パワハラを避ける部下指導の4つの手順|スポーツのコーチング学から

パワハラを避ける部下指導の4つの手順|スポーツのコーチング学から ソリューション
SOLUTION|人材育成 × 組織開発

パワハラと言われるのが怖くて、部下に注意できない。そんな管理職の迷いを、注意の手順で解きます。スポーツのコーチング学の研究をもとに、理由を伝え、相手の見方を聞き、次の行動を選んでもらう4つの手順と、厚生労働省の指針に沿った線引きの目安を、御社の場面に合わせて作ります。

人材育成管理職育成ハラスメント防止組織開発

このプログラムについて相談する

対象となるお客さま

  • 管理職の指導力を高めたい企業の経営者・事業責任者
  • ハラスメント防止と人材育成を担う人事・研修の担当者
  • 部下を持ち、注意の仕方に迷っている管理職

よくあるお悩み

  • パワハラを恐れて、管理職がミスを指摘しなくなった
  • 注意したら「それはパワハラでは」と言われた
  • ハラスメント研修をしても、現場の指導が変わらない
ISSUE

課題|企業の59.6%が「ハラスメントかどうかの判断が難しい」と答えている

部下指導の手順設計プログラム|ハラスメントの判断に迷う企業の割合と、取組への評価別の部下への指導のしやすさ

部下のミスに気づいても、「これを言ったらパワハラと言われるかもしれない」と考えて言葉を飲み込む。この迷いは、管理職一人ひとりの気の弱さではなく、企業全体の悩みとして数字に出ています。厚生労働省の委託でPwCコンサルティング合同会社が行った「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度。企業は2023年12月、労働者は2024年1月に調査)では、ハラスメントの予防・解決に取り組んでいる企業7,475社のうち59.6%が、取組を進める上での課題に「ハラスメントかどうかの判断が難しい」を挙げました。課題の中で最も多い回答です。

一方で、線を越える指導もなくなっていません。同じ調査で、過去3年間に勤務先でパワハラを受けたと答えた労働者は8,000人のうち19.3%でした。受けた内容は「脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)」が48.5%で最も多く、行為者は「上司(役員以外)」が65.7%です。注意をためらうことと、言い過ぎてしまうことの両方が、同じ「指導」の場面で起きています。

部下への指導のしやすさは、勤務先の取組への評価で大きく分かれました。勤務先が「積極的に取り組んでいる」と答えた人では「改善された」が30.3%、「悪化している」が5.7%でした。「あまり取り組んでいない」と答えた人では「改善された」が4.2%、「悪化している」が18.3%です。ハラスメント対策そのものが指導を難しくしているとは言えず、問われているのは対策の中身です。

(参考)令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版) – 厚生労働省(調査実施者:PwCコンサルティング合同会社)

CAUSE

原因|禁止事項は伝わっても、注意の仕方が決まっていない

部下指導の手順設計プログラム|管理職が注意をためらう3つの原因と、パワハラ防止指針が示す精神的な攻撃の例

管理職が注意をためらうのは、パワハラの線引きが分からないからだけではありません。線の手前で、どう注意すればよいかの手順が決まっていないからです。

  • 学ぶのが禁止事項だけ:パワハラに当たる例は知っていても、ミスや遅刻をその場でどう伝えるかは決めていない。
  • 注意の理由を言葉にしていない:なぜ直す必要があるのかを伝えないまま、言い方の強さで伝えようとする。
  • 判断を管理職一人に任せている:迷った場面を相談する先も記録もなく、黙るか、ため込んで一度に強く言うかの両極端になりやすい。

厚生労働省のパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号。令和8年厚生労働省告示第53号による改正後の内容が2026年10月1日から適用)は、パワハラを「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3つをすべて満たすものとし、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は該当しないとしています。精神的な攻撃に当たると考えられる例は、人格を否定する言動、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責の繰り返し、他の労働者の面前での大声での威圧的な叱責の繰り返しなどです。反対に、再三注意しても遅刻などが改善されない労働者に一定程度強く注意することは、該当しないと考えられる例に挙げられています。

つまり線は「注意するかどうか」ではなく、「何のために、どんな言い方・長さ・場所で注意するか」に引かれています。ここを手順にすれば、注意そのものをためらう理由は減らせます。

(参考)事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号) – 厚生労働省

(参考)労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について(令和8年4月24日 雇均発0424第2号) – 厚生労働省

SPORTS INSIGHT

スポーツ知見|コーチング学では、理由を示して選ばせる指導が選手の意欲と結びつく

部下指導の手順設計プログラム|コーチング学のメタ分析が挙げる自律性支援型の指導の6つの行動と、職場との違い

スポーツのコーチング学では、コーチの指導を「自律性支援型」と「統制型」に分けて研究してきました。自律性支援型は、決められた範囲で選択肢を示し、練習の理由と限度を説明し、選手の気持ちや見方を受け止め、能力に目を向けたフィードバックを返す関わり方です。統制型は、威圧や圧力、権威によって選手の考えや行動を縛る関わり方を指します。

ラ・トローブ大学とメルボルン大学(オーストラリア)の研究者が2022年に「International Review of Sport and Exercise Psychology」誌に発表したメタ分析(複数の研究結果を統合する分析)は、131の標本、のべ38,844人のデータをまとめました。コーチの自律性支援は選手の自律的な意欲と正の相関があり(ρ=.39。ρは相関の強さで、1に近いほど強い)、心身の健康とは正、苦痛とは負の関係にありました。この関係は集団主義の文化圏でも個人主義の文化圏でも強く、競技の種類による差も見られませんでした。

指導の仕方は、あとから身につけられることも分かっています。2019年に「Journal of Sport & Exercise Psychology」誌に掲載されたRaabeらの系統的レビュー(決まった手順で研究を集めて評価する方法)は、体育教師と育成年代のコーチに自律性支援を身につけてもらう介入研究21件を調べ、介入によって指導の行動が変わった例が多いと報告しています。

(参考)Autonomy support in sport and exercise settings: a systematic review and meta-analysis(2022) – International Review of Sport and Exercise Psychology(Mossman ほか)

(参考)The Effectiveness of Autonomy Support Interventions With Physical Education Teachers and Youth Sport Coaches: A Systematic Review(2019) – Journal of Sport & Exercise Psychology(Raabe ほか)

ただし、試合と仕事は同じではありません。これらの研究が調べたのは選手や運動の参加者、体育教師と育成年代のコーチで、会社の上司と部下ではありません。メタ分析に含まれた研究の約76%は一時点の調査で、指導の仕方が意欲を高めたという因果までは言い切れません。また職場の指導は、評価や処遇、パワハラ防止の法令と結びついています。そのため、注意の手順は指針の基準(業務上の必要と、言い方の相当性)に合わせて組み立て、1つの部署で試し、部下へのアンケートと記録で効果を確かめてから広げます。

SOLUTION

解決策|注意を4つの手順で組み立てる

部下指導の手順設計プログラム|注意を組み立てる4つの手順と、それぞれで避ける言い方

注意する回数を減らすのではなく、注意の組み立て方を変えます。管理職がその場で言い方を考えるのではなく、いつも同じ手順で伝えられるようにします。

  • 事実を伝える:見た行動と、その結果を具体的に伝える。人柄や能力の評価は口にしない
  • 理由と基準を伝える:なぜ直す必要があるのか(お客さま・品質・安全・周りの仕事への影響)と、求める基準を伝える
  • 相手の見方を聞く:事情や受け止めを先に聞き、言い分は最後まで聞く
  • 次の行動を選んでもらう:基準と期限は上司が決め、やり方は本人に選んでもらう。決めたことは記録する

いちばん省かれやすいのが2つ目の理由です。理由を言わずに直させようとすると、言い方の強さに頼ることになります。理由と基準を言葉にすることは、その注意が業務に必要であることを、相手と確かめ合うことでもあります。

APPROACH

進め方|1つの部署の管理職から試し、管理職研修に組み込む

部下指導の手順設計プログラム|診断・設計と試行・定着の3つのフェーズで、やること・役割分担・期間の目安

最初から全社の管理職に広げると、手順が紙のまま終わりがちです。まず1つの部署の管理職数名で、実際の注意の場面に当てはめてから広げます。

診断では、管理職へのアンケートと聞き取りで、注意をためらった場面と言い過ぎた場面を集めます。相談窓口や人事に寄せられた事例も、個人が分からない形で整理します。設計・試行では4つの手順と線引き表を作り、1つの部署で3か月使いながら、記録シートとロールプレイで直していきます。定着ではほかの部署に広げ、管理職研修と月次レビューに組み込みます。

期間は目安です。診断だけ、1つの部署だけといった始め方もご提案します。Human Soarは調査・手順と様式の作成・ロールプレイと月次レビューの進行を担い、御社には対象部署の決定と、人事・相談窓口との連携をお願いします。個別のハラスメント事案の調査や判断は、御社の相談窓口と専門家の対応を優先します。

OUTPUT

成果物|注意の手順カードから月次レビューの手順まで4つを残す

部下指導の手順設計プログラム|4つの成果物と、それぞれを使う場面のつながり

成果物はどれも御社の実際の場面をもとに作り、支援が終わっても社内で使い続けられる形にします。

最初に作るのが「注意の手順カード」です。4つの手順ごとに、使える言い方と避ける言い方を並べたもので、管理職が注意の前に見返します。あわせて「言い方の線引き表」を作ります。指針の該当する例・しない例を、御社でよく起きる場面(遅刻、提出の遅れ、品質のミスなど)に置き換え、言い方・長さ・場所の目安を示します。

運用に入ったら、管理職は注意のたびに「注意の記録シート」へ、事実・理由・本人の見方・決めた行動を残します。記録は、あとで指導の経緯を説明するときの材料にもなります。最後に、記録とアンケートをもとに手順を見直す「月次レビューの運用手順」を、新任管理職向けのロールプレイの台本とあわせて整え、社内だけで回せるようにします。

VALUE

期待できる効果|管理職・部下・人事の3つが変わる

部下指導の手順設計プログラム|管理職・部下・人事の3つの効果と、指導の仕方を見直す時期かを確かめるセルフチェック

管理職は、注意の手順と線引きの目安があるので、迷ったまま黙ることが減ります。部下は、何をなぜ直すのかが分かり、やり方を自分で決められます。人事は、記録をもとに管理職を支援でき、強すぎる指導の兆しにも早く気づけます。

見る数字は、管理職アンケートの「部下への指導のしやすさ」と、注意を受けた部下が「理由が分かった」と答えた割合の2つです。前者だけが上がって後者が上がらなければ、言いやすくなっただけで伝わってはいないことが分かります。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、指導の仕方を見直す時期です。

COMMENT

Human Soarからのコメント

コーチング学の研究が示しているのは、基準をゆるめることではなく、理由を伝えて本人に選ばせる指導でした。注意をやめるのでも、強く言うのでもない、3つ目のやり方があります。管理職が安心して注意でき、部下が納得して動ける手順を、御社の場面に合わせて一緒に作ります。

FAQ

よくあるご質問

Q. 強く注意すると、すべてパワハラになりますか?

すべてがパワハラになるわけではありません。厚生労働省の指針は、再三注意しても遅刻などが改善されない労働者に一定程度強く注意することを、該当しないと考えられる例に挙げています。一方で、人格を否定する言動や、他の労働者の前で大声で威圧的に叱ることを繰り返すのは、該当すると考えられる例です。個別の事案は事情によって判断が変わるため、迷うときは相談窓口や専門家に確認してください。

Q. 部下にやり方を選ばせると、指導が甘くなりませんか?

甘くはなりにくいです。求める基準と期限は上司が決め、本人が選ぶのはやり方だけだからです。コーチング学のメタ分析でも、自律性支援は、期待や基準をはっきり示す関わりと強く結びついていました。基準を下げずに、本人が自分で動ける余地をつくる手順です。

Q. すでにパワハラの相談が出ている部署でも使えますか?

使えますが、まず個別の相談への対応を優先します。事実関係の確認や判断は、御社の相談窓口と専門家が行う領域です。そのうえで、再発を防ぐための取組として、対象部署の管理職と注意の手順をつくる形をご提案します。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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