ヒヤリハットの報告は集まっている。でも、次の事故を防ぐ対策につながっていない。スポーツ医学がけがの予防に使う調査の手順で、何を1件と数え、どの危険から手を打つかを決めます。報告を集める活動を、対策の順番を決める仕組みに変えます。
対象となるお客さま
- 製造、物流、建設、小売、介護など現場を持つ企業の安全衛生担当者
- どの危険から手を打つかを決めたい工場長・拠点長
- 現場の安全を毎月の数字で確かめたい経営者・事業責任者
よくあるお悩み
- 件数の目標があり、ネタ切れで似た報告ばかり並ぶ
- 報告書はたまるのに、何が変わったのかが現場に返らない
- 報告の多い部署と少ない部署を、同じ物差しで比べられない
課題|死傷者は4年連続で増え、休まないけがはさらに多い
ヒヤリハットは、けがには至らなかったものの、ひやりとした、はっとした出来事のことです。事故の手前で危険に気づける貴重な材料ですが、集めた報告が対策に変わらなければ、次の事故は止められません。
厚生労働省によると、令和6年の労働災害による死亡者数は746人で過去最少でした。一方、休業4日以上の死傷者数は135,718人で、4年連続で増えています。最も多い型は転倒で36,378人です。
統計に載るのは一部です。事業所規模100人以上を調べた令和6年の労働災害動向調査では、休業1日以上のけがの発生頻度を示す度数率が2.10、休業しなかったけがの度数率が3.98でした。計算すると、休業しないけがは約1.9倍の頻度で起きています。休業の記録だけを見ていると、現場の危険の多くは見えません。
原因|件数を追うだけで、数え方と手を打つ順番が決まっていない
現場の意識が低いからではありません。報告の仕組みに、次の3つが欠けています。
- 何を1件と数えるかが決まっていない:人によって報告する、しないが分かれ、部署どうしを比べられません。
- 件数だけを目標にしている:働いた時間で割らないので、人数や繁忙期の違いが分かりません。目標の達成が目的になると、内容の薄い報告が増えます。
- 報告の後が決まっていない:どれから手を打つか、誰がいつまでに何を変えるかが決まらず、結果が報告した人に返りません。
件数だけでは危険の大きさを見誤ることは、国の統計でも分かります。令和6年の休業4日以上の死傷者数は製造業が26,676人で最多ですが、度数率(100万延べ実労働時間あたりの死傷者数)では製造業が1.30、運輸業・郵便業が3.55、卸売業・小売業が2.60です。集計の範囲が違うため単純には比べられませんが、時間で割ると見える順番は変わります。
スポーツ知見|スポーツ医学は、数え方をそろえ、頻度と重さで順番を決める
スポーツ医学には、けがを防ぐための決まった順序があります。van Mechelenらが1992年に学術誌Sports Medicineの総説で示した「予防の順序」です。けがの規模を調べる、要因と仕組みを調べる、要因に合わせて対策を入れる、最初の調査をやり直して効果を確かめる、の4段階です。
国際オリンピック委員会(IOC)の専門家グループは2020年、British Journal of Sports Medicineに、記録の方法をまとめた合意声明を公表しました。けがの定義をそろえる、発生を1,000時間あたりで表す、頻度と結果の重さを合わせた「負担」で見る、という内容で、頻度と重さを1枚に並べるリスクマトリクスも紹介しています。
記録の方法で見える量が変わることを示した研究もあります。Clarsenらは2013年の同誌の論文で、5競技の選手313人を13週間追い、毎週メールで質問票に答えてもらいました。膝・腰・肩の使いすぎによる不調は、質問票では419件、標準的な記録方法では40件でした。計算すると約10倍の差です。休むほどではない不調を拾えたためです。
ただし、試合と仕事は同じではありません。これらの研究の対象は選手で、会社員で確かめたものではありません。また、スポーツの調査が数えるのは実際に起きた不調ですが、ヒヤリハットはけがに至っていない出来事なので、重さは「起きていたらどうなったか」の見立てになり、人によってぶれます。そのため、重さの判定には例を示した表を使い、2人で確かめます。命に関わる危険は集計を待たず、その日のうちに作業を止めて直します。
解決策|報告を対策に変える4つの決まりをつくる
報告の件数目標はやめます。部署や個人の評価にも使いません。そのうえで、次の4つを決めます。
- 1件の定義:業種と作業ごとに、何を1件と数えるかを例で示す
- 週1回の確認:全員に短い質問で聞き、「なし」も回答として数える。書くのは、いつ、どこで、どんな作業か、の3つ
- 頻度と重さの順位表:延べ労働時間1,000時間あたりの件数と、起きていた場合の重さを1枚に並べ、上から手を打つ
- 対策後の測り直し:同じ物差しで測り直し、何が変わったかを報告した人に返す
省かれやすいのが最後の測り直しです。測り直さなければ、対策が効いたのかどうかが分かりません。報告した人に結果が返らなければ、報告する理由も薄れていきます。
進め方|1拠点で試してから、全拠点に広げる
最初から全拠点に展開すると、様式だけが増えて現場の負担になります。まず1拠点で、週1回の確認が続くか、順位表で対策が決まるかを確かめます。
診断では、直近1年の報告書と労災の記録を一緒に棚卸しし、部署、作業、時間帯ごとの偏りと、対策まで進んだ報告の割合を調べます。設計・試行では1拠点で定義集と週1回の確認を始め、順位表の上位から対策を入れて測り直します。定着では全拠点に広げ、月次レビューの手順にして運用します。
期間は目安です。診断だけ、1拠点だけといった始め方もご提案します。Human Soarは様式の用意・聞き取り・集計・月次レビューの進行を担い、御社には報告書と労働時間の記録の共有、試す拠点の決定、対策の実施をお願いします。法令で求められる手続きの確認は、御社の産業医や安全衛生の専門家と進めます。
成果物|支援が終わっても社内で回せる4つの仕組み
成果物は、ひな形を渡して終わりにはしません。どれも御社の作業と実際の報告をもとに、一緒に作ります。
最初に作るのが「ヒヤリハット定義集」です。安全衛生担当者が新人教育や朝礼で使い、何を1件と数えるかを作業ごとの例で示します。次に、現場の全員が週に1回答える「週次確認票」を整えます。集まった結果を、拠点の責任者が毎月「頻度と重さの順位表」にまとめ、どの危険から手を打つかを決めます。
最後に、順位表をもとに対策と測り直しを確かめる「月次レビューの運用手順」を整えます。安全衛生委員会などの既存の会議に組み込めるので、支援が終わった後も社内だけで回し続けられます。
期待できる効果|どの危険から手を打つかを数字で説明できる
経営にとっては、労災の手前の状況を毎月の数字で見られ、安全への投資の順番を説明できるようになります。拠点の責任者は、どの危険から手を打つかで迷わなくなります。安全衛生担当者は、人数の違う部署を同じ物差しで比べられます。現場の作業者は、報告で何が変わったのかが分かります。
見る数字は2つです。「週次確認の回答率」で仕組みが続いているかを、「順位表の上位の危険のうち、対策と測り直しまで終えた割合」で対策が進んでいるかを確かめます。報告の件数は、始めた直後に増えることがあります。件数そのものの増減では良し悪しを判断しません。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、報告の仕組みを見直す時期です。
Human Soarからのコメント
スポーツ医学の現場は、限られた時間と人手のなかで、どのけがの予防から手を付けるかを決めなければなりません。そのために数え方をそろえ、頻度と重さで順番を決めてきました。限られた予算と人手で現場の安全を守る企業も、同じ課題を抱えています。集めた報告を対策に変える仕組みを、御社の現場に合わせて一緒につくります。
よくあるご質問
Q. ヒヤリハットのネタ切れはどう防げばいいですか?
件数の目標をやめて、週1回の短い確認に変えます。「なし」も回答として数えるので、無理に探す必要がなくなります。何を書けばよいか迷う職場には、業種と作業に合わせた例を定義集で示します。厚生労働省の職場のあんぜんサイトにある451件の事例(令和7年5月27日更新時点)も、例を作るときの材料に使えます。
Q. 報告が増えると、部署の評価が下がりませんか?
部署や個人の評価には使わない決まりにします。評価につながると、報告を控える理由ができてしまうためです。経営への報告では件数の多さではなく、上位の危険にどこまで手を打ったかを見せます。
Q. 工場以外や、小規模な会社でも依頼できますか?
できます。厚生労働省の統計では商業や保健衛生業でも死傷者が多く、小売、物流、介護などの現場に合わせて定義集の例を変えます。最初は1拠点から始める設計で、延べ労働時間の把握が難しい場合は人数と勤務日数から概算します。
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