日本のスポーツテクノロジー市場は、国が掲げる「スポーツ産業15兆円」の目標の中で、IoTやデジタルを使う領域にあたります。スポーツテックだけを切り出した公的な市場規模は今回確認した資料に載っておらず、読み取れるのは産業全体の約9.5兆円(2021年)と、IoT活用領域の2016年試算(2025年に1.1兆円)です。この記事では、公的資料で確かめた数字の読み方と、企業が使えるサービスの選び方を整理します。
日本のスポーツテクノロジー市場とは|スポーツ産業の中の位置づけ
スポーツテクノロジー(スポーツテック)とは、スポーツの競技・運営・観戦・健康増進にICTやデータサイエンスを使う領域の総称です。従来のスポーツ用品・施設に加えて、SaaS・ウェアラブル・AIなどのデジタル製品が加わっています。
| カテゴリ | 主な製品・サービス例 |
|---|---|
| パフォーマンス解析 | GPSトラッカー・映像AI解析・動作キャプチャ |
| コンディション管理 | ウェアラブル・睡眠モニタリング・回復サポートアプリ |
| ファン・観戦体験 | VR観戦・データ可視化・ライブ配信プラットフォーム |
| 健康経営・ウェルネス | 企業向け運動プログラムアプリ・歩数計測DXツール |
表:スポーツテクノロジーの主要カテゴリ(本記事の整理)
スポーツテックは競技力向上にとどまらず、ファンエクスペリエンス、スタジアム運営、健康経営、企業向けウェルネスサービスまで広がっています。企業の健康投資の面では、運動管理や健康支援のBtoBツールが人事・経営企画部門の検討対象になる場面もあります。
公的資料で確かめた4つの数字|スポーツテック市場の読み方
スポーツテック単独の市場規模は、今回確認した公的資料には載っていませんでした。そのため、産業全体の実績、国の目標、IoT活用領域の試算、民間調査の対象範囲という4つの数字を並べて、市場の大きさを読みます。
| 指標 | 数値 | 年次 | 出典 |
|---|---|---|---|
| スポーツ産業の市場規模(実績) | 約9.5兆円 | 2021年 | 日本政策投資銀行 産業調査部の資料(2025年12月22日) |
| スポーツ市場規模の目標 | 15兆円 | 2025年まで→遅くとも2030年まで | スポーツ未来開拓会議のとりまとめ(概要) |
| IoT活用領域の試算 | 0.5兆円→1.1兆円 | 2020年→2025年(2016年時点の試算) | スポーツ庁・経済産業省「スポーツ未来開拓会議 中間報告」(2016年6月) |
| フィジタルスポーツのBtoB市場 | 金額は公開ページに記載なし | 2026年9月30日発刊 | 矢野経済研究所の調査レポート |
表:スポーツテック市場を読むための公的資料の数字(数値は各資料の記載どおり)
①スポーツ産業全体は2021年に約9.5兆円
日本政策投資銀行(DBJ)の産業調査部は、スポーツ市場規模の実績を2021年で約9.5兆円とし、2011年より2.3兆円増えたと示しています。2020年は新型コロナの影響で一時的に落ち込んでいます。
2011年の水準は、この差から逆算すると約7.2兆円です(本記事の計算値で、資料には記載がありません)。スポーツテックを含む市場全体の土台は、10年間で広がっています。
あわせて読みたいスポーツ市場の規模と成長分野は?最新動向を解説›
(参考)第4期スポーツ基本計画策定に向けた関係団体ヒアリング資料(資料2-2) – 日本政策投資銀行
②15兆円の目標は「2025年まで」から「遅くとも2030年まで」へ
スポーツ未来開拓会議のとりまとめ(概要)は、スポーツ市場を「2025年までに15兆円」とする目標について、達成の不確実性は高いと記しています。そのうえで「遅くとも2030年までに15兆円」を掲げ直しています。
同じ資料は、成長に向けた取組の柱としてスポーツDXの推進と、スポーツ団体と他産業が組むオープンイノベーション(SOIP)の活用を挙げています。スポーツテックは、この目標を支える手段として位置づけられています。
(参考)スポーツ未来開拓会議 ~今後のスポーツの成長産業化を見据えた、当面の取組等についてのとりまとめ~(概要) – スポーツ庁
③IoT活用領域は2016年の試算で2025年に1.1兆円
スポーツ庁と経済産業省の2016年の中間報告は、IoTを使う領域の市場規模を2020年に0.5兆円、2025年に1.1兆円と試算しています。選手の動きや心拍数などを計測してデータとして蓄積できる機器の開発が背景です。
これは2016年時点の見込みであり、実績ではありません。スポーツテックの現在の規模をこの数字で語らず、「国がIoT活用の拡大を見込んでいた」という方向性の根拠として読むのが正確です。IoTの企業向け活用は、IoT×スポーツ活用術|企業DX担当者向け導入3ステップでも整理しています。
(参考)スポーツ未来開拓会議 中間報告 ~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~ – スポーツ庁・経済産業省
④身体活動とデジタルを組み合わせたBtoB市場は民間調査が始まっている
矢野経済研究所は、身体活動とデジタル技術を組み合わせた領域を「フィジタルスポーツ」と捉え、2026年9月30日付で市場分析のレポートを発刊しています。算出の対象は、シミュレーションゴルフを中心とするゴルフ関連と、HADOなどの次世代スポーツ体験領域です。
対象は国内のBtoB供給市場で、機器・システムの販売、レンタル・リース、イベント・運営受託、保守の売上にあたり、消費者が払う施設利用料や参加料は含みません。公開ページには市場規模の金額が載っていないため、本記事では数字を引用しません。
(参考)2026 スポーツテック市場分析 ~フィジタルスポーツ市場の全貌~ – 矢野経済研究所
Q. 日本のスポーツテック市場の規模はどのくらいですか?
スポーツテックだけを切り出した公的な市場規模は、今回確認した資料には載っていません。スポーツ産業全体は2021年に約9.5兆円(日本政策投資銀行)で、IoT活用領域は2016年時点の試算で2025年に1.1兆円でした。
スポーツテックを動かす3つのトレンド|AI解析・ウェアラブル・デジタル配信

スポーツテックの動きは、AIによる映像解析、ウェアラブルとヘルスデータの連携、スポーツコンテンツのデジタル配信・VR化の3つに分けて見ると整理しやすくなります。取れるデータと使い道がそれぞれ違うため、導入の目的で選び分けます。
①AIによる映像解析・パフォーマンスデータの普及
AI映像解析は、クラウドSaaS化によって学生やアマチュアのチームでも使えるサービスが出てきました。試合映像から選手の動線・速度・ポジションを自動で解析し、指導の高度化に加えて、怪我の予防やコンディションの最適化にも使われています。
審判の判定支援のようにAIを競技運営に使う例もあり、大会運営者が導入前に確かめる点はAI審判とは|スポーツ大会運営者が導入前に確かめる3点にまとめています。
②ウェアラブルデバイスとヘルスデータ連携
スマートウォッチやスポーツブレスレットの普及で、心拍数・歩数・睡眠・消費カロリーのデータが日常的にたまるようになりました。企業の健康経営でも、このデータを使った運動習慣の促進プログラムや、健保との連携サービスが使われています。
運動や身体活動の基準そのものは、厚生労働省が「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」で示しています。ウェアラブルは、その基準に自分や従業員がどれだけ近いかを数字で追うための道具として使えます。
(参考)身体活動・運動の推進(身体活動・運動ガイド2023) – 厚生労働省
③スポーツコンテンツのデジタル配信・VR化
DAZNや各スポーツ団体の自前配信など、スポーツコンテンツのデジタル化が進んでいます。VR・ARを使ったバーチャル観戦や、スタジアム内のデジタルサイネージ、インタラクティブな体験も広がり、配信の視聴データや体験データがファン施策に使われています。
あわせて読みたいスポーツ放映権の仕組みと日本市場2026|収益構造を解説›
Q. スポーツテックの代表的な分野は何ですか?
AI映像解析、ウェアラブルとヘルスデータの連携、デジタル配信・VR化の3つが代表的です。取れるデータは順に、動線や速度、心拍や睡眠、視聴や体験の行動で、使い道も指導、運動習慣の促進、ファン施策と分かれます。
企業が使えるスポーツテックサービス|用途別の3領域

人事・総務・経営企画が使えるサービスは、健康経営DX、チームビルディング、スポンサーROI計測の3領域です。導入の手軽さと効果の見えやすさで並べると、健康経営DXは始めやすく効果も数字で見え、スポンサーROI計測は計測の設計に手間がかかる代わりに数字で判断でき、チームビルディングは始めやすい一方で効果が見えにくくなります(本記事の整理)。
①健康経営DXツール
歩数・活動量・睡眠のデータを集めて可視化するアプリは、健康経営の推進に直結します。数字で変化を追えるため、施策の効果を説明しやすいのが特徴です。健保との連携の可否は、サービスごとに異なります。
従業員の健康に関するデータの扱いは、個人情報保護法の対象になりえます。導入の前に、何のために集めるのか、どう同意を取るのか、集計は個人が特定されない単位にするのかを決めておきます。
②スポーツを活用したチームビルディングツール
スポーツのパフォーマンス指標(コミュニケーション頻度・役割分担・状況判断力)を、企業組織に応用した診断や研修のツールがあります。データで組織の課題を特定し、改善アクションにつなげる設計で、HRテックとの組み合わせも進んでいます。
診断を出して終わりにせず、結果をもとに研修や配置を変える運用まで決めておくと、効果が組織の変化として見えるようになります。
③スポンサーROI計測ツール
SNS・配信データ・露出量を解析し、スポーツスポンサーの投資対効果を数字にするツールです。どのメディア露出がブランド認知に寄与したかを可視化できるため、マーケティング部門が協賛の継続や見直しを判断する根拠になります。
計測する指標は、協賛の目的(認知、採用、地域貢献など)に合わせて先に決めます。目的が決まっていないと、取れる数字が多くても判断に使えません。
Q. 企業がスポーツテックを導入するとき、最初に何から始めればよいですか?
自社の課題に合うカテゴリを1つ選び、小さく試すのが現実的です。従業員の健康が課題なら健康経営DXツール、協賛の効果が見えないならスポンサーROI計測ツール、というように目的から選びます。
日本市場の課題と今後の展望|データ活用と人的資本開示
日本の課題は、データを共有する仕組みと、スタジアムなどの設備投資です。一方で、人的資本の情報開示が企業に求められるようになり、健康や運動の施策を数字で示す場面が増えています。
日本市場の課題|データ活用とスタジアムインフラの整備
欧米のスポーツリーグと比べると、日本はデータを共有する文化や仕組みがまだ途上です。個人情報保護への対応や、老朽化したスタジアムにIoT設備を入れる費用が、参入の障壁になっています。
スポーツ庁は第3期スポーツ基本計画で、スタジアム・アリーナ改革を政策課題に挙げています。スポーツ施設とデジタルを組み合わせた事例は、スマートスタジアムとは|スポーツ施設の導入例と企業の入り口で紹介しています。国内の課題の全体像は、スポーツ産業の日本固有の課題の記事で整理しています。
(参考)スポーツの成長産業化(第3期スポーツ基本計画) – スポーツ庁
今後の展望|健康経営・人的資本経営との接続
2023年1月に公布された改正内閣府令(企業内容等の開示に関する内閣府令)で、有価証券報告書に人的資本の開示が求められるようになりました。従業員の健康やエンゲージメントに関する施策を、数字で示す必要が出ています。
スポーツテックで集めた運動や睡眠のデータは、その施策の実施状況を測る手段のひとつになります。開示のためにスポーツテックの利用が求められるわけではないため、自社の施策に合う場合に選びます。
あわせて読みたいスポーツの商業化とは?企業活用のメリットと事例›
(参考)記述情報の開示の好事例集2022(改正企業内容等の開示に関する内閣府令の公布を記載) – 金融庁
Q. 人的資本の情報開示とスポーツテックはどう関係しますか?
2023年1月公布の改正内閣府令で、有価証券報告書に人的資本の開示が求められるようになりました。スポーツテックで集めた運動や睡眠のデータは、健康に関する施策の実施状況を示す材料になりますが、利用そのものが義務になるわけではありません。
まとめ
日本のスポーツテクノロジー市場の現状と、企業が使うときの要点を整理しました。
- 公的資料にスポーツテック単独の市場規模はなく、産業全体は2021年に約9.5兆円、IoT活用領域は2016年時点の試算で2025年に1.1兆円
- 15兆円の目標は「遅くとも2030年まで」に置き直され、スポーツDXが取組の柱
- AI映像解析・ウェアラブル・デジタル配信の3つが、取れるデータと使い道の違うトレンド
- 企業が使えるのは健康経営DX・チームビルディング・スポンサーROI計測の3領域
- まず自社の課題に合うカテゴリを1つ選び、データの扱いと測る指標を決めてから始める
FREE DOCUMENT
関連する資料を無料でダウンロード




コメント