スタジアムの観客席は年々埋まりやすくなっているのに、地域のランニングイベントやフィットネスコミュニティの参加者は思うように伸びない——そんな肌感覚を持つスポーツビジネス関係者は少なくないはずです。実際、笹川スポーツ財団の全国調査でも、直接観戦率は2022年の19.3%から2024年には26.2%まで回復した一方、自ら運動・スポーツを「する」実施率は同期間に43.2%から35.2%へと8.0ポイント下落しています。見るスポーツへの関心が戻る一方で、自ら関わる裾野は狭まっている。この構造変化こそが、スポーツ経済が観戦型モデルの拡大だけに頼れなくなり、参加型モデルへの転換を迫られている背景です。本記事では、笹川スポーツ財団のデータを独自に再集計し、経営者・スポーツビジネス関係者が押さえるべき転換の中身を解説します。
「する」実施率の低下と「みる」観戦率の回復が同時に進んでいる
スポーツ市場の構造変化を捉えるには、まず「する・みる・ささえる」それぞれの参画率がどう動いているかを時系列で見る必要があります。笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」の公開データから、Human Soarが2018年・2022年・2024年の3時点を独自に並べて再集計しました。
| 指標 | 2018年 | 2022年 | 2024年 |
|---|---|---|---|
| 直接観戦率(みる) | 31.8% | 19.3% | 26.2% |
| インターネット観戦率(みる) | 11.5% | 21.6% | 24.2% |
| 「する」参画構成比 | – | 43.2% | 35.2% |
| スポーツボランティア実施率(ささえる) | 6.7% | 4.2% | 5.4% |
Human Soarが笹川スポーツ財団「スポーツライフ・データ2024」(調査期間2024年6〜7月、全国18歳以上3,000人対象)と過去公表値をもとに、2018・2022・2024年の3時点を独自に並べて再集計。
観戦は「会場」から「オンライン」へも広がりながら回復している
直接観戦率は2022年の19.3%から2024年に26.2%へと6.9ポイント回復しましたが、コロナ禍前の2018年(31.8%)の水準には戻り切っていません。一方でインターネット観戦率は2018年11.5%から2024年24.2%へと倍増しており、観戦の入り口が会場だけでなくオンラインにも広がっていることが分かります。
「する」実施率はコロナ禍後も回復せず低下が続いている
自ら運動・スポーツを行う「する」の参画構成比は、2022年の43.2%から2024年には35.2%へと8.0ポイント低下しました。年1回以上の運動・スポーツ実施率も69.8%と、2006年以来の6割台まで落ち込んでおり、観戦の回復とは対照的な動きです。
観戦型モデルの拡大だけでは市場目標に届かない構造がある
日本のスポーツ市場は、2015年の8.7兆円から2019年に10.2兆円へと年率4.2%で成長し、2025年に15兆円へ拡大するという政府目標が掲げられてきました。この成長を支えてきた柱の一つが、放映権やスタジアム観戦者数に連動する観戦型の収益モデルです。しかし前段で見た通り、直接観戦率はコロナ禍前の水準を回復し切れておらず、観戦者数の絶対的な伸びだけで市場全体を押し上げるのは難しくなっています。加えて、観戦型モデルは大会・シーズンという限られた機会にしか収益機会が発生しない構造的な天井を持っています。
一方で「する」実施率の低下は、将来の観戦人口・支援人口を先細りさせるリスクでもあります。競技を「する」経験がある人ほど、その競技を「みる」「ささえる」行動にも積極的になる傾向が知られており、参加人口の減少は中長期的に観戦市場の裾野そのものを狭める可能性があります。スポーツ経済が参加型モデルへの転換を迫られているのは、この二重の構造的課題に対応する必要があるためです。
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(参考)スポーツ未来開拓会議 ~今後のスポーツの成長産業化を見据えた、当面の取組等についてのとりまとめ~ – スポーツ庁・経済産業省
(参考)スポーツライフ・データ2024 – 公益財団法人笹川スポーツ財団
Q. 観戦型モデルはもう成長しないのですか?
成長が止まるわけではありません。インターネット観戦率は2018年から2024年で倍増しており、配信領域には伸びしろがあります。ただし会場観戦の絶対数だけに依存した成長戦略には限界が見えてきています。
Q. なぜ「する」人口の減少が観戦市場にも影響するのですか?
競技を自ら経験した人は、その競技を継続して観戦・応援・支援する傾向が強いためです。参加人口の減少は、数年後の観戦・支援人口の先細りにつながるリスクがあります。
参加型ビジネスモデルを2軸で分類する|関与の深さ×収益源
「参加型モデル」とひとくちに言っても、その設計は事業によって大きく異なります。Human Soarでは「顧客の関与の深さ(観戦のみ〜自ら参加)」と「主な収益源(放映権・協賛収入〜参加費・データ収益)」の2軸で、参加型ビジネスモデルを4つの型に独自に分類しました。
①放映・協賛型|従来型の観戦収益モデル
観戦者数や視聴率に応じて放映権料・協賛金が決まる、最も歴史の長いモデルです。安定した収益基盤である一方、観戦者数の伸びが鈍化すると収益も頭打ちになりやすい構造です。
②配信データ型|観戦のまま収益源を広げる
会場に来なくても、配信の会員課金や視聴データの活用によって収益を得るモデルです。インターネット観戦率の伸びを収益に転換できる点で、①の限界を補う役割を果たします。
③体験参加型|参加費と裾野拡大を両立する
市民マラソンや地域のフィットネスイベントのように、参加者自身が費用を負担して体験するモデルです。「する」人口の減少局面でも、参加のハードルを下げる設計次第で新規層を獲得できる余地があります。
④継続支援型|健康データを軸にした継続収益
単発の参加ではなく、日常的な運動データや健康状態の継続提供を軸にしたモデルです。企業の健康経営施策と連携しやすく、スポーツビジネスとウェルビーイング市場の接点になります。
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参加型モデルへ移行する3つの実務ステップ
4分類のうちどの型を狙うにせよ、既存の観戦型収益に依存した組織がいきなり体験参加型・継続支援型へ舵を切るのは容易ではありません。ここでは移行の実務を①〜③のステップで整理します。
①既存顧客の関与度を棚卸しする
まず自社の顧客・ファンが「観戦のみ」「観戦+グッズ購入」「実際に参加」のどの段階にいるかを、既存の会員データやアンケートで棚卸しします。スポーツDXの基盤整備が進んでいる組織ほど、この棚卸しを短期間で行えます。
②小規模な体験参加イベントで検証する
いきなり大規模な参加型サービスを立ち上げるのではなく、既存イベントの一部に「観戦者が体験できる」枠を小規模に設け、参加費に対する反応を検証します。
③継続的なデータ接点に発展させる
検証で反応が得られた参加体験を、単発で終わらせず、健康データや活動履歴を継続的に受け取る仕組みに発展させます。ここまで到達すると、④継続支援型としての収益化が視野に入ります。
Q. 参加型モデルに移行する際、最初に何をすればよいですか?
まず既存の顧客・ファンが観戦のみか、グッズ購入か、実際に参加する段階かを会員データで棚卸しします。そのうえで小規模な体験参加イベントで反応を検証するのが現実的な進め方です。
導入時に注意すべきポイント
参加型モデルへの転換を急ぐあまり、既存の観戦型収益(放映権・協賛)を軽視するのは避けるべきです。両者は対立するものではなく、観戦型で得た認知・ファン基盤を、参加型への入り口として活用する設計が現実的です。また、健康データを扱う継続支援型では、個人情報の取り扱いについて事前に方針を明確にしておく必要があります。
Q. 継続支援型モデルを導入する際の注意点はありますか?
健康データや活動履歴を継続的に扱うため、個人情報の取り扱い方針を事前に明確にしておく必要があります。
まとめ
- 直接観戦率は2022年から回復傾向にある一方、「する」実施率は8.0ポイント低下している
- 観戦型モデルは大会機会に限定される構造的な収益の天井を持つ
- 参加型ビジネスモデルは「関与の深さ」と「収益源」の2軸で4つの型に整理できる
- 移行は顧客の関与度の棚卸し→小規模検証→継続的データ接点の3ステップで進める
- 観戦型と参加型は対立ではなく、観戦型のファン基盤を参加型への入り口として活用する
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