運動がメンタルに効く量と期間|企業が使える10分の根拠

運動がメンタルに効く量と期間を企業が使える10分の根拠とともに示すイメージ スポーツウェルビーイング

月曜の朝、ストレスチェックの集団分析を開くと、高ストレス者の割合が去年より少し上がっている。面談の枠は増やしたのに、休職の相談は減らない。そんなときに「運動はメンタルにいいらしい」と聞いても、どのくらいの量で、いつから、どこまで効くのかが分からなければ施策にはできませんよね。

結論から言うと、運動とメンタルの関係は公的機関と大規模な研究の両方が認めています。うつ・不安の症状は中程度に軽くなり、うつの発症リスクは早歩き週2.5時間相当で25%、その半分でも18%低いと報告されています。効果は1回の運動の直後から現れ、職場では昼休み10分・週3回の集団運動を8〜10週間続けた試験で、活気や対人ストレスの改善が確認されました。

ただし、運動は治療の代わりにはならず、不安やストレスへの効果はうつほど一貫していません。この記事では、厚生労働省のガイドと査読論文の数値をもとに、言えることと言えないことを分けて整理します。

  1. 運動とメンタルの関係は厚生労働省と大規模研究が認めている
    1. うつ・不安の症状は中程度に軽くなる
    2. 活動量が多い人はうつの発症リスクが低い
    3. うつ病の治療では心理療法との差がほとんどない可能性がある
  2. メンタルへの効果は推奨量の半分の運動から現れる
    1. 早歩き週2.5時間相当の半分でもうつリスクは18%低い
    2. 厚生労働省の目安は1日60分の身体活動と週60分の運動
    3. 強い運動ほど症状は改善するがウォーキングやヨガでも効果がある
  3. 運動の効果はいつから出るのか|1回は直後から・継続は12週以内が山
    1. 1回の運動で気分は直後から変わり最長24時間続く
    2. 続けた場合の効果は12週以内の取り組みで最も大きい
  4. 「運動でメンタルが強くなる・安定する」は不調の少なさとして読む
    1. 「強くなる」は「うつになりにくい」と言い換える
    2. 「安定する」は不調の日が月1.49日少ないという差で表れる
    3. 仕組みは「セロトニンが出るから」と決めつけず複数の経路で説明する
  5. 運動の限界を知り不調が続くときは受診を優先する
    1. 関連が最も大きいのは1回45分・週3〜5回の運動
    2. 不安とストレスへの効果はうつより控えめに見積もる
    3. 治療中の人には主治医・産業医に相談してから運動を勧める
  6. 職場では昼休み10分・週3回の集団運動から始める
    1. 昼休み10分・週3回・10週間で活気と対人ストレスが改善した
    2. 8週間のプログラムではプレゼンティーイズムの指標が改善した
    3. 勤務先に運動の取り組みがある人の実施率は71.1%
    4. 効果は「活気・対人ストレス・仕事の満足度」を前後で測る
  7. まとめ|運動とメンタルは「少量から・職場単位で・前後を測る」

運動とメンタルの関係は厚生労働省と大規模研究が認めている

運動がメンタルに効くかどうかは、「症状を軽くする」「発症を防ぐ」「病気の治療になる」の3つに分けると、根拠の強さがそれぞれ違います。厚生労働省は2024年1月の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」で、身体活動・運動の量が多い人はうつ病などの発症リスクが低いと報告されている、と明記しました。

同じガイドは、世界保健機関(WHO)のガイドラインの内容として「うつや不安の症状が軽減される」ことも紹介しています。そのうえで、効果の大きさを数値で確かめられる研究を3つの問いごとに並べたのが下の表です。

問い 研究(発表年・掲載誌) 対象 結果 読むときの注意
症状を軽くするか Singhら(2023年・Br J Sports Med) 97本のレビュー、1,039試験・128,119人 うつ −0.43、不安 −0.42、心理的苦痛 −0.60(通常ケアとの差。中程度の効果) 97本中77本のレビューは質の評価が低い
発症を防ぐか Pearceら(2022年・JAMA Psychiatry) 15の追跡研究、191,130人 推奨量でうつリスクが25%、その半分でも18%低い 観察研究で、因果関係までは示していない
病気の治療になるか Cleggら(2026年・Cochrane) うつ病の成人、73の無作為化試験 対照との差 −0.67。心理療法との差はほとんどない可能性 根拠の確実性は「低」、長期の効果は非常に不確実

表:運動とメンタルの関係を調べた主な統合研究。数値は標準化した効果量(マイナスが大きいほど症状が軽い)またはリスクの低下率。出典:各論文の抄録(PubMed掲載)をもとにHuman Soarが整理。

うつ・不安の症状は中程度に軽くなる

症状の軽減については、Singhらが2023年に発表した研究がもっとも規模の大きい整理です。無作為化試験を統合した97本のレビュー(1,039試験・128,119人)をまとめ、通常のケアと比べて、うつ −0.43、不安 −0.42、心理的苦痛 −0.60という中程度の効果を報告しました。

注目したいのは、効果が大きかった集団に、うつ病の人だけでなく健康な人も含まれていた点です。不調を抱えた社員だけの話ではなく、いま元気に働いている人にも関係があるわけですね。ただし、対象になったレビューの多くは質の評価が低く、数値は幅をもって受け取る必要があります。

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(参考)Singh B, et al. Effectiveness of physical activity interventions for improving depression, anxiety and distress(Br J Sports Med. 2023) – PubMed(米国国立医学図書館)

活動量が多い人はうつの発症リスクが低い

予防については、Pearceらが2022年に、成人を3年以上追跡した15の研究(191,130人)を統合しています。まったく活動しない人と比べて、推奨量の身体活動をしている人はうつのリスクが25%(95%信頼区間18〜32%)低いという結果でした。

この研究は、活動の少ない人が推奨量を満たしていれば、うつの11.5%は防げた可能性があるとも試算しています。一方で、もともと元気な人ほどよく動くという逆向きの関係を完全には除けない観察研究なので、「運動すれば必ず防げる」とまでは読めません。

(参考)Pearce M, et al. Association Between Physical Activity and Risk of Depression(JAMA Psychiatry. 2022) – PubMed(米国国立医学図書館)

うつ病の治療では心理療法との差がほとんどない可能性がある

治療としての位置づけは、2026年1月に更新されたコクランのレビューが最新です。うつ病の成人を対象にした73の無作為化試験を統合し、運動は対照と比べて症状を中程度に減らす可能性がある(−0.67)としました。心理療法と比べた10試験・414人では、効果の差はほとんどない可能性が高いとされています。

ただし、根拠の確実性は「低」と評価され、質の高い試験に絞ると効果は −0.46 に縮みます。薬物療法との比較は5試験・330人にとどまり、長期の効果は「非常に不確実」です。「運動は薬と同じ」と社内で言い切るのは避けたほうが安全ですね。

(参考)Clegg AJ, et al. Exercise for depression(Cochrane Database Syst Rev. 2026) – PubMed(米国国立医学図書館)

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023(令和6年1月) – 厚生労働省

Q. 運動がメンタルにいいというのは本当ですか?

本当です。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」は、身体活動・運動の量が多い人はうつ病などの発症リスクが低いと報告されていると明記しています。2023年の統合研究(128,119人)でも、うつ・不安の症状が中程度に軽くなる効果が確認されました。ただし不安やストレスへの効果は研究によって結果が分かれています。

メンタルへの効果は推奨量の半分の運動から現れる

運動量とうつリスクの低下率を示す棒グラフ。推奨量の半分で18%、推奨量で25%低い(運動とメンタルの関係)

どのくらい運動すればよいかという問いには、「少しでも動けば効果があり、推奨量あたりで頭打ちになる」と答えられます。Pearceらの研究では、うつリスクの低下は少ない活動量のところで急に立ち上がり、推奨量を超えると追加の利益が小さくなりました。

運動習慣のない社員に「毎日30分走りましょう」と呼びかける必要はないということです。まずゼロを半分にする設計のほうが、根拠にも現場の実感にも合います。

早歩き週2.5時間相当の半分でもうつリスクは18%低い

Pearceらが「推奨量」としたのは、早歩きなら週2.5時間に相当する活動量です。この量でうつリスクは25%低く、その半分の量でも18%(95%信頼区間13〜23%)低いと報告されました。

早歩き週2.5時間の半分は、週75分です。平日5日に割れば1日15分で、最寄り駅のひとつ手前で降りて歩く、昼休みに10分歩くといった行動で届く量になります。ノルウェーで33,908人を11年追跡した研究も、予防効果の大半は少ない運動量のところで生じ、週1時間以上の運動で将来のうつの12%が防げた計算になると報告しています。

(参考)Harvey SB, et al. Exercise and the Prevention of Depression: Results of the HUNT Cohort Study(Am J Psychiatry. 2018) – PubMed(米国国立医学図書館)

厚生労働省の目安は1日60分の身体活動と週60分の運動

厚生労働省のガイドが成人に勧めているのは、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日です。通勤や家事で体を動かす時間も「身体活動」に含まれます。

この推奨量は生活習慣病や死亡のリスクをもとに決められたもので、メンタル専用の基準ではありません。それでもガイド全体の方向性は「今よりも少しでも多く身体を動かす」で、うつ予防の研究が示す傾向と一致しています。

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023(令和6年1月) – 厚生労働省

強い運動ほど症状は改善するがウォーキングやヨガでも効果がある

強度については、症状の改善を調べた研究で「強度が高いほど効果が大きい」という結果が続いています。Singhらの研究も、うつ病の人の無作為化試験218件・14,170人を統合したNoetelら(2024年)の研究も同じ傾向でした。

種目別にみると、Noetelらの研究では、ウォーキング・ジョギング(−0.62)、ヨガ(−0.55)、筋力トレーニング(−0.49)、複数の有酸素運動の組み合わせ(−0.43)、太極拳・気功(−0.42)の順で、いずれも中程度の効果でした。続けやすさでは筋力トレーニングとヨガが上位です。この研究の確信度は「低」から「非常に低」と評価されているため、種目の優劣よりも「本人が続けられるものを選ぶ」と伝えるのが現実的ですね。

(参考)Noetel M, et al. Effect of exercise for depression(BMJ. 2024) – PubMed(米国国立医学図書館)

Q. どんな運動がメンタルに効果的ですか?

ウォーキング・ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングのいずれにも効果が報告されています。うつ病の人を対象にした2024年の統合研究(218研究・14,170人)では、ウォーキング・ジョギングが −0.62、ヨガが −0.55、筋力トレーニングが −0.49 でした。種目間の優劣は確信度が低いため、続けやすい運動を選ぶのがおすすめです。

運動の効果はいつから出るのか|1回は直後から・継続は12週以内が山

運動がメンタルに与える効果を「1回か継続か」「個人か職場か」で分けた4象限の図

いつから効果が出るかは、「1回の運動」と「続けた場合」で答えが変わります。1回の運動では気分の変化が直後から起こり、続けた場合は8〜12週の取り組みで症状や職場の指標に差が出ています。

上の図は、この時間の軸に「個人の変化か、職場単位の変化か」という軸を重ねて、研究が示している範囲を4つに分けたものです。施策の説明資料を作るとき、どの象限の話をしているのかを先に決めておくと、期待値のずれを防げます。

1回の運動で気分は直後から変わり最長24時間続く

1回の運動の効果を整理した2017年の総説は、単発の運動が否定的な気分を和らげ、肯定的な気分を高めるとまとめています。その変化は運動の直後から起こり、終了後最長24時間続くと報告されています。

一方で、効果の大きさは控えめです。36の無作為化試験を統合した2015年の研究では、1回の運動による不安の低下は効果量0.16と「小さい」ものでした。大事な会議の前に10分歩くと気分が切り替わる、という程度の期待が妥当ですね。

(参考)Basso JC, Suzuki WA. The Effects of Acute Exercise on Mood, Cognition, Neurophysiology, and Neurochemical Pathways: A Review(Brain Plast. 2017) – PubMed Central(米国国立医学図書館)

(参考)Ensari I, et al. Meta-analysis of acute exercise effects on state anxiety(Depress Anxiety. 2015) – PubMed(米国国立医学図書館)

続けた場合の効果は12週以内の取り組みで最も大きい

Singhらの研究は、取り組みの期間別にも効果を比べています。うつ症状への効果は、12週以下の短期で −0.84、12〜23週で −0.46、24週以上で −0.28 と、期間が長いほど小さくなりました。著者は、短期で十分な効果が得られるため、長期の集中的なプログラムが必ずしも必要ではないと述べています。

日本の職場で行われた試験でも、8週間と10週間のプログラムで活気や対人ストレスの改善が確認されています。なお、「何週間目から効く」と週数を特定した一次情報は、公表された情報では確認できませんでした。社内では「まず8〜12週を1クールとして前後を比べる」と説明するのが、根拠の範囲に収まる伝え方です。

(参考)Singh B, et al. Effectiveness of physical activity interventions for improving depression, anxiety and distress(本文) – PubMed Central(米国国立医学図書館)

Q. 運動のメンタルへの効果はいつから出ますか?

1回の運動でも、気分の変化は直後から現れます。2017年の総説は、その効果が運動後最長24時間続くと報告しています。続けた場合は、12週以下の取り組みでうつ症状への効果が最も大きく(−0.84)、日本の職場の試験では8〜10週間で活気や対人ストレスが改善しました。

「運動でメンタルが強くなる・安定する」は不調の少なさとして読む

「運動するとメンタルが強くなる」「メンタルが安定する」という言い方は、研究の言葉に直すと「不調になりにくい」「不調の日が少ない」になります。打たれ強さそのものを直接測って確かめた研究は、公表された情報では確認できませんでした。

社内の健康セミナーや社内報でこの話題を扱うときは、次の3点に言い換えると、根拠から外れずに伝えられます。

「強くなる」は「うつになりにくい」と言い換える

「強くなる」にもっとも近い根拠は、発症予防のデータです。先ほどのPearceらの研究では、活動量が推奨量の人はうつのリスクが25%低く、半分の量でも18%低いという結果でした。

つまり、運動している人は「ストレスを感じなくなる」のではなく、「同じ環境でも不調に至りにくい傾向がある」と表現するのが正確です。精神論に聞こえやすいテーマだからこそ、数字で言い換えておくと受け手の納得感が変わります。

(参考)Pearce M, et al. Association Between Physical Activity and Risk of Depression(JAMA Psychiatry. 2022) – PubMed(米国国立医学図書館)

「安定する」は不調の日が月1.49日少ないという差で表れる

「安定」に近いのは、米国の18歳以上およそ120万人を調べた2018年の研究です。運動をしている人は、体の状態や社会的な属性の条件をそろえた運動をしていない人と比べて、過去1か月の「メンタルの調子が悪かった日」が1.49日(43.2%)少ないという結果でした。

種目別では、チームスポーツ(22.3%少ない)、サイクリング(21.6%)、有酸素運動・ジムでの運動(20.1%)で差が大きくなっています。ある時点の状態を比べた調査なので因果関係は示せませんが、仲間と一緒に行う運動で差が大きいという点は、職場単位の施策を考えるうえで参考になります。

あわせて読みたい運動処方×マインドフルネスで健康経営のメンタル対策›

(参考)Chekroud SR, et al. Association between physical exercise and mental health in 1·2 million individuals in the USA between 2011 and 2015(Lancet Psychiatry. 2018) – PubMed(米国国立医学図書館)

仕組みは「セロトニンが出るから」と決めつけず複数の経路で説明する

運動がなぜメンタルに効くのかについて、2019年の総説は、抗うつの仕組みは「まだ確立されていない」と述べています。候補として挙げられているのは、脳の神経の変化、炎症、ホルモンの働きに加えて、自尊感情、周囲からの支え、自己効力感といった心理・社会的な経路です。

厚生労働省のガイドも、身体活動によって神経成長因子や伝達物質の血中濃度が増えることが報告されている、という書き方にとどめています。また「運動でストレスホルモンのコルチゾールが下がる」という説明もよく見かけますが、2017年の総説は、一定以上の強さの運動ではコルチゾールがむしろ上昇すると整理しています。特定の物質だけで説明するより、「体・気持ち・人とのつながりの複数の経路が考えられている」と伝えるほうが正確です。

(参考)Kandola A, et al. Physical activity and depression: Towards understanding the antidepressant mechanisms of physical activity(Neurosci Biobehav Rev. 2019) – PubMed(米国国立医学図書館)

(参考)Basso JC, Suzuki WA. The Effects of Acute Exercise on Mood, Cognition, Neurophysiology, and Neurochemical Pathways: A Review(Brain Plast. 2017) – PubMed Central(米国国立医学図書館)

Q. 運動するとメンタルは強くなりますか?

「不調になりにくくなる」という意味では、そう言える根拠があります。191,130人を追跡した研究の統合では、推奨量の半分の運動でもうつのリスクが18%低いと報告されました。ただし、打たれ強さそのものを直接測って確かめた研究は確認できていません。

運動の限界を知り不調が続くときは受診を優先する

運動は万能ではなく、量を増やすほど良くなるわけでも、治療の代わりになるわけでもありません。施策として勧める側が限界を先に示しておくと、「運動しているのに良くならない」と本人が自分を責める事態を避けられます。

関連が最も大きいのは1回45分・週3〜5回の運動

米国の約120万人の研究で、メンタルの調子が悪い日の少なさと最も強く関連していたのは、1回45分・週3〜5回の運動でした。著者は「運動は多ければ多いほどよいわけではなかった」と結論に書いています。

厚生労働省のガイドも「“やりすぎ”の身体活動量はまだ明らかではありませんが、怪我や体調に注意して無理をしないことが大切です」としています。歩数ランキングのような競争型の施策では、上位者の量を称えるより、参加率や継続率を評価の軸にするほうが安全です。

(参考)Chekroud SR, et al. Association between physical exercise and mental health in 1·2 million individuals in the USA between 2011 and 2015(Lancet Psychiatry. 2018) – PubMed(米国国立医学図書館)

不安とストレスへの効果はうつより控えめに見積もる

うつに比べると、不安やストレスへの効果は研究によって結果が分かれています。ノルウェーの33,908人の追跡研究では、定期的な運動は将来のうつの少なさと関連しましたが、不安とは関連しませんでした。

職場での運動プログラムを調べた2014年のレビュー(17研究)も、うつや不安の軽減には根拠があるとしつつ、ストレス緩和への効果は「それほど決定的ではない」と結論づけています。ストレスチェックの数値をすぐ動かす手段として運動だけに期待するのではなく、仕事の量や人間関係への対策と並べて位置づけるのが妥当です。職場のうつ病予防にスポーツ活動を使う考え方も、あわせて確認しておくと設計しやすくなります。

(参考)Harvey SB, et al. Exercise and the Prevention of Depression: Results of the HUNT Cohort Study(Am J Psychiatry. 2018) – PubMed(米国国立医学図書館)

(参考)Chu AH, et al. Do workplace physical activity interventions improve mental health outcomes?(Occup Med. 2014) – PubMed(米国国立医学図書館)

治療中の人には主治医・産業医に相談してから運動を勧める

コクランのレビューが示すとおり、うつ病の治療としての運動は根拠の確実性が低く、長期の効果もはっきりしていません。すでに不調を抱えている社員に対して、運動を治療の代わりとして勧めるのは避けてください。

厚生労働省のガイドは、運動前の体調確認で「過労気味で体調が悪い」「睡眠不足で体調が悪い」などに1つでも当てはまる場合は、無理に運動をせず休養をとり、必要に応じて医療機関を受診するよう求めています。眠れない、食欲がないといった状態が続く社員には、まず産業医や医療機関への相談を案内し、運動は主治医と相談したうえで加える順番にしましょう。

(参考)Clegg AJ, et al. Exercise for depression(Cochrane Database Syst Rev. 2026) – PubMed(米国国立医学図書館)

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023(令和6年1月) – 厚生労働省

職場では昼休み10分・週3回の集団運動から始める

職場で運動をメンタル対策に使うなら、日本の職場で効果が確かめられた「昼休み10分・週3回・職場単位」の形から始めるのが近道です。厚生労働省の令和7年「労働安全衛生調査」では、仕事や職業生活で強いストレスを感じる事柄がある労働者は67.5%、メンタルヘルス不調で連続1か月以上休業または退職した労働者がいた事業所は13.5%でした。

個人の努力に任せるだけでは届かない規模なので、勤務時間の近くに運動の機会を置く設計が要になります。ウェルビーイング施策が失敗する理由と設計法で整理しているとおり、参加のハードルを下げることが施策の成否を分けます。

(参考)令和7(2025)年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 – 厚生労働省

昼休み10分・週3回・10週間で活気と対人ストレスが改善した

2017年に発表された日本の試験では、11の職場のホワイトカラー59人を、運動をする5職場(29人)としない6職場(30人)に無作為に分けました。運動をする職場では、ウォームアップ、頭を使うトレーニング、有酸素運動、筋力トレーニング、クールダウンを組み合わせた1日10分のプログラムを、昼休みに週3回、10週間続けています。

10週間後、運動をした職場では、職業性ストレス簡易調査票の「活気」「対人ストレス」「上司・同僚・家族や友人からの支援」「仕事の満足度」が改善しました。参加回数が多い人ほど活気の伸びが大きいという関係も確認されています。この試験は厚生労働省のガイドにも職場の取り組み事例として掲載されています。小規模な試験であり、抑うつや不安そのものの改善は報告されていない点は押さえておきましょう。

あわせて読みたいスポーツでメンタルヘルスを守る職場施策2026年版|人事向け実践ガイド›

(参考)Michishita R, et al. The practice of active rest by workplace units improves personal relationships, mental health, and physical activity among workers(J Occup Health. 2017) – PubMed(米国国立医学図書館)

8週間のプログラムではプレゼンティーイズムの指標が改善した

同じ研究グループは、労働者130人(運動をする66人、しない64人)を職場単位で無作為に分けた試験も行っています。1日10分・昼休み・週3〜4回の運動を8週間続けた結果、運動をした職場では、ワーク・エンゲイジメントの「活力」と、体調不良による仕事への支障を測る尺度(WFun)が改善しました。

出勤しているのに本来の力を出せない状態はプレゼンティーイズムと呼ばれ、健康経営で重視される指標です。10分という短さでも職場単位で行えば指標が動く、という点が実務上の収穫ですね。

(参考)Michishita R, et al. The Introduction of an Active Rest Program by Workplace Units Improved the Workplace Vigor and Presenteeism Among Workers(J Occup Environ Med. 2017) – PubMed(米国国立医学図書館)

勤務先に運動の取り組みがある人の実施率は71.1%

スポーツ庁の令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(18〜79歳の40,000人が回答)によると、勤務先に運動・スポーツを活用した取り組みがある就業者の週1日以上の実施率は71.1%で、ない就業者の45.2%を25.9ポイント上回りました。ただし、もともと運動する人が多い会社ほど取り組みがあるという可能性もあり、因果関係とは言い切れません。

同じ調査で、取り組みを実施している勤務先は21.3%にとどまる一方、希望する人は32.1%でした。希望する内容の1位は「職場での勤務時間中の運動・スポーツプログラムの実施」(26.4%)です。運動を増やせない理由の1位が「仕事が忙しいから」(26.5%)であることを考えると、終業後のイベントよりも、昼休みや勤務時間中の10分のほうが参加しやすいと読み取れます。

(参考)令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します(令和8年3月11日) – スポーツ庁

効果は「活気・対人ストレス・仕事の満足度」を前後で測る

導入するときは、開始前と8〜10週後に同じ質問で測ることを最初に決めておきましょう。先ほどの2つの試験が物差しにしたのは、職業性ストレス簡易調査票とWFunです。社内で同じ調査票をすでに使っているなら、新しいアンケートを作らずに、参加した職場と参加していない職場を比べられます。

測る項目を「うつ」や「高ストレス者の割合」にすると、短期では差が出にくく、施策が打ち切られやすくなります。試験で実際に動いた「活気」「対人ストレス」「仕事の満足度」を見るほうが、根拠と整合します。スポーツとメンタルヘルスの効果を3段階で測る方法も参考に、測定の設計を先に固めてください。

まとめ|運動とメンタルは「少量から・職場単位で・前後を測る」

運動とメンタルの関係について、一次情報から言えることを振り返ります。

  • 運動がうつ・不安の症状を軽くし、うつの発症リスクを下げることは、厚生労働省のガイドと大規模な統合研究の両方が認めている
  • 効果は推奨量の半分から現れるため、運動習慣のない社員には「ゼロを少しに」する設計が合う
  • 気分の変化は1回の運動の直後から起こり、続けた場合は8〜12週を1クールとして前後を比べる
  • 不安やストレスへの効果はうつほど一貫せず、治療の代わりにはならないため、不調が続く人には受診を優先して案内する
  • 職場では昼休み10分・週3回の集団運動から始め、活気・対人ストレス・仕事の満足度を同じ調査票で測る

まずは1つの部署で、昼休みの10分を8週間試してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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