理した、運動生理学の知見を使った施策選定の判断軸を紹介します。

パターン①座りっぱなし対策が必要な職場
パターン②メンタル不調のサインが見える職場
パターン③高ストレス職種でリカバリーが必要な職場

パターン①座りっぱなし対策が必要な職場

デスクワーク中心で基礎代謝の低下が懸念される職場では、長時間座り続けることによる血流低下が課題になります。1時間に1回の軽いストレッチや、階段利用の推奨など、基礎代謝を意識した小さな運動習慣の導入が有効です。

パターン②メンタル不調のサインが見える職場

有酸素運動には気分の改善効果があることが知られています。乳酸性作業閾値を超えない「息が弾む一歩手前」程度のウォーキングやジョギングを、無理のない範囲で習慣化する施策が向いています。

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パターン③高ストレス職種でリカバリーが必要な職場

心拍変動(HRV)の低下が見られやすい職種では、運動そのものよりも睡眠・休養とセットでのリカバリー設計が重要になります。運動を「頑張るもの」ではなく「回復を助けるもの」として位置づける説明が効果的です。

Q. 運動生理学の指標は自社だけで測定できますか?

簡易的なものであれば、市販のウェアラブル端末や体組成計で測定可能です。ただし正確な数値評価には専門家の関与が望ましいため、産業医や外部の専門機関と連携する体制を検討することをおすすめします。

運動生理学の知見を企業のコンディション施策に落とし込む手順

知識を持つだけでは施策は動きません。ここでは、現状把握から継続的な運用まで、3つのステップで進め方を解説します。

1現状把握(簡易測定・アンケート):座位時間、運動習慣の有無、ストレスの自覚症状などを簡易アンケートで把握し、どのパターンの課題が強いかを見極めます。
2専門家と連携した施策設計:産業医や外部のスポーツ科学専門家と連携し、集めたデータをもとに強度・頻度が適切な施策に落とし込みます。
3継続的なモニタリングと振り返り:導入後も定期的に簡易測定を行い、効果が出ているかを確認しながら施策を調整します。

ステップ①現状把握(簡易測定・アンケート)

いきなり運動プログラムを導入するのではなく、まず職場のどこに課題があるのかを把握することが重要です。座位時間や自覚的な疲労感を聞くだけでも、優先度の高い課題が見えてきます。

ステップ②専門家と連携した施策設計

運動生理学の指標は専門的な解釈が必要な場面もあります。社内に知見がない場合は、産業医や外部のスポーツ科学専門家と連携し、根拠のある強度設定を行うことが望ましいです。

ステップ③継続的なモニタリングと振り返り

施策は導入して終わりではありません。3か月・半年単位で簡易測定を繰り返し、効果が出ているかを確認しながら強度や頻度を調整していくことで、施策の質を高め続けられます。

Q. 施策の効果はどのくらいの期間で確認できますか?

個人差はありますが、基礎的な体力指標の変化は3か月程度から見え始めることが多いとされています。短期間で結果を求めすぎず、半年から1年単位で評価する設計が現実的です。

健康経営担当者が押さえておきたい実践の始め方

運動生理学の知識をゼロから学ぶのは大変に感じるかもしれませんが、最初から専門家になる必要はありません。まずは自社の課題パターンをひとつ選び、小さく試すことから始めるのが現実的です。

たとえば、日々のコンディションや運動習慣をアプリで記録・可視化する仕組みを取り入れると、施策の効果測定がしやすくなります。継続的な記録の仕組みはトレーニング記録アプリ10選|健康経営に活かす選び方でも紹介しています。

また、運動だけでなくメンタル面のコンディションもあわせて把握すると、パターン②・③のような課題への対応がしやすくなります。あわせて心のコンディションを整える瞑想アプリ11選|健康経営の実践も参考になります。

運動生理学を健康経営施策に組み込むための要点整理

  • 運動生理学は、身体活動が心身に与える変化を科学的に説明する学問で、施策の根拠づくりに役立ちます。
  • VO2max・LT・HRV・基礎代謝の4指標を押さえると、施策の狙いを数値で説明できるようになります。
  • 職場の課題は「座りっぱなし」「メンタル不調」「高ストレス」の3パターンに分けて考えると、施策を選びやすくなります。
  • 導入は「現状把握→専門家との施策設計→継続的なモニタリング」の順で進めると効果を確認しながら調整できます。
  • 最初から専門家になる必要はなく、記録アプリなどを活用しながら小さく始めることが継続のコツです。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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