取引先に排出量を聞かれたのに、何から始めればよいか決まらない。Jリーグが全60クラブで進める段階的な算定の順序を中小企業の規模に置き換え、請求書からの見える化、重点の決定、取引先への回答、年次レビューまでを整えます。
対象となるお客さま
- 取引先から排出量の報告や削減の協力を求められた中小企業の経営者
- 脱炭素の担当を任された総務・工場管理・営業の担当者
- 省エネは進めているものの、数字で説明できていない事業責任者
よくあるお悩み
- 脱炭素を何から始めればよいか分からない
- 何が排出量の対象で、どう計算するのかが分からない
- 取引先ごとに聞かれる内容が違い、答える数字がそろわない
課題|取引先の要請は約2割、排出量を測る企業は約4社に1社
取引先から突然、排出量を聞かれる。ところが社内に集計した数字がなく、電気やガスの請求書を集めるところから始まる。中小企業の脱炭素では、こうした場面が現実の課題になっています。
日本商工会議所と東京商工会議所の2025年度調査(2025年4月24日〜5月27日、1,828社が回答)では、取引先から脱炭素に関する要請を受けている企業は21.3%でした。内容で最も多いのは排出量の把握・測定(Scope1・2など)の10.0%で、削減目標の設定・進捗報告が7.3%、製品・サービス単位の排出量の把握が4.2%と続きます。
一方で、エネルギー使用量や排出量の把握・測定に取り組む企業は26.0%です。業種の差も大きく、製造業は44.4%でした。要請を受けている企業のうち、取引先から支援を受けていない企業は74.1%にのぼります。この調査は商工会議所を通じて依頼したもので、中小企業全体の割合を示す数字ではありません。
要請の広がりは別の調査にも表れています。経済産業省の資料によると、2025年版の中小企業白書で、取引先から排出量の計測やカーボンニュートラルへの協力を要請された中小企業の割合は、2023年の8.5%から2024年の12.0%に増えました。環境省も、Scope3(自社の燃料と電気以外の間接的な排出)を算定・開示する企業が、取引先に排出状況を求める例が増えていると説明しています。
(参考)2025年度 中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査 集計結果(2025年7月) – 日本商工会議所・東京商工会議所
原因|測る範囲を決めないまま、費用と設備の話から入っている
脱炭素への関心が低いことだけが理由ではありません。原因は次の3つです。
- 測る範囲と方法が決まっていない:脱炭素の取り組みを行っていない企業(569社)では、「排出量の具体的な算定方法が分からない」「何が算定の対象になるのか分からない」がどちらも20.0%でした。「メリット・意義が感じられない」も31.5%あります。
- 費用と設備の話から入る:ハードルで最も多いのは「費用・コスト面の負担が大きい」の64.5%です。実際の取り組みも、省エネ型設備への更新(35.7%)と運用改善による省エネ(34.5%)が中心です。先に測っていないと、どの設備から手を付けるか、効果がどれだけあったかを数字で説明しにくくなります。
- 担当と相談先が定まらない:「マンパワー・ノウハウが不足している」は35.8%です。取り組みを行っている企業(1,259社)の相談先は設備機器メーカー(31.4%)と電力・ガス会社(28.7%)が多く、「相談はしていない」も24.7%ありました。社内で数字をまとめる人が決まらないと、取引先に聞かれるたびに集計をやり直すことになります。
(参考)2025年度 中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査 集計結果(2025年7月) – 日本商工会議所・東京商工会議所
スポーツ知見|Jリーグは全60クラブの基準をそろえ、Scope1・2から測り始めた
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の「Sports for Climate Action Framework」は、2018年にIOCとの連携で設けられた枠組みです。署名団体向けの案内資料では、署名から6か月以内に排出量を測り、12か月以内に計画を出し、毎年報告するという順序を求めています。目標は2030年までに排出量を50%削減、2040年までにネットゼロ(排出が差し引きゼロの状態)です。Scope3は、排出全体に占める割合が大きく、データで十分に測れる項目を対象とするとしています。
Jリーグは2023年に気候アクションを始め、2024年2月にロードマップを公表し、2025年7月にこの枠組みへ署名しました。進め方の特徴は次の3つです。
- 基準を先にそろえる:全クラブが同じ基準で算定・開示・削減に取り組めるよう、外部の専門企業と連携して排出量算定ガイドラインを作り、各クラブへ展開しました。
- Scope1・2から測る:ハンドブックでも、まず直接排出と電力使用から始め、徐々にScope3へ広げる進め方を示しています。リーグでは2025年からScope1・2の算定を始め、Scope3は2026年度から算定を始めるとしています。
- 内訳から重点を見つける:2025年度のScope1・2は、リーグと全60クラブの合計で19,141t-CO2でした。クラブ運営で使う電気が56%、社用車のガソリン・軽油が26%です。公式試合の電力は証書などで実質再生可能エネルギーにしており、この算定では0としています(全国平均の排出係数で計算すると2,916t-CO2)。
(参考)Sports for Climate Action on the Race to Zero: Information Pack – UNFCCC
(参考)「Sports for Climate Action Framework」への署名について(2025年7月15日) – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ
(参考)Jリーグ インパクトレポート2025 – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ
(参考)Jリーグ気候アクションハンドブック(2025年6月27日) – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ
ただし、試合と仕事は同じではありません。スポーツ団体には試合の開催やチームの移動があり、排出の形が中小企業とは違います。リーグには専門企業と組んで全クラブに基準を配る体制がありますが、中小企業には人手も測定の仕組みもありません。またJリーグの算定は2025年度に始まったばかりで、この順序によって排出がどれだけ減るかはまだ確かめられていません。そこで借りるのは、基準をそろえて電気と燃料から測り、毎年更新する順序だけです。2030年や2040年の目標は写さず、取引先の要請と自社の排出源から目標を決めます。
解決策|請求書から測り、重点を決め、同じ数字で取引先に答える
最初に大きな設備を入れることはしません。環境省のハンドブックが示す「知る・測る・減らす」の順に沿って、社内で続けられる形に整えます。
- 請求書から測る:まず全社の電気・ガス・燃料の使用量を12か月分集めます。排出量は使用量に排出係数を掛ければ計算でき、日本商工会議所の無料の「CO2チェックシート」も使えます。最初から完璧な算定を目指さず、主な排出源を見つけるところから始めます。
- 重点を決める:拠点別・用途別に分け、排出の多い順に並べます。運用改善のようにすぐできる対策から始め、設備投資は投資対効果と補助制度の可否を見て時期を決めます。
- 回答をそろえる:取引先の質問が全社の排出量か、削減目標か、製品単位かを切り分けます。回答には対象の年度、算定した範囲、使った排出係数、未算定の範囲を必ず書き、誰が答えても同じ数字になるようにします。
- 毎年更新する:年に1回、同じ時期に数字を更新し、前年と比べます。排出係数も毎年変わるので、どの年度の係数かを残します。Scope3は取引先の要請があり、データが取れる項目から広げます。
進め方|請求書1年分で測り、最初の年次レビューまで一緒に進める
全社の排出量を細かく調べてから動くと、取引先への回答に間に合いません。まず手元の請求書で全体の大きさをつかみ、精度はあとから上げます。
診断では、取引先から届いている要請を整理し、測る範囲を決めて請求書を集めます。設計・試行では、見える化シートで算定し、重点の決定表と回答の様式を作り、実際の問い合わせで使ってみます。定着では、1年間の運用のあとに年次レビューを社内の担当者と一緒に行い、次の年から社内で回せるようにします。
期間は目安です。診断だけ、回答の様式だけといった始め方もご提案します。Human Soarは様式の用意・聞き取り・算定の確認・文書化を担い、御社には請求書の共有、担当者の指名、取引先への回答をお願いします。
成果物|担当者が替わっても社内で更新できる4つの様式
成果物は、御社の実際の請求書と取引先の質問をもとに作ります。
最初に作るのが「排出量の見える化シート」です。経理や総務の担当者が月ごとに電気・ガス・燃料の使用量を入れると、拠点別の排出量が分かります。次に、経営者と現場の責任者が使う「重点の決定表」を作ります。排出源ごとに排出量、対策、すぐできるか、投資が要るか、担当者を1枚にまとめ、短期・中期・長期に分けます。
取引先に聞かれたときは「取引先への回答様式」を使います。営業や総務の担当者が、対象の年度と算定の範囲、排出係数、未算定の範囲をそのまま書き写して答えられます。最後に「年次レビューの手順」を整え、毎年の更新、前年との比較、Scope3へ広げるかの判断を社内で進められるようにします。
期待できる効果|経営・営業・担当者が同じ数字で話せるようになる
経営にとっては、どこに投資するかを排出量と対策の一覧をもとに判断できるようになります。営業や調達の担当者は、取引先に聞かれたときに、根拠を示して答えられます。総務や現場の担当者は、問い合わせのたびに請求書を集め直す手間から離れられます。
見る数字は「取引先からの問い合わせに回答するまでの日数」です。もう1つ「重点の決定表に載せた対策のうち、実施した数」を見ると、測るだけで終わっていないかが分かります。排出の削減量は業種や設備で変わるため、あらかじめ約束はできません。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、進め方を見直す時期です。
Human Soarからのコメント
脱炭素と聞くと、大きな設備投資や難しい計算を思い浮かべるかもしれません。ですが最初に要るのは、手元の請求書と、数字をまとめる担当者です。全60クラブに同じ基準を配ったJリーグの進め方は、順番を決めれば小さな組織でも動き出せることを教えてくれます。御社の請求書を一緒に見ながら、取引先に説明できる最初の数字を作ります。
よくあるご質問
Q. Scope3まで測らないと、取引先に回答できませんか?
まずはScope1・2で回答できるかを取引先に確かめます。要請の内容には、全社の排出量、削減目標と進捗、製品単位の排出量などがあり、必要な数字が違うためです。Scope3を求められたときは、算定した範囲と未算定の範囲を分けて回答し、データが取れる項目から広げます。
Q. 排出量の算定や報告は、法律上の義務ですか?
温対法の報告義務の対象は、全事業所のエネルギー使用量の合計が原油換算で年1,500kl以上の事業者などです。対象外の企業でも、取引先との契約や取引条件で求められることがあります。自社が対象か、契約上どう扱うかの個別の判断は、所管の窓口や専門家にご確認ください。
Q. 設備の更新に補助金は使えますか?
対策によっては国や自治体の補助制度の対象になります。ただし制度の内容や募集の時期は年度や地域で変わるため、環境省の案内や自治体の窓口で最新の要件を確かめます。支援では、測った結果から重点を決め、検討する制度の候補を重点の決定表に書き添えます。
FREE DOCUMENT
関連する資料を無料でダウンロード











コメント