地元の選手の写真を、自社のチラシやウェブ広告に使いたい。フォトエージェンシーで写真を見つけ、使用料を払えば使えると思っていたら、広告代理店から「肖像の許諾は別に要りますよ」と言われた。誰に、いくら払えばよいのか。源泉徴収は要るのか。調べても、はっきりした答えが見つからないはずです。
選手の写真を広告に使うときの支払いは、写真の使用料、肖像の使用料、チームのロゴなどの許諾料の3つに分かれます。肖像の使用料に、公的な「相場」はありません。金額を公表している例はごくわずかで、多くは「使用料が発生する」と書かれているだけです。申請する相手も、プロ野球なら球団、Jリーグなら場面によってリーグかクラブ、日本代表の姿なら競技団体、というように変わります。
この記事では、裁判所の判決、リーグと競技団体の規程、国税庁と法令の原文をもとに整理します。契約書は弁護士に、税務は税理士に確かめてください。
スポーツ選手の肖像を広告に使うときの支払いは3つに分かれる

選手の写真1枚には、3つの権利が重なっています。写っている選手の肖像、写真を撮った人の著作権、そしてユニフォームやエンブレムについてのクラブの権利です。広告に使うなら、それぞれに許諾と支払いが要ることがあります。
このうち肖像についての権利は、法律の条文に書かれているものではありません。最高裁判所が2012年の判決で、人の名前や肖像が持つ、客を引きつける力を独占して使う権利を「パブリシティ権」と呼び、もっぱらその力の利用を目的とする無断の使用は違法になるとしました。商品に付ける使い方や、広告に使う使い方が、その例に挙げられています。
いちばん多い失敗は、写真の代金だけを払って広告に使ってしまうことです。朝日新聞フォトアーカイブの利用規約は、写真の使用料には、写っている人の肖像権などの許諾についての対価は一切含まれていないと明記しています。写真を買うことと、肖像を使う許しを得ることは、別の手続きです。
(参考)最高裁判所 平成24年2月2日 第一小法廷判決 – 裁判所
Q. 肖像権の使用料に相場はありますか?
公的な相場はありません。国税庁や裁判所、リーグや競技団体の資料を確かめましたが、肖像の使用料の水準を示した文書は見当たりませんでした。金額や料率を公表している例はごくわずかで、多くのリーグや球団は「使用料が発生する」と案内しているだけです。金額は、使う媒体、期間、選手、相手の団体によって個別に決まります。
肖像権の使用料で公表されている金額は限られている
原文で金額や料率が読める例を、表にまとめました。誰が誰に払う額なのかが、それぞれ違います。そのまま自社の見積もりに当てはめることはできません。
| 出どころ | 何の金額か | 金額や料率 |
|---|---|---|
| 日本陸上競技連盟の規程 | 連盟が協賛社に使用を許したときに、連盟が選手に払う使用料(1企画、1選手ごと) | TVCM 100万円、動画 10万円、写真 5万円 |
| 朝日新聞フォトアーカイブ | 写真そのものの使用料(肖像の許諾は含まない) | TVCMやウェブ広告で6万6,000円(税込)など |
| 共同通信イメージズ | 写真そのものの使用料 | ウェブ広告で1年以内15万円からなど |
| 知的財産高等裁判所の判決(2008年) | 1998年ころの1球団の資料として認定された料率 | 野球カードは総売上の6% |
| 東京地方裁判所の判決(2013年) | 無断で出された写真集の損害の計算 | 本体価格の10%に発行部数をかけた額 |
肖像や写真の使用料について公表されている金額の例(出典:各団体の規程と料金表、裁判所の判決。2026年10月10日に確認)
日本陸上競技連盟の金額は、企業が連盟に払う額ではありません。連盟が選手に払う額です。それでも、テレビCM、動画、写真の順に額が下がること、販売する商品のパッケージは売上に対する料率(5%)で決まることなど、使用料の決まり方の型を知る手がかりになります。
プロ野球の料率は、25年以上前の資料を裁判所が認定したもので、いまの料率ではありません。2つの判決はどちらも、その人が実際に結んでいた契約や通常の料率を出発点にしています。世の中の相場ではなく、本人の実績で決まるということです。
多くの団体は、金額を公表していません。Jリーグは、報道以外の利用には原則として商品化権料などが発生するとしています。東北楽天ゴールデンイーグルスは肖像使用料などが、日本女子プロゴルフ協会も原則として肖像使用料などが発生すると案内していますが、いずれも金額は書かれていません。
(参考)日本代表選手等の肖像等に関する規程 – 日本陸上競技連盟
(参考)知的財産高等裁判所 平成20年2月25日判決 – 裁判所
(参考)東京地方裁判所 平成25年4月26日判決 – 裁判所
(参考)ロゴ、肖像、映像二次使用等に関して – 東北楽天ゴールデンイーグルス
(参考)トーナメントに出場する選手の肖像権について – 日本女子プロゴルフ協会
スポーツ選手の肖像は場面ごとに申請する相手が違う

使用料を払う相手は、選手本人とは限りません。競技と場面によって、権利を管理している相手が違います。
プロ野球は球団に申請する
プロ野球の選手のユニフォーム姿やプレーの写真は、球団が窓口です。知的財産高等裁判所は2008年の判決で、選手は、プロ野球選手としての行動についての名前と肖像の使用を、球団に独占的に許諾したと解するのが相当だと判断しました。
球団の方針にも注意が要ります。東北楽天ゴールデンイーグルスは、製品の販売や販売促進などの商業的な利用は、原則として、スポンサー契約や商品化の契約を結んだ企業以外には許諾していないとしています。使用料を払えば誰でも使える、という仕組みではない球団があります。
(参考)知的財産高等裁判所 平成20年2月25日判決 – 裁判所
(参考)ロゴ、肖像、映像二次使用等に関して – 東北楽天ゴールデンイーグルス
Jリーグは場面によってリーグとクラブと協会に分かれる
Jリーグの選手の肖像は、場面で窓口が分かれます。公式の試合と公式のイベントの肖像はJリーグが管理し、練習やクラブ独自の活動の肖像はクラブが、天皇杯など日本サッカー協会が主催する試合の肖像は協会が管理しています。
Jリーグの規約では、商業活動での肖像の利用は、リーグやクラブのパートナー、ライセンス契約を結んだ企業、選手などと契約した企業に限られるとされています。使える写真も、リーグやクラブの公式のカメラマンが撮ったものに限られます。選手個人と契約する場合も、選手は、肖像の使用やその許諾について、事前にクラブの書面による承諾を得なければなりません。
Bリーグはクラブの書面による承諾が要る
Bリーグの規約も、選手が肖像の使用を許したり、第三者の広告に関わったりするときは、事前にクラブの書面による承諾を得なければならないと定めています。リーグが選手の肖像を無償で使えるのは、3名以上で使う場合に限るとされています。1人だけを大きく使うのか、複数の選手を並べるのかで、扱いが変わるわけです。
日本代表の姿は競技団体が管理している
オリンピック競技の選手では、日本代表としての姿と、個人としての姿で、管理する相手が違います。日本陸上競技連盟の規程は、日本代表の公式の衣類を着た姿などの肖像について、選手は連盟の個別の同意がないかぎり、第三者に使用を許諾できないと定めています。
全日本柔道連盟は、連盟の協賛社でない企業の広告に、連盟が主催や派遣をする大会などの肖像は使えないとし、「柔道日本代表」のように日本代表を思わせる表現も使えないとしています。日本オリンピック委員会のガイドラインも、個人のスポンサーは、公式のウェアやメダルの写真を商業的な活動に使えないとしています。個人で契約していても、いちばん使いたい写真が使えないことがあるので、先に確かめてください。大会の期間中の決まりはルール40とはの記事で扱っています。
(参考)日本代表選手等の肖像等に関する規程 – 日本陸上競技連盟
(参考)出演・取材・肖像使用に関するお問い合わせについて – 全日本柔道連盟
(参考)オリンピック等の知的財産の使用に関するガイドライン Ver.1.0 – 日本オリンピック委員会
Q. 選手本人の了承があれば写真を広告に使えますか?
本人の了承だけでは足りないことがあります。プロ野球では球団が窓口で、JリーグとBリーグの選手は、肖像の使用を許すときに事前にクラブの書面による承諾を得る決まりです。日本代表の公式の衣類を着た姿は、日本陸上競技連盟の規程のように、競技団体の同意が要る例があります。写真そのものの使用料と、ユニフォームやエンブレムについてのクラブの許しも別に確かめてください。
肖像権の使用料の源泉徴収は払う相手と中身で変わる
使用料を払うときに、源泉徴収が要るかどうかも気になる点です。肖像の使用料について、国税庁が直接答えた文書は見当たりませんでした。ここでは、法令の文言から言えることを整理します。判断は税理士に確かめてください。
選手個人に払う場合は使い方で扱いが分かれる
所得税法は、源泉徴収が要る報酬を並べていますが、そのなかに「肖像権の使用料」という言葉はありません。手がかりになるのは「モデル」です。施行令は、モデルには、雑誌、広告その他の印刷物に容姿を掲載させて報酬を受ける者を含むとしています。チラシやポスターに写真を載せる対価は、これにあたる可能性があります。
テレビCMや動画への出演の対価は、出演の報酬として源泉徴収の対象です。一方、すでにある写真をウェブ広告や商品のパッケージに使うだけの場合は、印刷物にも出演にもあたらず、どの決まりにあてはまるのかが文言からははっきりしません。契約書と請求書で、撮影や出演の対価と、肖像の使用の対価を分けて書いたうえで、税理士に相談してください。
球団やクラブなど法人に払う場合は対象が限られる
報酬や料金の源泉徴収は、個人への支払いについての決まりです。国税庁は、支払いを受ける相手が国内の法人である場合に源泉徴収の対象になるものとして、馬主である法人に払う競馬の賞金を挙げています。球団やクラブ、マネジメント会社、競技団体といった法人に肖像の使用料を払う場合は、これにあたりません。
相手が海外の選手や会社の場合は、別の決まりがかかります。消費税や勘定科目の考え方は、協賛金と共通する部分が多いので、スポンサー料の勘定科目の記事を参考にしてください。
(参考)No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは – 国税庁
Q. 肖像権の使用料を払うとき源泉徴収は必要ですか?
払う相手と中身によります。球団やクラブなど国内の法人に払う場合は、報酬や料金の源泉徴収の対象になりません。選手個人に払う場合、印刷物に写真を載せる対価やCMへの出演の対価は、対象になる可能性があります。すでにある写真をウェブ広告に使うだけの場合などは、法令の文言からははっきりしません。国税庁が肖像の使用料について直接答えた文書は見当たらないので、税理士に確かめてください。
無断で使うと使用料にあたる額が損害として計算される
許しを得ずに使った場合は、どうなるのでしょうか。裁判所は、本来払うべきだった使用料にあたる額を、損害として計算しています。
東京地方裁判所は2013年の判決で、無断で出版された写真集について、本人が写真の使用を許す場合に通常受け取る額は、本体価格の10%に発行部数をかけた額を下回らないと認めました。スポーツ選手の例ではありませんが、損害の考え方は同じです。
写真の側にも決まりがあります。朝日新聞フォトアーカイブは、申請がなく無断で使ったことがわかった場合、料金表の3倍の料金を請求するとしています。あとから払えば済む、とは考えないほうが安全です。
(参考)東京地方裁判所 平成25年4月26日判決 – 裁判所
肖像権の使用料を払う前に確かめておくこと
ここまでの内容をふまえて、契約の前に確かめておくことを並べます。
- 使いたい写真がどの場面のものか(公式の試合、練習、日本代表としての活動)
- その場面の肖像を管理しているのは誰か(選手、クラブ、リーグ、競技団体)
- 写真そのものの使用料と、肖像の使用料が別になっていないか
- ユニフォームやエンブレムが写っている場合、クラブの許しが要るか
- 使う媒体、期間、地域、SNSでの二次利用の範囲
- 選手個人に払う場合、源泉徴収が要るか
自社がクラブやリーグの協賛企業であれば、協賛の特典のなかに、選手の肖像を使える権利が含まれていることがあります。新しく使用料を払う前に、いまの契約で何が使えるのかを、クラブの担当者に確かめてください。選手個人と契約して起用する場合の進め方は、下の記事で扱っています。
あわせて読みたいアンバサダー契約とは|スポーツ選手と結ぶ企業の確認点と報酬›
契約書に書く項目は、協賛の契約と重なります。
あわせて読みたいスポーツスポンサー契約とは|企業が確かめる6項目と印紙・法律›
(参考)日本代表選手等の肖像等に関する規程 – 日本陸上競技連盟
まとめ|肖像権の使用料は誰に何を払うのかを分けて考える
肖像の使用料は、相場を調べるよりも、誰に何を払うのかを分けるほうが近道です。要点を振り返ります。
- 選手の写真を広告に使うときの支払いは、写真の使用料、肖像の使用料、ロゴなどの許諾料の3つ
- 肖像の使用料に公的な相場はなく、公表されている金額はごく一部
- 申請する相手は、プロ野球は球団、Jリーグは場面によってリーグかクラブか協会、日本代表の姿は競技団体
- 源泉徴収は、法人に払う場合は対象が限られ、個人に払う場合は使い方で分かれる
- 無断で使うと、使用料にあたる額が損害として計算される
使いたい写真が決まっているなら、まず、その写真がいつ、どの場面で撮られたものかを確かめてください。それがわかれば、問い合わせる相手が決まります。協賛を通じて選手を起用する方法の全体像は、スポーツマーケティングとはで整理しています。
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