「障害者雇用の枠は埋まっているが、パラアスリートの雇用となると何から手をつければいいのか分からない」。採用担当者からそうした相談を受けることが増えています。2026年7月、民間企業の障害者法定雇用率は2.5%から2.7%に引き上げられ、対象企業の範囲も常時雇用労働者37.5人以上へと広がります。単に人数を埋める採用ではなく、競技と業務を両立できる人材をどう受け入れるかが、採用担当者・人事担当者(障害者雇用担当を含む)にとって現実的な課題になっています。
2026年にパラアスリート雇用が採用担当の注目テーマになった理由
厚生労働省の資料によると、民間企業における障害者の実雇用率は2.41%、雇用者数は70.5万人(身体障害者37.4万人・知的障害者16.2万人・精神障害者16.9万人)に達し、法定雇用率達成企業の割合は46.0%にとどまっています。2026年7月には法定雇用率が2.7%へ、対象企業も常時雇用労働者37.5人以上へと拡大するため、これまで対象外だった中堅・中小企業も新たに義務を負うことになります。
この数字を自分たちで並べ直すと、身体障害者が全体の約53.0%、知的障害者が約23.0%、精神障害者が約24.0%という内訳が見えてきます。パラアスリートの多くは身体障害の区分に該当するため、雇用率算定上のボリュームゾーンとも重なります。単なる人数合わせではなく、競技活動という具体的な強みを持つ人材として捉え直す採用担当者が増えている背景には、こうした数字の裏付けがあります。
(参考)最近の障害者雇用対策について(令和8年3月) – 厚生労働省
(参考)令和8年7月より障害者の法定雇用率が2.7%に引き上げられます – 厚生労働省 大分労働局
パラアスリート雇用の4つの受け入れモデル
パラアスリートの雇用と一口に言っても、企業が実際に採っている受け入れ方はひとつではありません。競技団体・支援機関の公表情報をもとに、代表的な4つのモデルを整理しました。自社の事業内容や競技レベルに合わせてどの型が近いかを確認してから制度設計を始めると、後戻りが少なくなります。
| モデル | 特徴 | 主な支援内容 |
|---|---|---|
| 実業団選手型 | 競技を本業に近い位置づけで雇用 | 練習時間の確保・遠征時の勤務調整 |
| アスナビ経由紹介型 | JOCの無料職業紹介事業でマッチング | 競技実績と職務希望のすり合わせ |
| 雇用枠+競技両立型 | 障害者雇用枠の一般業務と競技を両立 | 勤務時間の柔軟化・業務量の調整 |
| ジョブコーチ支援型 | 外部の在籍型ジョブコーチが定着を支援 | 職場内コミュニケーション支援・定期面談 |
Human Soarが日本オリンピック委員会・障害者職業総合センターの公表資料をもとに集計・分類
実業団選手型|競技を本業として位置づける
トヨタ自動車のように、30を超える実業団競技を抱え、600名を超える選手が現役・引退後を通じて社内で働く体制を持つ企業が代表例です。競技を本業に近い位置づけとし、遠征や合宿のスケジュールに合わせて勤務を調整します。大企業でなければ運用できないと思われがちですが、要は「競技を業務の一部として設計するかどうか」の姿勢の問題であり、規模の小さい組織でも一部の職務に限定して同じ考え方を取り入れることは可能です。実際、元アスリート採用でタレントパイプラインを強化する企業戦略として、こうした受け入れ枠を位置づける企業も増えています。
アスナビ経由紹介型|公的な無料職業紹介を使う
日本オリンピック委員会(JOC)が運営する「アスナビ」は、2010年の開始以降、企業207社と現役トップアスリート330名のマッチング実績を持つ無料職業紹介事業です。競技実績と本人の希望職種、企業側の受け入れ体制をあらかじめすり合わせたうえで紹介が行われるため、採用担当者が一から受け入れ制度を設計する負担を抑えられるのが利点です。パラアスリートに特化した窓口としては、障害者スポーツ選手の雇用支援団体も同様の仕組みを提供しています。
雇用枠+競技両立型|一般業務と競技を両立させる
障害者雇用枠で一般業務に就きながら、勤務時間や休暇制度を調整して競技活動を続けるモデルです。法定雇用率の達成という実務的な目的と、競技活動の支援という目的を同時に満たせるため、中堅企業でも取り組みやすい形といえます。ポイントは、競技のための特別休暇を「特例」として個別対応するのではなく、就業規則にあらかじめ組み込んでおくことです。
ジョブコーチ支援型|外部の専門人材が定着を支える
企業在籍型ジョブコーチが事業所を訪問し、職場内コミュニケーションや作業遂行力の向上を支援する仕組みです。障害者職業総合センターの資料でも、パラアスリートの雇用と現状について、企業在籍型ジョブコーチの役割の重要性が指摘されています。人事担当者だけで抱え込まず、外部の専門知見を早い段階から取り入れることが、雇用後のミスマッチを防ぐうえで効果的です。近年はAIが変えるアスリート採用ワークフローの最新動向を踏まえ、選考プロセスの一部を効率化する企業も出てきています。
(参考)パラアスリートの雇用と現状について – 障害者職業総合センター(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)
定着を左右する3つのフェーズ設計
採用できても定着しなければ、法定雇用率の維持にもブランド強化にもつながりません。パラアスリート雇用の成功事例を横断的に見ると、採用前・配属直後・中長期の3つのフェーズで押さえるべきポイントが異なることが分かります。
Human Soarが公表事例の共通点を整理した独自の3フェーズ分類
採用前診断|競技スケジュールと職務内容をすり合わせる
採用面談の段階で、年間の競技スケジュール(大会・合宿・遠征の時期)と、想定する職務の繁忙期を突き合わせておくことが最初の関門です。ここを曖昧にしたまま採用すると、入社後に「思っていたより休みづらい」というミスマッチが起きやすくなります。競技団体の年間スケジュールは公開されていることが多いため、採用担当者が事前に確認しておくと具体的な議論がしやすくなります。面談で何を確認すべきかは、スポーツ経験者の採用基準の作り方|面接で見抜く3軸も参考になります。
配属設計|勤務制度と業務量を初期段階で調整する
配属直後は、業務量を通常の8割程度に抑えて様子を見る企業が少なくありません。競技と業務のどちらも中途半端になることを避けるため、まずは職務の範囲を明確に区切り、慣れてきた段階で徐々に業務範囲を広げるやり方が定着率を高めます。フレックスタイム制度や時差出勤を、障害者雇用枠に限らず全社的な制度として整備しておくと、個別対応の負担を減らせます。
定着支援|社内理解の醸成と長期的なキャリアを設計する
配属先の上司・同僚がパラアスリートの競技活動をどう受け止めるかによって、定着のしやすさは大きく変わります。社内向けの説明会や、本人が競技について話す機会を設けるなど、周囲の理解を能動的につくる取り組みが効果的です。あわせて、引退後も見据えたキャリアパスを早い段階から話し合っておくことで、競技引退が離職の引き金になることを防げます。
国内企業の運用に見るポイント
公表されている事例を横断的に見ると、パラアスリート雇用に積極的な企業にはいくつかの共通点があります。第一に、採用を人事部門だけの取り組みにせず、事業部門の管理職を巻き込んで職務設計を行っていること。第二に、競技実績を広報・ブランディングに活用する場合でも、本人の意向を最優先にしていることです。アスリートの採用は企業がアスリート採用で得られるメリットとも重なる部分が多く、採用そのものが組織活性化の機会にもなります。
あわせて読みたいアスリート採用で企業が得るメリット|JOCアスナビ事例›
中小企業が最初の一歩を踏み出す進め方
従業員37.5人以上へと対象が広がる2026年7月以降、これまで法定雇用率の対象外だった中小企業も準備が必要になります。予算や体制が限られる中小企業ほど、いきなり実業団型を目指すのではなく、地域の障害者就業・生活支援センターやハローワークの企業向けチーム支援を窓口に、小さく始めることが現実的です。競技を続ける社員が1人いるだけでも、社内の障害者雇用への理解は大きく前進します。退役アスリート人材の受け入れ体制づくりと共通する部分も多いため、採用担当者は両方の知見をあわせて参照すると制度設計がしやすくなります。
あわせて読みたい退役アスリート人材の企業採用|受け入れ体制と成功事例›
採用担当者が押さえておきたいポイントのまとめ
- 2026年7月に法定雇用率が2.7%へ引き上げられ、対象企業は常時雇用労働者37.5人以上に拡大する
- 受け入れモデルは実業団選手型・アスナビ経由紹介型・雇用枠両立型・ジョブコーチ支援型の4パターンに整理できる
- 定着は採用前診断・配属設計・定着支援の3フェーズで段階的に設計する
- 中小企業はハローワークや障害者就業・生活支援センターを窓口に小さく始めるのが現実的
- 採用を人事部門だけで抱え込まず、事業部門を巻き込んだ職務設計が定着率を高める
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