ストレスチェックの罰則は、実施しなかったこと自体ではなく、労働基準監督署への報告をしない・偽る場合の50万円以下の罰金(労働安全衛生法第120条第5号)と、実施の事務に関わった人が秘密を漏らした場合の6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法第119条)の2つです。実施の義務を定めた第66条の10は罰則の対象に入っていませんが、常時50人以上の事業場は実施しなかった年も報告が必要で、報告を怠ると罰金の対象になります。
年度末が近づいて、今年はストレスチェックを実施できていないことに気づいた。実施しないと罰金なのか、報告書だけは出すべきなのか、来年から人数が増えて50人を超えたらどうなるのか。ここでは条文と厚生労働省の資料をもとに、どの義務に罰則があり、どこからが罰則のない義務なのかを分けて整理します。
ストレスチェックの罰則規定|罰金になるのは報告と秘密の漏えい
ストレスチェック制度に関わる義務のうち、違反に罰則が付いているのは「労働基準監督署への報告」と「実施の事務に従事した人の守秘義務」の2つです。罰則を定めた労働安全衛生法第119条・第120条は、違反すると処罰される条文を1つずつ列挙しており、実施や面接指導を定めた第66条の10はその列挙に入っていません。
| 義務 | 根拠の条文 | 違反したときの罰則 |
|---|---|---|
| ストレスチェックの実施(常時50人以上の事業場) | 法第66条の10第1項、規則第52条の9 | 罰則の定めなし |
| 労働基準監督署への結果の報告(常時50人以上の事業場) | 法第100条第1項、規則第52条の21 | 50万円以下の罰金(法第120条第5号) |
| 実施の事務に従事した人の秘密の保持 | 法第105条 | 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(法第119条第1号) |
| 申出をした高ストレス者への医師の面接指導 | 法第66条の10第3項、規則第52条の16 | 罰則の定めなし |
| 面接指導の申出を理由とした不利益な取扱いの禁止 | 法第66条の10第3項 | 罰則の定めなし |
| 面接指導後の医師の意見の聴取と就業上の措置 | 法第66条の10第5項・第6項 | 罰則の定めなし |
出典:労働安全衛生法・労働安全衛生規則(e-Gov 法令検索)をもとに Human Soar 作成。「罰則の定めなし」は、法第119条・第120条の列挙に含まれていない義務
表に挙げた6つの義務のうち、罰則があるのは2つだけです。ただし残りの4つも「行わなければならない」「してはならない」と定めた法律上の義務で、罰則がないことは守らなくてよいことを意味しません。
(参考)労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号) – e-Gov 法令検索
(参考)労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号) – e-Gov 法令検索
報告をしない・偽ると50万円以下の罰金になる
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、ストレスチェックと面接指導の結果を所轄の労働基準監督署長に報告しなければなりません(労働安全衛生規則第52条の21)。この報告は労働安全衛生法第100条第1項に基づくもので、報告をしない、または虚偽の報告をした場合は第120条第5号により50万円以下の罰金の対象です。
厚生労働省の「ストレスチェック制度関係Q&A」も、労働基準監督署への報告は第100条に基づくもので、違反の場合には罰則があると答えています。報告は2025年1月から電子申請が原則になり、当分の間は従来の書面で出すこともできます(令和6年厚生労働省令第45号の附則)。
(参考)ストレスチェック制度関係 Q&A(令和3年改訂) – 厚生労働省
実施の事務に関わった人が秘密を漏らすと拘禁刑もある
ストレスチェックの実施や、高ストレス者への面接指導の実施の事務に従事した人は、実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはなりません(労働安全衛生法第105条)。違反すると第119条により6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象で、2つの罰則のうち重いのはこちらです。
対象は医師や保健師などの実施者だけでなく、調査票の回収やデータ入力を担う実施事務従事者も含みます。厚生労働省のQ&Aは、数値の評価に加えて補足的に行う面談の内容も、第105条の守秘義務の対象になるとしています。誰が実施者・実施事務従事者になれるかはストレスチェック実施者の要件で解説しています。
(参考)ストレスチェック制度関係 Q&A(令和3年改訂) – 厚生労働省
違反した人だけでなく法人も罰金の対象になる
労働安全衛生法第122条は、法人の代表者や従業者が業務に関して第119条・第120条の違反をしたときは、行為者を罰するほか、法人にも各条の罰金刑を科すと定めています。報告を担当した総務の担当者や秘密を漏らした実施事務従事者が処罰の対象になるだけでなく、会社も50万円以下の罰金の対象になりうるということです。外部の機関に実施を委託する場合も、委託先の守秘の体制はストレスチェックの外部委託の比較で確かめておきます。
(参考)労働安全衛生法 第119条・第120条・第122条 – e-Gov 法令検索
Q. ストレスチェックに罰則規定はありますか?
あります。労働基準監督署への報告をしない、または偽りの報告をした場合は、労働安全衛生法第120条第5号により50万円以下の罰金の対象になります。ストレスチェックの実施の事務に従事した人が労働者の秘密を漏らした場合は、同法第119条により6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。
ストレスチェックを実施しない場合の罰則|未実施でも報告は必要

常時50人以上の事業場がストレスチェックを実施しなかった場合、実施しなかったこと自体に罰則はありませんが、その年の報告をしなければ罰金の対象になります。罰則がかかるかどうかは、実施の有無ではなく、報告をしたかどうかで分かれます。
実施義務を定めた第66条の10は罰則の列挙の外にある
労働安全衛生法第66条の10第1項は「事業者は、労働者に対し(中略)心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない」と定めています。実施は義務ですが、第120条第1号が罰則の対象として挙げる健康診断(第66条第1項から第3項まで)や、研究開発業務・高度プロフェッショナル制度の対象者への面接指導(第66条の8の2第1項・第66条の8の4第1項)と違い、第66条の10は列挙に入っていません。
(参考)労働安全衛生法 第66条の10・第120条 – e-Gov 法令検索
罰則がなくても、使用者には労働契約法第5条の安全配慮義務(労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をすること)がかかっています。中小企業のメンタルヘルス対策での位置づけは中小企業のメンタルヘルス対策で整理しています。
(参考)労働契約法(平成十九年法律第百二十八号) – e-Gov 法令検索
実施しなかった年も報告書は出す
厚生労働省のQ&Aは、ストレスチェックを実施しなかった場合も、労働安全衛生法第100条と労働安全衛生規則第52条の21に基づいて報告書を所轄の労働基準監督署長に提出する義務があり、提出しなかった場合は第120条第5号の罰則の対象になると明記しています。実施できなかった年ほど、報告書だけは期限内に出すことが罰則を避ける最低限の対応です。
報告は事業場ごとに、管轄の労働基準監督署へ出します。Q&Aは、本社でまとめて報告することはできないとしています。一方で、受検率が低いことを理由に労働基準監督署が指導することは考えていないとも答えており、報告で問われるのは実施の状況を正しく出すことです。
(参考)ストレスチェック制度関係 Q&A(令和3年改訂) – 厚生労働省
50人以上の事業所の実施率は計算すると約84.7%
厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」(常用労働者10人以上の民営事業所が対象、令和6年10月31日現在)によると、労働者50人以上の事業所でメンタルヘルス対策に取り組んでいる割合は94.3%で、そのうちストレスチェックを実施した割合は89.8%でした。取り組んでいない事業所はストレスチェックもしていないとみなして全事業所に対する割合を計算すると、約84.7%になります。
実施が義務の規模でも、計算上は約15%の事業所が実施していないことになります。同じ方法で計算すると、30〜49人の事業所は約39.9%(69.1%×57.8%)、10〜29人の事業所は約32.1%(55.3%×58.1%)です。常時50人以上になった時点から報告の義務がかかるため、人数が増えている事業所は数え方を先に確かめておきます。
(参考)令和6年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要(事業所調査) – 厚生労働省
Q. ストレスチェックを実施しないと罰則はありますか?
実施しなかったこと自体に対する罰則は、労働安全衛生法に定められていません。ただし常時50人以上の労働者を使用する事業場は、実施しなかった年も労働基準監督署への報告が必要で、報告しなければ第120条第5号の罰則の対象になると厚生労働省のQ&Aは説明しています。実施の義務そのものは残るため、罰則がないから実施しなくてよいわけではありません。
50人未満の事業場の罰則|2028年4月から実施が義務になる

50人未満の事業場は、現在はストレスチェックの実施が努力義務で、罰則はありません。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、令和10年(2028年)4月1日から実施が義務になりますが、労働基準監督署への報告は改正後も求められていません。
現行の50人未満は附則第4条で努力義務になっている
労働安全衛生法の附則第4条は、産業医の選任義務がある事業場(常時50人以上)以外の事業場について、当分の間、第66条の10第1項の「行わなければ」を「行うよう努めなければ」と読み替えています。これが50人未満の事業場の努力義務の根拠です。報告を定めた労働安全衛生規則第52条の21も「常時五十人以上の労働者を使用する事業者」が対象で、厚生労働省のQ&Aも50人未満の事業場に報告義務はないと答えています。
(参考)労働安全衛生法 附則第4条 – e-Gov 法令検索
(参考)ストレスチェック制度関係 Q&A(令和3年改訂) – 厚生労働省
改正後も報告の義務は50人以上の事業場だけに残る
厚生労働省の改正の概要は、努力義務となっている50人未満の事業場についても実施を義務とし、その際に十分な準備期間を確保するとしています。令和8年2月公表の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」は、実施結果の労働基準監督署への報告は50人以上の事業場に義務付けられているもので、50人未満の事業場は不要としています。
そのため2028年4月以降も、50人未満の事業場には規則第52条の21の報告義務がかからない一方、第105条の守秘義務と第119条の罰則は今と同じようにかかります。マニュアルも、実施の事務に従事した人には罰則付きで守秘義務が課されていることを踏まえるよう求めています。施行までの準備の進め方は、下の記事にまとめています。
あわせて読みたいストレスチェック義務化はいつから|50人未満2028年4月施行›
(参考)労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要 – 厚生労働省
(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省
Q. 50人未満の事業場がストレスチェックをしないと罰則はありますか?
現在は努力義務で、罰則はありません。2025年5月公布の改正で令和10年4月1日から実施が義務になりますが、厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルでは、50人未満の事業場は労働基準監督署への報告は不要とされています。実施の事務に従事した人の守秘義務と罰則は、規模にかかわらずかかります。
従業員がストレスチェックを受けない場合の罰則|受検は本人が選べる
従業員がストレスチェックを受けなくても、本人にも会社にも罰則はありません。厚生労働省のストレスチェック指針は、労働者にストレスチェックを受検する義務はないとしたうえで、制度を効果的なものにするために全員の受検が望ましいという趣旨を社内で周知するよう求めています。
受検は懲戒ではなく案内と周知で促す
指針は、ストレスチェックを受けない労働者に対して、これを理由とした不利益な取扱いを行ってはならないとし、例として就業規則で受検を義務付けて受けない人を懲戒処分にすることを挙げています。受検をすすめる頻度や方法は、衛生委員会で調査審議して決めるよう厚生労働省のQ&Aは答えています。
受検率を上げたいときは、懲戒ではなく、結果が本人の同意なく会社に渡らないことや、受けなかったことで不利益にならないことを先に伝えるのが指針に沿ったやり方です。
(参考)ストレスチェック指針(心理的な負担の程度を把握するための検査等指針) – 厚生労働省
(参考)ストレスチェック制度関係 Q&A(令和3年改訂) – 厚生労働省
面接指導の申出を理由にした不利益な取扱いは法律で禁止されている
労働安全衛生法第66条の10第3項は、高ストレスと判定された労働者が医師の面接指導を申し出たことを理由に、不利益な取扱いをしてはならないと定めています。この禁止に罰則は付いていませんが、法律の条文で禁止された行為です。指針はさらに、結果の提供に同意しない人や、面接指導の申出をしない人を理由に不利益に扱うことも行ってはならないとしています。
(参考)労働安全衛生法 第66条の10第3項 – e-Gov 法令検索
(参考)心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針 – 厚生労働省
Q. 従業員がストレスチェックを受けないと罰則はありますか?
ありません。厚生労働省のストレスチェック指針は、労働者にストレスチェックを受検する義務はないとしています。就業規則で受検を義務付け、受けない人を懲戒処分にすることも、指針で行ってはならないとされています。
スポーツ団体やクラブも罰則の対象になる|事業場とアスリート社員の数え方
プロクラブの運営会社、競技団体、フィットネスクラブ、スタジアムの運営会社も、労働者を使用していれば労働安全衛生法上の「事業者」(第2条第3号)です。罰則の仕組みは一般の企業と同じで、常時50人以上の事業場なら報告をしなければ罰金の対象、実施の事務に関わった職員が秘密を漏らせば拘禁刑・罰金の対象になります。気をつけたいのは、何人と数えるかと、選手を数に入れるかです。
クラブやジムは事業場ごとに常時使用する労働者を数える
厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルは、事業場は原則として工場・事務所・店舗など同一の場所にあるものを1つと考え、同じ企業でも場所が分かれていれば別の事業場になるとしています。クラブの事務所と練習施設が離れている場合や、複数の店舗を持つフィットネスクラブは、場所ごとに人数を数えることになります。
報告の要否を決める「常時使用している労働者」は、労働時間の短いアルバイトやパートタイムでも、継続して常態として使っていれば数に含めるとマニュアルは説明しています。施設の受付や試合運営を担うアルバイトが多い職場では、正職員が少なくても合計が50人を超えて報告が必要になることがあります。
(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省
雇用されているアスリート社員は従業員と同じく対象になる
企業に雇われて競技を続けるアスリート社員も、ストレスチェックの対象である「常時使用する労働者」の要件(期間の定めのない契約か1年以上の雇用が見込まれ、週の労働時間が通常の労働者の4分の3以上)を満たせば、ほかの社員と同じく対象です。JOCの就職支援制度「アスナビ」では、2024年3月現在、約230社が400名近くのアスリートを採用しています。
実施期間に合宿や遠征が重なる選手は、受検の機会を逃しやすくなります。厚生労働省のQ&Aは、長期出張など業務上の都合ややむを得ない理由で受けられなかった人には、別途受検の機会を設ける必要があるとしています。競技日程を見て実施期間を決めるか、遠征明けの受検日を用意しておきます。実業団として選手を抱えるかどうかの考え方は実業団とプロの違いで解説しています。
あわせて読みたいアスリート社員とは|企業が雇う前に決める労務と税の扱い›
(参考)アスナビ──現役アスリートの就職支援 – 公益財団法人日本オリンピック委員会
(参考)ストレスチェック制度関係 Q&A(令和3年改訂) – 厚生労働省
業務委託の選手やコーチは働き方の実態で判断する
第66条の10の実施義務は「労働者に対し」行うもので、個人事業主として業務委託契約を結ぶ選手やコーチ、インストラクターが対象になるかは、労働者にあたるかどうかで決まります。マニュアルは対象者の判断について契約の名称に関わらないとしており、契約書の名前だけでは決まりません。迷う場合は、労働基準監督署や産業保健総合支援センター、社会保険労務士に確認します。
対象にならない人にも状態を見る機会を用意したいときは、厚生労働省が公開している「個人事業者等の方向け」の職業性ストレス簡易調査票(暫定版・57項目)を使う方法があります。クラブや団体が自主的に配る場合も、結果の扱いは労働者のストレスチェックと同じように本人の同意を前提にします。
ストレスチェックの罰則のまとめ
ストレスチェックの罰則は、実施の有無ではなく、報告と秘密の扱いにかかっています。数値と条文の出典は本文の各セクションに記載しています。
- 罰則は2つ。報告をしない・偽ると50万円以下の罰金(第120条第5号)、実施の事務に関わった人が秘密を漏らすと6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(第119条)
- 実施しなかったこと自体に罰則はないが、常時50人以上の事業場は実施しなかった年も報告が必要
- 50人未満は2028年4月から実施が義務になるが、労働基準監督署への報告は不要
- 従業員に受検の義務はなく、受けない人や面接指導を申し出た人を不利益に扱ってはならない
- スポーツクラブや競技団体も事業者。事業場ごとにアルバイトを含めて数え、雇用されているアスリート社員も対象になる
他の労働安全衛生の義務と罰則の関係は職場の熱中症対策の義務化と罰則、職場の健康づくり全体はウェルビーイング施策の設計法にまとめています。
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