企業の歯科検診は義務か|対象業務とスポーツ界の口腔ケア

企業の歯科検診は義務か|対象業務とスポーツ界の口腔ケア スポーツウェルビーイング

企業の歯科検診は、塩酸や硝酸などを扱う有害な業務の労働者には法律で義務づけられていますが、それ以外の社員には義務ではありません。ただし厚生労働省は職場でも使える簡易な健診を検討しており、任意で始める企業にはスポーツ界の口腔ケアの考え方が参考になります。

健康診断の結果を見ていたら、歯については何も書かれていない。社員から「歯医者に行く時間がない」と聞くこともある。健康経営の施策を考えるなかで、歯科検診も入れるべきか、そもそも義務なのかと迷う担当者は少なくありません。

この記事では、法律の義務の範囲、国の検討の状況、任意で実施する方法、アスリートの調査から分かることを順に整理します。

企業の歯科検診が義務になるのは有害な業務に就く労働者

歯科検診の義務があるのは、歯や歯ぐきに有害な物質を扱う業務です。労働安全衛生法第66条第3項に基づき、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんなどのガス、蒸気、粉じんが出る場所で常時働く労働者が対象です。京都労働局の資料では、メッキ工場やバッテリー製造工場の業務が例に挙げられています。次の表で、義務の有無を整理します。

対象 法律の義務 実施の形
有害な業務に常時従事する労働者 あり 6か月以内ごとに1回、歯科医師が健診
それ以外の社員 一律の義務は確認できず 会社の任意の施策、本人の受診

出典:京都労働局の資料をもとに本記事が作成。2026年10月時点で確認できた範囲です。

実施の時期は、雇い入れの際、対象の業務への配置替えの際、その後は6か月以内ごとに1回です。結果は健康診断個人票として5年間保存し、異常があれば歯科医師の意見を聞き、本人に通知します。

令和4年10月1日以降は、労働者の人数にかかわらず、結果を所轄の労働基準監督署長へ報告します。以前は常時50人以上の事業者が対象だったので、小さな事業場は手続きを確かめておきます。

(参考)労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断を実施しましょう – 京都労働局

Q. 企業の歯科検診は義務ですか?

塩酸、硝酸、硫酸などの有害な物質を扱う業務に常時従事する労働者には義務です。雇い入れや配置替えの際と、その後6か月以内ごとに1回行い、結果を労働基準監督署長へ報告します。それ以外の社員については、2026年10月時点で一律の義務は確認できませんでした。

国は職場でも使える簡易な歯科健診を検討している

一般の社員への歯科健診は、まだ義務ではありませんが、国の検討は進んでいます。厚生労働省の「歯科健診等のあり方等に関する検討会」は、令和8年7月31日に中間とりまとめを公表しました。

中間とりまとめは一般健康診断と同時に行う形を想定している

中間とりまとめでは、体外診断用医薬品を使って歯周病の疑いを調べる「簡易歯科健診」の考え方が整理されています。同時に実施する健診の例として、特定健診や労働安全衛生法に基づく一般健康診断が挙げられています。歯科医師が口の中を診る健診の代わりになるものではなく、歯科の受診につなげる入り口と位置づけられています。

(参考)歯科健診等のあり方等に関する検討会 中間とりまとめ(令和8年7月31日) – 厚生労働省

働く世代の半数近くに歯周病の疑いがある

同じ検討会の資料によると、令和6年の歯科疾患実態調査で歯周ポケットが4mm以上の人は47.8%です。過去1年に歯科検診を受けた人は「2人に1人以上」とされる一方、残りの人は検診から離れています。中間とりまとめには、定期歯科検診を受けない理由は「時間がない」が半数以上だったという報告も紹介されています。

(参考)歯科健診を取り巻く現状と検討会の今後の進め方について(令和8年5月11日) – 厚生労働省

(参考)歯科健診等のあり方等に関する検討会 中間とりまとめ(令和8年7月31日) – 厚生労働省

Q. 歯科検診は今後すべての企業で義務化されますか?

2026年10月時点で、すべての企業への義務化が決まったとは確認できませんでした。厚生労働省の検討会は令和8年7月に中間とりまとめを公表し、一般健康診断などと同時に行える簡易歯科健診の考え方を示しています。今後の動きは厚生労働省の発表で確かめてください。

任意で始めるなら3つの形から社員が受けやすいものを選ぶ

受けやすさで形を選ぶ|歯科検診の企業

義務のない社員向けの歯科検診は、受けやすさと費用で形を選びます。次の3つは本記事の整理です。費用は人数や内容で変わり、公開の統計は確認できなかったので、複数の歯科医院や健診機関に同じ条件で見積もりを取ります。

巡回型は職場に来てもらい受診の手間をなくす

歯科医師や歯科衛生士に職場へ来てもらう形です。移動の時間がいらないので、受診率を上げやすくなります。会議室などの場所と、社員が抜けられる時間帯を先に確保します。

簡易検査は健康診断に合わせて負担を抑える

唾液などを使う検査を健康診断と一緒に行う形です。中間とりまとめは、短時間でコストを抑えられる点を利点に挙げています。ただし結果が陰性でも歯や口の問題がないとは限らないので、歯科の受診を勧める案内も一緒に渡します。

(参考)歯科健診等のあり方等に関する検討会 中間とりまとめ(令和8年7月31日) – 厚生労働省

受診補助は近所の歯科医院で受けてもらう

社員が自分で歯科医院を選び、会社が費用の一部を補助する形です。拠点が分かれている会社でも始めやすい一方、自分から動く人しか受けません。勤務時間内の受診を認めるなど、行きやすくする工夫を組み合わせます。福利厚生の全体は福利厚生の無料の施策の記事も参考になります。

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スポーツ界の調査は口の健康が練習に響く可能性を示している

トップアスリートの調査でも、口の健康は課題になっています。ロンドン2012大会の選手278人のデータを分析した研究では、むし歯が55%、歯周炎が15%に見られ、18%が口の状態で練習や競技に影響があったと答えました。

ただし、これは選手本人の回答です。2015年のシステマティックレビューは、アスリートの口腔の状態はよくないとしつつ、競技力との関連は客観的な指標で確かめる必要があると結論づけています。「歯を治せば成績が上がる」とまでは言えません。

企業が学べるのは、体調管理の一部として口を点検する習慣です。痛みや腫れは集中を妨げることがあるので、社員向けの案内では見た目より、仕事や運動を続けるための点検として伝えます。健康づくり全体は職場の健康づくり事例で紹介しています。

(参考)Oral health and impact on performance of athletes participating in the London 2012 Olympic Games(Br J Sports Med, 2013) – PubMed

(参考)Oral health of elite athletes and association with performance: a systematic review(Br J Sports Med, 2015) – PubMed

Q. アスリートにとって歯の健康は重要ですか?

ロンドン2012大会の研究では、選手の18%が口の状態で練習や競技に影響があったと答えました。ただしこれは自己申告で、競技力との関連は客観的な指標での検証が必要とされています。体調管理の一部として点検する、と考えるのが現実的です。

導入は対象の確認から受診率の記録まで4段階で進める

導入は対象の確認から始める|歯科検診の企業

導入の最初にやるのは、自社に義務の対象となる業務があるかの確認です。対象があれば、任意の施策より先に法律の手続きを整えます。段階は本記事の提案です。

任意の施策は、受診率と治療につながった人の数を記録すると、翌年の判断材料になります。健康経営の認定を目指す会社は、選択項目に歯・口腔があるかも確かめます。社員の健康施策の全体はウェルビーイングの施策の考え方で説明しています。義務の有無で迷ったら、所轄の労働基準監督署に確認します。

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企業の歯科検診の要点

  • 有害な業務に常時従事する労働者には法律の義務がある
  • 報告は令和4年10月から労働者の人数を問わない
  • 国は一般健康診断と同時に行える簡易な健診を検討している
  • 任意なら巡回、簡易検査、受診補助から選ぶ
  • アスリートの調査は、口の点検を体調管理に入れる参考になる

まずは自社に塩酸や硫酸などを扱う業務がないかを確かめ、そのうえで社員が受けやすい形を1つ選んでみてください。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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