健康経営と女性の健康課題|スポーツ施策の設計と認定への活かし方

健康経営における女性の健康課題とスポーツ施策の設計を解説する記事のアイキャッチ画像 スポーツウェルビーイング

女性の健康課題に運動プログラムで応えようとすると、たいてい「ヨガ教室を開いて終わり」になります。分かれ目は施策の内容ではなく起点で、「福利厚生として何を足すか」ではなく「どの健康課題を減らすか」から始めた施策だけが、効果として記録に残ります。

この記事では、厚生労働省が掲載する企業取組事例15社を分類して見えた偏りを示し、そのうえで運動・スポーツ施策を健康課題に紐づけて設計する手順と、認定・開示への乗せ方を整理します。

健康経営で女性の健康課題が外せなくなった背景

女性の健康は、健康経営優良法人の認定要件に独立した選択項目として置かれています。ただし症状が勤怠データに表れにくく、当事者も申告しにくいため、項目を満たすだけの施策で終わりやすい領域です。

認定要件の選択項目⑨が女性の健康保持・増進|2026認定は合計26,850法人

健康経営優良法人2027の認定要件では、小項目「性差・年齢に配慮した職場づくり」の中に「⑨女性の健康保持・増進に向けた取り組み」があり、大規模法人部門と中小規模法人部門のどちらでも選択項目の1つです。認定には必須項目に加えて、大規模法人部門は①〜⑰のうち14項目以上、中小規模法人部門は①〜③から2項目以上・④〜⑩から2項目以上・⑪〜⑰から4項目以上を満たす必要があり、⑨はそのうちの1つとして数えられます。

健康経営優良法人2026では、大規模法人部門に3,765法人、中小規模法人部門に23,085法人が認定されました。前年の3,400法人・19,796法人から増えています。⑨を満たしたことと、施策で症状や欠勤が減ったことを示すのは別の話で、後者まで記録しておくと認定の申請と人的資本の開示の両方に同じ数値を使えます。

(参考)健康経営優良法人2027(大規模法人部門)認定要件 – 健康経営優良法人認定事務局

(参考)健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)認定要件 – 健康経営優良法人認定事務局

(参考)「健康経営優良法人2026」認定法人が決定しました – 経済産業省

女性特有の症状は勤怠データに表れない

月経随伴症状や更年期症状は、休むほどではないが集中できないという形で生産性を下げます。欠勤として記録されないため、勤怠データだけを見ている企業では存在しないことになっています。ここを可視化しない限り、施策の必要性を経営層に説明できません。

当事者が声を上げにくい構造を前提に設計する

症状があっても申告しない人が多い以上、「困っている人が手を挙げる」前提の制度は機能しません。全員に案内して匿名で回答できる形にするか、健診とセットで拾うか、入口の設計から変える必要があります。ウェルビーイング施策の設計全般に共通する考え方です。

厚生労働省の掲載事例15社を分類して見えた偏り

厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」に掲載されている企業取組事例15社を、サイトが付与している施策カテゴリーで数え直しました。結果ははっきり偏っています。

施策の系統(Human Soar による分類) 15社での件数 内訳
知る・話す(研修と相談) 14件 研修8件、相談窓口6件
症状・疾患への直接対応 23件 月経・生理休暇5件、女性特有のがん5件、健診・検診5件、不妊治療3件、治療との両立3件、貧血1件、更年期1件
働き方・制度の整備 10件 WLB推進5件、柔軟な働き方2件、妊娠・出産2件、フェムテック1件
運動・スポーツ 0件 企業取組事例ページの13カテゴリーに該当する枠が無い(同じサイトの特集ページでは2社に「運動機会」)

出典:厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」企業取組事例(2026年9月25日確認、掲載15社)に付与された13カテゴリーを、Human Soar が3系統へ分類して集計。1社が複数カテゴリーを持つため合計は15を超えます。企業取組事例ページの13カテゴリーに運動・スポーツは無く、ページ本文にも「運動」「スポーツ」の語は出現しませんでした。同じサイトの特集「企業取組事例〜女性も男性も健康でイキイキ働く企業の取り組み〜」では、2社に「運動機会」のカテゴリーが付いています(2026年10月25日確認)。

知る・話す施策が14件|まず入口を作る企業が多い

研修8件、相談窓口6件で、15社のほぼ全てが何らかの形で「知る・話す」から着手しています。女性の健康課題は当事者も言語化しづらいため、知識と窓口を先に置くのは理にかなった順序です。ただしここで止まると、症状そのものは変わりません。

(参考)企業取組事例 – 働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)

症状への直接対応が23件|休む制度に集中している

月経・生理休暇や健診・検診、不妊治療の支援など、症状が出たあとの受け皿が最も厚く整備されています。裏を返せば、症状が出にくい体をつくるという予防側の打ち手がほとんど無いということです。

(参考)企業取組事例 – 働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)

働き方・制度が10件|フェムテックはまだ1件

WLB推進5件に対しフェムテックは1件にとどまり、ツール導入は先行事例として扱われる段階にあります。導入を検討する場合は、既存の相談窓口や健診とどう接続するかを先に決めておかないと、アプリだけが残ります。

(参考)企業取組事例 – 働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)

運動・スポーツは15社で0件|特集ページでは2社が運動機会に取り組む

企業取組事例の15社には、運動・スポーツの施策が1件もありません。サイトが付けている13カテゴリーにも運動の枠は無く、ページ本文にも「運動」「スポーツ」の語は出てきません。

一方、同じサイトの特集「企業取組事例〜女性も男性も健康でイキイキ働く企業の取り組み〜」では、太陽生命保険とロート製薬に「運動機会」のカテゴリーが付いています。掲載事例を見る限り、運動は女性も男性も対象にした取り組みとして紹介されており、女性の健康課題と運動を直接結びつけた事例はまだ少数です。

(参考)企業取組事例 – 働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)

(参考)特集 企業取組事例〜女性も男性も健康でイキイキ働く企業の取り組み〜 – 働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)

Q. 女性向けの運動施策は、参加率が低くても意味がありますか?

対象を絞れているなら参加率が低くても成立します。全社員向けに開いて参加率10%なら失敗ですが、月経随伴症状を申告した層に案内して該当者の半数が参加しているなら、施策としては機能しています。母数を全社員に置くか対象者に置くかで評価が逆転するため、案内の段階で母数を決めてください。

施策の起点を福利厚生から健康課題へ移す

女性向けスポーツ施策の2つの型を比較した図。福利厚生型は参加人数しか記録できず、健康課題起点型は症状と欠勤日数を記録して認定基準に対応づけられる

運動施策が続かない原因は、内容ではなく起点の置き方にあります。同じヨガ教室でも、どこから設計したかで記録に残るものが変わります。

右側の型に変えるために追加で必要なのは、対象者の特定と2つの数値の記録だけです。プログラム自体を高度にする必要はありません。

対象を全社員から症状のある層へ絞る

全社員向けの案内は、最も困っている人に届きません。健診や匿名アンケートで月経随伴症状や更年期症状の自覚がある層を把握し、その層に個別に案内します。人数が20名でも、対象者に対する参加率で語れるほうが説明力は高くなります。

記録するのは参加人数ではなく症状と欠勤日数

参加人数は活動量の指標であって成果の指標ではありません。開始前に症状の重さを5段階などで自己申告してもらい、3か月後と6か月後に同じ質問を繰り返します。あわせて対象者の欠勤日数を取っておくと、金額換算まで一気に進めます。人的資本投資の開示指標と定義をそろえておくと、集計が二重になりません。

プログラムは短くして業務時間内に置く

就業後に60分の教室を開くと、参加できるのは元々余裕のある層だけです。始業前や昼休みに15分の枠を作り、業務時間として扱うほうが対象者に届きます。

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Q. 月経随伴症状に運動が効くと言い切ってよいのですか?

症状の種類によって効き方が違うため、一律に効くとは書けません。個人差も大きく、婦人科の受診が必要な状態もあります。企業として案内する場合は「症状を和らげる可能性がある選択肢の一つ」として位置づけ、産業医や産業保健師の関与を前提にしてください。効果の断定は避け、記録した数値で自社の結果を語るほうが安全です。

健康課題別に見る|運動施策の対象と組み合わせ方

女性の健康課題ごとに運動施策の組み合わせを分けた図解。月経随伴症状は休める制度と動ける環境、更年期は相談窓口と受診の案内、骨量と貧血は健診数値で対象を決める

女性の健康課題は一括りにできません。課題ごとに対象者の見つけ方や組み合わせる制度が違うため、同じプログラムを全員に当てるだけでは記録に残る成果になりません。

月経随伴症状|強度を本人が選べる設計にする

症状の重さも、体を動かしやすい時期も人によって違います。ストレッチのような軽いものから選べるプログラムにして、参加するかどうかや強度は本人に任せます。施策としては「症状のある日に休める制度」と「症状のない日に動ける環境」をセットで用意し、受診が必要な状態もあるため産業医や産業保健師が関わる形で案内します。

更年期|相談窓口と並べて運動の機会を置く

更年期の不調は多岐にわたり、運動だけで解決する性質のものではありません。運動の機会は相談窓口や受診の案内と並べて置き、短時間のプログラムを業務時間内に選べる形にしておくと取り組みやすくなります。相談窓口と並行して案内することで、受診が必要な人を取りこぼしません。

骨量と貧血|健診数値と組み合わせて対象を決める

骨量や貧血は、本人の自覚よりも測定や健診の数値で把握しやすい課題です。骨密度測定や血液検査の結果を持っている企業は、その数値を入口に対象者を特定できます。運動の内容以前に、誰を対象にするかを健診データから決められるかどうかが分かれ目です。

認定と開示に乗せる|記録を成果として使い切る

せっかく取った記録も、提出先の形式に合っていなければ使われません。認定申請と人的資本開示の両方に同じ数値を流せる形で持っておきます。

スポーツ庁の認定を採用広報にも回す

スポーツ庁は、従業員の運動機会づくりに取り組む団体を「スポーツエールカンパニー」として認定しています。令和4年6月3日からは認定団体のPRロゴマークをハローワークの求人票に表示できるようになりました。女性向けの運動施策を進めている企業は、健康経営の文脈と採用広報の両方で同じ取り組みを使えます。

健康経営優良法人の中小規模法人部門の認定申請書(2027認定のサンプル)でも、「⑬運動機会の増進に向けた取り組み」の設問(Q26)の選択肢に「スポーツ庁『スポーツエールカンパニー』の認定を取得している」が入っています。

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(参考)スポーツエールカンパニー – スポーツ庁

(参考)健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)認定申請書 サンプル – 健康経営優良法人認定事務局

認定申請の設問に合わせて記録項目を決める

申請の直前に記録を作り直すのが最も非効率です。大規模法人部門は健康経営度調査票、中小規模法人部門は認定申請書で申請するため、年度初めに自社の部門の設問を確認し、そこで聞かれる形式のまま記録していけば、申請時の作業はほぼ転記だけになります。対象者数・実施回数・参加率・効果指標の4点を押さえておくと、設問の形が変わっても転記しやすくなります。

(参考)大規模法人部門の申請 – ACTION!健康経営(健康経営優良法人認定事務局)

(参考)中小規模法人部門の申請 – ACTION!健康経営(健康経営優良法人認定事務局)

開示では定義の一貫性が数値の大きさより重視される

人的資本の開示で見られるのは、数値そのものより集計方法が年度をまたいで揃っているかどうかです。対象者の定義や参加率の分母を途中で変えると、改善したのか定義が変わったのか判別できなくなります。スポーツエールカンパニーの認定基準で求められる項目と自社の記録項目を対応表にしておくと、担当者が替わっても運用が続きます。

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Q. 女性向け施策だけを切り出すと、男性社員から不公平だと言われませんか?

対象を絞る理由を数値で示せば、不公平の議論にはなりにくくなります。厚生労働省の掲載事例でも研修が8件と最も多く、施策の前段に理解を広げる工程を置くのが定着した形です。運動プログラム自体は男女どちらも参加できる形にし、案内と記録の対象だけを課題に応じて絞るのが現実的な運用です。

まとめ|女性の健康課題に運動施策を接続する要点

女性の健康課題への運動施策は、内容を工夫する前に起点と記録を決めることが要点です。最後に振り返ります。

  • 女性の健康は認定要件の選択項目⑨。厚生労働省の企業取組事例15社に運動・スポーツの施策は0件で、特集ページでも運動機会は2社と少数
  • 起点を「福利厚生として何を足すか」から「どの健康課題を減らすか」へ移す
  • 対象を症状のある層に絞って参加率の母数を対象者に置き、参加人数ではなく症状の自己評価と欠勤日数を記録する
  • 課題ごとに組み合わせを変える。月経随伴症状は強度を選べる設計、更年期は相談窓口との併設、骨量と貧血は健診数値からの対象特定
  • 記録項目は自社の部門の申請設問と人的資本開示に合わせ、定義を年度で変えない

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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