健康経営とウェルビーイングの違い|人事が使う判断軸

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健康経営とウェルビーイングの違いは、「何を目的にするか」と「どこまでを範囲にするか」の2点に集約されます。健康経営は従業員の健康に投資して業績を高める経営の手法、ウェルビーイングは本人が心身ともに満たされている状態そのものです。対立する概念ではなく、健康経営はウェルビーイングを実現するための土台にあたります。

「社内で説明を求められたけれど、うまく言葉にできない」——人事の現場で、この2つの言葉に迷う場面は少なくありません。どちらも「従業員を大切にする」という点で重なるため、施策を企画する段階でも混ざってしまいがちなんですよね。

この記事では、両者の違いを目的・範囲・測り方の3観点で整理したうえで、国が運営する4つの枠組みのどれで成果を示すか、自社がどの段階にいるかまで判断できるようにまとめます。社内説明の言い換え方も最後に置いたので、稟議や経営会議の準備にも使ってもらえると思います。

健康経営とウェルビーイングの違いは「目的」と「範囲」で決まる

まず、2つの言葉が何を指しているのかを並べて確認します。出発点が違うことに気づくと、混乱はかなりすっきりします。下の表が全体像です。

健康経営とウェルビーイングの違い一覧(Human Soar 作成。定義は経済産業省「健康経営」の記載に基づく)
観点 健康経営 ウェルビーイング
正体 経営の手法(やり方) 満たされた状態(ゴール)
目的 健康投資で活力と生産性を高める 本人が充実していること自体
範囲 身体・メンタルの健康とその管理 健康+人間関係・働きがい・私生活
測り方 受診率・有所見率・離職率など客観指標 幸福度・充実感など本人の主観指標
主体 企業(経営)が投資を判断する 従業員一人ひとり。企業は支える側
公的な枠組み 健康経営優良法人・健康経営銘柄がある 名称を冠した認定制度はない

健康経営は経営の手法|経済産業省は「健康投資」と位置づける

経済産業省は健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義しています。企業理念に基づく健康投資が、従業員の活力向上や生産性の向上をもたらし、結果として業績向上や株価向上につながると期待される、という整理です。国の政策としては「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つに位置づけられています。

つまり健康経営は、福利厚生の言い換えではなく投資の判断を含む経営の手法です。だからこそ効果を数字で説明する責任がついて回ります。この点が、あとで触れる測り方の違いにつながります。

ウェルビーイングは満たされた状態|健康の外側まで含む

一方でウェルビーイングは、心身が健康で、いきいきと満たされている「状態」そのものを指します。健康だけでなく、人間関係ややりがい、キャリア、私生活の充実まで含む、より広い概念です。健康経営が手段の名前なのに対して、ウェルビーイングは到達点の名前だと考えると混同しにくくなります。

言葉の成り立ちや施策設計の全体像はウェルビーイングとは?施策が失敗する理由と設計法で詳しく扱っています。ここでは健康経営との対比に絞って進めます。

(参考)健康経営 – 経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課

違いは目的・範囲・測り方の3観点で整理できる

ここからは、社内で説明するときにそのまま使える形に分解します。目的・範囲・測り方の順に見ていくと、どちらの話をしているのかが毎回はっきりします。

目的の違い|健康経営は業績まで見る

健康経営の目的は、健康への投資を通じて生産性や業績を高めることです。経営戦略の一環という位置づけがはっきりしているため、投じた費用に対する説明が求められます。対してウェルビーイングは、従業員一人ひとりが満たされた状態になること自体が目的で、業績はその先についてくる、という捉え方になります。

この差は稟議の書き方に直結します。健康経営の枠で出す企画なら「何が改善するか」を先に書き、ウェルビーイングの枠で出す企画なら「どんな状態を目指すか」を先に書く、と切り替えると通りやすくなります。

範囲の違い|健康経営が扱うのは土台の層

健康経営が主に扱うのは、身体・メンタルの健康とその管理です。健診、ストレスチェック、運動支援などが代表例になります。ウェルビーイングはさらに広く、人間関係、働きがい、キャリア、私生活の充実まで含みます。健康経営はウェルビーイングの一部、それも土台の部分を担う関係です。

この包含関係を押さえておくと、「健康施策をいくら足しても満足度が上がらない」という状況の説明がつきます。土台の層だけを厚くしても、その上の層は自動的には埋まらないからです。

測り方の違い|客観指標と主観指標で分かれる

健康経営は、健診受診率や有所見率、離職率など比較的数値化しやすい指標で測られます。ウェルビーイングは主観的な満足度や幸福度が中心で、本人の感じ方がそのまま指標になります。同じ施策でも、どちらの指標で評価するかによって「成功」の意味が変わる点に注意が必要です。

土台側の代表指標がストレスチェックです。厚生労働省の「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」では、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安・悩み・ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者は68.3%でした(対象:常用労働者10人以上の民営事業所に雇用される労働者/有効回答8,596人/令和6年10月31日現在/2025年8月7日公表)。内容の上位は「仕事の量」43.2%、「仕事の失敗、責任の発生等」36.2%、「仕事の質」26.4%です。

同じ調査では、ストレスを相談できる人がいる労働者が94.6%、そのうち実際に相談した人が74.7%で、相談相手は「家族・友人」62.1%、「上司」58.9%、「同僚」57.0%と続きます。健康の数値と、職場の人間関係という主観側の要素が地続きであることが、同じ調査のなかに表れているわけですね。なお同調査は令和5年(82.7%)から設問の形式が変更されているため、単純な前年比較はできません。

主観指標の測り方そのものについてはMHC-SFとは?健康経営担当者向け2026年版3状態分類で扱っています。

(参考)令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況 – 厚生労働省

Q. 健康経営とウェルビーイング経営は同じものですか?

同じではありません。健康経営は健康への投資で生産性や業績を高める経営の手法で、経済産業省が推進する認定制度も存在します。ウェルビーイング経営は、健康に加えて人間関係や働きがいまで含めた「満たされた状態」を目指す考え方で、公的な認定制度はありません。範囲としては、ウェルビーイング経営が健康経営を含む形になります。

健康経営はウェルビーイングの土台になる|4段階で現在地を測る

違いを押さえたら、次は自社がどこにいるかです。Human Soar では、健康経営からウェルビーイングまでを4つの段階に分けて考えています。段階が分かると、次に打つ施策が自動的に決まります。

段階を飛ばした施策は空振りする

健康経営とウェルビーイングの違いを4段階で示した図解。法定対応・健康経営・交流と働きがい・ウェルビーイングの順に施策が積み上がる
健康経営からウェルビーイングへの4段階マップ(Human Soar 作成)

健診やストレスチェックの実施体制が整っていない状態で、いきなり働きがいの施策を始めても効果は出にくくなります。体調を崩している人がいる職場で「やりがいを高めよう」と言っても届かないからです。第1段階と第2段階を飛ばして第3段階に進んだ施策が空振りするのは、この順序を無視しているためです。

逆に、健康施策だけを増やし続けても満足度は頭打ちになります。土台は整っているのに、人間関係や働きがいが置き去りのままだからです。どちらの方向の取りこぼしも、段階で捉えれば事前に防げます。

段階が分かれば施策の優先順位も決まる

自社の現在地を見極めるときは、上の段階から順に「できているか」を確認するのが早道です。第1段階の受診率と実施率、第2段階の認定要件、第3段階のエンゲージメント調査、第4段階の主観指標——このうち最初に欠けているところが、次の打ち手になります。

第3段階に進む具体策としては、運動や交流の場を業務外に設ける方法が現実的です。健康とつながりの両方に同時に効くためで、実際の設計は職場のウェルビーイングにスポーツが効く理由にまとめています。

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国の枠組みは4つ|どちらで成果を示すかを決めて申請する

「どちらの枠組みで示すか」を決めるには、実際に使える制度を並べて見るのが確実です。2026年10月時点で国が運営し、企業が申請または実施できる枠組みのうち、従業員の健康・活力を扱うものは次の4件でした(各制度の公式発表をもとに Human Soar が集計)。

枠組み 所管 測られるもの 性格
健康経営優良法人2027 経済産業省(認定は日本健康会議) 健康経営度調査・認定申請書の要件達成 任意申請の認定
健康経営銘柄2027 経済産業省 上場企業の健康経営度調査の回答 任意申請の選定
ストレスチェック制度 厚生労働省 労働者の心理的な負担の程度 法律にもとづく義務
スポーツエールカンパニー2026 スポーツ庁 従業員のスポーツ実施率と取組内容 任意申請の認定

従業員の健康・活力を扱う国の枠組み4件(2026年10月時点。経済産業省・厚生労働省・スポーツ庁の公式発表より Human Soar 作成)

健康経営優良法人2027|順位で区切る枠がある

経済産業省は2026年8月17日に「健康経営銘柄2027」「健康経営優良法人2027」の申請受付を開始しました。健康経営優良法人は平成28年度から企業規模別に「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」の2部門で運用され、各調査回答に基づいて日本健康会議が認定します。制度運営の事務局は日本経済新聞社です。

注目したいのは、認定のなかにさらに順位で区切る枠がある点です。大規模法人部門は上位500位までが「ホワイト500」、中小規模法人部門は上位500社が「ブライト500」、上位501〜1500位が「ネクストブライト1000」として認定されます。施策の数を並べるだけでは上位の枠に入れない設計になっているため、申請する側は「何をやったか」に加えて「どこまで結果が出たか」を書ける状態にしておく必要があります。

ストレスチェック|対象が全事業場に広がる土台の指標

ストレスチェックは2015年から労働安全衛生法により事業者に実施が義務付けられている制度です。労働者数50人未満の事業場は当分の間の努力義務とされてきましたが、2025年5月に公布された改正により、令和10年4月1日から50人未満の事業場にも義務化されます。

つまり中小企業にとっては、第1段階の法定対応そのものが数年のうちに必須になります。施行時期や準備の進め方はストレスチェック義務化はいつから|50人未満2028年4月施行で整理しています。

(参考)ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策 – 厚生労働省

スポーツエールカンパニー|運動の実施率で評価される枠

スポーツ庁は、従業員のスポーツ活動の促進に積極的に取り組む団体を「スポーツエールカンパニー」として認定しています。令和8年1月30日の発表では、過去最多となる1,635団体が認定されました。従業員のスポーツ実施率が70%以上なら「+(プラス)認定」、通算7回以上の認定で「シルバー認定」、5回以上で「ブロンズ認定」という区分があり、シルバー・ブロンズ認定の団体は500団体を超えています。

この枠は、健康経営と第3段階の交流施策の両方にまたがって使えるのが特徴です。運動の実施率という客観指標で評価されつつ、実際の取り組みは部署をまたいだ交流の形をとることが多いためです。

(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定 – スポーツ庁

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健康経営銘柄|上場企業がIRの文脈で使う枠

健康経営銘柄は平成26年度から選定されている制度で、対象は上場企業です。健康経営優良法人が「認定」であるのに対し、銘柄は投資家に向けて健康経営に優れた企業を示す性格が強く、IRや統合報告書の文脈で使われます。非上場企業の場合は、優良法人の枠を目標に据えるほうが現実的です。

Q. ウェルビーイングには健康経営優良法人のような認定制度はありますか?

ウェルビーイングという名称を冠した国の認定制度はありません。国の枠組みで成果を示したい場合は、健康経営優良法人・健康経営銘柄・スポーツエールカンパニーのいずれかに申請することになります。ウェルビーイング側の取り組みは、エンゲージメント調査や主観的な満足度の推移といった自社指標で示すのが一般的です。

Q. 中小企業はどの枠組みから始めればよいですか?

ストレスチェックの体制づくりから始めます。2025年5月公布の改正により、令和10年4月1日から労働者数50人未満の事業場にも実施が義務化されるためです。法定対応のめどが立った段階で、健康経営優良法人の中小規模法人部門を次の目標に据えると、投資と認定の順番が自然につながります。

人事が社内で説明するときの3つの翻訳

最後に、違いを知ったあとで実務がつまずきやすい場面を扱います。相手によって使う言葉を替える、という一点に尽きます。

経営会議ではウェルビーイングを健康経営の指標に翻訳する

経営会議で「従業員の幸福度を上げたい」とだけ伝えても、投資判断の材料にはなりません。同じ施策を、離職率、有所見率、エンゲージメント調査のスコアといった追える指標に置き換えて出します。ウェルビーイングを目的として語りつつ、効果は健康経営側の指標で示す、という二重の建て付けにすると通りやすくなります。

現場には健康経営の施策をウェルビーイングの言葉で伝える

逆に現場へは、健康経営の施策を本人の実感に近い言葉で伝えます。「有所見率を下げる」ではなく「疲れが残りにくくなる」、「実施率を上げる」ではなく「話す相手が増える」といった翻訳です。制度の名前をそのまま下ろすと、健康経営が「会社に測られること」として受け取られてしまいます。

予算をまたぐ施策は測る枠組みを先に決める

健康経営とウェルビーイングは、予算の出どころも評価者も違うことが多い領域です。稟議を出す前に「この施策は健康経営の枠で測るのか、ウェルビーイングの枠で測るのか」を先に決めておくと、実施後に評価基準で揉めることがなくなります。両方にまたがる施策なら、主指標と副指標を分けて明記しておきます。

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Q. 健康経営とウェルビーイング、どちらを先に進めるべきですか?

健康経営が先です。健診やストレスチェックという土台が整っていない状態で働きがいの施策を始めても、効果が出にくいためです。法定対応と健康投資のめどが立ってから、人間関係や働きがいに踏み込む施策へ進む順番が、施策の空振りを防ぎます。

まとめ

健康経営とウェルビーイングは、混同せずに段階で捉えると施策設計がうまくいきます。要点を整理します。

  • 健康経営は「経営の手法」、ウェルビーイングは「満たされた状態」そのもの
  • 違いは目的・範囲・測り方の3観点で整理でき、測る指標も客観と主観で分かれる
  • 健康経営はウェルビーイングの土台にあたり、4段階で現在地を測れる
  • 国の枠組みは健康経営優良法人・健康経営銘柄・ストレスチェック・スポーツエールカンパニーの4件
  • 経営会議と現場で言葉を翻訳し、予算をまたぐ前に測る枠組みを決めておく

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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