ジムには週4回通って登り込んでいるのに、跳びつく動きだけはどうしても決まらない。得意なことを続けているだけでは埋まらない差を、森秋彩選手はパリオリンピックの決勝で突きつけられました。
結論から言うと、森秋彩選手の現在のトレーニングは、クライミングジムでの練習が週4回ほど、パーソナルトレーニングジムでの筋力トレーニングが週1回です(2026年9月公開の本人インタビュー)。この記事では、16歳から現在までの練習の変化、苦手を分析した方法、食事と休養、そして社員の育成に移せる考え方を、本人の発言と公的な資料をもとに整理します。
森秋彩のトレーニングは週4回の登りと週1回の筋トレ

森秋彩選手は2026年3月に筑波大学を卒業し、大学院への進学は見送って競技に専念しています。専門誌CLIMBERSが2026年9月に公開したインタビューで、本人は「週に4回ほどクライミングジムに行って、週に1回はパーソナルトレーニングジムで筋力トレーニングをしています」と話しました。
卒業して変わったのは、練習する時間帯と場所です。学生のころは都内のジムへ行けるのが週末に1回あるかどうかでしたが、今は週2回ほど通い、空いている昼間に練習しています。本人は、練習の濃度が上がったと振り返っています。
都内へ出向く目的は、苦手な動きを含む課題を探すことです。登り切って終わりにせず、設定者が想定した動きで登り直す反復練習をしていると語っています。得意な登り方で解決できてしまう課題を、あえて苦手な動きでやり直しているわけです。
クライミングジムという場所そのものの広がりは、クライミングジム運営10社の比較でまとめています。
(参考)インタビュー 森秋彩「自分を信じて優勝したい」競技専念の理由とアジア大会への思い(2026年9月24日) – CLIMBERS
Q. 森秋彩選手は週に何回トレーニングしていますか?
クライミングジムでの練習が週に4回ほど、パーソナルトレーニングジムでの筋力トレーニングが週に1回です。2026年9月公開のCLIMBERSのインタビューで本人が話しています。大学を卒業した2026年3月以降は、空いている昼間に練習できるようになりました。
森秋彩のトレーニングは4つの時期で中身が変わった
森選手の練習は、登る量を重ねる時期から、苦手を分析する時期、学業と両立する時期を経て、筋力を足す現在へと移ってきました。本人が各時期のインタビューで語った内容を、時期ごとに並べます。
| 時期 | 練習の中心 | 本人が語った内容 |
|---|---|---|
| 2019年(16歳) | 登り込みと基本の筋トレ | 限界に近いグレードを約10本、落としてさらに約10本 |
| 2021〜2022年(高校3年) | 動作分析と短時間集中 | 週4日、平日3〜4時間・土日5〜6時間 |
| 2022〜2026年3月(大学在学中) | 学業との切り分け | 授業中は勉強、帰宅後はクライミング |
| 2024年夏〜現在 | 筋力強化を追加 | ジム週4回+筋力トレーニング週1回 |
森秋彩選手のトレーニングの移り変わり(出典:CLIMBERS 2019年12月収録・2022年3月収録・2026年9月公開、山と溪谷オンライン 2022年4月、THE ANSWER 2023年9月の各インタビューでの本人発言。Human Soarが時期ごとに整理。年齢・学年は各記事の時点)
2019年|限界に近いグレードを10本登ってさらに10本
16歳のころの持久力トレーニングは、量で押す内容でした。2019年12月収録のCLIMBERSのインタビューで本人は、リードで限界に近いグレードを10本ほど登り、疲れてきたらグレードを落として、休む間隔を詰めながらさらに10本ほど登ると説明しています。
疲れてから登る練習を好む、とも話していました。同じ年にワールドカップへ参戦してからは、懸垂や腹筋といった基本的な筋力トレーニングを以前より行うようになったそうです。
2021〜2022年|練習を短時間集中に切り替えた
高校3年のときは、週4日ほど登り、平日は3〜4時間、土日は5〜6時間という練習量でした。山と溪谷オンラインの取材(2022年4月掲載)では、長くやるより短時間で集中したほうが自分に合うと気づいた、と語っています。
きっかけは、試合前に追い込みすぎてコーチに注意されたことでした。それからは、全力を出せるうちだけ練習し、疲れたら帰るようにしたといいます。この時期は筋力トレーニングをほぼ行わず、登ることに絞っていました。
2022〜2026年3月|授業と練習をはっきり切り分けた
2022年4月に筑波大学の体育専門学群へ進んでからは、学業との両立が課題になりました。THE ANSWERの取材(2023年9月)によると、大学2年のころは朝8時半から午後4時半ごろまで授業が詰まっていました。
本人が挙げた両立のコツは、切り分けです。授業中は勉強、帰宅後はクライミングと分け、どちらも中途半端になるのが一番良くないと話しています。茨城県のスポーツ情報サイトによれば、在学中は教職課程も履修していました。
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2024年夏〜現在|下半身から始めて上半身も鍛える
パリオリンピックのあと、本格的な筋力強化が始まりました。2026年9月公開のインタビューで本人は、ジャンプ力に課題があったので最初は太ももなど下半身が中心だったと説明しています。その後、上下のバランスを取るために上半身も鍛えるようになりました。
効果として挙げたのは、自分の体の使い方が分かるようになったことです。一方で、リードの強みである持久力は失わない方針を、トレーナーと共有しているとも語っています。強みを残したまま弱みを足す、という順番です。
(参考)独占インタビュー 森秋彩 努力の天才(2019年12月収録) – CLIMBERS
(参考)スポーツクライミング、トップアスリートの思考。森 秋彩さんの「強さの秘密」~『山と溪谷』4月号スペシャル・インタビューより(2022年4月4日) – 山と溪谷オンライン
(参考)高卒プロではなく大学に進学した理由 五輪内定のクライミング森秋彩、「文武両道」で得る学びとは(2023年9月12日) – THE ANSWER
(参考)インタビュー 森秋彩「自分を信じて優勝したい」競技専念の理由とアジア大会への思い(2026年9月24日) – CLIMBERS
(参考)パリ、そしてその先に向かって—— スポーツクライミング・森秋彩選手・楢崎智亜選手インタビュー – 茨城県スポーツ情報ポータルサイト Spoiba(茨城県政策企画部スポーツ推進課)
苦手のランジは約3カ月の動作分析で改善した
森選手は高校3年のとき、苦手な跳びつきの動き(ランジ)を自分で撮影して分析し、改善につなげました。筑波大学の入試に向けたレポートとして、約3カ月かけた取り組みです。
CLIMBERSのインタビュー(2022年3月収録)によると、方法はこうです。体の至るところにシールを付けて映像を撮り、成功したときと失敗したときのデータをたくさん集め、約0.03秒刻みに細かく分けて比べました。本人はこれを「自己流のスポーツバイオメカニクス」と呼んでいます。
比べて分かったのは、3つの違いでした。動き出しの速さ、壁と腰の距離、そして上半身と下半身の連動のずれです。そこを意識して練習したところ、実際に改善できたと話しています。山と溪谷オンラインの取材でも、入試の課題を「苦手克服のためのムーブ解析」というテーマで書いたと語っていました。
ここで押さえたいのは、特別な設備を使っていない点です。国はトップ選手向けに、国立スポーツ科学センター(JISS)で動作分析や映像技術のサポートを行う事業を設けています。森選手が高校時代に行ったのは、その考え方を身近な道具で再現した取り組みでした。なお、森選手がJISSの支援を受けたかどうかは公表されていません。
動きを映像で比べて数値にする考え方は、スポーツ科学の一分野として体系づけられています。学問としての全体像はスポーツ科学の定義と6領域で紹介しています。
(参考)独占インタビュー 森秋彩 – Going My Way – 天才少女の新たな船出(2022年3月収録) – CLIMBERS
(参考)スポーツクライミング、トップアスリートの思考。森 秋彩さんの「強さの秘密」~『山と溪谷』4月号スペシャル・インタビューより(2022年4月4日) – 山と溪谷オンライン
(参考)トップアスリートのための強化・研究活動等のための拠点を構築する – スポーツ庁
Q. 森秋彩選手はどのように動作分析をしたのですか?
体の至るところにシールを付けて映像を撮り、成功したときと失敗したときを約0.03秒刻みで比べました。高校3年のとき、筑波大学の入試に向けたレポートとして約3カ月かけて行ったものです。動き出しの速さ、壁と腰の距離、上半身と下半身の連動のずれが分かったと本人が語っています。
パリ五輪で届かなかったスタートが筋力強化の出発点
筋力トレーニングを本格的に始めたきっかけは、2024年8月10日のパリオリンピック決勝です。森選手は総合4位で、リードは出場選手中1位の96.1点でした。一方、ボルダーの第1課題ではスタートの位置へ跳びつく動きが届かず、得点を挙げられませんでした。
この結果を、本人は課題の設定のせいにしていません。JBpressの取材(2024年10月)で、技術があればできたはずで、単なる実力不足だったと思うと話しています。体格で不利な分は、自分が合わせて実力をつけていくしかない、とも語りました。日本山岳・スポーツクライミング協会の選手情報では、身長は154cmです。
その後の2年間で、結果は変わってきました。2026年4月のアジア選手権ではボルダーとリードの2種目で優勝し、同年10月の愛知・名古屋アジア大会では2種目とも銀メダルでした。2026年9月公開のインタビューでは、パリのあの課題について「少なくともスタートはできるかなと思います」と述べています。
次の目標も明言しています。2026年4月の記者会見で、一番の目標はロサンゼルスオリンピックのリード種目での優勝だと話しました。出場する大会を絞り、慣れた環境で準備を続ける方針です。
(参考)森は総合4位もリードで圧巻の登り ガンブレットが五輪連覇【パリ五輪|女子ボルダー&リード】(2024年8月10日) – CLIMBERS
(参考)「今となってはよかったな」パリ五輪で注目されたスポーツクライミング・森秋彩、大舞台で得た悔しさと喜び(2024年10月18日) – JBpress autograph
(参考)選手情報 森 秋彩 – 公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会
(参考)アスリート 森 秋彩 – 公益財団法人日本オリンピック委員会
(参考)安楽宙斗と森秋彩、異なるアプローチで2026シーズンへ 都内で記者会見(2026年4月22日) – CLIMBERS
Q. 森秋彩選手の身長は何cmですか?
154cmです。公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会の選手情報に記載されています。パリオリンピック決勝ではスタートに届かない課題がありましたが、本人は実力不足だったと振り返り、その後に筋力強化を始めました。
森秋彩の食事と休養は制限よりも続けやすさを選ぶ
食事と休養について、森選手は厳しい制限を設けていません。続けられる形を選んでいる点が、練習の考え方と共通しています。
食事は制限せず栄養士の助言で献立を組む
山と溪谷オンラインの取材で食事制限について聞かれた本人は、特にしていないと答えています。小食なので、栄養士の助言を踏まえて献立を考えているそうです。和食が好きで、ワールドカップの遠征に米を持っていくこともあると話していました。
試合前に食べるのは餅です。住友商事が公開している子ども記者のインタビューで、力を発揮するには炭水化物が必要だからちょうどいい、と理由を説明しています。料理をすることが気分転換になっているとも語りました。
練習日記をやめてできたことを1つ書く
休養と気持ちの整え方にも、本人なりの工夫があります。寝る前は画面を見ずに本を読み、眠りの質がいい気がすると話しています。練習日記はやめ、何か1つでもできたことを見つけて書く日記に変えました。
目標をあえて文字にしないのも特徴です。完璧主義で自分を追い込みやすいため、心のなかに留めておくといいます。2026年のインタビューでは、競技だけだと考えが固まって疲れるので、月に1〜3回のアルバイトやパン作りを息抜きにしていると明かしました。
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(参考)スポーツクライミング、トップアスリートの思考。森 秋彩さんの「強さの秘密」~『山と溪谷』4月号スペシャル・インタビューより(2022年4月4日) – 山と溪谷オンライン
(参考)試合の前は何食べる?クライミング森秋彩選手へ子ども記者がインタビュー – 住友商事
(参考)インタビュー 森秋彩「自分を信じて優勝したい」競技専念の理由とアジア大会への思い(2026年9月24日) – CLIMBERS
Q. 森秋彩選手は食事制限をしていますか?
していません。本人は山と溪谷オンラインの取材で、小食なので栄養士の助言を踏まえて献立を考えていると話しています。試合前には、炭水化物をとるために餅を食べるそうです。
森秋彩のトレーニングから社員の育成に移せる3つの考え方

森選手の練習の組み立ては、社員の育成や研修の設計にも応用できます。上の図は、本人の発言から読み取れる進め方を、Human Soarが3つに整理したものです。
強みの時間を残したまま弱みに週1回を充てる
森選手は、週4回の登りを続けながら、週1回だけ筋力トレーニングを足しました。強みである持久力は失わない、という方針を先に決めています。
社員の育成でも、苦手の克服に時間を寄せすぎると、得意な業務の質が落ちます。週5日のうち1コマだけを弱みに充てる、といった配分にすると、成果を保ったまま新しい力を足せます。
成功と失敗を並べて違いを言葉にする
動作分析で効いたのは、うまくいった動きと失敗した動きを同じ条件で比べたことです。その結果、「速さ」「距離」「連動」という具体的な言葉で課題を言えるようになりました。
営業の商談や接客でも、同じやり方が使えます。うまくいった回とそうでない回の録画や記録を並べ、違いを3つ書き出すだけで、「もっと頑張る」という抽象的な指導から抜け出せます。
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全力を出せる時間で切り上げる
森選手は、全力を出せるうちだけ練習して、疲れたら帰ると決めています。長さではなく集中の質で練習を区切る考え方です。
働く世代は、運動の時間そのものが取りにくい状況にあります。スポーツ庁の令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(全国18〜79歳、有効回収40,000件、2025年11月調査)では、20歳以上の週1日以上の実施率は51.7%でした。第3期スポーツ基本計画が掲げる目標の70%とは、18.3ポイントの差があります。
同じ調査では、勤務先に運動・スポーツの取組がある就業者の実施率が71.1%で、取組がない就業者より25.9ポイント高くなっていました。長い時間を求めず、短く区切った機会を会社が用意することには意味がありそうです。選手の体調管理の全体像は、一流アスリートのコンディショニング完全ガイドで解説しています。
(参考)令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の結果を公表します(令和8年3月11日) – スポーツ庁
(参考)第3期スポーツ基本計画 概要(令和4年3月25日) – 文部科学省
まとめ|森秋彩のトレーニングは強みを残して弱みを足す
森秋彩選手のトレーニングは、得意な登りを軸にしながら、足りない力を少しずつ加えていく組み立てです。要点を振り返ります。
- 現在はクライミングジムで週4回ほど練習し、週1回は筋力トレーニングを行っている
- 高校3年のとき、苦手なランジを約3カ月かけて映像で分析し、改善につなげた
- パリオリンピックで届かなかったスタートをきっかけに、下半身から筋力強化を始めた
- 食事は制限せず、栄養士の助言をもとに献立を考えている
- 全力を出せる時間で練習を切り上げ、できたことを1つ書き留めている
社員の育成に取り入れるなら、まずは週に1コマ、弱みに充てる時間を決めるところから始めてみてください。うまくいった回と失敗した回を並べて比べる習慣が、次の一歩を具体的にしてくれます。
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