現地になじめるか、帰ってきて力を出せるかを、本人の努力に任せていませんか。スポーツ心理学の文化移行の研究を手がかりに、赴任前・着任後・赴任中・帰任前後の4つの節目で、やることと支える人を決めます。
対象となるお客さま
- 海外拠点へ社員を送り出している企業の人事責任者・担当者
- 赴任者を受け入れ、現地の組織を預かる海外事業の責任者
- 帰任者を迎える部門の管理職
よくあるお悩み
- 帰任者の海外経験を、元の職場で生かせていない
- 赴任者の孤立や家族の困りごとに、本社が気づきにくい
- 帰任後の仕事が、直前まで決まらない
課題|赴任者の不安は、帰任後の仕事と家族の生活に及ぶ
海外赴任は、行って終わりではありません。外務省の統計では、2025年10月1日現在で海外に期限を定めて住む日本人(長期滞在者)は70万9,684人です。留学生なども含む数字で、赴任者だけの人数ではありません。
労働政策研究・研修機構の調査(2006年実施、赴任者1,565票)では、帰任後の仕事の不安は「社内の制度や規則の変化に疎くなる」34.1%、「日本での仕事の進め方になじめない」33.7%、「海外での経験が役に立たない」26.5%でした。生活の不安で最も多いのは「子供の教育問題」33.2%で、40〜44歳では55.3%に上がります。調査は少し前のものなので、御社の赴任者の声は診断で確かめます。
日本企業の帰任者を調べた内藤陽子氏の研究ノート(2012年)は、海外の先行研究を整理し、経験が十分に活用されず困難を独力で乗り越える状況への不満から、帰任者の離職が多数報告されてきたと述べています。
(参考)海外在留邦人数調査統計(令和7年(2025年)10月1日現在) – 外務省領事局政策課
(参考)調査シリーズNo.40 第7回 海外派遣勤務者の職業と生活に関する調査結果(2008年) – 独立行政法人労働政策研究・研修機構
(参考)海外派遣からの帰任─組織への再適応とその決定要因(内藤陽子、日本労働研究雑誌 No.626、2012年) – 独立行政法人労働政策研究・研修機構
原因|準備は手続きに偏り、帰任後の仕事と家族は本人任せになる
赴任者本人の語学力や適応力だけの問題ではありません。調査と研究から見える原因は次の3つです。
- 赴任前の準備が手続きと安全に偏る:同じ調査では、受講者が多いのは危機管理や健康管理、経営理念の研修でした。異文化適応の訓練や、駐在経験者との座談会・個人別の相談は、制度がないか、あまり制度化されていない研修に挙がっています。
- 家族の扱いが決まっていない:配偶者の帯同について「方針なし」は、独身者を除いた集計で44.3%でした。内藤氏の調査でも、帰国後に家族が日本での生活に問題を感じたことがある帰任者は約39%(「感じたことはない」61%からの計算値)で、その有無は本人の仕事満足度に関係していました。
- 帰任後の仕事の見通しが共有されない:同じ研究で、この会社で働き続けたいという意志に関係していたのは、帰任前の予測と実際の仕事のずれ、上司との話し合い、海外経験の活用の3つです。帰任研修やガイダンスの有無には、関係が確かめられませんでした。
内藤氏の調査は製造業7社の帰任後2年以内の192人が対象で、一度の調査での関係を見たものです。原因と結果を断定できるものではありません。そのため、御社の赴任者と帰任者への聞き取りで確かめてから手順を決めます。
(参考)調査シリーズNo.40 第7回 海外派遣勤務者の職業と生活に関する調査結果(2008年) – 独立行政法人労働政策研究・研修機構
(参考)海外派遣からの帰任─組織への再適応とその決定要因(内藤陽子、日本労働研究雑誌 No.626、2012年) – 独立行政法人労働政策研究・研修機構
スポーツ知見|スポーツ心理学は、海外移籍の適応を3段階で捉え、受け入れ側の関わりを問う
国を越えて移籍する選手の適応は、スポーツ心理学で研究が進んでいます。Rybaらの論文(Frontiers in Psychology、2016年)は、プロとセミプロの選手15人に2〜3回ずつ聞き取りを行い、文化移行モデル(Cultural Transition Model)を示しました。段階は次の3つで、一直線に進むものではないと断っています。
- 移行前:チームや生活の情報を、すでに行った人から集める。パートナーや子どもが一緒に行くかもこの時期に決まる
- 急性の文化適応:移った直後。孤独感や日常の崩れに直面し、感情の強さは数か月続くことがある
- 社会文化的な適応:長く滞在する中で、自分の価値観と現地の習慣の折り合いをつける
論文によると、調べた選手では、移行前の見込み違いがその後の混乱や孤立と結びついていました。また受け入れ側は、実務の手配は助けても、心理面の支えまでは用意しないことが多かったと述べています。国際スポーツ心理学会の声明(Ryba、Schinkeら、2018年)は、受け入れ側も関わる双方向の適応と、本人に背負わせる一方向の適応を分け、後者では成績不振や帰国、競技からの引退につながりうるとしています。
ただし、試合と仕事は同じではありません。研究の対象は選手で、会社員で確かめたものではなく、論文も別の場面での検証が必要だと述べています。選手は移籍先や契約を自分で交渉する余地が比較的大きい一方、赴任者は会社の辞令で動きます。そこで内示の段階で本人の意向と帰任の見通しを確かめます。家族も違います。この研究は選手本人の語りで、帯同する家族は自分で赴任を選んでいないことも多いため、家族の相談先を本人とは別に用意します。さらにこのモデルには帰任の段階がないので、帰任の部分は日本企業の帰任者の研究をもとに組み立てます。
解決策|4つの節目で、やることと支える人を決める
新しい研修を増やすことが目的ではありません。赴任と帰任の流れを4つの節目に分け、それぞれの担当を決めます。
- 赴任前:内示は派遣の平均3.4か月前(2006年の同調査)で、準備の時間は長くありません。内示の段階で本人の意向と帰任の見通しを確かめます。駐在経験者から仕事と暮らしの話を聞く場を設け、帯同か単身かを家族と話す材料をそろえます。6か月以上の派遣では、派遣前と帰国後の健康診断も予定に入れます。
- 着任後の数か月:手続きの担当とは別に、現地で気軽に聞ける相談相手を1人決めます。本社の人事は、決めた時期に本人と話し、孤立していないかを確かめます。
- 赴任中:本社の上司と定期的に話す場を決め、仕事の意向、社内の制度や組織の変化、家族の状況を確かめます。赴任が長いほど社内の事情に疎くなりやすいため、長期の赴任者は回数を増やします。
- 帰任前後:帰任の前に、経験を使う仕事と期待する役割を表にして上司と話します。帰任後にも面談を行い、予測と実際のずれを確かめます。
(参考)調査シリーズNo.40 第7回 海外派遣勤務者の職業と生活に関する調査結果(2008年) – 独立行政法人労働政策研究・研修機構
進め方|赴任者1人と帰任者1人で試してから、全社の手順にする
赴任者の数は多くなくても、1人ずつ事情が違います。最初から全社の制度にせず、実際の赴任者と帰任者で試し、使いにくい点を直してから広げます。
診断では、いまの赴任と帰任の流れを書き出し、帰任者と赴任者、受け入れ側の上司に聞き取りをします。設計・試行では、4つの節目の手順と書式を作り、次に赴任する人と次に帰任する人に実際に使います。定着では、ほかの拠点に広げ、年に1回、手順を見直す場を社内の予定に組み込みます。
期間は目安です。帰任の部分だけ、1拠点だけといった始め方もご提案します。Human Soarは聞き取り、書式の案、手順の文書化、初回の面談の同席を担い、御社には対象者の選定、現地の上司との調整、面談の実施をお願いします。
成果物|赴任前から帰任後まで社内で回せる4つの書式
成果物は、御社の拠点と赴任の実情に合わせて一緒に作ります。支援が終わったあとは、人事の担当者が替わっても同じ流れで使えます。
内示が出たら、人事と本人が「赴任前の準備チェック」を使います。本人の意向、経験者との面談、家族の話し合い、健康診断、帰任の見通しの確認が済んだかを1枚で追います。着任後は「現地と本社の連絡手順」に沿って、誰がいつ何を確かめるか、困ったときに誰へ連絡するかをそろえます。
帰任が近づいたら、受け入れ側の上司が「帰任後の役割決定表」を作ります。使う経験や人脈、担当する仕事、期待する役割、本人の希望との違いを書き、帰任前に本人と話します。「帰任面談の手順」は、帰任の前と後に上司と人事が使います。聞くことと記録することを決めておくので、面談者が替わっても確かめる内容は変わりません。
期待できる効果|本人の努力に任せず、海外経験を次の仕事につなげる
経営にとっては、費用と時間をかけて送り出した人の経験を、帰任後の仕事で使う道筋ができます。人事は、不調や不満が大きくなる前に話を聞く機会を持てます。赴任者と家族は、誰に何を相談すればよいかが分かり、帰国後の仕事を予測しやすくなります。
見る数字は「帰任前に役割決定表で話し合った帰任者の割合」です。もう1つ「帰任から2年以内の離職者数」を見ると、定着の変化を追えます。人数が少ない会社は数字が揺れやすいので、面談の記録とあわせて読みます。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、見直しの時期です。
Human Soarからのコメント
赴任者が現地で苦労するのは当然だと考えると、支え方の話が後回しになります。スポーツの研究が教えてくれるのは、適応は本人だけで進めるものではなく、受け入れる側も関わるものだということです。御社の赴任者と帰任者の話を聞きながら、節目ごとの支え方を一緒に決めます。
よくあるご質問
Q. 赴任者が数人の会社でも使えますか?
使えます。最初は次に赴任する1人と、次に帰任する1人から始めます。人数が少ない会社は専任の担当を置きにくいので、手順と役割分担を短い文書にして、現地の上司と本社の人事で回せる形にします。
Q. 赴任前研修や帰任研修をすでに実施していても必要ですか?
必要になることがあります。日本企業の帰任者192人を調べた研究では、帰任研修やガイダンスの有無に再適応との関係は確かめられず、帰任前の予測と実際のずれ、上司との話し合い、経験の活用が関係していました。研修は残したまま、帰任後の仕事の決め方を整えます。
Q. 赴任者の不調や、税金・社会保険の相談にも対応しますか?
体調や心の不調の判断は医師や産業医に、税金や社会保険の個別の手続きは税理士や社会保険労務士などの専門家にお願いします。このプログラムでは、不調に気づいたときの相談先と連絡の順番を手順に書いておきます。
FREE DOCUMENT
関連する資料を無料でダウンロード











コメント