2021年のびわ湖毎日マラソンで2時間04分56秒の日本記録を樹立した鈴木健吾選手。神奈川大学時代は箱根駅伝に4年連続で出場し、3年時には花の2区で区間賞を獲得、社会人になってからも記録を更新し続けてきたランナーは、どのような食事管理を土台にしてきたのか。筆者は本人のインタビューを基に、実家での食生活から現在の意識まで追う。
実家での栄養教育と好き嫌いのない食生活
小学6年生で陸上競技を始めた鈴木選手は、本格的に競技を始めたことをきっかけに、母親が栄養面の勉強をして、バランスの良い食事を作ってくれるようになったという。そのおかげもあり、好き嫌いはほとんどないそうだ。体が大きくない分、他の選手より多くは食べられなかったかもしれないが、頑張って食べるように心がけていたと振り返っている。母の手料理ではなくとも、うなぎが好きでよくリクエストしていたというエピソードも語られている。長距離選手は体格的に食が細くなりがちな面もあるが、鈴木選手のように「頑張って食べる」意識を早くから持てたことが、その後の競技人生を支えるエネルギー摂取の土台になったと考えられる。
大学の寮生活で意識した栄養バランス
神奈川大学時代は寮生活を送っており、平日の朝・夕は寮で食事を提供してもらい、平日の昼と土日は各自で用意していたという。自分で調理をすることはなかったが、栄養バランスを考えて食べるように心がけていたそうだ。本や講習会を通じて栄養学を学ぶ機会もあり、大学、実業団と進むなかである程度の知識がついたと語っている。寮という管理された環境から、自分で栄養を判断する必要のある実業団の生活へと移るなかで、少しずつ知識を積み重ねてきたプロセスがうかがえる。
きのこについては「好きです。鍋や味噌汁によく入れます」と話し、実家でもよく食卓に上っていたという。シンプルに焼いて醤油をかけて食べていた記憶があるそうだ。
腸内環境への意識とマラソンでの食事管理
鈴木選手はきのこにビタミンDが含まれ、カルシウムの吸収を促す効果や、ビタミンB群が豊富である点を知識として持っているという。また、きのこには腸内環境を改善する働きも報告されている。
本人は「腸内環境が悪いとパフォーマンスに影響する」と明言しており、特にマラソンを始めてからは食事と睡眠をより大切にするようになったと語る。レース直前はもちろん、日頃から食事の内容やタイミングに気をつけ、下痢など体調不良にならないよう注意しているという。長い距離を走り続けるマラソンでは、レース中の消化器系トラブルが記録に直結するため、日常的な腸内環境の管理がパフォーマンスの土台になっていることがうかがえる。
レース直前の食事は日常の腸活と考え方が異なる
マラソンでは、レース36〜48時間前から体重1kgあたり1日10〜12gの炭水化物を摂取する「カーボローディング」が現代の推奨方法として知られている。あわせて、レース直前は食物繊維の少ない食事に切り替えて胃腸の不調リスクを抑えることが推奨されており、きのこ類やごぼうなど腸内でガスを発生させやすい食品は、レース直前は控えるべきとされている。
普段は腸内環境を整えるためにきのこなどの食物繊維を積極的に摂りながら、レース直前だけは消化の負担を減らす食事に切り替える。鈴木選手が語る「日頃から食事の内容やタイミングに気をつける」という言葉には、こうした使い分けの視点も含まれているとみられる。
(参考)スポーツ栄養情報(第4回 マラソンレース当日の食事) – 東京マラソン
(参考)プロアスリートを支える食事に迫る。第52回 陸上競技・鈴木健吾選手 – きのこらぼ

日本記録樹立までの歩みと食事の関係
2021年のびわ湖毎日マラソンでは、気象条件やそれまでのトレーニングが良い状態で噛み合い、2時間04分56秒の日本記録で優勝した。前年の同レースでは雨と強風で歯が立たなかったと振り返っており、コンディションを整える取り組みの積み重ねが結果につながったことがうかがえる。
その後、日本記録を「まぐれ」と言われることもあったというが、翌年の東京マラソンを2時間05分28秒で走ったことで、自身でも力がついてきたことを実感したと語る。一方でオレゴン世界選手権の直前には体調を崩して欠場し、長い間その悔しさを引きずったとも明かしており、体調管理の難しさと重要性を身をもって経験してきた選手であることが分かる。世界に目を向けると2時間1分を切る記録も出ており、自身の記録をさらに更新するための準備を進めているといい、日々の食事や栄養管理はその土台として今後も欠かせない要素であり続けるとみられる。

水分補給という見落とされがちな食事管理の一部
鈴木選手は「腸内環境が悪いとパフォーマンスに影響する」と語っているが、マラソンのように長時間にわたって走り続ける競技では、食事だけでなく水分やミネラルの補給も体調管理の一部として欠かせない。レース中の給水のタイミングや量を誤ると、消化器系のトラブルやパフォーマンス低下につながりかねないため、日頃の食事管理と同じように、レースに向けた水分補給の計画も重要な要素になる。
富士通入所後は駅伝でも区間賞を獲得するなど、長距離種目の中でも駅伝とマラソンの両方で結果を残してきた鈴木選手にとって、レースの距離や気温に応じて食事・水分補給の内容を調整する経験の蓄積が、日本記録という結果につながる土台の一つになっているとみられる。
ジュニア世代・市民ランナーへの食事アドバイス
市民ランナーに向けては、脚が痛くなると走り続けるのが難しくなるため、無理をしないで少しずつ取り組む姿勢が大切だとアドバイスしている。より高いレベルを目指す選手には、トレーニング情報があふれるなかで何が正解か分からなくなりがちだとしたうえで、まず走ることを好きになり、自分自身を信じて自分の体に耳を傾けることを大切にしてほしいと語る。
ジュニア世代への食事アドバイスとしては、「ジュニア期に栄養をとることで、大学・社会人になったときに大きな差になる」と述べ、まずは食べることを大切にしてほしいと強調する。競技面でストイックになることも必要かもしれないが、活躍したいときに体がボロボロでは意味がないとし、中高生にはたくさん食べて体を動かすことを勧めている。
よくある質問
鈴木健吾選手はいつから栄養を意識するようになったのか
小学6年生で陸上を本格的に始めたのをきっかけに、母親が栄養面を勉強して食事を用意してくれるようになったことが最初のきっかけだったという。
マラソンではなぜ腸内環境が重視されるのか
本人は「腸内環境が悪いとパフォーマンスに影響する」と述べており、レース中の体調不良を避けるため日頃から食事の内容とタイミングに気をつけているという。
日本記録樹立の裏にはどのような経験があったのか
前年のびわ湖毎日マラソンでは悪天候で苦戦したが、翌年は気象条件とトレーニングの状態が噛み合い、日本記録での優勝につながったと振り返っている。
レース直前ときのこの摂取は両立するのか
レース36〜48時間前からのカーボローディング期間は、食物繊維の少ない食事に切り替えて胃腸の不調を避けるのが一般的で、きのこ類は普段の腸活とは別に、レース直前は控えるという使い分けが推奨されている。
ジュニア世代への食事アドバイスは
ジュニア期に栄養をとることが将来の差になるとして、ストイックになりすぎず、まずはしっかり食べることを大切にしてほしいと述べている。
まとめ
- 実家での栄養教育により、好き嫌いのない食生活が競技人生の土台になった
- 大学の寮生活でも栄養バランスを意識し、栄養学を学ぶ機会も積み重ねてきた
- きのこなどによる腸内環境の管理を、マラソンのパフォーマンスに直結する要素として重視している
- ただしレース直前はカーボローディングのため食物繊維を控えるなど、日常とレース前で食事の使い分けが必要とされる
- 日本記録樹立の裏には、体調管理の失敗と成功を繰り返しながら積み上げてきた経験がある
- ジュニア世代へは「食べることを大切に」というメッセージを一貫して伝えている
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