結論から言えば、東京五輪の競泳200m・400m個人メドレーで2冠に輝いた大橋悠依さんの飛躍の起点は、大学1年で9カ月間苦しんだ原因不明の不調を「気持ちの問題」で片づけず、鉄欠乏性貧血という原因を突き止め、食事とエネルギー量を見直したことにありました。
本記事では、大橋さんの不調期と回復後の変化をたどりながら、企業の健康管理担当者が学べる視点を解説します。
大橋悠依が9カ月間苦しんだ原因不明の不調|「気持ちの問題」では片づかなかった
大橋さんのキャリアを時系列で見ると、不調期・診断治療期・回復後の3段階で状態が大きく変化していることがわかります。

図:原因不明の不調から鉄欠乏性貧血の判明、食事の自己管理への意識転換を経て東京五輪2冠に至るまでのステップ
| 時期 | 状態 | 結果 |
|---|---|---|
| 大学1〜2年(不調期・9カ月間) | 原因不明の疲労感・鉄欠乏性貧血が未診断 | インカレ予選22位 |
| 診断・治療期 | 鉄剤・ビタミン剤を約半年服用+食事改善 | 症状が改善 |
| 大学4年〜東京五輪 | 食事量・エネルギー管理を意識的に継続 | インカレ連覇・日本代表入り・五輪2冠 |
スポトリ掲載記事(2025年2月12日)をもとに編集部作成。
大学1〜2年|9カ月間続いた原因不明の疲労感とインカレ予選22位
大橋さんは東洋大学に進学し寮生活を始めた大学1年生のころ、いつも通り練習しているのにタイムが上がらず、スタート直後から200m泳いだような疲労感を覚えるようになりました。階段を上りきると膝に手をついて一息つかないと動けないほどでしたが、周囲からは「調子が上がらないのは気持ちの問題だ」と言われていたといいます。
不調はメンタル面にも波及し、「タイムが上がらないので気持ちがどんどん暗くなる」「ますます話さなくなる」という悪循環に陥りました。この状態が9カ月間続き、大学2年のインカレでは予選22位という結果に終わっています。原因が特定されないまま長期間不調が続いたこと自体が、この時期の深刻さを物語っています。
診断・治療期|転倒がきっかけで判明した鉄欠乏性貧血
不調の原因が分かったのは、練習後の自転車走行中に転倒し、足の付け根のリンパが腫れ上がったことがきっかけでした。血液内科での診断の結果、鉄欠乏性貧血と判明し、医師からは「もともと体力があるから動けているだけで、普通の人だったら倒れている」と言われるほど深刻な状態だったといいます。
鉄剤・ビタミン剤を約半年間服用しながら、母親が送ってくれる食事で症状を改善しました。偶然の転倒という出来事がなければ、診断自体がさらに遅れていた可能性もあります。
大学4年〜東京五輪|食事量・エネルギー管理を継続した先の2冠
以降は寮の食事で不足するものを意識的に補うようになり、前年大敗したインカレで200m個人メドレーを制し、大学4年時にはインカレ連覇・日本代表入りを果たしています。不調から回復した先で結果を出せたのは、原因への対処だけでなく、その後も食事管理を継続的な習慣として維持したためです。
この継続の姿勢が、東京五輪での2冠という最終的な結果につながっています。
Q. 大橋悠依さんの不調の原因は何でしたか?
鉄欠乏性貧血です。練習量が倍になったにもかかわらず食事のエネルギー量が不足していたことが背景にあり、周囲からは「気持ちの問題」と言われていましたが、実際には医学的な原因がありました。転倒によるリンパの腫れをきっかけに診断が確定しています。
(参考)絶不調からの飛躍、食生活の改善で世界を獲る【競泳・大橋悠依さん ~前編~】 – スポトリ
食事改善から世界の舞台へ|エネルギー管理を自分でコントロールする
診断後、大橋さんの食事との向き合い方は「与えられるもの」から「自分で管理するもの」へと大きく変わりました。
母親の食事支援から自分自身での管理への移行
「日ごろから食生活を含め、競技に役立つことを自分なりに調べ、取り入れていましたが、いろいろと足りていませんでした」と振り返り、以降は寮の食事で不足するものを意識的に補うようになったといいます。診断前は自分なりに工夫していたつもりでも、実際には練習量に見合うエネルギー量が確保できていなかったことが、この振り返りから見えてきます。
「自分でコントロールできた人が速くなる」という当事者意識への転換
「体の中は見えないじゃないですか。だからこそ、食を含めてきちんと管理しなければいけないし、自分でコントロールできた人が速くなる、強くなるということですね」。この言葉が示す通り、大橋さんは食事を自分で管理する対象として捉え直したことで、結果につなげています。
見えない体の中の状態を、感覚だけに頼らず食事という管理可能な要素でコントロールしようとした発想が、その後の飛躍の土台になったといえます。
Q. 大橋悠依さんはどのように食事管理を改善したのですか?
鉄剤・ビタミン剤の服用と並行し、母親が送る食事や寮の食事で不足する栄養素を意識的に補うようにしました。食事を「与えられるもの」ではなく「自分で管理するもの」として捉え直したことが転機になっています。
企業の健康管理への応用|「気持ちの問題」で片づけない仕組みづくり
大橋さんの事例が企業の健康管理担当者に示す最大の教訓は、原因不明の不調を「本人の気持ちの問題」で片づけないことの重要性です。
精神論で片づけず早期受診を促す仕組み
周囲が精神論で片づけてしまうと、実際には医学的な原因があっても発見が遅れます。社員の不調に対しても、体調不良が続く場合は早期に受診を勧める仕組みが重要です。また、激しい運動を伴う競技者は男女問わず貧血のリスクがあり、パフォーマンス低下だけでなくメンタル面にも影響することが分かっています。
大橋さんのケースでも、周囲の「気持ちの問題」という見立てが結果的に9カ月間の不調期間を長引かせています。組織の側が安易な精神論で片づけないという姿勢を持つだけで、対応の早さは変わります。
繁忙期の業務量増加と栄養・生活習慣の関連を確認する視点
企業でも、繁忙期に業務量が増えた社員のコンディション不良を精神面だけの問題と決めつけず、栄養・生活習慣を含めた要因を確認する視点が求められます。練習量が増えたにもかかわらず食事量が追いつかなかった大橋さんの不調は、業務量が急増した社員が体調を崩すパターンと構造的に近いものです。
食事とエネルギー量の管理という視点は、増量を継続した後藤智香選手の事例にも共通しています。
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アスリートのセカンドキャリアについてはアスリート引退後のキャリア選択肢2026年版で解説しています。
Q. 企業が社員の不調対応で気をつけるべきことは何ですか?
原因不明の不調を精神論で片づけず、医学的な原因の可能性を早期に確認する仕組みを持つことです。業務量が増えた時期の栄養・生活習慣の乱れも、パフォーマンス低下やメンタル不調の要因になり得ます。
大橋悠依さんのプロフィール:1995年10月18日、滋賀県彦根市生まれ。東洋大学卒業後、イトマン東進を経てイトマン特別コーチ。東京五輪(2021)200m・400m個人メドレー金メダル、世界選手権(2019)400m個人メドレー銅メダルなど。パリ五輪後に約20年間の競技生活を終え、2025年4月から東洋大学大学院でスポーツ栄養学を専攻している。
まとめ|大橋悠依の貧血克服から学べること
- 大橋悠依さんは大学1年で9カ月間、原因不明の不調に苦しんだが「気持ちの問題」ではなく鉄欠乏性貧血が原因だった
- 練習量の増加に食事のエネルギー量が追いついていなかったことが不調の背景にあった
- 鉄剤・ビタミン剤の服用と食事改善により回復し、翌年にはインカレを制する結果につながった
- 「自分でコントロールできた人が速くなる、強くなる」という言葉通り、食事管理の当事者意識が転機になった
- 企業の健康管理でも、不調を精神論で片づけず医学的な原因を確認する仕組みが重要
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