経理担当のベテラン社員が有給休暇を取った3日間、月次の支払処理が完全に止まった。承認フローも取引先ごとの支払条件も、すべて彼女の頭の中にしかなかったからだ。戻ってきた彼女に頭を下げながら、経営者はふと気づく。この会社は、たった一人が抜けただけで止まる仕組みの上に立っている。
この光景は特別なものではありません。株式会社kubellパートナーが従業員300名未満の中小企業のバックオフィス担当者86名を対象に行った調査では、55.8%が「属人化・ブラックボックス化」を業務継続上の課題として挙げ、82.6%が担当者の退職・休職によって業務継続に何らかの影響が出ると回答しています。属人化を課題として挙げた回答者に限ると、退職・休職時に「事業継続に重大な支障が出る」と答えた割合は50.0%に達し、課題を感じていない層(36.8%)より13.2ポイントも高い水準でした。
背景にあるのは、人手不足による採用競争の激化と、人的資本経営の情報開示が制度化されたことで、組織運営の持続可能性そのものが経営課題として可視化され始めたという、後戻りしない変化です。属人化はもはや「その人が頑張っている証拠」ではなく、投資家や取引先からも見える経営リスクになりました。
ではこの属人化を、誰が、どうやって崩すのか。本稿では、競技引退後にキャリアの転機を迎える元アスリートの「型を作り、型どおりに反復する」能力を、バックオフィスの業務設計そのものに持ち込むプランを提案します。
(参考)中小企業のバックオフィス担当者の半数以上が「属人化」に課題感、担当者の退職・休職に伴う「業務継続リスク」が浮き彫りに – 株式会社kubell
プランの概要|元アスリートが「業務の型」を作り直す
このプランが何をするものかを、先に一言でまとめます。属人化した業務を洗い出し、元アスリートを業務設計の担い手として配置することで、誰が抜けても回る状態を作ります。
- 対象:バックオフィス(経理・労務・総務・採用事務など)に属人化リスクを抱える従業員300名未満の企業
- 課題:特定の担当者しか手順・判断基準を把握していないため、退職・休職・異動のたびに業務が止まる
- 導入期間:初回の業務可視化から本格運用まで目安6〜12ヶ月
競技を通じて「決まった型を、誰が実行しても同じ結果になるまで反復する」訓練を積んできた元アスリートに、業務のマニュアル化と定着支援そのものを任せる。属人化対策を一度きりのコンサルティングで終わらせず、運用に定着するまで伴走することが、このプランの骨格です。
課題解決の流れ|「対策をした」で終わらせない設計にする
属人化対策は目新しいテーマではありません。それでも定着しない企業が多いのは、対策の主語が「担当者本人」のままだからです。組織開発全般の切り口は人事担当者向けスポーツ研修10社|組織開発ガイドでも扱っていますが、本稿ではバックオフィス業務そのものの設計に絞って整理します。

現状の課題|マニュアル化の号令だけでは何も変わらない
多くの企業が属人化を課題として認識しながら、実際の対策は号令だけで終わっています。現場で起きているのは次のような状態です。
- 【号令倒れ】「マニュアルを作ろう」と経営が号令をかけても、本人が忙しく、結局後回しになる
- 【引き継ぎの形骸化】退職が決まってからの数週間で慌てて引き継ぎ資料を作るため、抜け漏れが常態化する
- 【アウトソーシングへの躊躇】外部委託を検討しても、ROIが見えず様子見のまま時間だけが過ぎる
問題の要因|「本人の頭の中にある基準」を言語化する担い手がいない
号令が定着しない背景には、誰が言語化を担うかという役割設計そのものが抜け落ちている実態があります。
- 業務のやり方だけでなく、「なぜその順番か」「例外時はどう判断するか」という基準が言語化されていない
- マニュアル化を進める役目が、属人化させている本人か、業務を知らない人事担当者のどちらかに偏っている
解決策|「型を作る専門家」を外部から一時的に投入する
役割設計の空白を埋めるのが、業務を知る本人でも、業務を知らない人事でもない、第三者としての専門家の投入です。
- 元アスリートが持つ「動作を分解し、再現可能な手順に落とし込む」経験を、業務プロセスの言語化に転用する
- 本人でも人事でもない第三者が可視化を担うことで、感情的な抵抗や忖度なしに手順を洗い出せる
Q. 属人化対策は情報システムの導入だけでは解決しませんか?
システム導入だけでは解決しません。判断基準そのものが言語化されていない状態でシステムを入れても、結局は特定の担当者が使い方を独占するだけです。先に業務の型を言語化する工程が必要です。
元アスリート活用が価格競争と無縁になる3つの理由
業務可視化・マニュアル化を支援するサービスは数多く存在します。それでもこのプランが単なる価格競争に巻き込まれない理由を、3つに分けて説明します。人材活用の枠組み自体についてはスポーツ人材とは|企業の活用パターンと導入手順もあわせてご覧ください。

①型を反復させる訓練の蓄積|「作って終わり」にしない実行力
マニュアルは作った瞬間がゴールではなく、現場で反復されて初めて機能します。競技生活で「決めた型を来る日も来る日も反復し、精度を上げる」ことを職業として続けてきた元アスリートは、マニュアル化後の定着フェーズ、つまり最も脱落しやすい期間の伴走に強みを持ちます。
あわせて読みたい元アスリートを営業組織に配置する勝負強さ活用プラン›
②模倣されにくい専門性|動作分解のスキルは業務改善コンサルとは別物
一般的な業務改善コンサルタントは「業務フローの整理」を得意としますが、「一つの動作をどこまで分解すれば他人が再現できるか」という感覚は、競技を通じて体に染み込んだ専門性です。この視点の違いが、汎用的な業務改善サービスとの差別化になります。
③提供主体の強み|スポーツ現場と組織データの両方に立つ理由
スポーツ現場での動作指導とデータ分析の両方に日常的に接している立場だからこそ、元アスリートの強みを業務の文脈に翻訳できます。単に元アスリートを紹介するだけの人材紹介と違い、配置後の定着まで一気通貫で設計できる点が、このプランを絵に描いた餅で終わらせない裏付けです。
プランの具体的な内容|3つの支援フォーマット
導入企業の規模と属人化の深刻度に応じて、3つの枠を用意しています。
| 枠 | 対象規模 | 主な内容 |
|---|---|---|
| ベーシック | 〜30名 | 業務棚卸し+マニュアル化支援(週1回訪問) |
| スタンダード | 30〜100名 | 元アスリートの週次常駐+定着モニタリング |
| フルサポート | 100〜300名 | 複数部門への常駐配置+属人化リスクスコアの定期報告 |
表:支援フォーマット別の対象規模と主な内容(自社設計)
ベーシック|まず属人化の在り処を洗い出す
週1回の訪問で、経理・労務など特定領域の業務を1つずつ洗い出し、手順書に落とし込みます。まずは「何が属人化しているか」を可視化する段階に位置づけています。
スタンダード|配置した元アスリートが定着まで伴走する
マニュアル化だけでなく、元アスリートが週次で常駐し、実際に業務を回しながら手順の抜け漏れを修正します。マニュアルが「棚に眠る資料」で終わらないための工程です。
フルサポート|複数部門を横断してリスクを定点観測する
経理・労務・総務など複数部門に元アスリートを配置し、属人化リスクスコアを部門横断で定期報告します。M&A後の統合局面など、リスクの所在が複数部門にまたがる企業に向いています。
導入ロードマップ|検証・定着・横展開の3フェーズ
いきなり全部門に展開すると、現場の反発と工数超過を招きます。段階を踏む理由も含めて説明します。

0〜3ヶ月|検証フェーズ
最も属人化リスクが高い1業務に絞り、元アスリート1名を配置して業務棚卸しとマニュアル化を行います。範囲を絞る理由は、初期段階で成功体験を作り、社内の警戒感を解くためです。
3〜6ヶ月|定着フェーズ
検証フェーズで作った型を実際に本人以外が回せるかをテストし、手順書を更新します。ここで初めて「マニュアルがあること」と「マニュアルで回せること」の差が明らかになります。
6〜12ヶ月|横展開フェーズ
効果が確認できた業務から、他部門へ元アスリートの配置を広げます。同時に、属人化リスクスコアを経営会議での定例報告項目に組み込みます。
属人化リスクスコアが経営判断を変えていく仕組み|効果とリスクの設計
効果が効いてくる理由|可視化から標準化への経路
効果は元アスリートを配置した瞬間ではなく、マニュアルが実際に他人の手で運用され始めてから効いてきます。業務が可視化されると引き継ぎ完了率が上がり、それが退職・休職時の業務停止リスクの低下につながるという経路です。導入初月の変化の小ささに焦って撤退しないことが重要です。
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KPIの設計(仮説としての目安)|自社のベースライン把握が前提になる
上記のKPIは目安であり、自社の属人化の深刻度を把握できていなければ改善幅も測れません。導入前に必ず現状の引き継ぎ完了率や退職時の業務停止実績を棚卸しし、ベースラインとして記録しておく必要があります。
| フェーズ | 見るべき指標 |
|---|---|
| 0〜3ヶ月 | マニュアル化完了率 |
| 3〜6ヶ月 | 本人不在時の業務継続率 |
| 6〜12ヶ月 | 属人化リスクスコアの部門横断改善幅 |
表:フェーズ別KPIの目安(自社設計・仮説ベース)
特に重要なのは3〜6ヶ月時点の「本人不在時の業務継続率」です。マニュアルの存在ではなく、実際に本人以外が業務を回せたかどうかが、属人化対策が機能しているかを判断する最も実務的な物差しになります。
リスクと対応策|最大の壁は「代替される」という誤解
属人化対策で最も起きやすい摩擦は、既存担当者が「自分の仕事を奪われる」と感じることです。想定されるリスクと対応策を整理すると、次のようになります。
| 想定リスク | 対応策 |
|---|---|
| 既存担当者の心理的抵抗 | 「代替」ではなく「負担軽減」として位置づけを事前説明する |
| マニュアルの陳腐化 | 四半期ごとの更新レビューを運用ルールに組み込む |
表:想定されるリスクと対応策(自社設計)
元アスリートの役割はあくまで型を一緒に作る伴走者であり、代替要員ではないという説明を、経営層から直接行うことが、既存担当者の心理的抵抗という最大の摩擦を防ぎます。
続行・撤退の判断基準|どの数値で見直すかを事前に決めておく
検証フェーズ終了時点(導入3ヶ月後)で、対象業務のマニュアル化完了率が50%を下回っている場合は、対象業務の選定を見直すか、常駐頻度を週1回から週2回に引き上げるかを判断する基準としてあらかじめ決めておきます。数値による撤退基準を先に決めておくことは、弱さではなく設計力の裏付けです。
Q. 元アスリートには経理や労務の専門知識が必要ですか?
専門知識そのものより、業務を分解し手順化する力が中心的な役割です。専門的な判断が必要な部分は既存担当者や社労士・税理士と連携し、元アスリートは可視化と定着のファシリテーターとして機能します。
料金モデルという選択肢|固定と成果報酬をどう組み合わせるか
買い切り型の限界|納品して終わるコンサルでは定着まで責任を持てない
従来型の業務改善コンサルティングは、マニュアル一式を納品した時点で契約が終了することが一般的です。しかし属人化対策の本質的な効果は、マニュアルが実際に運用され始めてから生まれるため、買い切り型では最も重要な定着フェーズに誰も責任を持たない構造になりがちです。
新モデルの仕組み|固定報酬と成果報酬を段階的に組み合わせる設計
業務可視化と元アスリートの配置設計は固定報酬とし、配置後6ヶ月間の属人化リスクスコア(マニュアル化完了率・本人不在時の業務継続率など)の改善幅に応じて成果報酬を段階的に加算するハイブリッド型を採用します。導入企業にとっては初期費用を抑えつつ、提供側の定着支援へのコミットメントを引き出せる設計です。
導入時の注意点|スコア設計そのものにコストがかかる
属人化リスクスコアを客観的に測定するには、導入前のベースライン計測という追加の工程が必要になります。いきなり全社導入せず、まず1部門でスコア設計を試してから他部門へ広げる段階移行が現実的です。
対象となる組織・読者|こんな企業に効く
タイプ1|「一人経理」状態が続いている中小企業
経理・労務のいずれかを一人の担当者に依存している企業は、その担当者の退職・休職がそのまま事業継続リスクに直結します。まず着手すべき優先度が最も高い層です。人材紹介経由での採用を検討する場合はスポーツ人材紹介・採用支援10社比較|人事担当者向けも参考になります。
タイプ2|M&A・組織再編で買収先の業務が見えない企業
買収先の担当者が退職して帳簿や手順がブラックボックス化するケースは、統合後の企業でしばしば起こります。統合直後の業務可視化として活用できます。
タイプ3|アウトソーシングのROIが見えず様子見している企業
外部委託に関心はあってもROIの不透明さで踏み切れない企業には、まず自社内での可視化から始め、委託すべき業務とそうでない業務を切り分ける入口として機能します。
Q. 従業員数が少ない会社でも導入できますか?
導入できます。むしろ従業員1〜4人規模の「一人経理」に近い体制ほど、担当者一人への依存度が高く、優先的に着手すべき層です。ベーシック枠であれば小規模組織でも運用可能です。
期待できる効果|配置後に起きる3つの変化
業務継続力の変化|「誰かが休んでも止まらない」体制に近づく
マニュアル化と定着支援が進むことで、担当者の急な休職・退職があっても業務が完全停止するリスクが下がります。数値化には時間がかかりますが、経営者が最も安心を実感しやすい変化です。
採用・評価の変化|業務が言語化され新人教育が短縮される
手順が言語化されることで、新しく入った担当者の立ち上がり期間が短縮されます。これまで「先輩の背中を見て覚える」しかなかった業務が、教育可能な資産に変わります。
セカンドキャリアの変化|元アスリートにとっての新しい活躍の場になる
競技引退後のキャリアに悩む元アスリートにとって、動作分解の専門性を業務設計という新しい領域で発揮できる点は、企業側だけでなく元アスリート側にとっても意味のある変化です。
あわせて読みたい人事担当者向けアスリート採用10社|セカンドキャリア支援›
まとめると、このプランの要点は次のとおりです。
- 属人化は「担当者の頑張り」ではなく、投資家からも見える経営リスクである
- マニュアル化の号令だけでは定着しない。型を作る専門家の投入が必要
- 元アスリートの「動作を分解し反復させる」能力を業務設計に転用する
- 固定報酬+成果報酬のハイブリッド型で、定着まで提供側が責任を持つ
- まず1業務・1名から始め、検証してから横展開する
「うちも一人しか分からない業務があるかもしれない」という疑問が浮かんだ時点が、相談のタイミングです。
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