スポーツの経済効果とは|計算方法と実例・企業の読み方

スポーツの経済効果とは|計算方法と実例・企業の読み方 スポーツビジネス

自治体の担当者から届いた提案書に、「本大会の経済効果は◯億円」と大きく書かれている。協賛や出店を決める会議でその数字を示すと、「それはうちの売上にどうつながるのか」「何を足した金額なのか」と聞かれて、答えに詰まる。金額が大きいほど、根拠を聞かれたときに説明できる材料が手元に無いことに気づくはずです。

スポーツの大会・施設・クラブがもたらす経済効果は、新しく生まれた需要が誘発した生産額を足し合わせた数字で、利益でも税収でも市場規模でもありません。誰が、いつ、どの地域の、何年分を計算したかで金額は大きく変わります。発表された数字は、この条件を確かめてから判断の材料に使います。

この記事では、総務省と都道府県の解説、主催者や自治体が公表した試算をもとに、経済効果の中身、国内の実例、数字の弱点、受け取った側が確かめる点を整理します。試算のよしあしを評価する記事ではなく、資料に何と書かれているかを読むための記事です。

  1. スポーツの経済効果は誘発された生産額を足した数字
    1. 直接効果と第1次・第2次の間接効果を足し合わせる
    2. 市場規模や売上や税収とは測っているものが違う
  2. 国内で公表されたスポーツの経済効果を条件つきで並べる
    1. 東京2020大会は18年間の全国で約32兆円
    2. ラグビーワールドカップ2019は大会後の分析で6,464億円
    3. 東京マラソンは2026年大会で約790億円
    4. プロ野球の優勝は研究者の推計が大学から発表される
    5. スタジアムは年間や30年間の単位で試算される
    6. キャンプと合宿は県が毎年の実績を発表する
  3. 経済効果の計算は新しく生まれた需要の積み上げから始まる
    1. 主催者の経費と来場者の消費と整備費を数える
    2. 地域の外へ出ていく分を差し引く
    3. 産業連関表で波及の大きさを計算する
  4. 経済効果の数字には割り引いて読む点が4つある
    1. 計算の仮定は現実の生産とずれることがある
    2. 他の消費からの振り替えは差し引かれていないことが多い
    3. 費用と債務は別の資料で確かめる
    4. 開催前の見込みと開催後の分析は金額が変わる
  5. 経済効果の数字を受け取った企業が確かめる点
    1. 誰がいつ計算した数字かを確かめる
    2. どの地域の何年分かを確かめる
    3. 何を足した数字で費用はどこに出ているかを確かめる
  6. 協賛や出店の判断では自社の効果と分けて使う
    1. 経済効果は地域全体の数字で自社の効果は別に測る
    2. 来場者数と地域内の比率は出店と連携の材料になる
  7. まとめ|経済効果は条件を読んでから判断に使う

スポーツの経済効果は誘発された生産額を足した数字

スポーツの経済効果の内訳の図解。ラグビーワールドカップ2019の経済波及効果6,464億円は、直接効果、第1次間接効果、第2次間接効果の3つを足した金額

ニュースで「経済効果」と呼ばれている数字は、正確には「経済波及効果」といい、ある需要をきっかけに各産業で誘発された生産額の合計です。東京都総務局統計部の解説は、需要が発生した産業の生産が、ほかの産業の生産を次々に誘発していく波及のことだと説明しています。上の図は、ラグビーワールドカップ2019の分析を例に、その内訳を積み上げたものです。

直接効果と第1次・第2次の間接効果を足し合わせる

東京都の解説によると、経済波及効果は「直接効果+第1次間接効果+第2次間接効果」で計算します。直接効果は、大会の運営や来場者の消費で生まれた需要のうち、その地域の生産に結びつく分です。第1次間接効果は、その生産に必要な原材料の調達を通じて増える生産を指します。

第2次間接効果は、ここまでの生産で働く人の収入が増え、その一部が消費に回ることで増える生産です。理論上は波及がさらに続きますが、東京都の解説は、第2次までを経済波及効果とみなすのが慣例だとしています。計算には、産業どうしの取引を一覧にした「産業連関表」という統計表を使います。

実例で見ると、ラグビーワールドカップ2019の大会後の分析では、直接効果が3,157億円、第一次間接効果が2,172億円、第二次間接効果が1,135億円で、合計が6,464億円でした。最初の需要から直接生まれた分は、全体の半分ほどです。「◯億円」と聞いたときに、そのうち直接効果がいくらかを確かめると、数字の大きさをつかみやすくなります。

(参考)経済波及効果分析のヒント – 東京都総務局統計部

(参考)ラグビーワールドカップ2019 大会後経済効果分析レポート – EY Japan

市場規模や売上や税収とは測っているものが違う

経済効果は、利益の額ではありません。国立国会図書館の調査資料は、オリンピックの経済効果を説明するなかで「経済効果とは、利潤ではなく、総売上げのこと」と書いています。原材料の売上も、その先の消費による売上も足していくので、金額は最初の支出より大きくなります。

税収や付加価値とも別の数字です。ラグビーワールドカップ2019の分析では、経済波及効果6,464億円に対して、付加価値にあたるGDP増加分は3,515億円、国税の増加にあたる税収拡大効果は412億円でした。同じ大会でも、どの指標を見るかで金額は1桁変わります。

よく並べて語られる市場規模は、スポーツに関わる産業全体でどれだけの取引があったかを測る数字で、1つの大会や施設が誘発した生産額を足した経済効果とは対象が違います。市場規模の目標と進み具合は、スポーツ市場15兆円目標の進捗で別に整理しています。

(参考)オリンピックと経済(レファレンス 平成28年2月号) – 国立国会図書館 調査及び立法考査局

(参考)ラグビーワールドカップ2019 大会後経済効果分析レポート – EY Japan

Q. スポーツの経済効果とは何ですか?

スポーツの大会や施設、クラブの活動で新しく生まれた需要が、各産業で誘発した生産額を足し合わせた数字です。正確には経済波及効果といい、直接効果、第1次間接効果、第2次間接効果の合計で表します。利益や税収、市場規模とは別の数字で、対象にする地域と期間によって金額が変わります。

国内で公表されたスポーツの経済効果を条件つきで並べる

国内で公表された試算は、数百億円から約32兆円まで幅がありますが、発表した主体も、対象の期間も、地域もそろっていません。下の表は、公式の資料で確認できた試算を、条件と一緒に並べたものです。期間が1大会のものと18年間のものが混ざっているので、金額の大小で順位をつける材料にはなりません。

対象 金額 発表した主体(計算者) 発表の時期 対象の期間 対象の地域
東京2020大会 約32兆円(うち大会に直接関わる分は約5.2兆円) 東京都 平成29年4月(開催前) 2013年〜2030年 全国
ラグビーワールドカップ2019 6,464億円 組織委員会の委託(EY) 2020年6月(開催後) 開催準備期間〜大会期間 日本国内
東京マラソン2026 約790億円 東京マラソン財団 2026年4月(開催後) 1大会 日本国内
阪神タイガースの優勝(2025年) 約1,084億4,513万円 関西大学 宮本勝浩名誉教授 2025年8月 リリースに記載なし 全国
長崎スタジアムシティ 378.3億円 ジャパネットホールディングスの発表(船井総合研究所) 2026年10月 年間 長崎県
宮崎県の春季キャンプ・合宿 126億2,700万円 宮崎県 2026年5月 令和8年1月〜3月 宮崎県内

公表されているスポーツの経済効果(経済波及効果)の例。計算の前提が違うため、金額を単純に比べることはできない(出典:東京都、EY Japan、東京マラソン財団、関西大学、長崎スタジアムシティ、宮崎県の各公表資料をもとに作成)

東京2020大会は18年間の全国で約32兆円

東京都オリンピック・パラリンピック準備局は、開催前の平成29年4月に、東京2020大会の経済波及効果を全国で約32兆円、東京都で約20兆円と試算しました。対象の期間は、招致が決まった2013年から大会10年後の2030年までの18年間です。大会の年だけの数字ではない点に注意が要ります。

内訳を見ると、施設整備や大会運営、観戦者の支出といった「直接的効果」による全国の生産誘発額は5兆2,162億円です。残りの27兆1,017億円は、まちづくりや観光需要の拡大など、大会後を見すえた取り組みによる「レガシー効果」でした。資料は留意点として、大会による効果を減殺するマイナス要因は考慮していないと明記しています。

(参考)東京2020大会開催に伴う経済波及効果(試算結果のまとめ)平成29年4月 – 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

ラグビーワールドカップ2019は大会後の分析で6,464億円

ラグビーワールドカップ2019日本大会は、組織委員会の委託を受けたEY Japanが、大会後の2020年6月に分析レポートを公開しました。日本国内への経済波及効果は6,464億円です。スタジアムなどの整備、大会の運営、観戦客の消費による需要を積み上げ、産業連関分析で間接効果を加えています。

このうち、観戦客などの消費による分が3,889億円で、訪日客の消費による分が3,482億円を占めました。レポートは、経済波及効果全体の54%が訪日客の消費支出によるものだったとしています。国内の客が動いただけの大会とは、数字の中身が違うことが分かります。

(参考)ラグビーワールドカップ2019™日本大会 開催後経済効果・大会成果分析レポート公開(2020年6月24日) – EY Japan

(参考)ラグビーワールドカップ2019 大会後経済効果分析レポート – EY Japan

東京マラソンは2026年大会で約790億円

東京マラソン財団は、2026年3月1日に開いた東京マラソン2026について、国内の経済波及効果を約790億円、東京都の経済波及効果を約565億円と発表しました。発表は2026年4月22日で、計算責任者として理化学研究所客員研究員の江頭満正氏の名前が示されています。

同じ財団は、2017年大会についても試算を公表しています。こちらは国内で約284.2億円、東京都で約165.9億円で、調査の実施者はみずほ総合研究所でした。年も計算者も違うので、2つの数字を並べて「何倍になった」と読むのは適切ではありません。大会の運営に関わる企業の役割はマラソン大会運営の仕事で紹介しています。

(参考)東京マラソン2026[3月1日(日)開催]の経済波及効果について(2026年4月22日) – 一般財団法人東京マラソン財団

(参考)東京マラソン2017の経済波及効果(2017年11月30日) – 一般財団法人東京マラソン財団

プロ野球の優勝は研究者の推計が大学から発表される

プロ野球の優勝の経済効果としてよく報じられるのは、球団や自治体の発表ではなく、研究者の推計です。関西大学は2025年8月28日、宮本勝浩名誉教授が2025年の阪神タイガース優勝の経済効果を、全国で約1,084億4,513万円、関西地域で約976億62万円と計算したと発表しました。

このリリースは、推計の方法と分析結果の詳しい資料をウェブサイトに載せていないと断っています。公開されている範囲で確かめられるのは、金額と発表者、発表日までです。数字を社内資料に使うときは、「関西大学 宮本勝浩名誉教授の推計」と出どころを添えます。

(参考)宮本勝浩 関西大学名誉教授が推定 2025年阪神タイガース優勝の経済効果(2025年8月28日/No.33) – 関西大学

スタジアムは年間や30年間の単位で試算される

施設の経済効果は、大会と違って、1年あたりや数十年分の単位で出されます。長崎スタジアムシティでは、運営するジャパネットホールディングスが2026年10月の開業2周年の発表で、長崎県にもたらす経済波及効果は年間378.3億円と推計されたと公表しました。船井総合研究所の評価レポートによる数字で、年間約28億円の財政貢献も合わせて示されています。

建設前の試算もあります。広島県、広島市、広島商工会議所の作業部会は平成28年4月、サッカースタジアムの候補地を比べる調査のなかで、旧広島市民球場跡地の案について生産誘発額を1,034億円と試算しました。これは初期投資と、その後30年間の運営を合わせた広島県内への効果です。候補地を比べる段階の試算で、実際に建てられた施設の数字ではありません。

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(参考)【長崎スタジアムシティ】開業2周年レポート 年間来場者数535万人、経済波及効果は年間約378.3億円へ(2026年10月2日) – 長崎スタジアムシティ

(参考)サッカースタジアムに係る事業の実現可能性調査(平成28年4月20日) – サッカースタジアム実務者検証作業部会(広島県、広島市、広島商工会議所)

キャンプと合宿は県が毎年の実績を発表する

プロ野球やJリーグのキャンプ、学生の合宿を受け入れる地域では、自治体が実績をまとめています。宮崎県は、令和8年1月から3月の春季キャンプ・合宿の経済効果を126億2,700万円と発表しました。前の年の春季は99億3,300万円で、県は侍ジャパンの宮崎キャンプで観客が増えたことを増加の理由に挙げています。

宮崎県の資料は、経済効果を「参加者及び観客の直接消費額から県外流出分を除いた額」と「関連産業へもたらす波及効果」の合計だと説明しています。テレビや新聞での露出を広告料金に換算した「PR効果」は74億7,600万円で、経済効果とは別の数字として出されています。

(参考)令和7年度県外からのスポーツキャンプ・合宿の受入実績について – 宮崎県

Q. スポーツの経済効果ランキングはありますか?

大会や施設の経済効果を同じ条件でそろえた公的なランキングは、確認できた範囲ではありません。公表されている試算は、発表した主体、対象の期間、対象の地域がそれぞれ違うためです。東京2020大会の約32兆円は18年間の全国の数字で、東京マラソン2026の約790億円は1大会の国内の数字なので、金額だけを並べても順位にはなりません。

経済効果の計算は新しく生まれた需要の積み上げから始まる

スポーツの経済効果の計算の流れの図解。主催者の開催経費、来場者の消費、施設の整備費が使い道ごとの売上になり、原材料の調達先と働く人の収入と消費へ波及する

経済効果の計算は、大会や施設によって新しく生まれた需要がいくらあるかを数えるところから始まります。東京都の解説は、分析の出発点は新規需要額の把握だとしています。上の図のように、お金の出どころごとに使い道を整理し、そこから原材料の調達先と、働く人の収入を通じた消費へ波及を追っていきます。

主催者の経費と来場者の消費と整備費を数える

東京都の解説によると、イベントで新しい需要が生まれるのは、主催者の開催経費と参加者の消費支出の2つです。開催経費は警備、広告、会場の使用料などで、予算書や支出の明細から把握します。参加者の消費は宿泊、飲食、交通、買い物などで、アンケートで把握するのが基本です。

東京マラソン2017の試算では、財団の支出が約32.6億円、関連企業の独自支出が約8.2億円、チャリティ募金が約3.1億円、参加者と観客の消費支出が約89.6億円で、新しい需要は合計約133.5億円でした。施設をつくる場合や国際大会では、ここに整備費が加わります。ラグビーワールドカップ2019の分析も、スタジアムなどの整備、大会運営、観戦客の消費を積み上げています。

開催前の試算では、参加者の人数は想定の数字です。東京都の解説は、過去の似た大会の実績から人数を推計すること、開催後の検証では主催者が発表した参加者数を使うことを説明しています。人数と1人あたりの消費額の置き方が、結果を大きく左右します。

(参考)経済波及効果分析のヒント – 東京都総務局統計部

(参考)東京マラソン2017の経済波及効果(2017年11月30日) – 一般財団法人東京マラソン財団

地域の外へ出ていく分を差し引く

数えた需要のすべてが、その地域の生産になるわけではありません。東京都の解説は、需要が都内で発生しても、その製品が外国産であれば都内には基本的に波及しないと説明しています。そこで需要額に、地域内でまかなわれる割合である「自給率」を掛けたものを直接効果とします。

需要額が100万円で自給率が80%なら、直接効果は80万円です。差し引かれた20万円は、需要がほかの地域へ流れるという意味で「需要の漏れ」と呼ばれます。宮崎県がキャンプの経済効果から県外流出分を除いているのも、同じ考え方です。

(参考)経済波及効果分析のヒント – 東京都総務局統計部

(参考)令和7年度県外からのスポーツキャンプ・合宿の受入実績について – 宮崎県

産業連関表で波及の大きさを計算する

直接効果が決まると、産業連関表から求めた係数を掛けて、間接効果を計算します。総務省は全国の産業連関表にもとづく簡易計算ツールを、東京都などの自治体も地域の表にもとづく分析ツールを公開しています。使う表が全国のものか県のものかで、どの地域への効果を計算しているかが決まります。

東京マラソン2017の試算では、東京都の経済波及効果は都内で発生した最終需要額の1.70倍、全国の経済波及効果は最終需要額の2.27倍でした。対象の地域を広げると、外へ流れていた分も効果に数えられるので、倍率が上がります。同じ大会でも、市の数字、県の数字、全国の数字が違うのはこのためです。

(参考)産業連関表の仕組み – 総務省

(参考)経済波及効果を計算してみましょう – 総務省

(参考)東京マラソン2017の経済波及効果(2017年11月30日) – 一般財団法人東京マラソン財団

経済効果の数字には割り引いて読む点が4つある

経済効果の試算を出している公的機関は、数字の限界も合わせて説明しています。読み取れる点は、計算の仮定、ほかの消費からの振り替え、費用の扱い、開催前と開催後の差の4つです。「効果がある」とも「無い」とも決めつけず、どこを割り引いて読むかを知っておくと、数字を落ち着いて扱えます。

計算の仮定は現実の生産とずれることがある

産業連関表を使った計算は、いくつかの仮定の上に成り立っています。大阪府の解説資料は、生産能力に限界は無いとすること、在庫の取り崩しは無いとすること、波及が起こるまでの時間は明確でないことなどを留意点に挙げています。残業で対応した場合は、雇用者の数が計算どおりに増えるとは限らないとも書いています。

新潟県の手引きも、分析結果と現実の生産活動のあいだには差が生じる場合があるとしています。同じ課題を分析しても、新規需要額の計算方法や係数の設定によって結果は変わる、という説明です。数字は、仮定を置いた理論上の値として読みます。

(参考)経済波及効果分析の留意点(産業連関表を用いた経済波及効果の解説資料、平成27年1月発行) – 大阪府総務部統計課

(参考)産業連関表利用の手引き(平成29年1月改訂) – 新潟県総務管理部統計課

他の消費からの振り替えは差し引かれていないことが多い

観戦にお金を使った人が、その分だけ外食や旅行を減らしていれば、地域全体の消費は増えていません。これを代替効果といいます。国立国会図書館の調査資料は、経済効果の一般的な留意点として、オリンピック関連の投資や消費がほかの投資や消費を押し出す点を挙げています。

経済産業研究所のコラムは、海外の研究を引いて、開催前の試算では代替効果が無視される傾向があると紹介しています。同じコラムが全国1万人に行った調査では、東京2020大会の期間中の支出総額が「増えると思う」が24.9%、「変わらないと思う」が57.1%、「減ると思う」が18.0%でした。支出が増える人のほうが多いものの、振り替えも無視できない大きさだと述べています。

(参考)オリンピックと経済(レファレンス 平成28年2月号) – 国立国会図書館 調査及び立法考査局

(参考)東京オリンピック・パラリンピックの消費拡大効果-消費支出を純増させるのは誰か?- – 独立行政法人経済産業研究所

費用と債務は別の資料で確かめる

経済効果は誘発された生産額を足した数字で、かかった費用を引いた差し引きの額ではありません。国立国会図書館の調査資料は、経済効果が発生する一方で、公共投資については債務を負う点にも留意が要るとしています。費用の全体像は、決算や検査の資料に別に出てきます。

東京2020大会では、会計検査院が令和4年12月の報告で、大会の総経費を1兆6989億余円と整理しました。組織委員会と東京都の負担分に、国が負担した経費と日本スポーツ振興センターの支援額を合わせた金額です。経済波及効果の試算とは対象の期間も範囲も違うので、2つを引き算することはできませんが、効果の資料だけでは費用が分からないことは押さえておきます。

(参考)オリンピックと経済(レファレンス 平成28年2月号) – 国立国会図書館 調査及び立法考査局

(参考)東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果について(概要) – 会計検査院

開催前の見込みと開催後の分析は金額が変わる

開催前の数字は、人数や消費額の想定にもとづく見込みです。経済産業研究所のコラムは、海外のオリンピックについての研究を引いて、開催前の試算に比べて開催後の検証は小さい数字を示す傾向があると紹介しています。国立国会図書館の調査資料も、海外の論文の分析として、大会後の雇用や地域経済に有意な効果を認めない結論が多いと書いています。

逆の例もあります。ラグビーワールドカップ2019は、東京都の資料によると開催前の2018年3月の予測が約4,372億円で、開催後の分析は6,464億円でした。海外でも、2012年のロンドン大会について、英国の文化・メディア・スポーツ省が開催後の評価を公表しています。開催後の分析が出ているかどうかは、数字の確かさを見る手がかりになります。

(参考)東京オリンピック・パラリンピックの消費拡大効果-消費支出を純増させるのは誰か?- – 独立行政法人経済産業研究所

(参考)オリンピックと経済(レファレンス 平成28年2月号) – 国立国会図書館 調査及び立法考査局

(参考)経済波及効果分析のヒント – 東京都総務局統計部

Q. スポーツの経済効果にデメリットや弱点はありますか?

経済効果の数字そのものに、割り引いて読む点があります。産業連関表を使う計算は生産能力や在庫に限界が無いと仮定していて、ほかの消費からの振り替えや、建設費などの費用は差し引かれていないことが多いためです。東京都の東京2020大会の試算も、効果を減殺するマイナス要因は考慮していないと明記しています。

経済効果の数字を受け取った企業が確かめる点

スポーツの経済効果の数字を受け取った企業が確かめる点の図解。時点は開催前か開催後か、地域は県内か全国か、期間は1大会・年間か複数年かで数字の意味が分かれる

提案書や報道で経済効果の数字を受け取ったら、金額の前に、時点、地域、期間の3つを確かめます。上の図は、その分かれ方を示したものです。分け方はこの記事の整理ですが、どの項目も、発表資料の本文や注に書かれていることがほとんどです。

誰がいつ計算した数字かを確かめる

最初に見るのは、発表した主体と計算した者です。主催者が調査会社に頼んだもの、自治体が自分で計算したもの、運営会社が発表したもの、研究者が独自に推計したものがあります。計算の方法が公開されているかどうかも、主体によって違います。

次に、開催前の見込みか、開催後の実績にもとづく分析かを見ます。東京都の解説も、開催前の分析では想定上の人数を使うと説明していて、数字は想定した来場者数と消費額に左右されます。提案書の数字が開催前のものなら、前回の大会について開催後の分析が出ているかを、相手に尋ねてみる価値があります。

(参考)経済波及効果分析のヒント – 東京都総務局統計部

どの地域の何年分かを確かめる

地域は、市内、県内、全国のどれかを確かめます。自社の店舗や拠点が市内にしかないのに、数字が全国への効果であれば、そのまま自社の商圏の話としては使えません。東京2020大会の試算でも、全国は約32兆円、東京都は約20兆円と、地域で金額が分かれていました。

期間は、1大会、年間、複数年のどれかを見ます。東京2020大会は18年間、広島の候補地の試算は30年間の数字でした。複数年の数字は、年あたりに直してから、ほかの試算や自社の計画と見比べます。施設の整備の進め方はスタジアム・アリーナ改革の窓口と拠点にまとめています。

(参考)東京2020大会開催に伴う経済波及効果(試算結果のまとめ)平成29年4月 – 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

(参考)サッカースタジアムに係る事業の実現可能性調査(平成28年4月20日) – サッカースタジアム実務者検証作業部会(広島県、広島市、広島商工会議所)

何を足した数字で費用はどこに出ているかを確かめる

足されている項目も確かめます。建設や改修の投資、大会の運営費、来場者の消費のどれが入っているのか、大会後の効果まで含むのかで、金額の意味が変わります。来場者の消費が中心の数字は、宿泊や飲食、交通の事業者に関わりが深く、建設投資が中心の数字は、開催や開業の前に出尽くす需要です。

あわせて、費用がどの資料に出ているか、開催後の検証があるかを尋ねます。東京2020大会の総経費が会計検査院の報告で整理されたように、費用は効果とは別の資料に出てきます。効果の数字と費用の数字を同じ期間でそろえて見ることが、判断の前提になります。

(参考)東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果について(概要) – 会計検査院

協賛や出店の判断では自社の効果と分けて使う

経済効果は地域全体でどれだけ生産が誘発されたかを示す数字で、協賛した1社の売上や認知がどれだけ伸びるかを示す数字ではありません。協賛や出店、自治体との連携を判断するときは、地域の話と自社の話を分けて、それぞれ別の数字で確かめます。

経済効果は地域全体の数字で自社の効果は別に測る

宮崎県は、キャンプの「経済効果」と、報道での露出を広告料金に換算した「PR効果」を、別の数字として発表しています。地域にお金が落ちたかどうかと、名前が知られたかどうかは、測り方が違うからです。協賛する企業が知りたいのは、多くの場合、後者に近い自社の効果です。

自社の効果は、協賛の目的に合わせて、来店数、問い合わせ、採用の応募、認知の変化などで測ります。協賛の権利をどう使って成果につなげるかはスポーツ協賛のアクティベーションで、社会貢献として取り組む場合の測り方はスポーツCSRの効果の測り方で扱っています。経済効果の数字は、社内で「地域にとって意味のある事業か」を説明する材料として使います。

あわせて読みたいマラソン大会の協賛金はいくら?|企業が得る特典と手続き›

(参考)令和7年度県外からのスポーツキャンプ・合宿の受入実績について – 宮崎県

来場者数と地域内の比率は出店と連携の材料になる

経済効果の資料には、金額のもとになった人数や内訳が載っています。出店や連携を考える企業にとっては、合計の金額よりも、こちらのほうが使える数字です。長崎スタジアムシティの発表では、2年目の来場者が535万人の見込みで、県内の来場者の比率は86%でした。日常の利用が多い施設だと読めます。

ラグビーワールドカップ2019では、経済波及効果の54%が訪日客の消費によるものでした。同じスポーツの事業でも、地元の客に向けるのか、遠方や海外の客に向けるのかで、合う業種が変わります。スポーツ業界全体の課題と合わせて見るときは、日本のスポーツ業界の課題と市場の動向が手がかりになります。

(参考)【長崎スタジアムシティ】開業2周年レポート 年間来場者数535万人、経済波及効果は年間約378.3億円へ(2026年10月2日) – 長崎スタジアムシティ

(参考)ラグビーワールドカップ2019 大会後経済効果分析レポート – EY Japan

まとめ|経済効果は条件を読んでから判断に使う

スポーツの経済効果は、金額だけが独り歩きしやすい数字です。要点を振り返ります。

  • 経済効果は、直接効果、第1次間接効果、第2次間接効果を足した生産額の合計で、利益、税収、市場規模とは別の数字
  • 公表されている試算は、発表した主体、期間、地域がそろっていないので、金額で順位はつけられない
  • 計算は、主催者の経費、来場者の消費、整備費を数え、地域の外へ出ていく分を引き、産業連関表で波及を足す
  • 割り引いて読む点は、計算の仮定、ほかの消費からの振り替え、費用の扱い、開催前と開催後の差の4つ
  • 受け取った側は、誰が、いつ、どの地域の、何年分を、何を足して計算したか、費用はどこに出ているかを確かめる

手元の提案書に経済効果の数字があれば、まず出典の資料を取り寄せて、対象の地域と期間、開催前か開催後かの3点に印を付けてみてください。そのうえで、来場者数と地域内の比率を自社の商圏に当てはめると、協賛や出店の判断に使える数字が残ります。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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