クラブの営業担当から、ラウンジ付きの観戦プランの案内が届く。旅行会社やケータリング会社には、試合日の食事や接客を任せたいという相談が来る。新しいアリーナの計画書には、VIPルームの室数が並んでいます。スポーツホスピタリティという言葉に触れる場面は増えたのに、市場がどれくらいの大きさで、だれが売っているのかは、資料を開いてもつかみにくいはずです。
スポーツホスピタリティの市場は、スポーツ庁の委託調査が引用する民間の推計で、2022年に世界全体で約4,805百万ドル、日本で259百万ドルです。国内では、主催者から企画と販売を任された事業者が国際大会で実績を重ね、クラブの常設商品は有料で実施した経験のあるクラブが約30%という段階にあります。
この記事では、市場規模の数字の読み方、売る側の構造、国内の販売実績と事業者の動き、企業の入り口を、国の資料と各社の発表で整理します。資料はいずれも2026年10月12日に確認したものです。観戦や招待の場を事業に活かす全体像は、スポーツマーケティングの定義と事例もあわせて読むとつかみやすくなります。
スポーツホスピタリティの市場規模|世界約48億ドルと日本約2.6億ドルの推計
スポーツホスピタリティの市場規模として国の資料に載っているのは、市場調査会社QYR社の推計です。スポーツ庁が委託した令和5年度の成果報告書(2024年3月)が、同社の2023年のレポートを引用して、国別の規模と2029年までの予測を示しています。
| 対象 | 2022年 | 2029年の予測 | 年平均成長率 |
|---|---|---|---|
| 世界全体 | 約4,805百万ドル | 11,696百万ドル | 13.5% |
| アメリカ | 871百万ドル(全体の約20%) | 記載なし | 約15.5% |
| 日本 | 259百万ドル | 801百万ドル | 17.5% |
スポーツホスピタリティの市場規模の推計(出典:令和5年度「スポーツホスピタリティ推進事業」成果報告書が引用するQYR社のレポート〈2023年〉)
スポーツホスピタリティは、好位置の観戦席に飲食や専用の空間、選手との交流などを組み合わせて、通常のチケットより高い価格で販売する観戦商品です。VIP席や招待券との違い、費用の目安、税務の扱いは、スポーツホスピタリティの意味と企業の使い方で解説しています。この記事では、売る側と供給する側から見た市場に絞ります。
数字を使う前に押さえておきたいのが、推計の範囲です。QYR社は、スポーツイベントの参加者に宿泊施設、ケータリング、エンターテインメント、コンシェルジュなどのサービスを提供する産業を市場と定義しています。報告書も、調査で扱う「スポーツホスピタリティ商品」とは範囲が必ずしも一致しないと注記しているので、VIP席やラウンジ付き商品の売上の合計として読むことはできません。
世界全体は2022年に約4,805百万ドル
世界全体の市場規模は、2022年に約4,805百万ドル(約48億ドル)です。年平均13.5%で成長し、2029年には11,696百万ドルに達すると予測されています。
競技別では、サッカーが34.1%で最も大きな割合を占めます。サッカー、クリケット、バスケットボール、ラグビーの4種目で全体の75%以上になり、野球やレーシング、陸上競技は「その他」に含まれます。いずれも、報告書が引用する2022年時点の推計です。
(参考)令和5年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツホスピタリティ推進事業」成果報告書(公表詳細版) – スポーツ庁
アメリカは871百万ドルで世界の約20%
アメリカの市場規模は、2022年に871百万ドルで、世界全体の約20%にあたります。2029年にかけて年平均約15.5%で成長するという予測です。
スポーツ庁のガイドブック(令和7年3月)は、アメリカが20年以上の年月をかけてホスピタリティのサービスを確立し、施設の整備を投資として捉えてきたと説明しています。NFLでは1995年以降に20以上、MLBでは15以上のスタジアムが新設され、VIPルームやラウンジの設置と拡充が進みました。欧米では、高級ホテルや飲食、観光の接客の経験を持つ専門会社が生まれ、リーグやクラブの中にも専門の部署ができたと書かれています。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第1章 スポーツホスピタリティの現状と課題(令和7年3月) – スポーツ庁
日本は259百万ドルで2029年に801百万ドルの予測
日本の市場規模は、2022年に259百万ドル(約2.6億ドル)です。年平均17.5%で成長し、2029年には801百万ドルに達すると予測されています。計算すると、2022年の日本は世界全体の約5%で、アメリカの約3割の大きさです。
成長率の予測は、表の3つのなかで日本が最も高くなっています。ガイドブックは、日本の現状を「欧米と比較すると創生期」と表現しました。円に換算した金額は国の資料に載っていないため、この記事でもドルのまま示しています。
スポーツホスピタリティだけを切り出した国の統計は、確認できた範囲では見当たりません。社内の資料に数字を引くときは、QYR社の2023年の推計であること、宿泊なども含む広い定義であることを添えると、読み手の誤解を防げます。スポーツ産業全体の規模は、スポーツ市場の規模と成長分野で整理しています。
(参考)令和5年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツホスピタリティ推進事業」成果報告書(公表詳細版) – スポーツ庁
Q. スポーツホスピタリティの日本の市場規模はいくらですか?
スポーツ庁の委託調査が引用する市場調査会社QYR社の推計では、2022年に259百万ドルです。2029年には801百万ドルに達すると予測されています。宿泊やケータリングなども含む広い定義の推計で、VIP席やラウンジ付き商品の売上の合計ではありません。
スポーツホスピタリティ市場の構造|売る側の4つの立場

スポーツホスピタリティの商品は、試合の主催者だけでは作れません。令和5年度の成果報告書は、商品を作って届ける側を、スポーツコンテンツホルダー、コーディネーター、サプライヤー、スペースホルダーの4つに分けています。買い手は、法人と個人の両方です。
お金の流れは、買い手が支払う商品代金から始まります。コンテンツホルダーはその収入から、コーディネーターとサプライヤーに業務委託料を、スペースホルダーに施設や設備の使用料を支払います。自社がどの立場に近いかを先に決めると、取引の相手と収入の形が見えてきます。
スポーツコンテンツホルダーが試合と権利を持つ
スポーツコンテンツホルダーは、試合を主催し、商品のもとになる権利を持つ立場です。通常はクラブやリーグ、国内の競技団体で、大型の国際大会では国際競技団体や組織委員会がこれにあたります。
報告書は、コンテンツホルダーを「主となって商品組成・販売を実施する」主体と位置づけています。選手やOB・OGとの交流、練習の見学といった、試合にしかない要素を出せるのもこの立場です。売る側に回りたい企業にとっては、最初に話をする相手になります。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第2章 スポーツホスピタリティの定義と全体像(令和7年3月) – スポーツ庁
コーディネーターが企画と販売と運営を引き受ける
コーディネーターは、コンテンツホルダーに足りない知見や人手を補い、企画から販売、運営までをまとめる立場です。報告書は、例として旅行代理店やチケット販売の企業を挙げています。
売り方には2つの型があります。コーディネーターが全体をまとめる「コーディネーター介在型」は、ホスピタリティの部署や経験者を持たない主催者に向いた型です。主催者が自前の担当部署で商品を組み立てて売る「コンテンツホルダー主体型」は、運営の難しさが上がります。コーディネーターが主催者に権利金を支払い、買い手へ直接販売する形もあるとされています。
(参考)令和5年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツホスピタリティ推進事業」成果報告書(公表詳細版) – スポーツ庁
サプライヤーが飲食と人材と内装を供給する
サプライヤーは、商品を構成するサービスを供給する立場です。報告書は、ケータリングを提供する企業や人材派遣の企業を例に挙げ、商品の質を上げるために協力が欠かせない存在としています。
ガイドブックは、飲食を担うケータリング会社について、食材と料理だけでなく、調理人やサービスのスタッフまで提供するのが一般的だと説明しています。飲食、ホテル、イベントの会社が市場に入るときは、この立場が最も近い入り口です。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第2章 スポーツホスピタリティの定義と全体像(令和7年3月) – スポーツ庁
スペースホルダーが試合の会場を提供する
スペースホルダーは、試合を行う施設を持ち、商品を実施する空間を提供する立場です。商品そのものへの関与は限られますが、会場の面での協力が重要になると報告書は書いています。
クラブが自治体の体育館や競技場を借りている場合、施設の持ち主とクラブは別になります。令和7年度の実態調査では、回答したクラブの約80%が拠点の施設を借りて使っていました。施設を運営する会社にとっては、VIPルームやラウンジの使い方が、主催者との協議の中心になります。
(参考)令和7年度 恒常的なスポーツホスピタリティの取組に関する実態調査 – スポーツ庁
国内の販売実績と事業者の動き|ラグビーW杯から推進協議会まで

国内のスポーツホスピタリティ市場は、2019年のラグビーワールドカップをきっかけに立ち上がり、国際大会ごとに専門の事業者が商品の企画と販売を手がけてきました。2022年以降はチケット販売の会社が参入し、2026年4月には旅行会社など4社が業界団体を設立しています。
ここでは、各社と国の発表で確認できた事実だけを順に並べます。東京2025世界陸上や2026年のワールドベースボールクラシックについては、販売数や売上の公表を確認できなかったため、事業者と商品の種類にとどめます。
ラグビーワールドカップ2019は6.3万枚と100億円以上
ラグビーワールドカップ2019日本大会は、国内市場に大きな影響を残した大会です。スポーツ庁のガイドブックは、同大会のスポーツホスピタリティの販売実績を「販売パッケージ数6.3万枚、総売上高100億円以上」と記しています。
令和5年度の成果報告書には、スタジアムに隣接して日本最大級の仮設の施設を建て、約9,000名のゲストがホスピタリティを経験したという記載もあります。2つの数字は数えている対象が違い、資料は両者の関係を説明していません。引用するときは、別々の数字として扱うのが安全です。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第1章 スポーツホスピタリティの現状と課題(令和7年3月) – スポーツ庁
JTBはSTHグループとの合弁を閉じて連携を続ける
JTBは2017年3月、英国のSTHグループが日本に設立したスポーツホスピタリティ専門会社、STH JAPANの株式49%を引き受けたと発表しました。ラグビーワールドカップ2019で5万名の取り扱いを目指すという目標を掲げています。
この合弁会社は、2023年12月28日に閉鎖されました。JTBは2024年1月のお知らせで、ラグビーワールドカップ2019から2023年のワールドベースボールクラシックまで事業に取り組んだこと、閉鎖後もSTHグループとの連携を続けることを説明しています。
2025年10月には、STHグループとJTBが、2026年のワールドベースボールクラシックでホスピタリティと旅行のパッケージを独占的に提供する枠組みを立ち上げました。合弁会社は無くなりましたが、国際大会ごとに組む関係は続いています。
(参考)JTBがSTH JAPAN株式会社に出資「ラグビーワールドカップ2019 日本大会」を契機に新事業を立ち上げ(2017年3月29日) – 株式会社ジェイティービー
(参考)STH Japan株式会社 閉鎖のお知らせ(2024年1月10日) – 株式会社JTB
ぴあは2022年の提携から国際大会とクラブへ広げた
ぴあは2022年12月、スイスのDAIMANI Holding AGとの業務・資本提携を発表しました。出資額は約2.4億円で、ホスピタリティのパッケージの企画・製作・運営と、販売の仕組みを提供する事業への参入が目的です。
2025年3月には、東京2025世界陸上の公式ホスピタリティプロバイダーに決まったと発表しています。商品は、専用のVIPルームとテラス席を使うもの、フィニッシュライン付近の席と専用ラウンジを使うもの、一般のチケットに記念品が付くものの3種類でした。
2026年9月には、鹿島アントラーズとの共同事業として、メルカリスタジアムのバックスタンド側の観戦エリアを改修したと発表しました。個室とテラス席を使う法人向けの商品について、ぴあが企画・製作から販売、運営までを担います。国際大会で経験を積んだ事業者が、クラブの常設の商品へ進んだ例です。
(参考)ホスピタリティ事業を運営するDAIMANI社への出資及び業務提携に関するお知らせ(2022年12月15日) – ぴあ株式会社
(参考)ぴあ、東京2025世界陸上のホスピタリティパッケージを企画・運営する公式プロバイダーに決定(2025年3月31日) – ぴあ株式会社
旅行会社など4社が2026年4月に推進協議会を設立
一般社団法人スポーツホスピタリティ推進協議会(SHPC)は、近畿日本ツーリスト、JTB、東武トップツアーズ、ぴあの4社が正会員となり、2026年4月に設立されました。国の組織ではなく、民間の事業者による団体です。スポーツ庁の「スポーツホスピタリティ推進事業」とは別のものなので、混同しないようにしてください。
協議会は、参画する機会の拡大、担い手となる事業者の育成、新しい観戦スタイルとしての認知の拡大を使命に掲げています。2026年10月2日には、第20回アジア競技大会に合わせて、法人と自治体を対象にした視察研修会を案内しました。視察先は、愛知国際アリーナの個室と、久屋大通公園に設けられる会場外のラウンジです。同大会のホスピタリティのパッケージは、ぴあが企画と販売を担っています。
会員は、正会員、賛助会員、特別会員の3種別です。協議会は公式サイトで、国内のスポーツホスピタリティを「普及の黎明期」と表現しています。売る側や供給する側として関わりたい企業にとって、情報を集める窓口の1つになります。
(参考)一般社団法人スポーツホスピタリティ推進協議会の設立とスポーツホスピタリティ視察研修会のご案内(2026年9月1日) – ぴあ株式会社
(参考)スポーツホスピタリティ推進協議会 – 一般社団法人スポーツホスピタリティ推進協議会
クラブの常設商品|有料で実施したのは約30%
クラブが通常のシーズンに売る常設の商品は、広がり始めた段階です。スポーツ庁の令和7年度の実態調査では、過去5年間に有料のスポーツホスピタリティを実施したクラブは約30%でした。調査は2025年8月29日から11月21日に行われ、プロ野球からリーグワンまで182のクラブが回答しています。
実施の有無を分けているのは、競技よりも施設との関係です。施設を持つクラブと借りるクラブ、買い手の内訳、新しい施設の動きの順に見ていきます。
経験率はJリーグ約67%とプロ野球約47%が高い
有料で実施した経験のあるクラブの割合は、Jリーグが約67%、プロ野球が約47%で、ほかのリーグと大きな差があります。BリーグとSVリーグ・Vリーグでは、半数以上のクラブが「今後取り組む予定がある」と答えました。
拠点の施設を自社やグループ会社が持つか、運営を管理しているクラブでは、実施した割合が約47%でした。公共や民間の施設を借りているクラブは約25%です。施設を自由に使えるかどうかが、商品を作れるかどうかに直結しています。
(参考)令和7年度 恒常的なスポーツホスピタリティの取組に関する実態調査 – スポーツ庁
買い手はスポンサー企業が最も多い
商品を買っているのは、スポンサー企業が75.5%で最も多く、コアファンやファンクラブの会員が56.6%で続きます。実施した経験のある53クラブが複数回答で答えた結果です。スポンサー以外の取引先企業を挙げたクラブは34.0%でした。
価格は、観戦チケット代を含む1試合・1名あたりで「1万円以下」が最も多く、次が「10,001円から20,000円」です。10万円以上の商品にも一定の販売経験がありました。単体で直接の収益を得ていると答えたクラブは3割弱で、スポンサーの増加など間接的に収益につながっているという回答が約36%で最多です。
常設の市場は、いまのところクラブを日頃から支える企業とファンに向けた商品が中心です。スポンサー以外の企業や観光客に売る余地は、まだ大きく残っています。
(参考)令和7年度 恒常的なスポーツホスピタリティの取組に関する実態調査 – スポーツ庁
新しいスタジアムとアリーナが専用の空間を備える
供給を押し上げているのが、新しい施設です。ガイドブックによると、2023年に開業したエスコンフィールドHOKKAIDOは22室のVIPルームを備え、ホスピタリティのサービスは年間を通じて完売しています。2024年には、エディオンピースウイング広島と長崎スタジアムシティが、専用の空間を備えて開業しました。
リーグの基準も後押ししています。Bリーグは、2026-27シーズンに始まる新リーグのクラブライセンスの審査で、ホームアリーナのVIPルームとファンクションルームを要件の1つにしました。ガイドブックは、JリーグやSVリーグでも備えることが必要とされていると書いています。
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(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第1章 スポーツホスピタリティの現状と課題(令和7年3月) – スポーツ庁
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第4章 スポーツホスピタリティ ベニュー事例(令和7年3月) – スポーツ庁
Q. スポーツホスピタリティは日本のクラブにどのくらい広がっていますか?
スポーツ庁の令和7年度の実態調査では、過去5年間に有料で実施したクラブは回答した182クラブの約30%です。Jリーグが約67%、プロ野球が約47%と高く、施設を自社やグループで持つか運営しているクラブほど実施しています。今後の実施に前向きなクラブは全体の約69%でした。
スポーツホスピタリティ市場が伸びる理由と課題
市場が伸びると見込まれる理由は、クラブの意欲、施設の整備、訪日客の需要の3つがそろってきたことです。一方で、会場と人材が足りず、高い価格で売る経験も少ないという課題が、国の調査に繰り返し出てきます。
課題の多くは、主催者の外にいる企業が補える内容です。伸びる理由と課題を、参入する側の目で読み直します。
クラブの約69%が今後の実施に前向き
実態調査では、今後スポーツホスピタリティを「積極的に実施したい」「実施したい」と答えたクラブが、全体の約69%でした。JリーグとBリーグでは80%を超えています。実施した経験のあるクラブが約30%なので、意欲と実績のあいだに大きな開きがあります。
訪日客の需要も理由に挙げられています。スポーツ庁と経済産業省のスポーツ未来開拓会議のとりまとめ(2025年4月)は、観光白書の分析を引用して、スポーツ観戦を経験した訪日旅行者の1人あたりの旅行支出が34.2万円で、経験別では2番目に高いと紹介しました。とりまとめは、国内の実施事例はまだ多くないものの、世界的に成長が見込まれるとしています。
(参考)令和7年度 恒常的なスポーツホスピタリティの取組に関する実態調査 – スポーツ庁
(参考)スポーツ未来開拓会議 とりまとめ(2025年4月) – スポーツ庁・経済産業省
課題の上位は会場と人材と人手
クラブが挙げた課題は、「ハード環境」「人材不足」「マンパワー不足」の3つが、全体でもリーグ別でも最上位でした。次が「資金・財政面」です。会場に適した空間が無い、企画と運営ができる人がいない、担当に割ける時間が無い、という内容です。
ガイドブックは、国内の課題を、環境面の3つと実施段階の5つに整理しています。環境面は、高額の商品を売る文化の土台の不足、消防法令などの法令の規制、専用のスペースの不足です。実施段階では、企画、販売、運営、振り返りのそれぞれで、経験と知識の不足が挙がっています。
実態調査は、人手が足りない場合の対応として、外部の企業や団体との連携や委託を挙げました。主催者が抱える課題は、そのまま外部の企業に求められている役割でもあります。
(参考)令和7年度 恒常的なスポーツホスピタリティの取組に関する実態調査 – スポーツ庁
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第1章 スポーツホスピタリティの現状と課題(令和7年3月) – スポーツ庁
価格の付け方と売り先の見極めが難しい
高い価格で売る経験の少なさも、資料に表れています。ガイドブックは、高額の商品を売ることで印象が悪くなるのを心配し、販売に踏み切れない団体があると書いています。買ってくれる顧客のリストや狙う層がはっきりせず、販売の効率が落ちるという指摘もあります。
令和7年度の伴走支援では、Bリーグの秋田ノーザンハピネッツが、6名分で150,000円の商品を試合のスポンサー2社に提案しました。1社は関心を示さず、もう1社は関心を示したものの購入には至らず、無料の招待として実施されています。事務局は、通常の前売り価格をチラシに書かないよう助言しました。内訳の計算を連想させず、特別な機会として受け取ってもらうためです。
実態調査の選択肢には、「高価格の商品を買う可能性のある層がわからない」「連携すべきサプライヤーがわからない」という項目もあります。法人への販路を持つ企業や、質の高い飲食と接客を出せる企業が入る余地は、ここにあります。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第1章 スポーツホスピタリティの現状と課題(令和7年3月) – スポーツ庁
(参考)令和7年度 好事例の創出に向けた伴走支援 実施報告書 – スポーツ庁
企業の入り口は4つ|買う・売る・供給する・組む

スポーツホスピタリティ市場への企業の入り口は、商品を買う、販売を担う、サービスを供給する、地域の資源で組む、の4つに分けられます。この分け方は、国の資料にある立場と課題をもとにした本記事の整理です。
買う立場は取引先や社員を招く企業、残りの3つは事業として関わる企業に向いています。自社の強みが販路なのか、現場のサービスなのか、地域の資源なのかで、選ぶ入り口が変わります。
買う|取引先と社員を招く場として使う
最も入りやすいのは、買い手になることです。ガイドブックは、主な対象を、営業の手段として使いたい法人や、企業の経営層・管理職としています。スポンサーにならなくても買える商品があり、1試合だけの設定もあります。
協賛と組み合わせる場合は、スポンサーの権利の一部として招待の場を設計することになります。権利を成果につなげる考え方は、スポーツ協賛のアクティベーションで解説しています。買う前に確かめる点は、冒頭で紹介した手引きの記事にまとめました。
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(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第1章 スポーツホスピタリティの現状と課題(令和7年3月) – スポーツ庁
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第3章 スポーツホスピタリティの実践(令和7年3月) – スポーツ庁
売る|販売代理店かコーディネーターとして担う
法人への販路を持つ企業は、売る側に回れます。ガイドブックは、販売代理店の候補として、旅行会社や広告会社のほか、富裕層に強いカード会社や百貨店の外商を挙げています。手数料は、実績に応じて概ね5%から10%程度を支払うのが通例とされています。
企画や運営まで引き受けるなら、コーディネーターの立場です。ガイドブックによると、試合に集客力があるほど主催者に有利な契約になり、集客力が足りない場合は、運営の手数料が発生したり、リスクを軽くする措置を求められたりします。委託先を選ぶ目安として、実績や販売を保証する数が挙げられています。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第3章 スポーツホスピタリティの実践(令和7年3月) – スポーツ庁
供給する|飲食と接客の人材から入る
現場のサービスを出せる企業は、サプライヤーとして入れます。実態調査では、実施した経験のあるクラブの75%が、飲食の提供とサービスの人材について、外部の企業に委託するか連携していると答えました。装飾や制作物が41.7%で続きます。
成果報告書は、有識者への聞き取りの内容として、読売ジャイアンツが東京ドームホテルと業務委託契約を結び、質の高いケータリングとサービスを提供できるようにした例を紹介しています。ホテルや飲食の会社にとって、試合日の食事と接客は、既存の強みをそのまま使える仕事です。
(参考)令和7年度 恒常的なスポーツホスピタリティの取組に関する実態調査 – スポーツ庁
(参考)令和5年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツホスピタリティ推進事業」成果報告書(公表詳細版) – スポーツ庁
組む|宿泊や観光の資源を商品に加える
会場の外の資源を持つ企業は、主催者と組んで商品そのものを広げられます。実態調査では、送迎や宿泊などスタジアム・アリーナの外のサービスについて、66.7%のクラブが「実施できる環境や資源が無い」と答えました。
成果報告書は、静岡ブルーレヴズが地元の高級旅館と協力し、宿泊と元選手のトークイベントを組み合わせた商品を出している例を挙げています。スポーツコンプレックスガイドブック(令和8年6月)も、地元以外から企業や高所得者を呼ぶには、観光、文化、宿泊、飲食の事業者との連携が重要だとしています。
旅館、観光施設、交通の会社は、専用の部屋が無いクラブにとって、商品を成り立たせる相手になります。施設を核にした地域の連携は、スポーツによるまちづくりの事例でも紹介しています。
(参考)令和5年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツホスピタリティ推進事業」成果報告書(公表詳細版) – スポーツ庁
(参考)スポーツコンプレックスガイドブック(令和8年6月) – スポーツ庁・経済産業省
スポーツホスピタリティ市場に参入する前に確かめる3つの点
事業として関わる前に確かめたいのは、契約で任される範囲、関係する法令、試合が中止になったときの費用の3つです。いずれもガイドブックが、主催者に向けて注意を促している点です。受ける側の企業にとっても、同じ点が交渉の中心になります。
以下は、国の資料に書かれた一般的な内容の紹介です。契約や法令の個別の判断は、弁護士などの専門家や所管の窓口に確認してください。
契約で任される範囲と販売の責任を確かめる
最初に確かめるのは、どこまでを任され、どこまで責任を負うかです。ガイドブックは、委託の範囲の例として、販売と運営のほぼ全てを任せる形と、運営と販売の一部を任せる形の2つを示しています。前者は通常のシーズンの規模を大きく超えるイベント向け、後者は導入の初期の段階向けです。
販売は売上に直結するため、販売を保証する数や手数料、権利の扱いが協議の対象になります。販売代理店として入る場合も、条件の整理と契約書での管理が肝心だとガイドブックは書いています。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第3章 スポーツホスピタリティの実践(令和7年3月) – スポーツ庁
旅行業法や消防法令など関係する法令を確かめる
商品の中身によって、関係する法令が変わります。ガイドブックは、旅行会社が販売代理店になって宿泊や移動を追加する場合、旅行業法が関わるため、業務の分担に注意が必要だとしています。
会場での調理には、消防法令による火気の取り扱いの制限があります。必要な措置を講じれば会場のキッチンで火を使った調理ができ、使えない場合は事前に調理したものを持ち込むことになると説明されています。企画の段階で、関係する法令を主催者と一緒に洗い出しておくと手戻りを防げます。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第3章 スポーツホスピタリティの実践(令和7年3月) – スポーツ庁
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第1章 スポーツホスピタリティの現状と課題(令和7年3月) – スポーツ庁
試合の中止や延期のときの費用の負担を決めておく
試合が中止や延期になると、手配済みの人件費や食材費の負担が生じます。ガイドブックは、保険に加入する場合は保険料を収支計画に入れること、加入する前にサプライヤーとキャンセル料の扱いを調整しておくことを勧めています。
供給する側の企業は、キャンセル料の条件を契約の前に書面で確かめておく必要があります。屋外の競技では天候による中止もあるため、どの時点から費用が発生するかを決めておくと、双方の負担がはっきりします。
(参考)スポーツホスピタリティガイドブック 第3章 スポーツホスピタリティの実践(令和7年3月) – スポーツ庁
Q. スポーツホスピタリティ市場には、どのような企業が参入していますか?
国際大会では、主催者から企画と販売を任された事業者が中心です。ラグビーワールドカップ2019ではJTBが出資したSTH JAPANが事業に取り組み、東京2025世界陸上ではぴあが公式ホスピタリティプロバイダーを務めました。2026年4月には、近畿日本ツーリスト、JTB、東武トップツアーズ、ぴあの4社が一般社団法人スポーツホスピタリティ推進協議会を設立しています。
まとめ|スポーツホスピタリティ市場は立場を決めてから数字を読む
スポーツホスピタリティの市場は、数字の定義と、自社がどの立場で関わるかをそろえて読むと、判断の材料になります。要点を振り返ります。
- 国の資料にある市場規模は、QYR社の推計で2022年に世界約4,805百万ドル、日本259百万ドル。宿泊なども含む広い定義の数字
- 売る側は、コンテンツホルダー、コーディネーター、サプライヤー、スペースホルダーの4つの立場に分かれる
- 国内では、ラグビーワールドカップ2019の6.3万枚・100億円以上を起点に、JTBやぴあが国際大会で商品を手がけ、2026年4月に4社が推進協議会を設立した
- クラブの常設商品は、有料で実施した経験が約30%。約69%が今後の実施に前向きで、課題は会場と人材
- 企業の入り口は、買う、売る、供給する、組むの4つ。参入の前に、契約の範囲、法令、中止のときの費用を確かめる
まずは、地元のクラブや近くで開かれる大会が、どの型で商品を売っているかを調べてみてください。主催者が自前で売っているのか、事業者に任せているのかが分かれば、自社が話をする相手と、出せる強みが決まります。
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