スタジアムの最前列チケットが取れなかったファンが、テレビ中継の決まったアングルだけでは物足りず、試合後に何度もリプレー動画を探し直す。そんな「もっと近くで、もっと自由な角度から見たい」という声に応えているのが、メタバース・XR観戦技術です。結論から言うと、KDDIやNTTドコモ、キヤノンなど国内外11社が、AR・VR・自由視点映像という異なるアプローチでこの課題に取り組んでいます。本記事では各社の技術内容と、経営者がスポーツDX投資を検討する際に押さえておきたい視点を整理します。
- なぜいま経営者がメタバース・XR観戦に投資すべきなのか
- メタバース・XR観戦を牽引する11社
- KDDI株式会社|VR観戦アプリ「XRstadium」で距離を超える
- Supership株式会社|XRstadiumの映像伝送技術を担う
- ソフトバンク株式会社|球団と組んで球場をまるごとメタバース化
- 日本電気株式会社(NEC)|AR表示でVリーグの観戦データを可視化
- 株式会社電通|組み立て式VRゴーグル「Fanglass」を開発
- キヤノン株式会社|98台のカメラが生む自由視点映像
- NTTドコモ株式会社|8Kマルチアングルとメタバース「XR World」
- 富士通株式会社|Bリーグの次世代型ライブビューイング
- ソニーグループ株式会社|Beyond Sportsでアニメーション中継
- インテル(Intel Corporation)|「Intel True View」で欧州サッカーを立体視聴
- Meta Platforms, Inc.|NBA中継で切り開いたVR観戦とその転換点
- 4つの観戦体験タイプで技術を整理する
- 経営者が導入を検討する際の3つの論点
- まとめ
なぜいま経営者がメタバース・XR観戦に投資すべきなのか
結論として、国内メタバース市場の急拡大とスタジアム観戦の付加価値競争が同時に進んでいるため、スポーツDXの投資優先順位としてメタバース・XR観戦を無視できなくなっています。技術投資の判断には、まず市場の伸び方を数字で押さえておくことが欠かせません。
総務省は令和5年版情報通信白書のなかで、日本のメタバース市場(メタバースプラットフォーム、プラットフォーム以外のコンテンツ・インフラ、XR〈VR、AR、MR〉機器の合計)について、2022年度に1,825億円(前年度比145.3%増)となる見込みで、2026年度には1兆42億円まで拡大すると予測しています。この推計にスポーツ観戦専用の内訳は示されていませんが、法人向けのイベント・体験領域の拡大が市場を牽引しており、スタジアムやアリーナでの活用もその延長線上にあります。
スポーツ業界全体のDX動向はスポーツDXの全体像を解説した記事で整理していますが、そのなかでもメタバース・XR観戦は「観戦体験そのものを作り変える」という点で、他の業務効率化施策とは投資判断の軸が異なります。設備投資が先行しやすい一方、話題性による広報効果も見込めるため、経営者には短期のPR効果と中長期の観戦体験刷新の両方から評価する姿勢が求められます。
Q. メタバース・XR観戦とは何ですか?
スタジアムでの試合をVRやARなどの技術で拡張し、遠隔からでも臨場感のある観戦や、複数の視点からの映像視聴を可能にする技術の総称です。KDDIのVR観戦アプリや、キヤノンの自由視点映像システムなどが代表的な例です。
Q. 国内のメタバース市場は今後どれくらい拡大しますか?
総務省の令和5年版情報通信白書によると、国内メタバース市場は2022年度の1,825億円から、2026年度には1兆42億円まで拡大すると予測されています。スポーツ観戦分野もこの成長の恩恵を受ける領域のひとつです。
メタバース・XR観戦を牽引する11社
結論として、メタバース・XR観戦の担い手は大きく「通信・プラットフォーム系企業」と「映像機器・コンテンツ系企業」の2つに分かれます。本記事では、各社の公式サイトまたは公式プレスリリースで技術内容と実施時期を確認できる国内外11社を選定しました。eスポーツの配信技術と重なる部分もあるため、興味のある方はeスポーツ業界12社の記事もあわせてご覧ください。まずは全体像を一覧表で押さえたうえで、各社の取り組みをH3ごとに個別に見ていきます。
| 企業名 | 技術領域 | 代表的な取り組み | 開始年 |
|---|---|---|---|
| KDDI株式会社 | VR観戦プラットフォーム | VR観戦アプリ「XRstadium」提供開始 | 2018年 |
| Supership株式会社 | VR映像配信技術 | KDDIとXRstadiumを共同開発 | 2018年 |
| ソフトバンク株式会社 | メタバース観戦 | 「バーチャルPayPayドーム」提供開始 | 2022年 |
| 日本電気株式会社(NEC) | AR観戦支援 | Vリーグでの競技情報AR表示実証実験 | 2021年 |
| 株式会社電通 | VRゴーグル開発 | VRゴーグル「Fanglass」を発表 | 2018年 |
| キヤノン株式会社 | 自由視点映像 | 東京ドームにボリュメトリックビデオシステムを常設 | 2023年 |
| NTTドコモ株式会社 | マルチアングル配信・メタバース | 8Kマルチアングル実証、「XR World」提供開始 | 2022年 |
| 富士通株式会社 | ライブビューイング | B.LEAGUE「次世代型ライブビューイング」開催 | 2017年 |
| ソニーグループ株式会社 | アニメーション中継 | Beyond SportsによるESPN向けアニメーション中継 | 2023年 |
| インテル(Intel Corporation) | 自由視点映像 | 「Intel True View」を欧州サッカーに導入 | 2019年 |
| Meta Platforms, Inc. | VRメタバース観戦 | Meta QuestでNBA公式VR中継を提供 | 2023年 |
各社の公式サイト・公式プレスリリースをもとにHuman Soarが作成(2026年9月時点)
以下では、通信・プラットフォーム系から映像機器・コンテンツ系まで、表に挙げた11社の取り組みを順に見ていきます。
KDDI株式会社|VR観戦アプリ「XRstadium」で距離を超える
結論として、KDDI株式会社はVR観戦アプリ「XRstadium」を通じて、スタジアムの外にいるファンにも臨場感ある観戦体験を届けています。同社はSupership株式会社と共同で2018年7月25日にXRstadiumの提供を開始し、プロ野球パシフィック・リーグの試合を3次元でリアルタイム配信する取り組みからスタートしました。
XRstadiumでは、視聴者が複数のカメラアングルを自分のタイミングで切り替えられるほか、離れた場所にいる家族や友人とアバターを介して会話しながら観戦できる機能を備えています。KDDIはこれ以前にも、5Gタブレットを使った自由視点映像の実証や、サッカー日本代表戦のVR観戦など、通信とスポーツ観戦を組み合わせた取り組みを重ねてきました。
(参考)KDDIとSupership、VR観戦プラットフォーム「XRstadium」を提供開始 – KDDI株式会社
Supership株式会社|XRstadiumの映像伝送技術を担う
結論として、Supership株式会社はKDDIとの共同開発により、VR空間での空間伝送・撮影・UI/UXという技術的な課題を解決する役割を担いました。前項のXRstadiumは、KDDIの通信基盤とSupershipの映像技術が組み合わさって初めて実現したサービスであり、2社の役割分担がそのままサービスの完成度を左右しています。
ソフトバンク株式会社|球団と組んで球場をまるごとメタバース化
結論として、ソフトバンク株式会社は福岡ソフトバンクホークス株式会社と協業し、2022年5月27日から「バーチャルPayPayドーム」の提供を開始しました。3Dアバターで球場内外を散策できるだけでなく、投手の投球を解析して準リアルタイムにボールの軌跡をバーチャル空間に再現する、国内スポーツ界初とされる機能も実装しています。
あわせて、来場者向けにはVPS(Visual Positioning Service)を活用したAR演出も展開しており、現実の観戦体験とバーチャル空間の双方から観戦価値を高める設計になっている点が特徴です。
(参考)ソフトバンクと福岡ソフトバンクホークスが協業してPayPayドームをメタバース化 – 福岡ソフトバンクホークス
日本電気株式会社(NEC)|AR表示でVリーグの観戦データを可視化
結論として、日本電気株式会社(NEC)は一般社団法人日本バレーボールリーグ機構と協同し、2021年3月にVリーグ女子の試合でARを活用した観戦実証実験を実施しました。観客がスマートグラスを装着すると、得点や選手情報などの競技データがリアルタイムに表示される仕組みで、体験者への調査では97%が好意的な評価をしています。
(参考)Vリーグ(バレーボール)においてARを活用した新たなスポーツ観戦スタイルの実証実験を実施 – 日本電気株式会社
株式会社電通|組み立て式VRゴーグル「Fanglass」を開発
結論として、株式会社電通は2018年6月、磁石で瞬時に組み立てられるVRゴーグル「Fanglass」を発表しました。米LiveLike社の技術をベースに、ゴール裏やVIPラウンジなど様々なアングルからの観戦や、離れた友人とアバターで一緒に応援できるソーシャルVR機能を備えています。
キヤノン株式会社|98台のカメラが生む自由視点映像
結論として、キヤノン株式会社は「ボリュメトリックビデオシステム」により、フィールド上のどんな場所からでも見られる自由視点映像を実現しています。2023年3月には読売新聞東京本社・日本テレビ放送網と連携し、東京ドームに98台のカメラを常設。読売ジャイアンツの公式戦を撮影する体制を整えました。
同システムは2019年のラグビーワールドカップで初めて実戦投入され、2021〜2022シーズンにはNBAでも撮影を実施した実績があります。撮影から自由視点映像の生成までにかかる時間はわずか3秒とされ、リプレー映像として即座に活用できる処理速度の速さが採用の決め手になっています。
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(参考)東京ドームにボリュメトリックビデオシステムを導入 キヤノン・読売新聞・日本テレビが連携して野球観戦の新たな楽しみ方を創出 – キヤノン株式会社
NTTドコモ株式会社|8Kマルチアングルとメタバース「XR World」
結論として、NTTドコモ株式会社は8Kカメラによるマルチアングル映像配信と、独自のメタバース「XR World」という2つのアプローチでスポーツ観戦の拡張に取り組んでいます。プロ野球の試合では、複数台の8Kカメラで撮影した映像をAIが自動編集し、通常のテレビ中継では見られない角度の映像をスマートフォンやタブレットへ配信する実証を行いました。
2022年3月31日には、ウェブブラウザから無料で参加できるマルチデバイス型メタバース「XR World」の提供を開始し、アバターを通じてスポーツ・教育・観光など幅広いジャンルのコンテンツを楽しめる基盤を整えています。
(参考)マルチデバイス型メタバース「XR World」を提供開始 – 株式会社NTTドコモ
富士通株式会社|Bリーグの次世代型ライブビューイング
結論として、富士通株式会社はB.LEAGUEと連携し、AR技術や高圧縮・リアルタイム映像伝送技術を組み合わせた「次世代型ライブビューイング」を展開しています。2017年11月のオールスターゲームでは、熊本の試合会場と東京の会場を結び、遠隔地からでも臨場感ある観戦体験を提供しました。
(参考)「B.LEAGUE ALL-STAR GAME 2018 次世代型ライブビューイング」を開催 – 富士通株式会社
ソニーグループ株式会社|Beyond Sportsでアニメーション中継
結論として、ソニーグループ株式会社は子会社のBeyond Sports N.V.を通じて、試合の動きをリアルタイムでアニメーション化する「アニメーテッド・オルタネイト中継」を手がけています。ESPNとの提携により、NFLやNHL、NBA、WNBAの試合をアニメーションキャラクターで再現する中継が2023年シーズン以降拡大しており、2025年10月にはNFL・NHL・NBA・WNBAへの提供拡大もあらためて発表されています。
インテル(Intel Corporation)|「Intel True View」で欧州サッカーを立体視聴
結論として、インテルはボリュメトリックビデオ技術「Intel True View」を通じて、38台の5Kカメラで撮影した映像から360度リプレイや選手視点の映像を生成しています。2019年にはアーセナルFC、リバプールFC、マンチェスター・シティFCの本拠地スタジアムに導入され、NBAやNASCAR、UFCの中継でも活用されてきました。
Meta Platforms, Inc.|NBA中継で切り開いたVR観戦とその転換点
結論として、Meta Platforms, Inc.は2023年1月から、自社VRヘッドセット「Meta Quest」向けにNBA公式VRヘッドセットとして年間50試合以上のライブ中継を提供し、専用の仮想空間「NBAアリーナ」で観戦しながら交流できる場を作っていました。ただし2026年3月、Metaはメタバース事業の方向転換にともないVR版「Horizon Worlds」のサービスを2026年6月に終了すると発表しており、スポーツ観戦領域でも大規模な仮想空間から、モバイル中心の体験へと軸足を移しつつあります。
(参考)Get a Front Row Seat to NBA Games on Meta Quest – Meta Platforms, Inc.
(参考)Meta closes Horizon Worlds VR as metaverse vision shifts – SportsPro
Q. XR観戦の技術を最初に採用したのはどの業界ですか?
プロ野球やサッカーなどのプロスポーツ興行が先行しています。KDDIは2018年にプロ野球のVR観戦アプリを提供し、キヤノンは2019年のラグビーワールドカップで自由視点映像システムを試験導入しました。
4つの観戦体験タイプで技術を整理する
結論として、11社の技術は「現地観戦の拡張」か「遠隔での没入」かという軸と、「通信・プラットフォーム系企業」か「映像機器・コンテンツ系企業」かという軸を掛け合わせることで、4つの類型に整理できます。それぞれの類型を理解しておくと、自社がどの観戦体験を目指すべきかを判断しやすくなります。

AR実況支援型|現地観戦にリアルタイムの競技情報を重ねる
NTTドコモの8Kマルチアングル配信やNECのAR観戦実証、富士通の次世代型ライブビューイングがこの類型にあたります。現地の観客に競技データや複数アングルの映像を届けることで、観戦体験の「情報量」を増やすアプローチです。
VR遠隔臨場型|自宅からでもスタジアムの熱気を味わう
KDDIのXRstadiumやソフトバンクのバーチャルPayPayドームが代表例です。スタジアムに行けないファンでも、3D空間で試合を疑似体験できる点が特徴で、通信キャリアが主導するケースが目立ちます。低遅延でのリアルタイム配信を支える基盤技術については、スタジアム運営DXの鍵|エッジコンピューティング活用法の記事でも解説しています。
自由視点映像型|多数のカメラで360度のリプレイを作る
キヤノンのボリュメトリックビデオシステムやインテルのIntel True Viewがこの類型です。撮影から映像生成までの処理速度が競争軸になっており、リプレーやハイライト映像としての活用が中心です。
メタバース観戦型|アバターで観戦し交流する仮想空間
ソニーのBeyond Sportsによるアニメーション中継や、電通のFanglass、Metaが手がけたNBA向けの仮想空間がこの類型にあたります。ただしMetaの事例が示すとおり、大規模な仮想空間への投資は利用者数が伸び悩むと撤退リスクも伴う点に注意が必要です。
Q. AR観戦とVR観戦の違いは何ですか?
AR観戦はスタジアムでの視聴に競技情報などのデジタル情報を重ねる技術で、VR観戦は自宅など遠隔地からでも3D空間で試合を疑似体験できる技術です。前者は現地観戦の拡張、後者は遠隔臨場感の創出を主な目的としています。
経営者が導入を検討する際の3つの論点
結論として、メタバース・XR観戦の導入を検討する経営者が押さえるべき論点は、投資規模の見極め、データ活用と著作権の整理、社内への浸透の3つに集約されます。
論点①投資規模を実証実験から見極める
各社が公表している金額は限定的で、実証実験段階の取り組みが多いため一律の相場はありません。KDDIやNTTドコモの事例のように、まず自社イベントでの小規模な実証実験から始め、効果を検証しながら投資判断を積み上げる進め方が一般的です。
論点②映像データの著作権と活用範囲を整理する
自由視点映像やAR表示に使う競技データは、リーグや興行主が保有する権利と密接に関わります。スポーツデータ分析とは|主要10社と活用段階を解説した記事でも触れているとおり、データの利用範囲を事前に契約で明確化しておかないと、後から映像の二次利用でトラブルになりやすい領域です。
論点③社内の理解を得ながら段階的に浸透させる
メタバース・XR観戦は華やかな話題性を持つ一方、社内では「一過性の実験で終わるのでは」という懸念も出やすい施策です。ソフトバンクとソフトバンクホークスの事例のように、既存の球場運営やファン向けサービスと連携させながら段階的に機能を拡張していく進め方が、社内の理解を得るうえでも有効です。
Q. 企業がXR観戦技術を導入する際のコストの目安はありますか?
各社が公表している金額は限定的で、実証実験段階の取り組みが多いため一律の相場はありません。まずは自社イベントでの実証実験から始め、効果を検証しながら投資判断する進め方が一般的です。
まとめ
メタバース・XR観戦は、KDDIやNTTドコモといった通信・プラットフォーム系企業と、キヤノンやソニーといった映像機器・コンテンツ系企業の双方が競い合いながら発展させてきた領域です。最後に、本記事の要点を振り返ります。
- 国内メタバース市場は2026年度に1兆42億円規模まで拡大すると予測されている
- メタバース・XR観戦の担い手はKDDI、ソフトバンク、NTTドコモなど国内外11社に及ぶ
- 技術は「AR実況支援型」「VR遠隔臨場型」「自由視点映像型」「メタバース観戦型」の4類型に整理できる
- Metaの事例が示すとおり、大規模な仮想空間への投資には利用者数の伸び悩みという撤退リスクも伴う
- 導入検討では投資規模・著作権整理・社内浸透の3つの論点を押さえることが重要
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